「znooqy」さんのページ

総レビュー数: 9レビュー(全て表示) 最終投稿: 2011年03月24日

羽海野チカの底力をとくとご覧あれ。


一番目に収録されている6ページのフルカラー短編作「冬のキリン」にはただただ圧倒される。
無駄の無い、それでいて多くの表現が詰め込まれた豊潤な一滴が、読了後に頭の中で鮮やかに広がっていく感じだ。

羽海野チカは代表作のハチミツとクローバーでも見せた(魅せた)シリアスな詩的表現とコミカルな娯楽表現の両輪を束ねあげる構成力を持っている。
それが羽海野チカの世界を6ページで表すことを可能にした。
1コマ1コマの意味は勿論、登場人物の表情・造形まで作意を感じてしまう。

(ネタバレ?)
例えば、健康的なパパに対し色素の薄い草太。息子には病気で逝去した母親の面影があり、病弱なところはそっくりだ。草太という名前はきっと元気に育って欲しいと言う両親の思いが込められているに違いない。アフリカの大地に育つ草を見てパパが提案したのだろう。
そしてテーマでもある冬のキリンという場違いな存在。遠くを見つめるキリンは暖かな故郷に想いを馳せているようであり、それを草太の視点でパパの背中に重ねている。草太が「どうしてこのキリンはここにきたの?」という問いの答えをその姿に重ねてしまう所など、悲しみがこみ上げてくる。


何度も書くが、たった6ページでこの作品を表現したことが素晴らしいと感じる。テーマ、構成、絵的表現、言的表現。それらが互いに補完しあうことでできたフォーマットであり、読み手の中でそれぞれを結びつけることでこのぼかされた世界は6ページ以上に膨らんでいく。


そして主軸のテーマも良い。もやもやしたものが心に残るが、私の場合はそれが心地よい余韻となって、本を手離したあともその世界に浸り続けることが出来るのだ。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-10-19 02:14:16] [修正:2011-10-19 02:14:16] [このレビューのURL]

娯楽としての漫画では最高峰。

単一の作品の中、同一の設定・世界観でここまで様々な魅せ方をしている作品は他にあるのだろうか。
始まりは少年漫画の王道を歩き、幻影旅団の登場から映画のような群集劇の様相を呈する。グリードアイランドでは少年心をくすぐるゲームの形態をずるがしこい大人達の現実で描き、その中に汚れずに奮闘する主人子達がいる。キメラアント編はもう残酷なまでの現実しかない。特に会長VS王は我が漫画人生おいて最高のシーンであった。連載時の絵のままでいい。早く単行本化して欲しい。切に。

この作品の否定に用いられるのは「連載ペース」であることが多い。
確かに、週間少年ジャンプという世界最高峰の漫画雑誌において異例中の異例な待遇を受けていると思う。これに対し苦言を呈する人もいるようだが、私はジャンプ編集部のこの判断は正しいと思う。

「面白ければ全て許される」

そうでなければならない。
それこそが日本のMANGAをこのレベルまで引き上げた、根底にある思想であると思う。

最後に、この作品の遅筆は必然であると私は考える。
週間連載でこのクオリティを出せるのことが異常だ。
自分の納得できる内容を納得できる表現で書き上げるというのは、本当に辛く、正に「産みの苦しみ」だ。
それを急かすような発言を見ると少し悲しくなる。
数学の研究者に、今なお証明できていない数式を早く解けというものではないだろうか?
それとも、好きなのに靡いてくれない異性に意地悪したくなるようなものなのだろうか?

そこはただ「面白かったです」という既刊の感想と、これはプレッシャーにもなるが「続きを楽しみにしています」という嘆願で私はいいと思う。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2011-03-26 17:34:37] [修正:2011-03-26 17:54:30] [このレビューのURL]

起承転結が見事な四巻構成。
週間雑誌に月1ペースで連載されていたのを人生の楽しみにしていた中学生の頃が懐かしい。

しかし、月日が経って単行本を読み返してみると、なんともまぁあっさりした作品だなという印象を感じてしまった。
これは漫画という媒体の難点であると思う。作者が1コマの人物の絵を書くとき、その表情はその人物の思考を反映したものになる。だが、そのコマが小さかったり、台詞がなかったりするとついつい読み飛ばしてしまうわけだ。

このコマの表情の意味が何なのか。このときこの人物は何を考えているのか。

それを考えながら読んでいたのが連載時だった。次の掲載を楽しみに何度も同じ話を読み返し、ちりばめられた謎や伏線を考え、展開に一喜一憂する。
そのような読み方に適したストーリー・表現方法なのだろう。

ということで、単行本ではついつい読み進め過ぎてしまい、この物語の遊びの部分を咀嚼しきれないないまま終わりを迎えてしまう。

なので、ぜひこの作品を単行本でしか読んでいない人は読み返してみて欲しい。記憶に残ってないようなコマを意識して読むことで、また違った形が見えてくるはずだ。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-03-24 23:20:23] [修正:2011-03-24 23:21:32] [このレビューのURL]