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《正統派少年マンガ》


この人は昔から、絵が上手すぎてお話が下手すぎるなぁ?と思っていたんですが、ようやくその得手不得手がかみ合ってブレイクした作品です。

絵が上手すぎるとは純粋に褒め言葉です。
僕が思うに今、絵が上手いなぁと感じるマンガは井上雄彦、沙村広明、そして小畑健だと思っています。やっぱりそれくらい圧倒的に絵が上手い。


この作品は原作のほったゆみがネームまで描いたとされ(本人によるリライトはあるにせよ)それが何より功を奏したと思われます。
本来原作とは原稿用紙とかで文字だけで書かれる事が多いので、ネームまで描かせたという事は、ほったゆみが漫画家であったにせよ異例だと思われます。
けれどそれが作品としての屋台骨をしっかりとさせ、小畑健も作画に集中できるというよりよい結果になったのではないでしょうか。

作品を見てまず思うことは『とても純粋な少年成長マンガ』だということ。
これほど少年マンガにふさわしい作品は昨今珍しいんじゃないでしょうか。


囲碁と言うなかなか一般にはなじみがないジャンルもヒカルと同じ目線で一から勉強することが出来たし(実際僕もこれで囲碁のルールを知りました)、佐為というおばけの設定も平安時代の名人の囲碁指南というちょっとひねった感じがお話を盛り上げるのに一役買っています。


結構中盤で、ある理由から佐為の身に重大な出来事が起きます。

その後の展開はまだ見ぬ人にとっては知りたくないでしょうから避けますが、読者は物語は不可逆で過去には戻れないことをヒカルを通して知ることになります。

ここに大きなショックを受けました。きっと多くの人もそうだろうと思います。

その出来事は作る側から言えばとても勇気のいる選択です。その後の展開も含めて責任を取らなければいけないわけですから。

けどだからこそそこに僕達は人生を学ぶのではないでしょうか。
何かを失うことで、それと引き換えに何かを得ることが出来るのではないでしょうか。

その後も物語は続きます。ヒカルと共に僕らが共有した出来事はずっと大きな傷になってその後も続きます。きっとそれがすぐに“解決”してたならその傷も大した傷にはなっていなかったはずです。

僕らが受けた傷はあまりにも大きく、でもだからこそヒカルに対する思いも強くなっていくのです。


この作品は物語から最後の完結まで、まれに見る完成度で作られた作品だと思います。
まるで最初から最後まで決まってから作られたように、全ての要素が一本のラインとして美しい筋道を通っています。

『ヒカル少年の成長』

これがこの物語の核心であり、佐為もライバルの塔矢アキラも登場人物すべてがヒカルの成長の為に存在しているし、また彼ら自身もまわりの人物すべてが自分の成長のために存在しているのです。

人物描写、それこそがこの作品にとって一番の核であり、他のマンガより一段上に置かれている(少なくても僕の中ではそうです)理由だと思います。



その後、小畑健は「デスノート」や「ラルグラド」「バクマン」などを、このネーム原作という形を採用し続けて大成功を収めていますが、僕は小畑健の持つ超一流の絵で描かれる世界観を、少年のナイーブさをほったゆみの女性らしい温かな目線で描ききったこの『ヒカルの碁』が一番好きです。






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[投稿:2010-05-03 03:01:54] [修正:2010-05-03 03:06:45]