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6.66点(レビュー数:9人)

作者上野顕太郎

巻数1巻 (完結)

連載誌コミックビーム:2009年~ / エンターブレイン

更新時刻 2010-11-20 04:14:33

あらすじ ささやかだけれど、幸せな家庭を築いていた漫画家に、突如訪れた、悲劇。妻の突然の死。 最愛の人との最後の日々を、繊細で果敢に描き尽くす。 ギャグ漫画界の鬼才が挑んだ渾身の新境地、愛と悲しみに満ちた、ドキュメントコミック。(Amazon内容紹介より)

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さよならもいわずにのレビュー

点数別:
6件~ 9件を表示/全9 件

6点 blackbirdさん

同じ屋根の下にいても、お互い別の事をしたり、
話しかけないってことは当たり前にある。
それなのに、ほんの2,3時間見なかっただけの間に、
パートナーが亡くなってしまうなんて・・・やりきれない。

日常の中で、その人「だけ」がいない。
その違和感。
きっと、ずっと、慣れないだろう。

この物語は、まだ彼女が風景に溶け込んでいってしまう前の、
失った悲しみにもがく、作者の姿。
がむしゃらに仕事をしたり、普通に歩いたりしている時に
フラッシュバックのように襲ってくる、得も言われぬ感情。
闇に飲まれてしまいそうなコマ。
哀しいというよりも、何でいないのか感情がついていけなくて
気持ち悪くなりそうな思いが伝わってくる。

どうしてここまで、こんな苦しい時期に描かなければ
いけなかったのか。
自分の人生を切り売りするとか、商売上手とか、
言われることもあるだろうが、本人もこの状況下でも
「おいしいネタ」と自覚しながら書いたほどの確信犯。

他の作品を読んだことがないが、根が漫画家なんですね。
やっぱり表現者、そして、全てを細部に渡って記録する
ことによって、自分の記憶にとどめ、彼女を遺したんですね。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-06-27 22:31:47] [修正:2011-07-25 22:53:22] [このレビューのURL]

8点 ITSUKIさん

このマンガが凄い!か何かでランクインしていたのと、ここのレビューのおかげでタイトルを覚えていたので購入。

自分の身近な存在との別れは、突然かどうかの差はあれど誰でもいずれは体験する事です。
なのでありふれた話といってしまえばそうなんだと思います。

それでもこの作品に惹きつけられるのは演出の上手さもありますが、それ以上に「作者の体験を作者自身が漫画化している」点に尽きるのではないかと。

(かなり自分が漫画贔屓な脳をしてる所為もあるのですが)
このストーリーをもし別人が演じて2時間ドラマにしたとしたら、自分は果たしてこのマンガを読んだ時ほどのめりこめただろうかと思うと素直に頷けないです。
ひょっとしたら「また人が死んでお涙頂戴か」くらい思っているかもしれません。

作者はどうしてこのような体験をしながらも、それを漫画にしようと思ったのか。
漫画にする時にこのコマは一体どんな気持ちで描いたのだろうか。
漫画の最初から最後まで全てに感情移入する事が出来ました。

作者の体験したことの一切を忘れない様、漏らさない様に描こうとしている様が伝わる記憶に残る作品でした。


ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-12-22 00:04:43] [修正:2010-12-22 00:04:43] [このレビューのURL]

6点 ジブリ好き!さん

最近、暴れん坊将軍・松平健(マツケン)の妻が亡くなられた。
パニック障害・不眠症・うつ状態のために自殺…しかしネット上では、しばしばこれがマツケンのせいであると批判する者もいるようだ。
また、奥さんが自殺した翌日も、松平健は座長を務める福岡・博多座で公演をしプロ精神を見せたのだが、逆にこれを冷酷だと責める者もいる。

プロ精神。
いついかなる時でも、自分の仕事に手を抜いてはならない、という精神。
マツケン、「突如娘と自分を残し逝ってしまった最愛の妻」のことを綴ったこの作品の作者・上野顕太郎(ウエケン)、景清さんがおっしゃる喜劇役者の榎本健一(エノケン)…その誰もが、地獄のような悲しみの中にいてプロ精神を失わなかった者達である(ウエケンは作中でこれを「プロ意識」と表現している)。
その精神は、普段なら人は見上げたものだと称賛し敬意を払うものであるが、それが最愛の人を失った後であると、やれ冷酷だ、金の亡者だと批判しだす。良識を持ったファンでさえも、「無理するなよ…」と一歩引いてしまうこともある。
もはや彼らの域に達したプロ精神とは一種の狂気であり、彼らは役者・表現者としての性(さが)に取り憑かれて逆らえない宿命を負ってしまっているのかもしれない。

この作品の冒頭部の記述で、上野氏は妻を失った悲しみとともに、「表現者として、この『おいしいネタ』を描かずにはいられない」と述べている。
自分はこの作品を読んで、また先のマツケンの報を聞いて、芥川龍之介の「地獄変」を思い出した。

