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7.14点(レビュー数:54人)

作者漆原友紀

巻数10巻 (完結)

連載誌月刊アフタヌーン:1999年~ / 講談社

更新時刻 2009-12-27 15:48:24

あらすじ 動物でも植物でもない、生命の原生体「蟲」。時にそれはヒトと棲む世を重ね、奇異なる現象を呼ぶ。ヒトと蟲の世をつなぐ「蟲師」ギンコが見つめる生きゆくもの達の姿には、定められた形などない

備考 2003年の文化庁メディア芸術祭・漫画部門優秀賞、2006年の第30回講談社漫画賞・一般部門受賞、2007年の文化庁メディア芸術祭「日本のメディア芸術100選」マンガ部門選出。当初はアフタヌーン増刊にて連載されていたが、同誌の休刊に伴い、月刊アフタヌーン本誌の方に隔月連載という形で移籍した。

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蟲師のレビュー

点数別:
6件~ 10件を表示/全54 件

8点 森エンテスさん

この作品は手放す事が無いと思います。

郷土愛や貧しい生活の中での人々の営みなど、昔ながらの「日本人の良さ」が物語の中に詰まっており、「蟲」の不思議な能力や効力とそれを解決する主人公の活躍よりもそういう人々の生活感こそ、この作品の魅力なのだと思います。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-01-20 19:11:38] [修正:2011-01-20 19:19:53] [このレビューのURL]

7点 jdf54jさん

平たく言えば妖怪が原因で困ってる人々を助けるストーリー。
もっとも妖怪というより現象に近いが、一応姿形はある。
妖怪を通じて物の善悪を諭す寓話ではなく
原因から結果に至るまでを楽しむ不条理SFに近い。
話によっては報われない結末を迎えるケースもある。
一見雰囲気を楽しむ漫画のようだが、どれも捻った設定の割に
起承転結がシッカリしていて話をうまくまとめている、
万人が楽しめるタイプの漫画だと思う。
1巻は良作が多いが、2巻以降除々にネタ切れ気味。
江戸辺りの世界観だが、主役だけYシャツにチノパン等現代を匂わせる

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-12-29 04:41:00] [修正:2010-12-29 05:08:43] [このレビューのURL]

7点 torinokidさん

味のあるマンガ。総じて楽しんで読めた。
作品全体に流れるひたすら淡い雰囲気が心地いい。

基本的に一話完結形式だが、どの話も上手にまとめている。
世界観に最後までブレがないのも良い。

舞台となる時代を敢えて表するなら
「武士のいない江戸時代」あるいは「近代化されていない明治時代」
あたりになるのだろうか。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-12-14 15:05:20] [修正:2010-12-14 15:05:20] [このレビューのURL]

10点 景清さん

 一般的な生物の体系から遠く離れた原初の生命群「蟲」、人や自然にそれらが及ぼす超自然的で奇怪な現象の数々。本作『蟲師』は、江戸と明治のあわいに位置する架空の時代の日本・近代のちょっと前の日本を舞台に、それら蟲の及ぼす怪異から人々を守り逃がす事を生業とする「蟲師」ギンコを主人公とする奇談集である。

 非情に大雑把に物語の基本を説明するとこのようになるのだが、実際にはとにかくどう分類するべきか悩ましい作品でもある。土俗的な日本風の世界観で超自然的な怪異を描くという意味では『ゲゲゲの鬼太郎』や諸星大二郎の『妖怪ハンター』シリーズのようでもあるし、主人公のプロフェッショナルっぷりと深い思索性は『ブラックジャック』的だ。時々見られる人情噺やユーモアや説話性などは『まんが日本昔話』のようなお伽噺を彷彿とさせ、一転してしばしば登場するダークな話にはサイコホラーやミステリの趣すら漂う。その独特の画風と世界観から、とりあえずそういう雰囲気を押し出した“雰囲気マンガ”という評もある。

 古来より東洋の人々が獣や鳥とも植物ともつかぬ下等な、しかし多様な生物相を「蟲」として捉えてきた事と同じように、本作もまた多様な読まれ方のできる作品である。上にあげたどのジャンルにも分類可能であり、そしてそれら全てを包括してなお捉えきれない豊饒な何かでもあるのだ。椀一杯の海水・一塊の土に宿る無数の生命のように。

 正直に言って最初の数話の段階では、作者はこの魅力的なモチーフを持てあましていたように感じた。絵や設定は魅力的で物語も独特だったが、そういう特異な雰囲気を醸し出す事ばかりに専心している感は否めず、いまいち物語に深く没入しきれないでいた。そのままいけば、まぁちょっと独特な個性のあるただの雰囲気マンガで終わったかもしれない。

 しかし2巻収録の名篇「やまねむる」を誌上で読み、静かな静かな感動を味わったのをきっかけに、回を追うごとに本作に引き込まれていき、そしてその後確信した。本作は確かにファンタジーだが、その背景には歴史的・土俗的・原風景的なしっかりとした土台がある事を。実に様々なものの“あわい”に出現した稀なる名作であることを。

