「B・A」さんのページ
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はんずめまして。
ここでは見る価値のあるオススメ作品だけを取り上げていければと思っています。
得点は独自の採点基準として、
10点はマンガ界屈指の名作
(マンガの歴史に残るだろう作品)
9点は誰にでもオススメできる傑作
(時代を代表する作品)
8点は読んでて夢中になる作品
(個人的に大好きで、特に話が面白いと感じる作品)
7点は多少難があれど見るべきところがあるオススメ作品
(お話的にはそれほどでも、絵柄とか何か一つが突出している、語られるべき作品)
といった感じで評価させて貰っています。
7点だから10点より下、という意味ではなく、あくまで自分がどう思っているかの基準なだけであって、例えば7点を付けた作品でも10点の作品より好きだったりすることも結構あったりします(笑)。
ここまで読んで頂いてお分かりでしょうが、基本的に好きなマンガをレビューしています。
面白くないマンガをいくらけなしたって、仕方ないですから。
だからいつも点数は高めです。
なぜならそこには愛があるから(笑)。
なんとなく月に1,2回のペースで書いています。
よろしくお願いします。

10点 シグルイ
『まさしく傑作』
今、自分の中で一番熱いマンガです。
何年か前に『このマンガがアツい』みたいな本で取り上げられてて、その時の印象がすごい強いんですね。
「…なんでこんなに気持ちの悪いマンガが面白いんだろう?」
(↑読んでない奴が言う典型的なセリフ)
とすごい思いながらその記事を読んでいた記憶があります。
この作者のマンガ、前に一回『覚悟のススメ』だったかな、読んだ記憶はあります。
『読みやすいし話も興味ないわりには引き込まれるけど、絵が好みではない』
それが僕のこの人の印象だったし、その後長い間読む機会を作ることもないまま今まできました。(やっぱりマンガで絵の好き嫌いというのは大事なんだなー)
そしてこのマンガ。
やはり傑作だと思いました。
何が傑作ってこの作中の人物たちが本当に怖いんです。こんな人間近くに絶対いて欲しくない。
二次元の世界でそれを表現出来たら、もう勝ちじゃないですか。
まるで小説を読み進めている様な感覚。それは小説を原作にしたマンガは数あれどなかなか無い感覚です。行間に込められる怨念すらそこに描ききろうとする作者の迫力に気おされます。
いつの間にか苦手だった絵柄が、この原作にはしっくりきていると感じる自分がいます。
そこにはまぎれもなく価値観の転化があり、だからこそ引き込まれるのです。
このマンガは虎眼流という道場で交錯したふたりの青年を描いているんですが、主人公には片腕がなく、そのライバルは失明し片足が不自由というハンデがあるんですね。
その設定がまず半端ないです。普通にオリジナルで描こうと思ったらまず通らないほどのハードルの高さです。ひとつはまず編集として通らない(差別問題として)、そして基本的には書き手にとって主人公は、人より優りこそすれ五体満足であってほしいという根本的な欲求は抑えられないんじゃないかと思っています。(ベルセルクのガッツは片腕ですが、ある意味普通の腕よりパワーアップしていると思っています。それとて腕を失うシーンは充分に衝撃的でしたけど)。
その設定が成り立った唯一の理由は、やはり原作の魅力なんだと思います。
浅学にして、まだその小説は読んでいないのですが、その内容如何というより、読んだ作者山田貴由がどれほど惹きこまれたかがこのマンガに込められた熱量を決定したのではないでしょうか。
だからこそこの異色の設定のマンガが世に現れたし成功したのだと思うのです。
また二人はハンディキャップを負いながらも鬼のように強いのですが、それが読んでいくうちになるほどと納得してしまうんです。
それは単に特別な才能を持っているからと一言で語られるのではなく、そこに行くつくまでの壮絶な努力研鑽、そして何よりその思想までもが克明に描かれていくからこそ「それならここまで強いのも当然」と思わせてしまうのだと思います。
人として考えると、ここに出てくる人達のほぼすべてがまともではありません。けれどそれぞれの思いを遂げるという一点だけは皆だれよりも一途で純粋なのです。
そしてそれは同時に作者、山田貴由の一途で純粋な情熱にも気づかされるのです。
僕がきっと惹きこまれているところもその純粋なところだと思います。
実はまだ読んでいるのは14巻までで最終巻の15巻は読めていません。
けれどきっと面白いと思います。そしてその結果どうなるとしてもこの作品は傑作であるなぁと改めて思う訳です。
最近ピュアではなくなってしまっている人にオススメ!