「地獄変」
凄腕の絵師であり娘を溺愛していた良秀は、当時権勢を誇っていた堀川の大殿に地獄絵図を描くよう命じられる。良秀は最後に燃え上がる牛車の中で焼け死ぬ女房の姿を書き加えたいのだが、彼は実際に見たものでなければ描けない。それを大殿に言うと…車に閉じ込められたわが娘の姿を見せつけられ、火をつけられてしまうのだ。
良秀は、最初こそ地獄の責め苦に悩んでいたものの、やがて全ての感情が吹き飛び、悦びと厳かさを備えた表情で眺め始めた。そして焼け焦がれてゆく娘を見ながら絵を完成させる。
その絵は誰もが絶賛するできばえであったという…


違いは多々あれど、プロ精神を含め何かこの作品と近いものを感じた。地獄の中にいて、プロ精神をさらなる高みへ超越させ傑作を描いた良秀。この作品でも、「悲しみ」の表現は恐ろしいまでに凄まじさを帯びている。

芥川龍之介はこういったニュアンスの言葉を作品の中に残している。

「天国(極楽)とは死を恐れた権力者たちがすがった夢であり、地獄とは卑しく貧しい人間どものひがみ妬みの妄想だ。天国で得られる以上の幸せも、地獄を超える苦しみも、全てはこの世にある」

上野氏は語る
「不安定な収入、妻の喘息の悪化と鬱病の発現、穏やかな時は少なかった…
それでも
いつも一緒にいることがしあわせだったのだ」
最愛の妻と娘が必ず「ただいま」と言って迎えてくれる家が好きだったと言う。
彼にとっては、そんな日常のある現実こそが天国だったのだろう。
しかし、幸せを感じれば感じるほどに、妻を失うことで突き落とされた現実は地獄よりも深かった。それをうかがえる悲しみの表現は、本編で存分に味わってほしい。

この作品は最愛の妻を失った上野顕太郎によるドキュメンタリー要素の強い作品であり、また愛する者の死という重いテーマであるため、決して面白いという感想を持てるものではない。また結構淡々としているので、精神的に落ち着きを取り戻した頃に作品を見直したのかな、とも少し思えた。しかし、ページいっぱいに描かれた妻の顔、独特でインパクトのある悲しみの表現、他の映画や漫画の引用など、やはりどうしようもないくらいの哀しみが作品いっぱいに表現されてもいるのである。

得点はこの作品の特殊性を考慮してのこともあるので、あまり気にしないでほしい。
そもそもこの作品は「大切な人を失った人、大切な人がいる人」に捧げられた作品であるので、自分にはまだ早かったようにも思える。
そういった人にはお薦めしたいし、自分も大切な人ができた時、改めて読み返したい。

「さよならもいわずに」去ってしまった妻
しかし上野氏が最後に描いたものは、妻からの「さよなら」の言葉であった
それは彼自身の願いを具現化してしまった彼のためだけのシーンにも見えるが、さよならもいわずに逝ってしまった大切な人がいた全ての人の願いを具現化したシーンでもあるのかもしれない…

最後に、上記のようなプロ精神に取り憑かれた者たちを安易に冷酷だ、金の亡者だと責める人たち(特にマツケンを批判する人たち)に、「地獄変」の結末を伝えたい。

日ごろ自分を悪く言う者たちさえ黙らせる程の最高の絵を描き上げ大殿に渡した良秀は、翌日首を吊って自殺する。

本文には「安閑として生きながらえるのに堪えなかった」と推測されている。
「業」の報いが天から下されるものだとするならば、自決した良秀に「業」などなかっただろう。
そして良秀が至った境地も、エノケンやマツケンのプロ精神も、全て「現実逃避」のための手段だったのかもしれない。彼らは、最愛の人を失った現実を認めたくも考えたくもなかったのだ。マツケンは妻の亡き後も博多公演を行い続け、「博多はいいですね。熱さが伝わってきます。」と述べた後、「家に帰れば現実に戻るんですが…」と漏らしたという。この作中でもウエケンの事実を認めたくない「逃げ」の想いが多々詰まっている。
つまりは、そう、なんてことはない、ただこういうことだったのだろう。
彼らがもってしまったのは「業」ではなく、「悲劇」だったのである。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-11-20 04:14:58] [修正:2010-11-20 19:19:52] [このレビューのURL]

9点 景清さん

 芸人、喜劇役者、そしてギャグ漫画家、世の中には“笑い”を売ることを生業とした特殊な身分の人々が存在するが、いくら売り物が笑いだからといって、売る側がヘラヘラ笑っていられるほど甘い業界ではいずれも無い事もまた事実である。芸人世界の厳しさは広く知られているし、喜劇役者は精神的負担から自殺する者も少なくなかったという。ギャグ漫画家の世界にせよ「マカロニほうれん荘」の鴨川つばめのようにネタを出しつくして“壊れて”しまった漫画家の話なども枚挙に暇が無い。

