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7.06点(レビュー数:43人)

作者岩明均

巻数4巻 (完結)

連載誌ビッグコミックスピリッツ:1997年~ / 小学館

更新時刻 2012-08-21 12:48:33

あらすじ 南丸洋二は念じるだけで紙に小さな穴を空けられる特殊な能力を持っていた。
ある日頭が半分えぐり取られるという殺人事件が発生。
洋二は死体を見て自分と同じ能力者の存在を知るのであった・・・

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この漫画のレビュー

8点 ジブリ好き!さん

もの凄く練られた作品です。
これほどリアリティのある歴史や地理を創造してしまうのは本当にすごい。ヒストリエやヘウレーカで西洋史に詳しいのはわかっていたが、日本に関する造詣も恐ろしく深いのかもしれない。

序盤の盛り上げとラストの怒涛の伏線回収。
考古学的謎を解き明かしていく様も、窓の外も能力も、ものすごく面白かったのに、どこか物足りない。
やっと舞台が整ったところで終幕してしまったような感じだ。
「ここから先は、あなたの想像でお楽しみください」
うーん、じゃあ自分なりの見方を言ってみようかな…

主人公は最後まで丸神の里の人間ではなく、丸神研側の人間という立ち位置なので、主人公側にとっての物語は、丸神の里の歴史的謎を解き明かすことで良いと思う。
読者は一人の考古学を学ぼうとする学生の気持ちになって読めばいい。
だから、宇宙人の存在やら能力の謎は、あくまでサブストーリーとして見る。だけど、やっぱりそっちの謎にも関わりすぎたから、結末を見届けよう。はたして頼之はどこへ行ったのか?

主人公の見解に合わせれば、その答えは「死」と同じだ。
我々にとって全く未知で、絶対解明できない死後の世界。
頼之がどこへ行ったのかわからないのは、死者が何処へ行くのかわからないのと同じことで、「宇宙人の世界」と「天国と地獄」、「カササギ」と「神様」は何ら変わりない。
重要なのはもう戻ってこれないかもしれない、ということ。死との類似でいえば、輪廻転生が本当かどうか。だから主人公も、最後ヒロイン・幸子を全力で説得する。結局ナン丸にとっても、窓の外に行くことと死ぬことは同義なのだ。

しかしそれは、窓の外を知らない主人公の意見にすぎない。幸子は窓の外を見ている。丸神教授も、手が届く能力を「窓の外に突き落とす」と表現しているように、窓の外が見える者にとって、球体に触れることは、「死」よりも「窓の外」への道だと思う方がしっくりくるのだろう。
頼之は、この世の未練を捨て心のモヤモヤを消すために会いに行くと言う。この話で何度も出てくる、「天の川の彼方より誰かが迎えに来てくれることを信じて…」という言葉とは真逆の対応だ。
里の呪縛にとらわれることなく行動してきた頼之は、しっかりと里の外の世界も知っている。そんな彼が、己の推測を信じて行動に移そうとした時、主人公の言葉に耳を傾けた。「世界を知れ」と叫ぶ主人公の話を聞いた後、「気が変わったらあとからおいで」と言う。これはつまり、主人公の説得力ある主張も、「窓の外」を知った絶望の前では無意味だと言っているように聞こえる。「窓の外」がそれほどの世界ならば、もはや頼之が行き着いた場所を想像することは困難だ。

個人的に気になることが2つ。
1つは、最終的に幸子がしっかり外の世界に出て様々な体験をできたのかどうかだ。それとも彼女は、ナン丸の説得も空しく、この世を知ることなく小さな呪縛に縛られ、丸神の里から出れずにいるのか?最後に主人公と会ったところが「外の世界」ではなく、「丸神の七夕祭り」だったことは、果たしてどちらを意味しているのだろう…

そしてもう一つは、主人公の額の変化が消えたこと。最初は、頼之が消えた時悲しい顔をしてた幸子が最後笑顔で「ようこそ」と言っているから、頼之が呪縛の解放に成功したのかと思った。でも以前として山での七夕祭りをしているから、そうではなさそう。単純に、能力を使わないでいれば、元に戻るのだろうか…

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-04-06 23:48:15] [修正:2010-04-11 20:12:50]

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