ナイスレビュー: 1 票
[投稿:2010-11-21 03:42:21] [修正:2010-11-21 03:42:21] [このレビューのURL]
10点 ジパング少年
●人は誰でも人生に深く影響を与えてくれた作品を持ってると思います。
それはきっと奇跡のような出合いであって、たとえどんなにいい話だとしても出合うタイミングが悪ければそうはならないだろうし、逆にどんなにくだらない話でも、その人にとっては宝物になることだってありえるのです。
この『ジパング少年』は、僕にとって奇跡のようなタイミングで出合った宝物のようなマンガです。
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この物語は4人の少年少女によって紡がれていきます。
皆がそれぞれ抱えているのは漠然とした違和感です。
徹底的に管理された学校。当たり前のように竹刀で殴られ、それが教育なのだと信じて疑わない教師たち。陰湿ないじめをしていたくせに停学になることだけは避けようと被害者ぶる同級生。そしてそれが認められてしまう不条理な世界。
そうした、本当は誰しも多少なりとも感じている違和感を、目一杯エネルギーに換えてひた走る、まるで暴走列車のようなお話のマンガです。
まるでそれが唯一の武器であるかのように、目に見える不条理すべてに噛み付く主人公柴田ハル。ある意味痛快ではありますが、とても危なっかしくも見えます。そんな柴田ハルにあるおじいさんは言うのです。
「世の中には2つの自由がある。“与えられた自由”の『フリー』と“掴み取る自由”の『リバティー』だよ。」
それを言われた柴田ハルはよく意味を理解出来ません。当時読んでいた僕も理解出来ませんでしたし、多分今も理解出来ていません(笑)。
ただ彼はその言葉を携えてペルーに飛んでいくのです。
ペルーは当時も今も貧しい国です。ほとんどの人が生きていくことだけで精一杯で、その国の人にとってみたら『学校の校則が厳しいから退学してこの国へ来た』なんて言ってみても誰一人理解してはくれません。彼らにとっては学校へ行くこと自体が憧れでもあるわけですから。
そんな現実に圧倒されながら彼らは想像を絶する体験をします。
学校を作るため資金集めに来た金堀り(ガリンペイロ)では、同業者に狙われたりしますし、反政府ゲリラに捕まったり、ポロロッカ(河の逆流)に攫われたり、何度も生命の危機に遭遇することになります。
しかし、それでも彼らは噛み付くのです。「それはおかしい」と。
ある時は日本の最新情報の事にしか興味のない、ペルーの日本人学校の生徒へ。ある時は視聴率以外には興味の無いジャーナリストへ。そしてある時は日本へ出稼ぎへ行って、妻を日本に殺されたと日本人を恨んでいる男に対して。
「それはおかしい」と。
主人公柴田ハルは、まるで運命に導かれるようにしてペルーのビトコス(黄金卿)を目指します。しかし多大な犠牲を払った末にたどり着いたそこには、彼が求めているような答えはありませんでした。
そこではたと気づくのです。『では一体何を求めていたのか?』と。
彼らにとってガマンならなかった『与えられた自由』とはなんだったのか。
そして長い旅を経て得た『掴み取った自由』とはなんだったのか。
それは漫画の中では明確には語られていません。
でもだからこそ魅力的だと思えるのです。
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僕にとってこの物語が特別なのは、柴田ハルが抱えていた怒りに賛同したからでも、社会に対して少なからず不満があったからでも、こんな風に生きたいと思ったからではありません(もちろんどれも共感は出来ましたが)。
ではなぜ特別なのかといえば『読者に対しての語りかけ』が切実に感じられたからに他なりません。
彼(作者いわしげ孝)は真剣に語りかけていたのです。日本人であることの違和感、矛盾だらけの社会、人としてどう生きるべきなのか。
そして掴み取る自由とは何を指すのか。
