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総レビュー数: 11レビュー(全て表示) 最終投稿: 2010年01月13日

10点 シグルイ

『まさしく傑作』

今、自分の中で一番熱いマンガです。
何年か前に『このマンガがアツい』みたいな本で取り上げられてて、その時の印象がすごい強いんですね。

「…なんでこんなに気持ちの悪いマンガが面白いんだろう?」
(↑読んでない奴が言う典型的なセリフ)

とすごい思いながらその記事を読んでいた記憶があります。

この作者のマンガ、前に一回『覚悟のススメ』だったかな、読んだ記憶はあります。

『読みやすいし話も興味ないわりには引き込まれるけど、絵が好みではない』

それが僕のこの人の印象だったし、その後長い間読む機会を作ることもないまま今まできました。(やっぱりマンガで絵の好き嫌いというのは大事なんだなー)


そしてこのマンガ。

やはり傑作だと思いました。
何が傑作ってこの作中の人物たちが本当に怖いんです。こんな人間近くに絶対いて欲しくない。

二次元の世界でそれを表現出来たら、もう勝ちじゃないですか。

まるで小説を読み進めている様な感覚。それは小説を原作にしたマンガは数あれどなかなか無い感覚です。行間に込められる怨念すらそこに描ききろうとする作者の迫力に気おされます。

いつの間にか苦手だった絵柄が、この原作にはしっくりきていると感じる自分がいます。

そこにはまぎれもなく価値観の転化があり、だからこそ引き込まれるのです。


このマンガは虎眼流という道場で交錯したふたりの青年を描いているんですが、主人公には片腕がなく、そのライバルは失明し片足が不自由というハンデがあるんですね。

その設定がまず半端ないです。普通にオリジナルで描こうと思ったらまず通らないほどのハードルの高さです。ひとつはまず編集として通らない(差別問題として)、そして基本的には書き手にとって主人公は、人より優りこそすれ五体満足であってほしいという根本的な欲求は抑えられないんじゃないかと思っています。(ベルセルクのガッツは片腕ですが、ある意味普通の腕よりパワーアップしていると思っています。それとて腕を失うシーンは充分に衝撃的でしたけど)。

その設定が成り立った唯一の理由は、やはり原作の魅力なんだと思います。
浅学にして、まだその小説は読んでいないのですが、その内容如何というより、読んだ作者山田貴由がどれほど惹きこまれたかがこのマンガに込められた熱量を決定したのではないでしょうか。

だからこそこの異色の設定のマンガが世に現れたし成功したのだと思うのです。

また二人はハンディキャップを負いながらも鬼のように強いのですが、それが読んでいくうちになるほどと納得してしまうんです。

それは単に特別な才能を持っているからと一言で語られるのではなく、そこに行くつくまでの壮絶な努力研鑽、そして何よりその思想までもが克明に描かれていくからこそ「それならここまで強いのも当然」と思わせてしまうのだと思います。

人として考えると、ここに出てくる人達のほぼすべてがまともではありません。けれどそれぞれの思いを遂げるという一点だけは皆だれよりも一途で純粋なのです。

そしてそれは同時に作者、山田貴由の一途で純粋な情熱にも気づかされるのです。

僕がきっと惹きこまれているところもその純粋なところだと思います。


実はまだ読んでいるのは14巻までで最終巻の15巻は読めていません。

けれどきっと面白いと思います。そしてその結果どうなるとしてもこの作品は傑作であるなぁと改めて思う訳です。


最近ピュアではなくなってしまっている人にオススメ!

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-11-21 03:42:21] [修正:2010-11-21 03:42:21] [このレビューのURL]


実は一番好きかもしれないマンガ家さんです。

ぶっちゃけお話としてみると厳しいものはあるんですが、なにより絵に惚れるんです。昔、『学園帝国俺はジュウベィ』ていうマンガを少年サンデーで連載されていて、その絵柄に惚れて夢中になって読んでいました。生憎、そのマンガは人気がそれほど出なかったらしく単行本4冊で終わってしまいましたが。

そんな訳でこのマンガです。

物理マンガ(そんなジャンルがあるのかw?)、パラレルワールドのSFマンガという題材は、個人的にはすごい大好きです。物理を分かりやすく解説する本なんかを読んじゃったりしてる自分には(それでも充分には理解できないのですが)、マンガ内で『シュレディンガーの猫』とかいう単語が出てくるだけで「うぉ?」と意味不明のうめき声が出てきます(笑)。

ただ、冒頭にもいったように、中平正彦という漫画家さんはお話という部分では結構厳しいんですよね。

難解なテーマ、題材を扱っているだけにどれだけ分かりやすく読者に伝えられるかという部分が重要になってくると思うんですが、それがどうにも上手くいかない。

結局TFPという存在はどういうものなのか。そもそもそれさえなければ定光は苦労しなかったのに母はなぜそれを作ったのか。なぜやよいが平行世界の母の変化した姿と知っても恋愛をしたのか。普通、誰しもが感じるであろう倫理的な罪悪感を越えるための説得力がない。結局最後は自分との対決ばっかりになっちゃってるし、予知能力を持つと他の平行世界が無くなってしまうという設定にもすんなりとは納得出来ない。

