不安の立像のレビュー
7点 ジブリ好き!さん
読み手の恐怖感覚や感性によって、各話の面白さが異なると思う。
「このエピソードはだれが読んでも面白いだろう」ってよりは、「自分はこれに惹かれる」といった話が詰まった「怪奇漫画」の短編集。
不安の立像→「恐怖漫画」寄りの話。些細な好奇心から出会った恐怖によって、日常の退屈さから逃げだせた男の話。(7点)
子供の遊び→意識のすり変わりは諸星作品ではよくあるのだろう。この短編集でも、最初と最後で考えや意識が全くすりかわってしまうエピソードが多い。その中でもこれは最も典型で秀逸なエピソード。表面的な恐怖だけでなく、深層部分にも刻まれる恐怖感。(8点)
復讐クラブ→どんでん返しというほどではないだろうが、オチは良い。「人を呪わば穴二つ」ということを、説教臭くなくシニカルに描いた話(8点)
海の中→美しくも生臭い、怪奇談(4点)
ユニコーン狩り→ファンタジー作品と評するだけあって、恐怖や怪奇を描くというより、夢を見せてくれる作品です。それでもやはり、異様さはあるのだけれども…(7点)
真夜中のプシケー→まさしくホラー漫画といった感じ(5点)
袋の中→人間の残忍さ・猟奇性が具現化されたものが、袋の中の怪物なのだろう…(5点)
会社の幽霊→ホラー性よりユーモアな表現が勝っていて、皮肉のこもったギャグ漫画にも読める作品。(6点)
子供の王国→これは怖い。そして興味深い。子供を嫌い批判していたつもりが、知らぬ間に子供世界にはまり込んでしまっていたという皮肉。おそらく最初からの子供批判な態度は、永遠に遊び続ける子供への憧れや羨望の裏返しであり、命がけで「子供の遊び」を体験したことでその深みにはまってしまったのだろう。このオチを知ってしまった後には、何とも言えない気持ちになってしまうだろう…(9点)
ナイスレビュー: 0 票
[投稿:2010-10-22 16:33:03] [修正:2010-10-22 16:33:03] [このレビューのURL]
7点 まれらさん
最初期から10年間程度の範囲の短編集。作者自身が後書きで語るようにホラー中心になっている。同じホラーでも絶叫する類ではなく、背筋がぞくりとするようなものが多い。以下寸評。
「不安の立像」日常に潜む実体のない恐怖を描く。デビュー間もない頃の作(デビュー作との表記もあり)でありながら、既に完全な諸星ワールドを形成している。(6点)
「子供の遊び」謎の生き物が実に猟奇的で、おぞましい姿なのに見入ってしまう。同様のモチーフはその後の作品の中に繰り返し登場する。結末も秀逸。(7点)
「復讐クラブ」シニカルな小品だが、毒の利いたオチがいい。(5点)
「海の中」穏やかな詩情漂う作品。こう描けばいかにも美しい話のようであるが、その実は水死体のモノローグというところが異様。(5点)
「ユニコーン狩り」作者は照れているが、きわめて真っ向から夢と向き合ったファンタジー作品。すべての作品の中で最もポジティブな作かも知れない。『今年はじめて見る一角獣』のフレーズが実に美しい。思春期の不安定な精神状態を直撃すれば、人生が変わるかも知れない。子供の頃に読みたかった。(9点)
「真夜中のプシケー」比較的正当なホラー漫画。装丁(表紙)のモチーフにもなっているようで、基調となる位置づけかも知れない。(6点)
「袋の中」猟奇的な作品であり、殺人や屍姦など何でもありなのだが、それ以上に人間の心理描写の方が怖い。(6点)
「会社の幽霊」近代社会の脆さや組織の異常さを描きながらも、妙に戯画的なドタバタに帰着するところが可笑しい。ブラックユーモアの味わい。(5点)
「子供の王国」頽廃的な味わいの中に奇妙な不安感が織り込まれている。面白い話なのだが、読むのが苦痛なほど嫌悪感を感じてしまい、それでいてどうしても読んでしまう。作者はロリコンに対するカリカチュアである旨の自己評をしているが、幼女街娼のくだりなどは作者一流のリアリズムに溢れ、軽薄な批判以上の黒い世界を感じさせる。(8点)
ナイスレビュー: 1 票
[投稿:2008-01-03 16:41:10] [修正:2008-01-03 16:41:10] [このレビューのURL]