だからこそ、どんなに青臭いことを話していても、時代環境に合わなくなってきていても、その内容を読み返すたびに瑞々しい気持ちになるんだと思います。
ちなみに僕にとってあまりにも大事な作品であるために、読みなれることで感動が薄れてしまわないようにあんまり簡単に読まなかったりしています。
本末転倒とはこのことですね(笑)。
最後に。
このジパング少年(ボーイ)というタイトル、とても興味深いです。
直訳すると『日本の少年』。まさに日本人の今(当時)抱えている問題(イジメ、管理教育など)を提起している訳です。
そして発音は『ジパングボーイ』。これは外からみた日本人をあらわしています。この物語のほとんどが『日本人であることについて』語られているのです。
ではなぜ『ジャパン』ではなく『ジパング』だったのか。
これはマルコ・ポーロ『東方見聞録』からの引用で、日本は黄金卿だと言われていたところから来ています。つまり主人公は『日本の黄金卿』からペルーの『黄金卿』へ行った訳です。
もっともっと言えば、日本が黄金卿なのは事実なのです。少なくてもペルーの人にとっては。
日本の黄金卿からペルーの黄金卿へ。それはまるで先ほどの自由の話とも被ったりするのです。
与えられた山ほどある自由から、掴み取る数少ない本物の自由を得るというお話。
今回読み返してみて、なんとなくそんな感じがしました。
もし誰かがこれを機会に読んでみて、それで好きになってもらえたら光栄です。
ナイスレビュー: 2 票
[投稿:2010-06-19 22:57:01] [修正:2010-06-19 22:59:03] [このレビューのURL]
10点 ヒカルの碁
《正統派少年マンガ》
この人は昔から、絵が上手すぎてお話が下手すぎるなぁ?と思っていたんですが、ようやくその得手不得手がかみ合ってブレイクした作品です。
絵が上手すぎるとは純粋に褒め言葉です。
僕が思うに今、絵が上手いなぁと感じるマンガは井上雄彦、沙村広明、そして小畑健だと思っています。やっぱりそれくらい圧倒的に絵が上手い。
この作品は原作のほったゆみがネームまで描いたとされ(本人によるリライトはあるにせよ)それが何より功を奏したと思われます。
本来原作とは原稿用紙とかで文字だけで書かれる事が多いので、ネームまで描かせたという事は、ほったゆみが漫画家であったにせよ異例だと思われます。
けれどそれが作品としての屋台骨をしっかりとさせ、小畑健も作画に集中できるというよりよい結果になったのではないでしょうか。
作品を見てまず思うことは『とても純粋な少年成長マンガ』だということ。
これほど少年マンガにふさわしい作品は昨今珍しいんじゃないでしょうか。
囲碁と言うなかなか一般にはなじみがないジャンルもヒカルと同じ目線で一から勉強することが出来たし(実際僕もこれで囲碁のルールを知りました)、佐為というおばけの設定も平安時代の名人の囲碁指南というちょっとひねった感じがお話を盛り上げるのに一役買っています。
結構中盤で、ある理由から佐為の身に重大な出来事が起きます。
その後の展開はまだ見ぬ人にとっては知りたくないでしょうから避けますが、読者は物語は不可逆で過去には戻れないことをヒカルを通して知ることになります。
ここに大きなショックを受けました。きっと多くの人もそうだろうと思います。
その出来事は作る側から言えばとても勇気のいる選択です。その後の展開も含めて責任を取らなければいけないわけですから。
けどだからこそそこに僕達は人生を学ぶのではないでしょうか。
何かを失うことで、それと引き換えに何かを得ることが出来るのではないでしょうか。
その後も物語は続きます。ヒカルと共に僕らが共有した出来事はずっと大きな傷になってその後も続きます。きっとそれがすぐに“解決”してたならその傷も大した傷にはなっていなかったはずです。
僕らが受けた傷はあまりにも大きく、でもだからこそヒカルに対する思いも強くなっていくのです。
この作品は物語から最後の完結まで、まれに見る完成度で作られた作品だと思います。
