「為亀」さんのページ

総レビュー数: 26レビュー(全て表示) 最終投稿: 2006年10月26日

[ネタバレあり]

 私の個人的なこの物語の展開を書きます、どうしても先入観を与えてしまうと思うので一度自分の考えを整理してからみることをオススメします。
 尚、漫画版の事を書きますが、漫画の解釈を展開する際に映画版の演出もヒントとして使っています。悪しからず。

 最初にこの漫画を読んだ段階ではただ単純に現実世界とは関係なく善悪のバランスのとれた世界を描きたかったのかと思いました。いつだったか松本大洋がインタヴューのときに必要悪の話をしていたのを少し覚えていたので、「松本大洋の中では現実世界も善と悪のバランスが取れていなければならないのかもしれない。でも私としてはこの作品を読んだだけでは、クロたちの生きる世界がバランスのとれていなくてはならない世界であることは納得できても、現実をそういう風に考えることはできないな。」という風に考えていました。(その解釈では闇の力、イタチの存在、イタチの台詞の意味、などは上手く解釈できなかったのですが特別考えていませんでした。)
 しかし、映画を観て、クロとシロの象徴するものはそれぞれ悪と善ではないような印象を受けました。それぞれ現実と理想を象徴しているのではないかと思い直しました。そうすれば、現実(街)が理想とはかけ離れた方向に進んでいくのに比例してシロが夢見がちになったことも、現実からシロを守ってやれなくなってきているというクロの不安も納得がいきます。それだけでなく物語の様々な符号が一致するのです。シロ(理想)を失って現実だけを求め、視るようになったクロの暴走も納得いきますし、イタチの真実は闇の中にある。闇こそが力だ。といった発言も上手く解釈できます。
 そして最後の最後にクロが現実に捕らわれたイタチと決別したときの言葉は「俺はシロを信じる」だったことにも納得がいきます。つまり、この物語は現実を見据えながらも理想を信じる事の必要さを物語っているのではないかと思います。
 私個人の認識ですが、最近では理想を諦めて現実的なものだけを求めることがかっこいいというか、大人というか、そういうイメージがあるように思います。もちろん、現実をみなくていいというのではありません。理想だけをみて、一面的に「なんで理想どおりにしないんだ!」とだけ言っていても、上手くいかないと思います。
 だからこそ、「理想を信じながらも、現実を見据える姿勢が必要なのだ。」というメッセージを、この作品は持っているように思いました。
最後に、二人一組で街全体の象徴として物語の前半で描かれていたクロとシロの中で、最後クロだけ理想と現実のバランスとれちゃっていいのかな。。。とも思ってます、この解釈の仕方も松本大洋の思ったものとは違うのかもしれませんね。しかしまぁ個人的に満足しているからこれでいいかとも思います。

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[投稿:2007-02-03 13:03:44] [修正:2007-02-19 00:29:22] [このレビューのURL]