ウツボラのレビュー
8点 kuroneko3298さん
まさに何度も読まないといけなくなる作品。
淫靡な香りとともに文学的な匂を漂わせてのめり込ませる。
作家である溝呂木の「書けなくなる恐怖ー」が
私はこの作品のテーマなのかな・・と思う。
凡人の私にはおおよそ想像もつかないけど
地位も名誉もある大の男が「ウツボラ」を書く為に
少女に犯され堕ちて行く様は--
その怖さを充分感じさせられた気はしました。
彼の下で淫らに喘ぐ少女は一体誰だったのか--
意味深なセリフ、不可解な女の行動、曖昧な溝呂木の供述で、
彼女の正体は二転三転。
妖艶な肢体が印象的な瞳が 彼女をますます謎めいたモノへかえてます。
ラストではそんな「彼女の正体」も明かされているのですが
でもやっぱり違うのではないか--?と思わせる凄さだ。
明日美子さんの新たな魅力に、もはやクラクラ!
読みごたえも十分です!!
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[投稿:2012-10-04 23:15:33] [修正:2012-10-04 23:17:59] [このレビューのURL]
8点 クランベリーさん
中村明日美子の耽美な傑作。
もう深くて暗くて重くて、書きたいことはいくらでもあるんだけど、それをどこまでも書いていくとこのサイトの字数制限(あるのかな?)に引っ掛かってしまうかもしれないのでやめときます。
以下、軽くネタバレありますのでご注意ください。
とにかくこの作品は耽美的。
皆さんのレビューにも必ずこの言葉が出てくるし、中村明日美子さん自身が「耽美」と、それと最も相性の良い言葉の一つである「退廃」とを念頭に置いてこの作品を描いたであろうことは想像に難くない。
中村明日美子さんは体調不良で一時期断筆していたことがあって、その時の心情も作品に取り込まれているのかな、とも思ったけど、この作品の1巻は休む前に出ているので考え過ぎかもしれない。
「耽美」以外では、藤乃朱の醸し出す「艶美」=黒と、コヨミちゃんの純真無垢な「健康美」=白との対比が印象的で面白かった。
作者は女の持ち得る美を二つに分けて、それぞれに惹かれていく男の様を描きたかったのかも。
でも正直その部分に関しては作者は描き足りなかったんじゃないかなとも思う。
不満を感じるほどでもないけど、この作者ならオセロのように黒白を引っくり返すぐらいのことは平気でやると思っていたので、最後までコヨミちゃんが純真無垢の白のままだったのは意外だったし拍子抜けした。
辻さんの役回りが中途半端だったのかな。もっとコヨミちゃんに溺れてくれれば。
溝呂木先生のキャラはとても良かった。その堕ちっぷりも含めて。平成の時代に明治の文豪のようなキャラを持ってきて、しかもそれが見事に成立しているところに作者の世界観の奥の深さを感じる。
この作品はサイコサスペンスという一応の骨格はあるんだけれども、結局は作者の思い描く美意識を享受し、共有し、美に耽る作品なのかもしれないな。
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[投稿:2012-06-30 21:09:29] [修正:2012-06-30 21:16:22] [このレビューのURL]
8点 s-fateさん
この後に大きなどんでん返しが無い限り、いくつか考えられるパターンに収まりそうな内容ですが、良い意味でちょっと古いタイプの耽美な感じがいいですね。また、ヒロイン?の集中線みたいな目玉の描き方がすごい印象的です。作品を包む雰囲気がいい。携帯さえ出てこなければ、昭和設定でも違和感が無く、懐かしい感じもします。
7点ぐらいはあげたいところですが、作者が体調不良でいつ再開するか不明ですので、とりあえず4点ぐらいにしておきます。回復したらで結構ですので続きが是非読みたいです。
追記 2巻まで読んで大きなどんでん返しがありました。一読では理解できず、元に戻って「ここでこうなって確かここでこんな話があって・・・あー!そういうことか!」というところが何カ所かあり、たった2巻で詰め込んだ感も無くここまで出来るすごい構成力に圧倒されるばかりです。種明かしの理解のため以外でも繰り返し読んでしまったことと無事復活完結したので8点。
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[投稿:2010-10-09 02:47:02] [修正:2012-05-27 01:46:23] [このレビューのURL]
8点 booさん
ようやくの完結! 後はこの調子で呼出し一の続きもぜひ!