 白とも黒ともつかない微妙なあわいの上に本作は奇跡のように鎮座している。そこからにじみ出てくるのは比類のない豊饒な世界の息吹だ。そしてこの白と黒の間の灰色の世界のあり様は、かつて我々のご先祖が抱いていた自然観にも通じるものがあり、歴史的な記憶のにおいさえ漂わす。キャラクターデザインなどは泥臭さを払拭してこぎれいではあるが、作中登場する有名無名の人々の生きざまや様々な蟲のもたらす怪異には古い伝統や風習(美しいものばかりではない)や伝承に着想を得たものが多く、単純な善悪論などでは捉えきれぬものも多い。ただ得体の知れない余韻のみを残す話もある。

 作画表現にしても淡い色彩やペンによる点描を駆使した淡泊ながらも濃密な作画がそういう雰囲気を見事に表現。特に山霧・海霧によって天地の境界すら曖昧になったような海や山里の描写は強烈な印象を与える。作品のテーマ表現的にも、現実の自然描写としても見事と言う他無い。

 何より圧巻なのが種々の蟲の描写だ。本作の根幹をなす存在である蟲は、生命の最も原初的な場所に位置するものと捉えられ、それらが引き起こす怪現象はまさしく幽霊や妖怪や精霊によるもののように描かれる。
 …ここまでなら普通の妖怪モノの一変異種だが、本作の凄いところはそんな蟲の描写を、顕微鏡で観察される原生生物や菌類のような姿で表現している点だ。ここには単なるファンタジーに留まらない近代的な視点も導入されている。
 第1話でギンコは生物を動物や植物など5つに大別し、それらを五本指になぞらえて蟲とは何かを説明する。一般的な生物が五本の指なら、蟲とはそれらが一つにたばさって更に腕をさかのぼった先の心臓の部分にある存在というたとえだが、この語り口一つにしても、ファンタジーの文脈だけでなく博物学者ダーウィンの進化系統樹や五界説などの生物分類学的な見地から解釈しても面白いものになっている。こういうところにも蟲師のユニークさは現れている。

 そして、そんな本作の立ち位置をもっとも雄弁に物語るのが主人公である漂泊の蟲師「ギンコ」のキャラクターデザインだ。少年時代に経験した蟲との遭遇による怪異の影響で右目を失い、残った左目は緑に、髪は真っ白に染まったこの異様な人物は、どこか鬼太郎やブラックジャックを思わせる風貌をしている。そして「江戸と明治の間の架空の時代」という設定のため、周りのキャラ(大半は貧しい農民や漁民)がそろって和装の中、ほぼギンコだけが洋装なのである。この世界においては、ギンコは(どちらかと言えば)我々読者の住む近代的世界に近い立ち位置におり、他とは一線を画した屹立した存在として表現されるが、同時にそれは物語内において他の人々とは遂に全てを分かち合うことのできない孤独な異端者である事の表れでもある。洋服を着た彼自身もまた人々からすれば怪異なのだが、そんな彼が主人公であるからこそ、我々は既に遠い世界となってしまった郷愁の彼方の古の世界と邂逅できる。ギンコは蟲(≒自然)と人のあわいを取り持つ存在であり作品と読者のあわいに立つ存在でもある。
 作者いわく、ギンコには放浪の民族学者「宮本常一」や博物学者「南方熊楠」などの実在の人物が投影されているそうだが、共に民俗学や博物学(生物学)といった近代的な学問を用いつつも、日本の土俗的な世界へ深く分け入って行った人物として知られている。そういう周縁部分にも、本作の持つ豊饒な読後感の一端が垣間見える。

 自然と人間、生と死、有機と無機、人情と世間、一般と個別、土着と普遍、海と大地、大地と空、海と空、いにしえと近代、人為と天為、現実と奇想、生きることの美しさと、そして残酷さ。
 …これら相反する諸要素の数々は、本作では不思議なバランスの上に混交を遂げる。“調和”というほど大袈裟では無く、“混沌”というほど荒削りでも無い。ただただ奇跡のようなあわいの美しさ。こういう作品を漫画として読む事が出来る事は、本当にありがたいというしかない。漫画もまた、絵と文字のあわいに生まれた蟲だからなのだろう。

ナイスレビュー: 5

[投稿:2010-09-30 23:01:34] [修正:2010-10-11 20:20:07] [このレビューのURL]

7点 勾玉さん

異形のものを既存の「妖怪」ではなく
「蟲」という独自の概念に置き換えたところが秀逸。

怪異をもたらす点に於いて、妖怪と共通した存在であるにも関わらず
本作の「蟲」には、妖怪の持っているおどろおどろしさは無く、
むしろ神秘性に満ち溢れた存在として、世界を彩っている。

そして、そこから紡ぎだされる物語は幻想的で叙情的。
妖怪の跋扈する世界に行きたいかと問われれば後ずさりしてしまうが
蟲の存在する世界なら、一度くらいは覗いてみたいと思えてしまう。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-09-22 13:54:50] [修正:2016-11-18 23:55:10] [このレビューのURL]

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