いろんな疑問、惜しい部分、不満な部分は多々あるのですが、やはりそれでも好きかどうか聞かれたら「好き」と答えます。

それはやっぱり絵や世界観に惚れているからなんですよねー。

いろんな怪物(流刑体)が現れるんですが、そのデザインとかがまたいいんですよね。名前もカッコイイし。
リアルではないんだけど、すごい実在感があるというか。のっぺりとした奴なんて線としてはすごい単純なのに、チョンチョンて描いている効果線がすごい立体感を生んでいるんですよね。
あと巨大な怪物とかも、その存在感はすごいです。怪獣マンガとか巨大ロボとかのマンガに比べても、こんなに巨大感が出ているのはないんじゃないでしょうか。

ポンコツの造形とか、バルチャーとかは自分はそんなには来ないんですけど(むしろそれがもうちょっとカッコよかったら…なんて思ったりもw)それでもアクションシーンとかを見るとやっぱり改めて惚れてしまいます。

この人の絵ってデザインとしての整理された線と、リアル(というか世界観への収まりかたとでもいうのでしょうか)のブレンド感がとてもいいんですよね。だからこそアニメキャラっぽいのに、絵で語ることが出来るのだと思います。

7点なのは『個人的には満点だけど、人におすすめするには万人受けではない』から。

でもやっぱり大好きです。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-09-30 02:45:26] [修正:2010-09-30 02:45:26] [このレビューのURL]


『弱点は残されつつも、その長所が限りなく伸ばされた作品』


この作品を読んだ時、微妙に違和感を感じます。
それは主人公や他の登場人物に共感出来ないからです。

剣の道をひたすら追求する武蔵、剣を交えることで相手と交流する小次郎、その他又八や胤瞬や伝七郎など様々な人物が出てくるのですが、どうにも入り込めない。

なぜ『スラムダンク』のようにはいかないのか?

それはある意味で、作者井上雄彦の弱点を露呈していて、今までやっていた少年誌の文法をそのまま青年誌へ持ってきたことによる違和感を解消できなかったことが原因だと思います。

ただ、じゃあ出来上がったものをみてどうかと言われると
さすがに他の凡百のマンガとは比べられない抜きん出た作品であると思います。
事あるごとに読み返すし、読むたびに惚れぼれしてしまいます。


では(僕が感じる)弱点とは何か?そしてどこに惚れたのかを語らせて頂ければと思います。


●短所、少年誌の文法とは

少年誌の文法とは、特にジャンプ系で顕著なのですが、まず魅力的な主人公をつくり、それをどれだけ際立たせられるかにほぼ全ての力を降り注ぐというやり方です。

『ドラゴンボール』の後期などが顕著ですが、目の前の戦いにすべてのエネルギーを注ぎ込むために、その後の展開という広い視野で語ることが出来ない作り方を(ほぼ意識的に)しています。

もっと簡潔に言うならば『魅力的な主人公に共感できる』のが少年誌の特徴であり、『人物だけにスポットを当てるのではなく、ちゃんとお話として楽しめる』ことに注力しているのが青年誌であるとも言えるのです。

ただ、ひとつだけ言いたいのは、『だから少年誌系がダメ』という訳ではないということです。僕個人もそういうジャンプ世代で育ちましたし、その魅力は青年誌にはないものだとも思っています。


●では『バガボンド』の短所とは

『スラムダンク』という誰もが認める名作を世に出した後に、作者井上雄彦はモーニング誌上にて『バガボンド』を発表して皆を驚かせました。

それはあの吉川英司の『宮本武蔵』かという驚きと、井上雄彦が青年誌に来たのかという驚きでした。あの絵のうまい人が宮本武蔵を描く。まるで王道中の王道のような作品です。面白くない訳がない。

ただ読み続けるうちに、妙な違和感を感じました。なんとなく感じる居心地の悪さ。

それは後になって気づくのです。これは共感するマンガではないんだって。

武蔵はひたすら剣の道を追求していきます。それこそ流川楓のように、桜木花道のように。
けれどそれは『どうやれば人を殺せるか』という手段の追求であり、途中から武蔵が一生懸命悩んでいるのは、簡単に言えば『人を殺していい理由』を求めているからです。

それが少年誌で連載されるバトル物であれば問題なかったと思います。

けれどここは青年誌で死という概念がもっとリアリティをもって描かれている舞台なのです。斬れば腕はちょんぎれますし、やられた人間は実は生きていたなんてことも出来ません。
一生懸命悩んだとして、その結果相手と殺しあうという構図は一体どれほどの共感を得られるのでしょうか。

もし青年誌として描くのであれば、そこに持ってくるのは共感ではなく、何を考えているのか分からない(むやみに心の中を覗かせない)人物を描くべきだったんじゃないかと思うのです。

例えば伊藤一刀斎のような常人にはなかなか理解しがたい人物を描く方がうまくいった気がするのですが、それはまぁ後だしジャンケンみたいなものでただの難くせなのかもしれません。