ビルから飛び降りた謎の女「朱」。彼女とつながりのあった作家・溝呂木は事情聴取のため警察に呼び出される。そんな彼の前に現れたのは朱の双子を名乗る、彼女に瓜二つの女「三木桜」だった…。
中村明日美子が描くサイコ・サスペンス。とは言っても1巻時点ではあんまりサスペンスやミステリー的な魅力は感じられなくて…。何といっても作品を彩る要素が派手すぎた。
瓜二つの美少女を巡る謎。初老の渋い作家。罪の匂い。退廃的な愛。中村明日美子は痴人の愛のナオミのような魔性の女、ファムファタールを具現化しようとしているのだと思った。自分のものにするためならどこまで堕ちてしまっても構わないといったような女を。彼女の描く圧倒的な白と黒の魅力にはそれを可能にする力があったわけで、サスペンスなど脇になってしまうくらいウツボラの美少女たちは耽美だった。精神の不均衡を伺わせるような病的な瞳には気付けば吸い込まれてしまっていた。
しかし完結巻である2巻では一転して、サスペンス性が強くなる。一読では頭の中がこんがらがってしまう複雑なプロット。説明は最低限なので自分で考えていく謎解きの楽しさはもちろん、謎を解いていくことが謎の女や溝呂木たちの素顔を明らかにしていく仕組みなのがおもしろい。
しかしここで気付いたのは、ファムファタールを描くこととサスペンスとしての物語のおもしろさは決して両立しないということで。魔性の女とは心の内が読めないからこそ魔性なのだ。複雑な謎がどんどん解かれていく内に彼女達は底を見せ始める。耽美は少しずつ薄れていき、魔性の女はただの女に近づいていく。
そして虚飾が剥かれて剥かれて剥かれた後に残ったもの。それはむき出しの作家の業の深さであり、女の業の深さだった。
何よりも才能を欲しながらも才能の枯渇に脅えるもの。どんなことをしてでも愛を求めるもの。その二つの業がせめぎあう様にはもう圧倒されるしかなかった。そして遺された二つのものには心を抉られるしかなかった。
これは作家でありなおかつ女であるからこそ描けたのだろう。しかも一時期にしろ筆を折っていた中村明日美子の影を裏にひしひしと感じないわけにはいかなくて。作るものの落ち込む深淵の深さを一端にでも覗いたように思えて鳥肌がたった。
復帰後に初めて読んだのがウツボラの2巻なのだけれども、やっぱり中村明日美子はすごい! 文句なしの傑作。もちろんおすすめ。
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[投稿:2012-05-25 23:18:49] [修正:2012-05-26 16:32:55] [このレビューのURL]
8点 xenosさん
本作は中村明日美子の真骨頂的作品であろう。
とにかく、単行本の装丁に惹かれた人は購入してみるべきだろう。装丁からはみ出してくる世界が読めば濃密に読者の精神を覆い尽くす。
サイコ・サスペンスというジャンルだが、まだ一巻しか刊行されていない段階では、この観点からの評価は難しい。
だが、この作品に漂う耽美的世界観はまったく見事である。これは文章で説明するのは難しいのだが、作中の世界観を見事に掌握しきる、中村明日美子の画風には脱帽を禁じえない。
とにかく、要チェックである。
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[投稿:2010-06-21 20:24:11] [修正:2010-06-21 20:25:20] [このレビューのURL]
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