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総レビュー数: 17レビュー(全て表示) 最終投稿: 2005年11月09日

8点 蟲師

日本。
日本という国土に生まれて、やっぱり幸せだったな、と思えた漫画でした。
動物よりも植物よりも原生生物に近い不思議な生命体「蟲」(\"虫\"とはほとんど似ていない形をしています。虫嫌いの方はご安心を。カタツムリはいたけどね。)、それの専門家が「蟲師」で、主人公のギンコも蟲師の一人です。この作品は一話簡潔の短編集に近い内容になっています。
まずは世界観の素晴らしさ。作者曰く「江戸と明治の間にもうひと時代ある感じ」。描かれる舞台は、緑深い山奥の静かな一軒家、からぶき屋根の家々が並ぶ雪国、漁師達が暮らす静かな漁村の町――と、「ちょっと前まであったような日本の風景」です。強引なコマ割りは無く、物語も\"静かに\"展開していきます。その傾向が顕著に出ている第一話の素晴らしさは特筆すべきものがあります。風の音、水の音、床の軋みが聞こえるような、BGMの不要なこの「静かな世界」に一気に引き込まれました。着物、茣蓙、筆、日本酒、杯、行灯、蚊帳、刀・・・、一切「やかましい」シーンなしに、独特の空気観で1ページ1ページが彩られています。こんな風土を持った国に生まれたことを誇りに思いたいです。ハガレンもジャンプ系漫画でもいいけどさ、この漫画は真っ先に世界に輸出すべきですよ!世界中に、「日本はこういう風土を持った国なんです」と誇りたいですよ!
この「蟲」という存在も、なんだかいい。敵ではないし味方でもない。「お互い生を遂行している」存在。この「共存」していく対象として見ている、人間と、蟲師と、そして蟲の微妙な関係は、太古から自然を尊重し、協調し、守りあってきた日本人の姿を映しているようにも見えるのです。タヌキに化かされ、いるようないないような微妙な生き物たちが存在していた「ちょっと前の日本」。これははたしてファンタジーなのでしょうか。どこか懐かしささえ漂う、「日本の原風景」そのものを映し出しているような気がします。
日本古来の様々な慣習、伝説、故事に着想を得たと思われる短編一本一本それぞれ違う世界観を持っており、様々な物語を展開してくれるのですが、物語自体はツメの甘さというか、「え?だったらこうなるんじゃないの?」的な、成熟しきっていない脚本であることが顕著に出てしまっているのが残念でした。もともとあまり物語自体を作ることは上手くない方なのかな?着想はどれもいいんだけどなぁ。アイデアで止まってそこからのツメが甘いものが多かったように思えました。
それと、あまり関係ないことかもしれないけど・・・。今回僕は予算の関係で(笑)一巻しか買えなかったのですが、そこに収められていた5つの短編の作品順が見事でした。ミュージシャンのアルバムを聞いているような、交響曲を最初から聴いているような・・・。世界風景もかぶらないように並べられています。そして本のラストは、壮大な「命の終わり」を描いた物語になっているのです。山から海へ。命が始まり、そして終わる。山の奥深くから始まったこの本は、最後には「母なる命の源」である海で静かに終焉を迎えるのです。この話に出てくる漁師たちもグッド。本当に、かつて日本に生きていた「原風景の日本人」たちで、そのイキの良さや力強さは、懐かしさも通り越して勇気を与えてくれるような気がしました。
そんな具合にこの本を弟に見せてたのですが、読み終えた弟は一言、「これ、ブラックジャックじゃん」と・・・。ガックシ・・・

ナイスレビュー: 1

[投稿:2006-11-19 21:05:42] [修正:2006-11-19 21:05:42] [このレビューのURL]