●では『バガボンド』はどうだったのか

ではバガボンドはどうだったのか。

僕はとても好きです。これだけグダグダと文句をつけてもやっぱり絵の素晴らしさというのはかけがえのない魅力です。

特に後半にかけての凄みが尋常ではありません。

青年誌ということもあり(ここではこれがいい方向に効いています)、実際自分の目では見たことのない斬り合いをリアリティたっぷりに感じることが出来ます。

特に斬り損ないの描写がいいんですよね。
ちゃんと振らないと斬れなかったり、斬り過ぎて刀が曲がってしまって鞘に収められなかったりと今まで小説では読んでいたけども、マンガでは見ることの出来なかった描写をふんだんに取り入れ、それが余計に命のやり取りをしているんだという切迫感を増してくれます。

とくに吉岡一門との対決は、あの長い分量を使ってひたすら切り結ぶという
『スラムダンク』のラストを彷彿とさせる、いやそれを越えたといっても過言ではなくくらいすごい描写でした。

あの徐々に疲弊していく武蔵に、次々と殺されていく吉岡十剣たち。あの迫力は他のどんなメディア(小説、アニメ、映画等々)にも優るとも劣らない素晴らしい出来だったと思います。

それだけでも青年誌で描いた意義はあると思います。前半と矛盾しますけど。


これからバガボンドは小次郎との対決に向けて終局へと近づいていくわけですが、それがどんなラストになろうとも、ここまでですでに語るべき作品になっていると思います。


もし少年誌でバガボンドを連載してたらどうなっていたかな、ってちょっと思いますけど(笑)。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-08-10 05:36:06] [修正:2010-08-10 06:03:20] [このレビューのURL]

●人は誰でも人生に深く影響を与えてくれた作品を持ってると思います。

それはきっと奇跡のような出合いであって、たとえどんなにいい話だとしても出合うタイミングが悪ければそうはならないだろうし、逆にどんなにくだらない話でも、その人にとっては宝物になることだってありえるのです。

この『ジパング少年』は、僕にとって奇跡のようなタイミングで出合った宝物のようなマンガです。

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この物語は4人の少年少女によって紡がれていきます。
皆がそれぞれ抱えているのは漠然とした違和感です。

徹底的に管理された学校。当たり前のように竹刀で殴られ、それが教育なのだと信じて疑わない教師たち。陰湿ないじめをしていたくせに停学になることだけは避けようと被害者ぶる同級生。そしてそれが認められてしまう不条理な世界。

そうした、本当は誰しも多少なりとも感じている違和感を、目一杯エネルギーに換えてひた走る、まるで暴走列車のようなお話のマンガです。


まるでそれが唯一の武器であるかのように、目に見える不条理すべてに噛み付く主人公柴田ハル。ある意味痛快ではありますが、とても危なっかしくも見えます。そんな柴田ハルにあるおじいさんは言うのです。

「世の中には2つの自由がある。“与えられた自由”の『フリー』と“掴み取る自由”の『リバティー』だよ。」

それを言われた柴田ハルはよく意味を理解出来ません。当時読んでいた僕も理解出来ませんでしたし、多分今も理解出来ていません(笑)。


ただ彼はその言葉を携えてペルーに飛んでいくのです。

ペルーは当時も今も貧しい国です。ほとんどの人が生きていくことだけで精一杯で、その国の人にとってみたら『学校の校則が厳しいから退学してこの国へ来た』なんて言ってみても誰一人理解してはくれません。彼らにとっては学校へ行くこと自体が憧れでもあるわけですから。

そんな現実に圧倒されながら彼らは想像を絶する体験をします。
学校を作るため資金集めに来た金堀り(ガリンペイロ)では、同業者に狙われたりしますし、反政府ゲリラに捕まったり、ポロロッカ(河の逆流)に攫われたり、何度も生命の危機に遭遇することになります。

しかし、それでも彼らは噛み付くのです。「それはおかしい」と。

ある時は日本の最新情報の事にしか興味のない、ペルーの日本人学校の生徒へ。ある時は視聴率以外には興味の無いジャーナリストへ。そしてある時は日本へ出稼ぎへ行って、妻を日本に殺されたと日本人を恨んでいる男に対して。

「それはおかしい」と。


主人公柴田ハルは、まるで運命に導かれるようにしてペルーのビトコス(黄金卿)を目指します。しかし多大な犠牲を払った末にたどり着いたそこには、彼が求めているような答えはありませんでした。

そこではたと気づくのです。『では一体何を求めていたのか?』と。


彼らにとってガマンならなかった『与えられた自由』とはなんだったのか。
そして長い旅を経て得た『掴み取った自由』とはなんだったのか。

それは漫画の中では明確には語られていません。

でもだからこそ魅力的だと思えるのです。


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僕にとってこの物語が特別なのは、柴田ハルが抱えていた怒りに賛同したからでも、社会に対して少なからず不満があったからでも、こんな風に生きたいと思ったからではありません(もちろんどれも共感は出来ましたが)。