まるで最初から最後まで決まってから作られたように、全ての要素が一本のラインとして美しい筋道を通っています。
『ヒカル少年の成長』
これがこの物語の核心であり、佐為もライバルの塔矢アキラも登場人物すべてがヒカルの成長の為に存在しているし、また彼ら自身もまわりの人物すべてが自分の成長のために存在しているのです。
人物描写、それこそがこの作品にとって一番の核であり、他のマンガより一段上に置かれている(少なくても僕の中ではそうです)理由だと思います。
その後、小畑健は「デスノート」や「ラルグラド」「バクマン」などを、このネーム原作という形を採用し続けて大成功を収めていますが、僕は小畑健の持つ超一流の絵で描かれる世界観を、少年のナイーブさをほったゆみの女性らしい温かな目線で描ききったこの『ヒカルの碁』が一番好きです。
ナイスレビュー: 0 票
[投稿:2010-05-03 03:01:54] [修正:2010-05-03 03:06:45] [このレビューのURL]
10点 ONE PIECE
○これは僕にとってとても難しい作品です。
多くの人に評価されている作品でもあるし僕も好きなのは間違いないのだけど、マンガに詳しい人やいわゆる『ジャンプマンガ』を読めない人にとってはまったく受け入れられない作品だからです。
だからこそ、ちゃんとどこがいいのかを的確に言う必要があるのに、なかなかちゃんと捉えることが出来ないもどかしさがずっとあるのです。それは好きなもの同士が言い合える関係ではなくて、否定する人に対して納得出来る批評をしなければならないから。
そういうのが一番苦手なんですが。
それでもちょっとは自分の中で整理くらいはしないと、って感じで始まります。
○この作品連載最初の回を僕は見ていて、『あ、これはすげぇヒットするんだろうな』って思ったんです。それは僕が先見性があるとか、そういうのではなくただ『そりゃそうだろ』みたいな当たり前のような感じがあったんですけど。
○なぜならこのマンガには僕らが胸に思っていた『冒険マンガ』がそこにあったからです。
もちろん『悪魔の実』のアイデアも、海賊という設定もいいのですが、何より「この先何かとんでもない事が待ち受けている」感じがすごいしたんですね。
それは読者との約束のようなものであって「この先には無限の冒険が待っている」と言われたら、やっぱり期待しちゃうんですよね。
少年漫画は基本みんなそのようなつくりだと思うんですけど『本気』でそれをやろうとしているのは、今までもワンピースにしか感じませんでした。
(ナルトも好きですが、そういう感じではありませんでした)
○作者はそういう『ちゃんと言葉にはならないけども僕達が求めているもの』を描くことがすごいのであって、それこそがその他凡百のマンガと比べても突出していると思うんです。
○あと小さいことですが、最初に上限というか世界の頂点を設定したことは結構革命なんじゃないかと思っています。
『世界政府』『王下七武海』『四皇』など、最初にこいつらが一番強いんだと表明することによって、よく言われるパワーインフレについても一応なりとも説明が付き、それは『北斗の拳』『ドラゴンボール』そして『幽々白書』などで散々げんなりしてきた僕らへの回答なのではないかと思ったりするわけです。
つまり、はじめに上限を設定しておくことで強さの上限を上乗せしていくのではなく、その階調を増やしていくことが可能になったのです。
それはその後『ハンターハンター』の旅団の存在のように、新しいトレンドとして引き継がれていくわけですが、『能力者の戦い』がかって荒木飛呂彦が発明してきたように、この『上限を決める』っていうのは小さいことですが、僕にとっては結構衝撃だったんですね。
○前にラジオで尾田栄一郎さんが出ていらして、古い映画にものすごい詳しいことを知り驚いた記憶があります。
中でも仁侠映画については事のほか造詣が深いらしく、なるほど考えてみれば作中に出ている『男気』やら『討ち入り』のような場面はそういう所からきているのかもしれず、
