「friendstudio」さんのページ

パーフェクト。「平成のサザエさん」になりえる(笑)、日本人のスタンダード・コミックにもなりえる、紛れも無い傑作です。

このマンガは、夏休みの初めの日に引っ越してきた「とーちゃん」と「よつば」が、近所の人たち(特にお隣さん)を巻き込みながらも、実にだらだらと「なんでもない日」を過していくマンガです。幼稚園〜小学校低学年くらいの年齢で好奇心旺盛なよつばは、田舎っ子なのか海外っ子なのか、都心から外れた住宅地の何もかもが発見で、ブランコからクーラーまで知らないものばかり。些細なことでもよつばの目には夢のような世界が広がっていて、何でも不思議で、何でも楽しくて、毎日元気に走り回っています。その「ちっちゃい子ならでは」の無邪気な行動が何から何までがなんだか微笑ましくて、テキトーにどのページを開いても顔がほころびます。設定では「変わった子」なんてなってますけど、僕は子供ってアレぐらいでいいんじゃないかなって思えてしまいます。雨にわざと当たって「おーすげー!」とか、鳥よけの風船を怖がったりとか(僕も子供の頃怖かったです)それってきっと人間として純粋なことなんじゃないかと。周りの大人や子供たちもどこか素朴で、人間味溢れています。2巻からギャグもパワーアップし、クスクスからゲラゲラになることもしばしば。登場人物の瞳が心情でコロコロ変わるのもユニーク!最後にいたっては「あー、人間っていいなぁ」って思えてしまうほど(笑)
・・・そうやって読んでいると、なぜだかノスタルジックな世界に引き込まれるような気がするのが不思議です。書かれている話は「買い物」に行ったり、些細なイタズラをしたり、挙句の果てには旅行のお土産を配ったり等、本当に日常のなんでもない姿です。だけれど、それもよつばの目からは発見だらけで、そして楽しくてしょうがないものに見えてくる。どうでもない日常もマンガとして見事に描かれる。ふと時折、「果たして現代人は(自分も含めて)毎日をこんなに楽しめてるだろうか」なんて考えてしまうのです。プールの監視員の上るイスから見た世界も、トラックの荷台から見る世界も、今の私たちは忘れかけてる。ケーキ屋さんに入ってたくさんのケーキを見たときのあのトキメキも、デパートの陳列棚が面白くって駆け回っていたあのトキも、今は感じなくなってしまったことです。たしかにそれが「大人になる」ことなのかもしれない。だけれど、忘れてはいけない事なんじゃないかと。見方が変われば世界も変わって、退屈で倦怠な毎日もなんだか違って見えてくるはず。大人になったって、「すっげーおもしろかった!」って言える出来事を見つけたっていいはず。「朝飯が美味しい!」ってことは、実はものすごい幸せのはず。マンガ中の言葉を借りるなら「何もないが、ある」。今ある平凡だって永遠じゃないし、だからこそ現実は楽しい。そして切ない。夜が更けるまで遊びまわったあの頃は、夜寝るときに明日が楽しみで仕方が無かったはず。今は?・・・そんな深い、深い、そして重たいテーマ。「大きくなると忘れてしまう\"何か\"」を、このマンガは持っています。「本当になんでもない日だって、マンガになるんだ」ということを問いかけてくる全編に通じるテーマには深く共感できました。
たしかに「このマンガはつまらん!」という人はいると思います。でも、できるだけ多くの人がこの\"笑い\"が分かる日が来たら・・・なんて考えてしまったり。多分このマンガは夏休みの終わりとともに終幕を迎えるでしょう。そんな、たった一ヵ月半の\"永遠の時間\"を精一杯駆け回る、よつばと近所の方々。暖かくて、どこか切ない。
不満点がふたつ。ひとつはとなりんちの綾瀬さんが庶民にしてはだいぶいい生活をしてること。この場合は裕福層にしないほうがいいのにな・・・それともう一つ、どんなにこのマンガをベタボメしても許せないのが、ちょっと大判だからって、一冊630円は高い!(笑)

ナイスレビュー: 2

[投稿:2006-11-19 20:55:48] [修正:2006-11-19 20:55:48]