「znooqy」さんのページ

羽海野チカの底力をとくとご覧あれ。


一番目に収録されている6ページのフルカラー短編作「冬のキリン」にはただただ圧倒される。
無駄の無い、それでいて多くの表現が詰め込まれた豊潤な一滴が、読了後に頭の中で鮮やかに広がっていく感じだ。

羽海野チカは代表作のハチミツとクローバーでも見せた(魅せた)シリアスな詩的表現とコミカルな娯楽表現の両輪を束ねあげる構成力を持っている。
それが羽海野チカの世界を6ページで表すことを可能にした。
1コマ1コマの意味は勿論、登場人物の表情・造形まで作意を感じてしまう。

(ネタバレ?)
例えば、健康的なパパに対し色素の薄い草太。息子には病気で逝去した母親の面影があり、病弱なところはそっくりだ。草太という名前はきっと元気に育って欲しいと言う両親の思いが込められているに違いない。アフリカの大地に育つ草を見てパパが提案したのだろう。
そしてテーマでもある冬のキリンという場違いな存在。遠くを見つめるキリンは暖かな故郷に想いを馳せているようであり、それを草太の視点でパパの背中に重ねている。草太が「どうしてこのキリンはここにきたの?」という問いの答えをその姿に重ねてしまう所など、悲しみがこみ上げてくる。


何度も書くが、たった6ページでこの作品を表現したことが素晴らしいと感じる。テーマ、構成、絵的表現、言的表現。それらが互いに補完しあうことでできたフォーマットであり、読み手の中でそれぞれを結びつけることでこのぼかされた世界は6ページ以上に膨らんでいく。


そして主軸のテーマも良い。もやもやしたものが心に残るが、私の場合はそれが心地よい余韻となって、本を手離したあともその世界に浸り続けることが出来るのだ。

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[投稿:2011-10-19 02:14:16] [修正:2011-10-19 02:14:16]