さらにもっと考えれば、少年漫画というものは結構任侠映画を構成している要素と似通っているのかもしれないなと思うようになりました。
だからこそ、そこを受けつけない人には全然ダメなんじゃないか、と。
○別に僕がどうのこうの言わなくても、日本のマンガ史に残る作品ですし、そもそも初版が300万部なんていう訳のわからないカイブツマンガですから、やっぱり多くの人の心を打つ作品なんだと思います。
僕もなんだかんだで、やっぱり好きですし。
○ただ、ひとつだけ受け入れられない、というか個人的にナンクセつけたいのは、刀での斬撃。
それが刀の刃以上に切れたりしたらもう意味無いというか、じゃあ名刀である必要ないんじゃない?って思っちゃうのはただの意地悪なんでしょうか。
こまけーー!!と、我ながら思いますが。
ナイスレビュー: 1 票
[投稿:2010-04-06 03:00:27] [修正:2010-04-06 03:05:13] [このレビューのURL]
10点 HUNTER×HUNTER
○マンガ界でも屈指の才気走った作品であろうかと思います。
○それは完成度が高いという意味ではなく、無駄にとっちらかっている名作であり、それが迷作にならないところが恐るべしなんですねこの人は。
○そもそも、作者の富樫義博さんはこの作品に入る前に、色々と物議を醸した漫画家でもありました。知っている人は多いと思いますが、『幽遊白書』のラストを編集者の意向を無視し強引に終わらせた他、『レベルE』では少年ジャンプで初の(だったと思いますが)月イチ連載という変則的な連載を経て、この『ハンターハンター』に至る訳です。この連載中のトラブルについては(長期休載)ほとんどの人が認知しているとは思いますが(笑)。
○ただこの作品、それを差し置いてもすごい作品だと思います。ハンター試験で遭遇する先の見えない試験や魅力的なライバル達。天空闘技場であらわになった『念』の存在、そしてヒソカとの決闘。幻影旅団編では段々とシリアスさが増してきて、グリードアイランドではマンガ内ゲームとしての面白さにゴン、キルアの修行の話としても面白く読めます。
○そうして現在も続いている『キメラアント編』になるわけですが、そのパート、パートごとにまるで全然違う作品のような印象を受けてしまいます。もちろん話としては続いているのですが、どうもすんなり一つの作品として受け入れられない、強引に色んな要素をひとつにまとめているような印象が拭えないんです。そう思う人は僕だけではないのではないでしょうか。
○これこそがこの作品の一番の特性だと思うのですが、これはその時々の富樫さんのやりたかったこと(描きたかったこと)をそのまま描いているからこういう変な形になったのだと思われます。極端に言っちゃうと描きたいことがコロコロ変わっちゃうから、それにあわせて描いちゃえっていう。
○たださすが凡百の漫画家と違うのは、そのそれぞれのクオリティが単体でもびっくりするくらいに面白いのです。本編とまるで関係ないオークションにしても、贋作についての知識が後に生かされるくだりなどは『あんた絶対描きたかっただけだろ』なんてつっこみをまるで闘牛士よろしく赤いカーテンでひらりとかわして伏線にしてしまう始末。もうこちらは両手を挙げて降参するしかありません。だからこそ、長期休載しても待たざるを得ないんですね(笑)。
○『念』についてもやはり面白い所をついてくるなと思います。
基本は幽遊白書でやっていることと近いんですが、それをもっとロジカルにして、弱点や縛りを明記することによってより戦略性があがり魅力的に仕上がりました。きっと突っ込めば色々と突っ込めそうですが、まず前提条件を先に示すことによっていい具合に回避できているんではないでしょうか。
個人的にヒソカの能力をすぐにばらしてしまったことは衝撃でした。もっと謎の能力として後に引っ張ることも出来たのに、あえてそうせず手札を出した状態で話を進めるなんてなかなか出来ることではありません。やっぱりこの人の描く戦いは面白い。
