「B・A」さんのページ

総レビュー数: 11レビュー(全て表示) 最終投稿: 2010年01月13日


実は一番好きかもしれないマンガ家さんです。

ぶっちゃけお話としてみると厳しいものはあるんですが、なにより絵に惚れるんです。昔、『学園帝国俺はジュウベィ』ていうマンガを少年サンデーで連載されていて、その絵柄に惚れて夢中になって読んでいました。生憎、そのマンガは人気がそれほど出なかったらしく単行本4冊で終わってしまいましたが。

そんな訳でこのマンガです。

物理マンガ(そんなジャンルがあるのかw?)、パラレルワールドのSFマンガという題材は、個人的にはすごい大好きです。物理を分かりやすく解説する本なんかを読んじゃったりしてる自分には(それでも充分には理解できないのですが)、マンガ内で『シュレディンガーの猫』とかいう単語が出てくるだけで「うぉ?」と意味不明のうめき声が出てきます(笑)。

ただ、冒頭にもいったように、中平正彦という漫画家さんはお話という部分では結構厳しいんですよね。

難解なテーマ、題材を扱っているだけにどれだけ分かりやすく読者に伝えられるかという部分が重要になってくると思うんですが、それがどうにも上手くいかない。

結局TFPという存在はどういうものなのか。そもそもそれさえなければ定光は苦労しなかったのに母はなぜそれを作ったのか。なぜやよいが平行世界の母の変化した姿と知っても恋愛をしたのか。普通、誰しもが感じるであろう倫理的な罪悪感を越えるための説得力がない。結局最後は自分との対決ばっかりになっちゃってるし、予知能力を持つと他の平行世界が無くなってしまうという設定にもすんなりとは納得出来ない。

いろんな疑問、惜しい部分、不満な部分は多々あるのですが、やはりそれでも好きかどうか聞かれたら「好き」と答えます。

それはやっぱり絵や世界観に惚れているからなんですよねー。

いろんな怪物(流刑体)が現れるんですが、そのデザインとかがまたいいんですよね。名前もカッコイイし。
リアルではないんだけど、すごい実在感があるというか。のっぺりとした奴なんて線としてはすごい単純なのに、チョンチョンて描いている効果線がすごい立体感を生んでいるんですよね。
あと巨大な怪物とかも、その存在感はすごいです。怪獣マンガとか巨大ロボとかのマンガに比べても、こんなに巨大感が出ているのはないんじゃないでしょうか。

ポンコツの造形とか、バルチャーとかは自分はそんなには来ないんですけど(むしろそれがもうちょっとカッコよかったら…なんて思ったりもw)それでもアクションシーンとかを見るとやっぱり改めて惚れてしまいます。

この人の絵ってデザインとしての整理された線と、リアル(というか世界観への収まりかたとでもいうのでしょうか)のブレンド感がとてもいいんですよね。だからこそアニメキャラっぽいのに、絵で語ることが出来るのだと思います。

7点なのは『個人的には満点だけど、人におすすめするには万人受けではない』から。

でもやっぱり大好きです。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-09-30 02:45:26] [修正:2010-09-30 02:45:26] [このレビューのURL]

『共感できる狂気』

松本次郎というマンガ家をこのマンガで初めて知ったのですが、随分と驚いた記憶があります。またとんでもない人が出てきたな、と。
こんな感じで驚いたマンガ家さんてこの人以来いないんじゃないか。そう思うくらい稀有な作家性を持っていると思います。

『敵討ち法』という非現実的な設定を使って色んな人間の想いが交錯していく、ある意味SF的な物語なんですが、そこに描かれている人間のほとんどが人間的に欠落している。というか、狂人なんですね簡単に言えば。それがすごい。

だれもが狂っている。それがどれほどすごいことなのか。
まず、誰も公正な視点で物事を語れないわけです。すべての人間の物差しが狂っているから、それぞれが同じ物事を見ても全くちがう感情を持ってしまう。するとマンガを読んでいる人にとっては、だれに共感してよいものなのか分からなくなってしまうんです。

本来なら、主人公がその役目を果たさなければいけないところですが、あろうことか主人公の叶ヒロシが一番ぶっとんでしまってます(笑)。そのお目付け役であるヒグチは、そのヒロシですら頭を抱え込んでしまうほどの難敵ですし、唯一このお話の良心的な部分を担っている山田くんは“ある意味”一番ふさわしくない人物だったりします。

山田君。実はこの人が一番キーマンなのではないかと思うのです(事実、物語もヒロシと山田君がラストを締めくくります)。
一見考えていることもマトモで、この物語で唯一の普通の人のように見えます。けれど果たして本当にそうなのでしょうか。
彼は自分の正義を貫くために執行人となります。その為に彼女と別れて自分の志をまっとうしようともがきます。「こういう仕事を叶さんや溝口のような人間にやらせる訳にはいかない。僕のようなちゃんとした人間が責任をもってやり遂げなければ」と奮闘するわけです。

もうその時点で狂っている訳です。やっていることは人殺しな訳ですから。読んでいる人にとっては唯一話がまともに出来る人間だから騙されてしまうわけですが(笑)、彼の言っていることは「敵討ちって必要だよね。」って言っているんです。それが正しいわけがない。


誰もマトモな語り部がいない(というかマトモな人間がいないw)この作品は、では成立していないのか。

それが成立しているから、すごいと思うんです。

なぜ成立しているのか。言い換えると『なぜ面白いのか』。それは語っている内容が『敵討ち法がどうなのか』とか『殺される側の事情』とかではなく(もちろんそこもちゃんと描写されてはいるんですが)、最後まで『狂気』を扱っていたからだと思います。

それも他人が持っている狂気ではなく、身の内にある狂気です。

少なくても僕は、ここに描かれている狂気を多少は理解出来ます。多くの人にとってもそうなのではないでしょうか。
もちろんその経験があるというわけではありません。人には見えない友人を持っている訳ではありませんし、彼女に胃が破裂するほどスパゲティを食べさせたいとも思っていません(笑)。

けれどそこにある『いらだち』は共感できるのです。狂気におちいる一歩手前のいらだち。

自分の事を本当には分かって貰えないいらだち。人の事が許せないいらだち。自分の正しいと思っていることが認めてもらえないいらだち…。ここに描かれている全ての人間が持っている、『狂気の中に含まれているいらだち』はとても共感出来るのです。

少なくてもヒロシの狂気は理解できなくても山田君のいらだちは共感できるのではないでしょうか。


あるいはもっというと、世の中普通の人なんてほとんどいないんじゃないかとも思うのです。誰もが心の暗いところに小さな狂気を抱き続けている。もちろん面には出さないけども、それは確かに存在してる。

このマンガはそういう部分を照らし出した珍しいマンガだと思います。だからこそ、強く惹かれてしまうのです。まるで覗いてはいけない穴の中を好奇心を抑えきれずに覗き込んでしまうように。


作者、松本次郎は短編もいくつか出しており、それらもいい意味でぶっとんでおります。




ちなみに7点なのは個人的な採点方式のため。
正確には『個人的にはとても好きだけど、万人におすすめ出来る作品ではなく、人によっては大きく好き嫌いが出る作品。』という意味での7点です。

自分がレビューする作品は個人的には大体満点です(笑)。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-06-06 06:57:21] [修正:2010-06-06 06:59:59] [このレビューのURL]