ではなぜ特別なのかといえば『読者に対しての語りかけ』が切実に感じられたからに他なりません。

彼(作者いわしげ孝)は真剣に語りかけていたのです。日本人であることの違和感、矛盾だらけの社会、人としてどう生きるべきなのか。

そして掴み取る自由とは何を指すのか。


だからこそ、どんなに青臭いことを話していても、時代環境に合わなくなってきていても、その内容を読み返すたびに瑞々しい気持ちになるんだと思います。


ちなみに僕にとってあまりにも大事な作品であるために、読みなれることで感動が薄れてしまわないようにあんまり簡単に読まなかったりしています。

本末転倒とはこのことですね(笑)。



最後に。

このジパング少年(ボーイ)というタイトル、とても興味深いです。

直訳すると『日本の少年』。まさに日本人の今(当時)抱えている問題(イジメ、管理教育など)を提起している訳です。
そして発音は『ジパングボーイ』。これは外からみた日本人をあらわしています。この物語のほとんどが『日本人であることについて』語られているのです。

ではなぜ『ジャパン』ではなく『ジパング』だったのか。
これはマルコ・ポーロ『東方見聞録』からの引用で、日本は黄金卿だと言われていたところから来ています。つまり主人公は『日本の黄金卿』からペルーの『黄金卿』へ行った訳です。

もっともっと言えば、日本が黄金卿なのは事実なのです。少なくてもペルーの人にとっては。

日本の黄金卿からペルーの黄金卿へ。それはまるで先ほどの自由の話とも被ったりするのです。

与えられた山ほどある自由から、掴み取る数少ない本物の自由を得るというお話。


今回読み返してみて、なんとなくそんな感じがしました。




もし誰かがこれを機会に読んでみて、それで好きになってもらえたら光栄です。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2010-06-19 22:57:01] [修正:2010-06-19 22:59:03] [このレビューのURL]

最新51巻で累計1億冊を超えたバケモノマンガです。


これだけ多くの人に読まれているには、それだけの理由があると思います。現に僕自身毎回単行本が出るたびに買ってたりしますしね。

ただこれもバケモノマンガの「ワンピース」と比べてすごくバランスが悪いのも事実なんですね。

バトルや設定、話の展開が心躍る一方、キャラ描写や話の展開(今度は悪い意味で)にもクセがあり、その両方が目に付くからか、多くの人に賞賛とバッシングの嵐を巻き起こしているのではないかと思うんです。



まずは好きな部分。

これは単純に色んな忍術が出てきて楽しいです。おしまい。

…て訳にもいかないのでもうちょっと説明。たくさんのキャラクターが敵味方問わずに出てきて色んな技を出すって単純だけどそれだけで面白いです。キン肉マンに夢中になっていた頃は新しい超人のかっこいい技が出るだけで、もう嬉しくってたまらなかったのを思い出します。実際毎週のように新キャラを新しい技と共に作り出すのって本当大変だと思います。

それに「ジョジョ」「ドラゴンボール」「忍空」「うしおととら」「ハンターハンター」など順当に影響を受けて(良くも悪くも)その遺伝子を引き継いでいることもプラスになっているのではないでしょうか。
ジョジョが生み出した能力対決が忍術にすり替わっただけ、という見方もあるでしょうが、それこそそれで面白くなればいいんじゃないかとも思うのです。
発明なんて最初の一人しか出来ないんですから。



ただお話の部分になってくるとちょっと話が難しくなってくる。さっきも言いましたが、いい部分と悪い部分がどちらも大きすぎて一方だけを語るのが適当ではなくなってしまうからです。

忍者学校から中忍試験、そして大蛇丸から木の葉くずしと大きな話の筋はとても順当で、正しい流れだと思います。自分(ナルト)の世界が徐々に広がっていき、使える忍術も広がり敵も強大になっていきます。

それ自体はとても正しいと思えるのですが、いかんせん色んな部分にご都合主義が目に余ってしまうのです。



それは一つは世界観。
いわゆるナルト達は敵の情勢を探る忍者ではなくて金で雇われる傭兵の国として存在しているのだけど、それにしてはあまりにも国の外、つまり忍者ではない世界を描かなすぎるんじゃないかと思うんです。
それを描くことによってこの作品で描きたかったテーマを生かすことが出来るし(僕が思うこの作品のテーマは後述)、だからこそ忍者に生まれてきたことの悲哀みたいなことを出せるんじゃないかと思うんです。

忍者、忍者というわりにやっていることはただの潰しあいに見えて個人の私怨の為に国が滅ぶ危機が起こりすぎるのは、もうちょっと大人が何とか出来ないものか、なんて思ったりもするんですよね。



あともうひとつ、ナルト世代の異常な強さがあげられるんではないかと。

これもご都合主義でそういうもんだと言う事も可能ですし本筋からはずれるんですが、実は結構重要な部分だったりします。

よくありがちな最初の中忍試験をがっつり描きすぎてみんながすごくなりすぎちゃった感じになってしまったのですが、それにしても毎年中忍試験はやるはずでだからこそ火の国は回っていってるわけです。

後の砂影になる我愛羅は例外としても、その他の忍者達はあっという間に世界のトップクラスの敵忍者とタイマン張って勝ってたりします。
この世界にとってはナルトとその仲間と教えてくれる先輩、親世代。それしかいない訳です。その他はもう無きが如くといった感じで、そのせいで世界観がより縮こまってしまったのではないかと思います。



ただ多少の世界観の小ささはどうであれ、ここまでテンションを高めながらこれたのはやっぱり並大抵のことではないと思います。
これもきっとワンピースの作者にも言えることだと思いますけど、終わり方、終わらせ方のビジョンがある程度出来ているからこそ、そのテンションが続くのだと思うんです。