○この他、感心したり語りたい部分はたくさんありますが、僕が一番衝撃を受けたところを紹介したいと思います。
○それは25巻。キメラアントの王を駆除するために一斉に城(王宮?)になだれ込むゴン達ハンター協会の面々。ノヴの能力で王へと続く階段のすぐ下から一斉に攻めていくが、同時に城を謎の念攻撃が襲う…。
まさにここからの演出、構成です。しびれました。
○物語は佳境でここから様々な様相を繰り広げていくわけですが、ここから奇妙に時間が引き延ばされます。
まるで後にナックルが体験する走馬灯の様に、時間がゆっくりと進み頭の回転だけがまるでアクセルを踏み続けるかのように急加速していきます。
皆それぞれが己の役割を果たすべく動き、そのほとんどが何らかの問題が発生して事態はもっとややこしくなります。
同時発生的に生まれるトラブルをスローモーションな時間の流れの中で淡々とナレーションベースで語られる。それなのに異常にテンションが高い状態で描かれる不思議な感覚…。
○短い時間の中でまるでマトリックスのように色々考えたり細かく描写する手法自体は、実は結構あってキャプテン翼しかり、スラムダンクのラストもそれに近い演出だったように思います。
けれど、これほど長期間(つまり単行本1冊以上のスパン)で一定の時間速度をキープした例は今までにないんじゃないでしょうか。
○この演出を見たときに僕はもうこれだけで充分すぎるほどの高みを見せられた気になってしまいました。
もちろん物語は続くし、出来れば早く見たいもんですが(笑)、それでもこの作品を世に出してくれたことに感謝したいくらいすごいなぁと思ってしまうのです。
○もちろん欠点がまるでないわけではなく、むしろ他の作家さんよりわかりやすくたくさんあったりするのですが、人間短所より長所、いい人間よりいい作品だったりするわけで、ファンなら許すことも大事かと思ったりする今日この頃です。
それだけの作品であると思います。
ナイスレビュー: 2 票
[投稿:2010-02-27 07:12:08] [修正:2010-02-27 07:28:50] [このレビューのURL]
10点 無限の住人
○最初に連載された当時から、あまりにも上手すぎて、新しくてびっくりした記憶のある作品です。
○何がすごいって、この人の描く時代劇は本当にそこに生活している感じが匂ってくるんですね。ネオ時代劇なんて喧伝されていますが、もし時代考証をちゃんとやっていたら、ものすごくつまらない世界観になっていたかも知れません。
○ただ、この作品。通常の意味で面白いかと言われれば、そこまで面白くはありません(笑)。
○話のバランスは悪いし、話自体も逸刀流との復讐劇まではよかったのですが、そこに幕府の人間事情が絡んできたり、本筋なのか微妙な『不死解明編』が長大な分量になっていたりで、漫然と読むにはいいですが、ちゃんと読もうとすると、どこに腰をすえて読めばいいのか分からなくなってしまうのではないでしょうか。
○ただ、それを差し置いても、マンガ界では数少ない作家の一人だと思っています。
○まず何よりしびれるのは、そのデッサンです。
○アクションシーンのかっこよさはもとより、ただの会話のシーン、何気なく話しているときの手のアップの時とかに、そのセンスの良さにしびれてしまうんです。(もちろんデッサンがうまいということとは別の話として)
○例えば、卍が通行手形を手に入れようと逸刀流を街道で待ち伏せるシーン。
後に卍が敵だとばれてしまうという演出的な意味もあり、逸刀流の三人の足のアップを撮り続けるシーンがあるのですが、あれをあれだけ情感豊かに描ける人っていうのは、そこまでいないんじゃないかと思います。
○そして、そのデッサンの動きが実に見事なんですね。
ただ歩くシーンにしても、普通なら足を踏み出す所と両足が地面に着くところの2パターンだと思うんですけど、彼は違うんです。
歩き出そうとして重心が前のめりになった瞬間を描くんです。
