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8点(レビュー数:8人)

作者漆原友紀

巻数2巻 (完結)

連載誌月刊アフタヌーン:2010年~ / 講談社

更新時刻 2010-11-08 17:53:06

あらすじ 日照り続きで、給水制限中の街。酷暑にあてられて意識を失った川村千波は、豊かな水にあふれる村で、少年と老人に出会う夢を見る。祖母に夢の話を聞かせた千波は、意外な言葉を聞く。「それ……ばあちゃんの昔の家じゃないかねぇ」また行きたい──そう願った千波が目を覚ましたのは、夢だと思っていたあの村。そして再会した少年・スミオから、この村では雨が降り止まないことを知らされる。
 

備考 短期集中連載

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水域のレビュー

点数別:
1件~ 5件を表示/全8 件

8点 とろっちさん

日照りによる給水制限の中、中学3年生の水泳部の少女がランニング中に熱中症で倒れて意識を失う。
目覚めた時に少女がいたのは、雨が止むことなく降り続く川辺の古びた山村だった。

話の題材としては非常にありふれた感もありますが、現在、過去、夢の中の世界の描写を交差させて
作品の世界観を重厚なものにした上で、親子三代の故郷に対するそれぞれの気持ちの対比を
しっかりと丁寧に描き出していて、非常に読み応えのある作品となっています。
そして作者の大きな特長でもある、自然への畏敬の念を感じさせるような情景、雰囲気の描写。
現代劇でありながらもこれが何とも素晴らしいです。

この作品は、この手のファンタジーにありがちな「夢の世界と現実とがリンクして現実世界に影響する」と
いう設定ではなく(記憶として残る程度)、あくまで過去は過去。
当然ながらダム開発を悪として描いているわけでもなく、登場人物の心にも抵抗運動の終焉とともに
ある意味時代の変遷としての諦観のような思いも生まれつつあり、それはラストでの人工的なダム湖と
古き山村とのそれぞれの美しさを対比させた描写にも象徴されているように感じます。
そして、だからこそ、「今はもう無い場所」である「失ってしまった故郷」に対するやりきれない気持ち。
それは後悔とも失望とも違い、気持ちの整理はできても消化されることなく残り続けていくはずで。

各々の心の奥底には、自分のルーツとして、自分の存在を形成する不確かだけど確固たる拠り所として
あの村があり、孫娘にも不思議な体験を通じて奇しくも受け継がれていきます。
村は水の底奥深くへと沈んでしまっても、人々の想いは忘れられることなく。

水にまつわる話なのにこのレビューでほとんどそのことに触れていなかったので、少しだけ。
海とはまた違う川独特の清涼感、そして森に囲まれた川と山村という原風景が日本独自の郷愁を
想起させ、暗く重い話になりがちなところを実に透明感溢れる優しい作品に演出しています。
また、水信仰の象徴のような龍神伝説をうまく話の根幹に絡ませ、幻想的な雰囲気を醸し出しています。

やっぱり作者の代表作は「蟲師」であり、それに比べてこちらはあまり陽の当たらない作品なのかも
しれないですが、こちらも良い作品です。
暑い時期に読んだ方がより一層作品の雰囲気が伝わってきて良いと思います。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-09-27 01:16:39] [修正:2011-09-27 01:20:55] [このレビューのURL]

10点 景清さん

 前作『蟲師』で和風ファンタジーの新たな地平を切り開き、鮮烈な印象を与えてくれた漆原友紀が趣向を変えて挑んだ作品がこの『水域』だ。『蟲師』との違いは舞台が現代日本である点、主人公が異能の力を持たない普通の少女である点、1話完結式の奇談集では無く、連続性のあるストーリーの単行本2巻分の中編である点など様々にあるが、独特の茫洋とした淡い描線や空気感、歴史的な古層を感じさせる豊穣な物語性、日本の原風景としての「山里」への愛着、自然への畏敬の念などの根本的な部分での作者のこだわりは共通していたため、前作と変わらず大いに味わい深く読むことができた。
 本作が作品単体としても素晴らしい傑作である事は疑いなかったが、いかんせん前作『蟲師』の比類ない奇想に圧倒された身としては多少の物足りなさを感じた事も事実で、10点では無く9点くらいが妥当であろうと思っていた。ところが、非常に不幸な出来事ではあったが忘れもしない3月11日のあの日を経て、これまでは実感の希薄だった「もどるべき故郷の喪失」という本作で描かれた主題が決して絵空事でない事を否応なしに思い知らされ、考えを改めた。
 本作は、今だからこそ多くの人々に読まれるべき作品であり、またこれからも読み継がれていくべきであると強く信じる。