『はじめの一歩』も面白いし、その巻数も多いのですが、『ナルト』『ワンピース』とは違って明らかに終わり方とか何にも(あるいは一歩と宮田くんの対決ぐらいしか)考えておらず、話があっちいったりこっちいったりしています。けれどむしろそうなるのが普通なので、単行本を50巻越えて一本の話を作ることなんて、もうそれだけで両手をあげて降参するしかないくらいすごいことなんだと思います。


あと、このマンガで一番チャレンジしているのはそのテーマ性。


僕は『つながり』だと思っています。


登場人物は一様に誰かとのつながりを常に意識しており、それが絶たれた状態をナルト、サスケなどの『孤独』を表し、誰かと繋がっている状態を火の国の絆や仲間で現し、それを紡いでいくことを世代間の引継ぎであらわしている。
あくまですべては『つながり』を意識して作られ、それは今までの少年マンガではなかなか無かったテーマではないかと思うのです。(仲間意識とか孤独だけとかはありましたがそれらを包括してのテーマではなかった訳です)

少年マンガに限らず、どうしてもお話を見るとき個人としての考えや行動に目がいってしまうものです。それを全体で感じさせようとするチャレンジは、それが成功していなかったとしても高く評価されるべきではないでしょうか。


ある意味一番ジャンプマンガらしいとも言える作品かもしれません。



不満もありますが、やはりよきにつけ悪きにつけ一流のマンガだと思います。




ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-05-03 12:36:29] [修正:2010-06-09 22:15:19] [このレビューのURL]

『共感できる狂気』

松本次郎というマンガ家をこのマンガで初めて知ったのですが、随分と驚いた記憶があります。またとんでもない人が出てきたな、と。
こんな感じで驚いたマンガ家さんてこの人以来いないんじゃないか。そう思うくらい稀有な作家性を持っていると思います。

『敵討ち法』という非現実的な設定を使って色んな人間の想いが交錯していく、ある意味SF的な物語なんですが、そこに描かれている人間のほとんどが人間的に欠落している。というか、狂人なんですね簡単に言えば。それがすごい。

だれもが狂っている。それがどれほどすごいことなのか。
まず、誰も公正な視点で物事を語れないわけです。すべての人間の物差しが狂っているから、それぞれが同じ物事を見ても全くちがう感情を持ってしまう。するとマンガを読んでいる人にとっては、だれに共感してよいものなのか分からなくなってしまうんです。

本来なら、主人公がその役目を果たさなければいけないところですが、あろうことか主人公の叶ヒロシが一番ぶっとんでしまってます(笑)。そのお目付け役であるヒグチは、そのヒロシですら頭を抱え込んでしまうほどの難敵ですし、唯一このお話の良心的な部分を担っている山田くんは“ある意味”一番ふさわしくない人物だったりします。

山田君。実はこの人が一番キーマンなのではないかと思うのです(事実、物語もヒロシと山田君がラストを締めくくります)。
一見考えていることもマトモで、この物語で唯一の普通の人のように見えます。けれど果たして本当にそうなのでしょうか。
彼は自分の正義を貫くために執行人となります。その為に彼女と別れて自分の志をまっとうしようともがきます。「こういう仕事を叶さんや溝口のような人間にやらせる訳にはいかない。僕のようなちゃんとした人間が責任をもってやり遂げなければ」と奮闘するわけです。

もうその時点で狂っている訳です。やっていることは人殺しな訳ですから。読んでいる人にとっては唯一話がまともに出来る人間だから騙されてしまうわけですが(笑)、彼の言っていることは「敵討ちって必要だよね。」って言っているんです。それが正しいわけがない。


誰もマトモな語り部がいない(というかマトモな人間がいないw)この作品は、では成立していないのか。

それが成立しているから、すごいと思うんです。

なぜ成立しているのか。言い換えると『なぜ面白いのか』。それは語っている内容が『敵討ち法がどうなのか』とか『殺される側の事情』とかではなく(もちろんそこもちゃんと描写されてはいるんですが)、最後まで『狂気』を扱っていたからだと思います。

それも他人が持っている狂気ではなく、身の内にある狂気です。

少なくても僕は、ここに描かれている狂気を多少は理解出来ます。多くの人にとってもそうなのではないでしょうか。
もちろんその経験があるというわけではありません。人には見えない友人を持っている訳ではありませんし、彼女に胃が破裂するほどスパゲティを食べさせたいとも思っていません(笑)。

けれどそこにある『いらだち』は共感できるのです。狂気におちいる一歩手前のいらだち。

自分の事を本当には分かって貰えないいらだち。人の事が許せないいらだち。自分の正しいと思っていることが認めてもらえないいらだち…。ここに描かれている全ての人間が持っている、『狂気の中に含まれているいらだち』はとても共感出来るのです。

少なくてもヒロシの狂気は理解できなくても山田君のいらだちは共感できるのではないでしょうか。


あるいはもっというと、世の中普通の人なんてほとんどいないんじゃないかとも思うのです。誰もが心の暗いところに小さな狂気を抱き続けている。もちろん面には出さないけども、それは確かに存在してる。