○これが、とてもしびれる。だからこそ、例えその回が何の興味のない事を話しているだけの回だとしても(失礼!)その絵を見るために読んでしまうんだと思います。
○エロティックな表現やサディスティックな表現にも魅力的な部分は(その分野に興味はなかったとしても)多々あると思いますが、それだけ色んな部分に魅力を感じれる作家っていうのは、やはりすごいことなんだと思います。
○絵の魅力というと『バガボンド』も同じような立ち位置だと思うんですが、井上雄彦先生の魅力は主にキャラクターであって、沙村先生のそれはやはりデッサン(動き)の魅力だと思っています。
○もちろんバガボンドもおすすめだし好きです。
これも話は面白いとは言い難いですが(笑)。
最後にこの作品、点数を7点にしようか10点にしようか悩みました。
自分の基準で言えば7点でもよかったかな、とも思ったのですが、やはりマンガ界で自分の中で屈指の存在でもあることを考慮して10点にしました。
『難あれど名作』そんな感じでしょうか。
ナイスレビュー: 2 票
[投稿:2010-01-24 09:58:46] [修正:2010-01-24 10:03:36] [このレビューのURL]
10点 度胸星
『悲運の名作』
○ヤングサンデー連載中に突然打ち切られた作品です。
○火星に人類初めて降り立った4人の宇宙飛行士が見たものは、テセラックという超立法の形をした巨大な物体だった。3人をテセラックに殺され一人生き残った宇宙飛行士を助けるために、アメリカ大統領は彼を救うために全世界から宇宙飛行士を募集する。
○あらすじはこんな感じだと思いますが、基本的に物語は日本の訓練生の話で終わってしまいます。合間にテセラックと残された宇宙飛行士の話も描かれているのですが、やはり打ち切られたこともあって全ては描かれてません。それがこの作品をミステリアスで魅力的な物にしたのかもしれませんが。
○まず『テセラック』という謎の物体。
これがこの作品のとても強い求心力になっています。
○超立法の展開図のような形。感情があるのか、なぜ遠近法が無視されるのか、物体が裏返ってしまうのはなぜなのか。
それらの謎が解明されなかったことは、個人的に残念でなりませんが、マンガの中で自分の尺度では測れないような大きな物(謎)を提示されると、それが例え全て解き明かされなくても魅力的に映ります。
今のマンガはそういう物は少なくなってきていますから。
○キャラクターも魅力的です。
すべての人にカッコたる信念があり、それに殉じようとするさまは、たとえ個人的には受け入れられなくても魅力的に見えます。そしてこの作品にはそんな魅力的な人がたくさん出てくるんです。
○主人公の度胸は、どんな時でも暴力と嘘を嫌い。いくら殴られても殴り返しません。これほど消極的でなおかつ積極的な主人公いるでしょうか?
人によっては地味な性格に見えるかもしれませんが、作者が作品を作る時、主人公をこの設定にしようと思った時点で、自身に設定した目標の高さをうかがいしることが出来るのではないでしょうか。
(そのハードルの高さは自作の『へうげもの』にも見え隠れしています)
○自分の想像力では手に負えないような物語を見せてくれたこの作品を、私はやはり傑作だと思います。
たった4巻で、話も全体の半分にすら届いていないでしょうが、この作品を打ち切りにしてしまった今は無きヤンサンを今でも恨めしく思っています。
○どうせ廃刊になるのなら、こういう傑作をちゃんと最後まで世に送り出してから終わればいいのにと、年に何回かは思ったりします(笑)。
○最期まで連載をしたら「なんだ、結局もりあがらなかったね」となるかもしれませんが(そちらの可能性も充分あるでしょう)、それでも最期までちゃんと見たかった。そんな作品です。
○『宇宙兄弟』は度胸星のフォロアーだと思うし、好きな作品でもあります。これもオススメ。
ナイスレビュー: 0 票
[投稿:2010-01-13 01:25:15] [修正:2010-01-13 01:28:05] [このレビューのURL]