 物語のフォーマットとしては、読者の郷愁を誘う祖父母の村を舞台にした都会っ子少女のひと夏の冒険を描く「ぼくのなつやすみ」のようなものであり、そこにちょこっとファンタジー要素をちりばめたりして最終的には「家族の絆」をテーマとした作品という事が出来る。何だか非常にありふれたジュブナイルものに思えてくるかも知れないがそこはさすがの漆原友紀、優れたストーリーテリングと味わい深いにも程がある描写でそんな凡庸さなど微塵も感じさせない。
 異常気象で猛暑日が続きダムの渇水すら囁かれるそんな夏休みのある一日、水泳部に所属する女子中学生の主人公千波はランニングの最中に熱中症で昏倒する。
 目覚めると周囲の景色は全く様相を変えていた。止まない雨、人影のない山里、記憶の水脈の彼方に繋がる、遠い郷愁を呼び起こす山村で彼女の出会う少年と老人。聞けば他の村人達はみなどこかに行ってしまったと言うのだが。
 渇水にむせ現世と夢の向こうにある雨止まぬ山里。この水面で隔てられたような彼岸と此岸を往還しながら、物語は時間軸すら自在に前後させつつ、とあるに山里に抱かれて育ち結ばれ、そして山里を捨てたとある家族の3世代に渡る別離と再会の物語を紡ぎだす。更にそこに村の開村伝説である「龍神さま」をめぐる伝説や村人達の様々な人間模様などが重層的に描写され、中盤に明らかとなる夢のなかの山里をめぐる真相。千波が往還した山里こそ、彼女の祖父母と母親が生まれ育ち、そして都市の利便のための水源となるべくダムの湖底へと沈んでいった今は無きふるさとなのだった。異常渇水によってダムが干上がり、湖底に沈んだかつての山里の姿が再び白日のものとなった時……。多くの記憶と想いの水脈が繋がりそして去っていく美しくも儚い結末。

 人工美の象徴としてのダム湖、その水域に散じて集まる人々の想い、天と地をつなぎ人と自然をつなぐ雨水の化身としての龍神。日本は水に恵まれた国であり、それゆえに水をめぐる特異な自然観を発達させてきた国でもあるが、本作ではダムという現代的な切り口から、水をめぐる幻想譚として非常に豊かな読み応えのある作品に仕上がった。それだけでなく、「ダムに沈んだ村」という(やや使い古された題材ではあるが)故郷喪失の遣る瀬無さも加わる事で、単なるファンタジーの域を超え現代的なテーマも合わせ持つ広く多くの読者に読まれるべき作品になっている。

 程度の違いはあれど、近現代の日本の歩みは古くからの地域共同体を破壊する事で進展してきたし、その流れを止める事はおそらく出来ないだろう。本作のラストも3世代の家族の再会を描くハッピーエンドでありながら、故郷の喪失という現実からは逃れられないほろ苦さに満ちている。そしてあの忘れ難い3月11日以降、震災と原発事故により本作で描かれたような故郷喪失の悲しみは広く多くの人々の間で共有される事となってしまった。建物やインフラなどの物理的損壊だけでなく、地域に根ざして生きる人々の営みとそれらを育んできた自然そのものがかつてない規模で破壊されてしまった。

 まことに不幸な事ではあったけれど、だからこそ、今だからこそ本作は多くの人々に読まれ読み継がれるべきなのだと改めて強く思う。失うことと忘却する事は、決して同じではない。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-04-28 01:52:12] [修正:2011-05-15 18:14:29] [このレビューのURL]

9点 Leonさん

蟲師も良かったけど、こちらの方が自分は好き。
ダムに沈んだ村の話で切なくも救いのあるストーリーが
素晴らしかった。故郷が無くなるとはこういうことなんだと
しみじみと感じた。絵柄もより上手くなっていますね。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2015-12-30 19:17:23] [修正:2022-03-30 07:53:48] [このレビューのURL]

8点 勾玉さん

信心深い方ではないのだが、
「この作品は"ノン"フィクションです」と、
但し書きでもあれば、思わず信じてしまったかもしれない。

夢の中に存在する、今はもう無き在りし日の田舎…、
滝壺の龍神が見せるノスタルジックで切ない神秘の物語に、
現実にもこんな奇跡があったらいいなと祈りたくなってしまった。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2018-03-06 20:57:52] [修正:2018-03-06 20:57:52] [このレビューのURL]

8点 森エンテスさん

自転車でダム湖の近くを走るたびに思い出して部屋に戻って手にとってしまいます。

ダム湖の下には、先祖代々が生活をしてきた土地を離れなければならなくなってしまった人達の営みの跡が残っているのだと強く感じる。

ファンタジーな要素もありつつも現代劇として物語を上手くまとめています。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-01-31 21:37:54] [修正:2016-01-24 22:07:27] [このレビューのURL]

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