小さいときに父親は病死し、溺愛してくれた母親も事故死してから数ヶ月、親戚の迷惑をかけまいとテント生活をはじめていた透(女)が、美男子(笑)一家にひょんなことから転がり込むところから物語は始まります。ところがこの一家は、異性に抱きつかれると一定の動物に変身してしまう「十二支の呪い」に取り憑かれていて・・・
最初こそ「アホか!」と思っていた「十二支の呪い」だけど、この設定が何気に深いっ!この物語に出てくる登場人物たちは皆心の傷や痛みを抱えていて、それを受け止めることが出来ずにぶつかり合ったり、引き篭もったり、何かに執着したりしています。「でも違うんだ、それを受け止めるためには人に頼ったっていいんだ、甘えたっていいんだ」と、その人のすべてを暖かく受け入れ、包み込む行為、\"抱く\"。それを許されない人々の物語なのです。この一家は何かを大切にしたり、認めてあげることが苦手だけど、それって他の人も多からず少なからず持っていることなんじゃないかと。この「抱きしめる」というキーワードが凄く効果的に使われていて・・・ACのCMでも「抱きしめる、という会話」って文句があったけど、まさにそれ。その人の心にまで触れて、包み込んであげるその行為の重み。「弱くったっていいんだ、寂しがりやだっていいんだ。強がらなくてもいい、ありのままをさらけ出せばいいんだ」・・・そんなメッセージが全編に込められています。なんて、優しいんだろう。その人を大切にしたいと思う気持ちが、その人を助けてあげたいって気持ちが、こんなにも重く深く、揺ぎ無い支えになることが出来る。透が、そして草摩家の面々が、静かに語りかける言葉ひとつひとつに溢れんばかりの優しさが込められていました。痛みを受け止めて、抱きしめてあげられる人がいる強さ・・・。某アーティストの曲に「embrace」ってのがあるのですが、それをちょこっと思い出しました。登場人物設定もなかなか上手いのですが、特筆すべきは、主人公の透。大好きだったお母さんまで亡くして、不遇に不遇が重なる悲しい役なのに、なんであんなに明るく前向きに笑ってられるんだよぉ!「世界で一番バカ」な完全無欠の透の「愛おしさ」が、この作品を引っ張っていると思います。ただ、その「説教」にたどり着くまでにはもう少し手順を踏まないとなぁ、と感じる部分はありましたが・・・。良い事は言ってるのに、その言葉が伝えられるまでのプロセスにもう少し丁寧さがあれば、より違和感なく、唐突に感じずに受け入れられたと思います。
それ以外の部分だと・・・生徒会長のキャラがええわ(笑)それと「欲情すればいい!」に大爆笑したりとか(でもこの後すぐに紅葉の名シーンなのだから、このマンガはあなどれない・・・)。ただこれ、「ホームコメディ」かぁ?コメディ以上になんだか大きなものがあるけれど、あえてそっちを紹介文では否定して「コメディ」にしちゃってるのか・・・。重たいテーマを低年齢層でも読める少女マンガに上手くアレンジ出来ていると思うので、そっちを推せばよいのにね。
絵柄自体はだいたい2〜3冊で慣れましたが、やっぱり爪を紫色に塗っちゃうセンスが僕にはわかりませぬ・・・。とはいえ星5つまであと一歩ってくらいの見事な作品でした。女性はまずもちろん、男性でも手に取っても悪く無いんじゃないかな。最初に人から薦められた時に言われたとおり、「巻が進めば進むほど面白くなり」ます。ところで、メイドが出てきたり、コスプレが出てきたり、女装がいやに多く出てきたりとか、微妙にヲ同人臭がするのは何でだろう・・・?女性なら誰でも少なからず持っている願望なのかしら。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2006-11-19 21:01:05] [修正:2006-11-19 21:01:05] [このレビューのURL]

文化庁メディア芸術祭で大賞を獲ったマンガ作品です。
ちょっと高いな〜・・・と思いつつ注文して届いてみたら、かなり薄っぺらい(笑)ほぼ白黒で100ページ足らず。ああーボラれた・・・と、読む前に軽くショック受けました(笑)
まず目をひくのが、トーンどころかベタもほとんど使用していない丁寧な作風。この独特の「風が流れている」感じの画風が作品全体の静かな雰囲気作りにとても貢献しています。人間の書き方に最初ちょーっと違和感を覚えましたけど、10ページで慣れました(笑)。
この作品全体の大きな特徴は、「原爆」をテーマにしながらも当日のシーンは3〜4ページしか出てこないこと。「桜の国(1)」に到っては「原爆」の「ゲ」の字も出てきません。いずれも被爆者や原爆二世の物語で、「原爆ななぜダメなのか」を書かず、「原爆とは(被爆者にとって)何だったのか」ということを追求していきます。この本のキモは原爆二世の七波がボケた?父の後を尾行して広島で一日を過ごす「桜の国(2)」。途中途中で七波の父と母(被爆者)が出会い、そして東京へ移り住むまでのエピソードが挿入されたりと、この一冊の本としてのエピソードを総括する流れを汲んでいきます。逆にむしろ「夕凪の街」のほうは伏線扱いで、かえってただの「原爆漫画」になっています。ちと残念。
が、この作品のスゴい所は、この本全体での最大に盛り上がるシーンに「原爆の悲惨さ」を持ってこない所。「それでも歩んでいこう」という二人の小さな人間の人生を垣間見る部分に、ヒトの真の強さを見ることが出来た気がして、何度読んでいてもそこで胸が熱くなります。戦争があった。原爆があった。それでも日本人はこの60年間で前へ進んできた。決して目をそらすことはなかったけれど、それでも「乗り越える」ハードルでしかない、被爆者たちの力強い、それでいてささやかな、幸せ一杯のラストシーンには、グーッとこみ上げて来るものがありました。最後のページの電車のシーンで、もう一度テーマは語られますが、あの2ページぶち抜きのシーンには敵いません。見事!
この物語、できるだけ多くの人に読んでもらいたいなぁ。多分僕よりも感動できる人間は一杯いるだろうに。映画化ということで、期待しています。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2006-11-19 20:51:13] [修正:2006-11-19 20:51:13] [このレビューのURL]