 「日本の喜劇王」と呼ばれ戦前戦後に活躍した喜劇役者の榎本健一(エノケン)に、そういう“笑いを売る人々”の哀しい宿命を象徴するエピソードがある。舞台や映画では人々を笑わせ続けたエノケンも、私生活では苦難の絶えない日々を送り、自ら笑うことはほとんど無かったという。そんな彼を襲った最大の不幸は愛する息子に結核で先立たれた事だった。この時もエノケンは客の前では悲しいそぶりは見せまいとギャグに励んだが、彼の息子の死を知っている観客は「いいよエノケン…無理はするなよ」とちっとも笑ってくれなかったのだと言う。“笑いを売る人々”の哀しい宿命である。

 前置きは長くなったが、上野顕太郎による『さよならもいわずに』にも、そういう哀しい宿命が全体を通じてむせかえるほど伝わってくる。生半可な作品では無い。描く側も、読む側にとっても。

 「暇人漫画家」と呼ばれ知る人ぞ知る活躍を十数年続けてきたギャグ漫画家の上野顕太郎(ウエケン)は、『帽子男は眠れない』や『ひまあり』、『夜は千の眼を持つ』など一貫してギャグにこだわり続けてきた生粋のギャグ職人であった。爆発的大ヒットとは無縁のため生活も順風満帆ではなかったが、それでも愛する妻と娘に囲まれささやかながらも充実した濃い日々を送ってきた彼のもとに、突然その日はやってくる。元々心身ともに不安を抱えていた奥さんが、ウエケンが仕事部屋を行き来したわずか3時間ばかりの間に、心疾患によって帰らぬ人となったのだ。わずか3時間ばかりの間で…。本作は、最愛の妻と突然の永訣を余儀なくされた一介のギャグ漫画家の哀切きわまる思いと現実が交錯するセルフドキュメント漫画である。

 ウエケンの代表作の一つ『ひまあり』においても、この奥さんは主人公ウエケンにツッコミを入れたり罠にはめたりと名バイプレイヤーとして物語を彩っていた。そういう実績もあってファンにとっては氏の作品世界には欠かせない重要な人物となったわけだが、『ひまあり』の作中の描写や後書きにおいてもどうやら健康状態がすぐれないことは暗に示唆されていた。そんな悪い予感が、最悪の形で表出したのである。
 
 そしてウエケンはギャグ漫画の鬼才であると同時に超一級の漫画読みでもあった。彼の漫画には名作無名作問わず膨大な漫画的記憶が下敷きとなっており、たとえば彼の描いた『ゴルゴ13』と『一休さん』のコラ漫画などその出来の良さからネットで話題になったりもした。そんな膨大な経験値に裏打ちされた多様な演出スキルが、彼のギャグをこれまでは彩ってきたわけでが、本作ではそれらの演出スキルが、全て「妻を喪ったという現実」「それを受け止めきれない哀れな中年男の悲しみ」を一切の容赦なくあぶりだす。視点は上下し、世界は歪み、終いには溶解する。
 
 男は町をさまよい、道行く人々とすれちがいながら、

「何故あなたではなく……」

 と、他の誰でも無く最愛の妻を奪った天の非情を呪う。大袈裟である。傍から見れば「何をそこまで…」と思うほどに大袈裟な演出の数々である。普通の漫画でやれば半ばギャグとして処理されてしまうであろう。実際、ウエケンはこれまでそういう大袈裟演出で様々なギャグを彩ってきたのだから。普通にいけば、ラストで奥さんが棺桶から楳図タッチの表情で復活し「ホホホホホ」と首を激しく回転させながら笑ったりした事だろう。
 しかし、今回ばかりはそうではなかったのだ。これまでギャグとしてしか受け止められなかった演出が、本作では内臓を圧迫するような密度で読者に襲いかかるのだ。


 冒頭紹介した喜劇役者エノケンのエピソードには、更に胸糞悪いおまけがついている。息子の葬式の当日、エノケンの家の周りには多くの野次馬が集まった。いよいよ出棺となった時、ついに悲しみをこらえきれずにエノケンが嗚咽すると、野次馬達は「あのエノケンが泣いてやがらァ」と爆笑したのである。舞台では笑ってくれなかったにも関わらず…。宿命とはいえ、いささか残酷すぎる話ではある。

 不幸中の幸いというべきか、“笑いを売る”という点では共通しているが本人が直接観客の前に姿を現す必要の無いギャグ漫画家であったウエケンは、この残酷な仕打ちからは逃れる事が出来た。そして表現者の宿命であろうか、彼はこの最愛の妻の死という体験を漫画作品として描いてみたいと思うようになり、数年の時間を経て遂に執筆にこぎつけたのである。ギャグと紙一重の悲しみ、表現者の持つ業、それらが圧倒的な筆致で塗り込められたこの物語は、こうして誕生したのだ。こんな作品にも関わらず作者は途中にギャグを挟み、他漫画からのコラージュも怠らない。業である。
 ウエケンはおそらく今後もギャグを描き続ける事だろう。しかし、そこには確実にある種のペーソスもまた刻まれるようにもなるのだろう。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-08-30 00:51:54] [修正:2010-08-31 00:06:17] [このレビューのURL]


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