このマンガはそういう部分を照らし出した珍しいマンガだと思います。だからこそ、強く惹かれてしまうのです。まるで覗いてはいけない穴の中を好奇心を抑えきれずに覗き込んでしまうように。


作者、松本次郎は短編もいくつか出しており、それらもいい意味でぶっとんでおります。




ちなみに7点なのは個人的な採点方式のため。
正確には『個人的にはとても好きだけど、万人におすすめ出来る作品ではなく、人によっては大きく好き嫌いが出る作品。』という意味での7点です。

自分がレビューする作品は個人的には大体満点です(笑)。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-06-06 06:57:21] [修正:2010-06-06 06:59:59] [このレビューのURL]

《正統派少年マンガ》


この人は昔から、絵が上手すぎてお話が下手すぎるなぁ?と思っていたんですが、ようやくその得手不得手がかみ合ってブレイクした作品です。

絵が上手すぎるとは純粋に褒め言葉です。
僕が思うに今、絵が上手いなぁと感じるマンガは井上雄彦、沙村広明、そして小畑健だと思っています。やっぱりそれくらい圧倒的に絵が上手い。


この作品は原作のほったゆみがネームまで描いたとされ(本人によるリライトはあるにせよ)それが何より功を奏したと思われます。
本来原作とは原稿用紙とかで文字だけで書かれる事が多いので、ネームまで描かせたという事は、ほったゆみが漫画家であったにせよ異例だと思われます。
けれどそれが作品としての屋台骨をしっかりとさせ、小畑健も作画に集中できるというよりよい結果になったのではないでしょうか。

作品を見てまず思うことは『とても純粋な少年成長マンガ』だということ。
これほど少年マンガにふさわしい作品は昨今珍しいんじゃないでしょうか。


囲碁と言うなかなか一般にはなじみがないジャンルもヒカルと同じ目線で一から勉強することが出来たし(実際僕もこれで囲碁のルールを知りました)、佐為というおばけの設定も平安時代の名人の囲碁指南というちょっとひねった感じがお話を盛り上げるのに一役買っています。


結構中盤で、ある理由から佐為の身に重大な出来事が起きます。

その後の展開はまだ見ぬ人にとっては知りたくないでしょうから避けますが、読者は物語は不可逆で過去には戻れないことをヒカルを通して知ることになります。

ここに大きなショックを受けました。きっと多くの人もそうだろうと思います。

その出来事は作る側から言えばとても勇気のいる選択です。その後の展開も含めて責任を取らなければいけないわけですから。

けどだからこそそこに僕達は人生を学ぶのではないでしょうか。
何かを失うことで、それと引き換えに何かを得ることが出来るのではないでしょうか。

その後も物語は続きます。ヒカルと共に僕らが共有した出来事はずっと大きな傷になってその後も続きます。きっとそれがすぐに“解決”してたならその傷も大した傷にはなっていなかったはずです。

僕らが受けた傷はあまりにも大きく、でもだからこそヒカルに対する思いも強くなっていくのです。


この作品は物語から最後の完結まで、まれに見る完成度で作られた作品だと思います。
まるで最初から最後まで決まってから作られたように、全ての要素が一本のラインとして美しい筋道を通っています。

『ヒカル少年の成長』

これがこの物語の核心であり、佐為もライバルの塔矢アキラも登場人物すべてがヒカルの成長の為に存在しているし、また彼ら自身もまわりの人物すべてが自分の成長のために存在しているのです。

人物描写、それこそがこの作品にとって一番の核であり、他のマンガより一段上に置かれている(少なくても僕の中ではそうです)理由だと思います。



その後、小畑健は「デスノート」や「ラルグラド」「バクマン」などを、このネーム原作という形を採用し続けて大成功を収めていますが、僕は小畑健の持つ超一流の絵で描かれる世界観を、少年のナイーブさをほったゆみの女性らしい温かな目線で描ききったこの『ヒカルの碁』が一番好きです。






ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-05-03 03:01:54] [修正:2010-05-03 03:06:45] [このレビューのURL]

10点 ONE PIECE

○これは僕にとってとても難しい作品です。

多くの人に評価されている作品でもあるし僕も好きなのは間違いないのだけど、マンガに詳しい人やいわゆる『ジャンプマンガ』を読めない人にとってはまったく受け入れられない作品だからです。

だからこそ、ちゃんとどこがいいのかを的確に言う必要があるのに、なかなかちゃんと捉えることが出来ないもどかしさがずっとあるのです。それは好きなもの同士が言い合える関係ではなくて、否定する人に対して納得出来る批評をしなければならないから。

そういうのが一番苦手なんですが。
それでもちょっとは自分の中で整理くらいはしないと、って感じで始まります。


○この作品連載最初の回を僕は見ていて、『あ、これはすげぇヒットするんだろうな』って思ったんです。それは僕が先見性があるとか、そういうのではなくただ『そりゃそうだろ』みたいな当たり前のような感じがあったんですけど。


○なぜならこのマンガには僕らが胸に思っていた『冒険マンガ』がそこにあったからです。

もちろん『悪魔の実』のアイデアも、海賊という設定もいいのですが、何より「この先何かとんでもない事が待ち受けている」感じがすごいしたんですね。

それは読者との約束のようなものであって「この先には無限の冒険が待っている」と言われたら、やっぱり期待しちゃうんですよね。
少年漫画は基本みんなそのようなつくりだと思うんですけど『本気』でそれをやろうとしているのは、今までもワンピースにしか感じませんでした。
(ナルトも好きですが、そういう感じではありませんでした)


○作者はそういう『ちゃんと言葉にはならないけども僕達が求めているもの』を描くことがすごいのであって、それこそがその他凡百のマンガと比べても突出していると思うんです。


○あと小さいことですが、最初に上限というか世界の頂点を設定したことは結構革命なんじゃないかと思っています。

『世界政府』『王下七武海』『四皇』など、最初にこいつらが一番強いんだと表明することによって、よく言われるパワーインフレについても一応なりとも説明が付き、それは『北斗の拳』『ドラゴンボール』そして『幽々白書』などで散々げんなりしてきた僕らへの回答なのではないかと思ったりするわけです。

つまり、はじめに上限を設定しておくことで強さの上限を上乗せしていくのではなく、その階調を増やしていくことが可能になったのです。


それはその後『ハンターハンター』の旅団の存在のように、新しいトレンドとして引き継がれていくわけですが、『能力者の戦い』がかって荒木飛呂彦が発明してきたように、この『上限を決める』っていうのは小さいことですが、僕にとっては結構衝撃だったんですね。


○前にラジオで尾田栄一郎さんが出ていらして、古い映画にものすごい詳しいことを知り驚いた記憶があります。

中でも仁侠映画については事のほか造詣が深いらしく、なるほど考えてみれば作中に出ている『男気』やら『討ち入り』のような場面はそういう所からきているのかもしれず、

さらにもっと考えれば、少年漫画というものは結構任侠映画を構成している要素と似通っているのかもしれないなと思うようになりました。

だからこそ、そこを受けつけない人には全然ダメなんじゃないか、と。


○別に僕がどうのこうの言わなくても、日本のマンガ史に残る作品ですし、そもそも初版が300万部なんていう訳のわからないカイブツマンガですから、やっぱり多くの人の心を打つ作品なんだと思います。
僕もなんだかんだで、やっぱり好きですし。

○ただ、ひとつだけ受け入れられない、というか個人的にナンクセつけたいのは、刀での斬撃。

それが刀の刃以上に切れたりしたらもう意味無いというか、じゃあ名刀である必要ないんじゃない?って思っちゃうのはただの意地悪なんでしょうか。



こまけーー!!と、我ながら思いますが。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-04-06 03:00:27] [修正:2010-04-06 03:05:13] [このレビューのURL]


○マンガ界でも屈指の才気走った作品であろうかと思います。

○それは完成度が高いという意味ではなく、無駄にとっちらかっている名作であり、それが迷作にならないところが恐るべしなんですねこの人は。


○そもそも、作者の富樫義博さんはこの作品に入る前に、色々と物議を醸した漫画家でもありました。知っている人は多いと思いますが、『幽遊白書』のラストを編集者の意向を無視し強引に終わらせた他、『レベルE』では少年ジャンプで初の(だったと思いますが)月イチ連載という変則的な連載を経て、この『ハンターハンター』に至る訳です。この連載中のトラブルについては(長期休載)ほとんどの人が認知しているとは思いますが(笑)。

○ただこの作品、それを差し置いてもすごい作品だと思います。ハンター試験で遭遇する先の見えない試験や魅力的なライバル達。天空闘技場であらわになった『念』の存在、そしてヒソカとの決闘。幻影旅団編では段々とシリアスさが増してきて、グリードアイランドではマンガ内ゲームとしての面白さにゴン、キルアの修行の話としても面白く読めます。

○そうして現在も続いている『キメラアント編』になるわけですが、そのパート、パートごとにまるで全然違う作品のような印象を受けてしまいます。もちろん話としては続いているのですが、どうもすんなり一つの作品として受け入れられない、強引に色んな要素をひとつにまとめているような印象が拭えないんです。そう思う人は僕だけではないのではないでしょうか。

○これこそがこの作品の一番の特性だと思うのですが、これはその時々の富樫さんのやりたかったこと(描きたかったこと)をそのまま描いているからこういう変な形になったのだと思われます。極端に言っちゃうと描きたいことがコロコロ変わっちゃうから、それにあわせて描いちゃえっていう。

○たださすが凡百の漫画家と違うのは、そのそれぞれのクオリティが単体でもびっくりするくらいに面白いのです。本編とまるで関係ないオークションにしても、贋作についての知識が後に生かされるくだりなどは『あんた絶対描きたかっただけだろ』なんてつっこみをまるで闘牛士よろしく赤いカーテンでひらりとかわして伏線にしてしまう始末。もうこちらは両手を挙げて降参するしかありません。だからこそ、長期休載しても待たざるを得ないんですね(笑)。

○『念』についてもやはり面白い所をついてくるなと思います。
基本は幽遊白書でやっていることと近いんですが、それをもっとロジカルにして、弱点や縛りを明記することによってより戦略性があがり魅力的に仕上がりました。きっと突っ込めば色々と突っ込めそうですが、まず前提条件を先に示すことによっていい具合に回避できているんではないでしょうか。

個人的にヒソカの能力をすぐにばらしてしまったことは衝撃でした。もっと謎の能力として後に引っ張ることも出来たのに、あえてそうせず手札を出した状態で話を進めるなんてなかなか出来ることではありません。やっぱりこの人の描く戦いは面白い。

○この他、感心したり語りたい部分はたくさんありますが、僕が一番衝撃を受けたところを紹介したいと思います。

○それは25巻。キメラアントの王を駆除するために一斉に城(王宮?)になだれ込むゴン達ハンター協会の面々。ノヴの能力で王へと続く階段のすぐ下から一斉に攻めていくが、同時に城を謎の念攻撃が襲う…。

まさにここからの演出、構成です。しびれました。

○物語は佳境でここから様々な様相を繰り広げていくわけですが、ここから奇妙に時間が引き延ばされます。
まるで後にナックルが体験する走馬灯の様に、時間がゆっくりと進み頭の回転だけがまるでアクセルを踏み続けるかのように急加速していきます。

皆それぞれが己の役割を果たすべく動き、そのほとんどが何らかの問題が発生して事態はもっとややこしくなります。

同時発生的に生まれるトラブルをスローモーションな時間の流れの中で淡々とナレーションベースで語られる。それなのに異常にテンションが高い状態で描かれる不思議な感覚…。

○短い時間の中でまるでマトリックスのように色々考えたり細かく描写する手法自体は、実は結構あってキャプテン翼しかり、スラムダンクのラストもそれに近い演出だったように思います。

けれど、これほど長期間(つまり単行本1冊以上のスパン)で一定の時間速度をキープした例は今までにないんじゃないでしょうか。

○この演出を見たときに僕はもうこれだけで充分すぎるほどの高みを見せられた気になってしまいました。
もちろん物語は続くし、出来れば早く見たいもんですが(笑)、それでもこの作品を世に出してくれたことに感謝したいくらいすごいなぁと思ってしまうのです。

○もちろん欠点がまるでないわけではなく、むしろ他の作家さんよりわかりやすくたくさんあったりするのですが、人間短所より長所、いい人間よりいい作品だったりするわけで、ファンなら許すことも大事かと思ったりする今日この頃です。

それだけの作品であると思います。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2010-02-27 07:12:08] [修正:2010-02-27 07:28:50] [このレビューのURL]

○最初に連載された当時から、あまりにも上手すぎて、新しくてびっくりした記憶のある作品です。

○何がすごいって、この人の描く時代劇は本当にそこに生活している感じが匂ってくるんですね。ネオ時代劇なんて喧伝されていますが、もし時代考証をちゃんとやっていたら、ものすごくつまらない世界観になっていたかも知れません。

○ただ、この作品。通常の意味で面白いかと言われれば、そこまで面白くはありません(笑)。

○話のバランスは悪いし、話自体も逸刀流との復讐劇まではよかったのですが、そこに幕府の人間事情が絡んできたり、本筋なのか微妙な『不死解明編』が長大な分量になっていたりで、漫然と読むにはいいですが、ちゃんと読もうとすると、どこに腰をすえて読めばいいのか分からなくなってしまうのではないでしょうか。

○ただ、それを差し置いても、マンガ界では数少ない作家の一人だと思っています。


○まず何よりしびれるのは、そのデッサンです。

○アクションシーンのかっこよさはもとより、ただの会話のシーン、何気なく話しているときの手のアップの時とかに、そのセンスの良さにしびれてしまうんです。(もちろんデッサンがうまいということとは別の話として)

○例えば、卍が通行手形を手に入れようと逸刀流を街道で待ち伏せるシーン。
後に卍が敵だとばれてしまうという演出的な意味もあり、逸刀流の三人の足のアップを撮り続けるシーンがあるのですが、あれをあれだけ情感豊かに描ける人っていうのは、そこまでいないんじゃないかと思います。

○そして、そのデッサンの動きが実に見事なんですね。
ただ歩くシーンにしても、普通なら足を踏み出す所と両足が地面に着くところの2パターンだと思うんですけど、彼は違うんです。
歩き出そうとして重心が前のめりになった瞬間を描くんです。

○これが、とてもしびれる。だからこそ、例えその回が何の興味のない事を話しているだけの回だとしても(失礼!)その絵を見るために読んでしまうんだと思います。

○エロティックな表現やサディスティックな表現にも魅力的な部分は(その分野に興味はなかったとしても)多々あると思いますが、それだけ色んな部分に魅力を感じれる作家っていうのは、やはりすごいことなんだと思います。


○絵の魅力というと『バガボンド』も同じような立ち位置だと思うんですが、井上雄彦先生の魅力は主にキャラクターであって、沙村先生のそれはやはりデッサン(動き)の魅力だと思っています。

○もちろんバガボンドもおすすめだし好きです。
これも話は面白いとは言い難いですが(笑)。


最後にこの作品、点数を7点にしようか10点にしようか悩みました。
自分の基準で言えば7点でもよかったかな、とも思ったのですが、やはりマンガ界で自分の中で屈指の存在でもあることを考慮して10点にしました。

『難あれど名作』そんな感じでしょうか。



ナイスレビュー: 2

[投稿:2010-01-24 09:58:46] [修正:2010-01-24 10:03:36] [このレビューのURL]

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