神戸在住のレビュー
9点 canさん
漫画というよりは小説に近い印象です。
「ワンピースおもしれー」とかそういうノリで読むと失敗すると思います。
あ、ここ1年くらいのワンピースはホントに面白いですよね。
本作は神戸在住の大学生の日常を描いたエッセイ風漫画です。
日常を描いたと言っても、よくある日常系漫画とも一線を画しています。
日常系漫画に求められているのは日常の中のくすりという笑いであったり、魅力的なキャラクターたちの掛け合いであったりするわけですが、
この作品ではそういった「漫画的な楽しみ」の部分が、意図的にかなり抑えられています。
淡々とした描写は人によっては退屈としか感じないかもしれないので、読み手を選ぶ作品だと思います。
事実私も一読目は、最初の2巻で退屈すぎると思い読むのをやめてしまいました。
しかし日を置いて読み直してみて、作品全体に漂う雰囲気がようやく体になじんだのか、私はこの作品を面白い、いや、それ以上に素晴らしい漫画であると感じるようになりました。
抑えた表現で描かれる日常の風景。それはどこまでもリアルで、読み手に神戸に住んでいるという錯覚さえ抱かせます。
震災のエピソードは上質なドキュメンタリーを思わせる出来で、ここは一読の価値があります。
そして物語に時折差し込む冷たい死の影は、深い悲しみを私たちにもたらし、生きることの尊さを教えてくれます。
作品を見て涙を流したのは久しぶりでした。
『神戸在住』は人間賛歌の物語です。私はこの本に出会えたことを感謝したいです。
最後に。本書のキャッチコピーはこの作品の本質を非常に的確に表しているので、それを締めくくりの言葉として、レビューを終わりたいと思います。
「一生読み続けられる本」
ナイスレビュー: 4 票
[投稿:2008-08-28 20:10:13] [修正:2010-04-09 22:01:45] [このレビューのURL]
10点 punpeeさん
神戸の大学に通う女の子の、4年間の日常を切り取って綴られた作品。
とんでもなく平凡な日々の中に、本当に多くのドラマが詰まっている。
震災の様な大きなエピソードはもちろんの事、
父との外食や、弟が一人暮らしを決めた夜という、一見地味だが現実的なエピソードを、読み応えある一話にしてしまう作者の文章力と構成力には脱帽。
特に、大学4年間という時間の流れを非常に巧みに使い、キャラクターの精神的な成長の過程を丁寧に描いています。
身近な人間の死の受容、友人との距離の縮まり方等。
主人公の髪型も、ゆっくりゆっくり伸びていってますからね。笑
「ヨコハマ買い出し紀行」も同様、時間の流れって、それだけで大きなドラマの要素になるんですね。
特筆すべきは、この作者が男性だという点に驚いてしまった程、女性主人公の描写が丁寧です。
それはこの作者の後に続く作品も同様ですが、焼き鳥屋店員なら焼き鳥業界の、ボクサーならボクシングの、柔道部員なら柔道の、
それぞれのテーマに関する知識や技術等の描写、解説が非常に繊細で丁寧な事から、作者の真面目で研究熱心な姿勢が伺えます。
この作品には人種や性、障害等のあらゆる差別もテーマの一つとしてり、メインでないキャラクター達にもそれぞれの葛藤、反省、覚悟が描かれています。
これらの描写も、前述の理由から、いい加減な気持ちでテーマに組み込んでおらず、読み応えがあります。
個人的には素晴らしい良作なのですが、
地味すぎるという点と、キャラクターや世界観に慣れる前の序盤の敷居の高さから、人にお薦めしにくい作品である事も事実です。笑
ナイスレビュー: 3 票
[投稿:2017-02-27 17:59:13] [修正:2017-02-27 17:59:13] [このレビューのURL]
9点 とろっちさん
この作品はまさにタイトル通り、一人の女子大生が神戸で暮らしている生活そのものです。
大学でのこと、友達と買い物に行ったこと、家族とのやり取り、ふらっと街を散歩したこと。
誰もが経験するような日常の出来事を、誇張するでもなく、劇的に描くでもなく、
ありのままに描いています。
スピード感もなく、娯楽性にも乏しいこの作品。勢いで読めないので、
共感できない場合は拷問に近いかもしれません。
自分も2巻までは「読んで失敗したかな」などと思っていました。
その分、共感できれば自分の心の奥底までどんどん染み込み、溶け込んでいきます。
トーンも定規も使わない画風は、飾らず、素朴で、柔らかくて、どこか純粋で。
主人公である辰木桂のキャラクターをそのまま表現しているかのようです。
登場人物の存在感など、キャラが立っているとかのレベルを超え、作中で生きていると感じられるほど。
震災から3年後に開始したこの作品。
特に作品前半では、街並みにも人々の心にもその爪痕が色濃く残っています。
そんな神戸を舞台に、大学の授業、民族問題、友達との恋愛話、障害者、サークル活動、家族とのこと、
すべてごちゃ混ぜにして、桂の(部分的に林浩の)視点を通して等身大で描かれています。
生と死から目を背けず、良いことも悪いことも含めた現実に真っ向から向き合って。
等身大だからこそ、ありのままだからこそ、楽しいことも、辛いことも、こんなにも心に響いてきます。
居心地の良さ、ほんのり温かい雰囲気、ほのぼのとした日常。
押し付けがましくなく、控えめながら、神戸の魅力を存分に感じさせてくれます。
読んでいる人まで「神戸在住」な気分にさせてくれます。
震災から15年。今日、神戸の街に思いを馳せて。
ナイスレビュー: 2 票
[投稿:2010-01-17 17:20:39] [修正:2010-01-17 17:20:39] [このレビューのURL]
10点 チプルンさん
「人間賛歌」とはよく言ったものですね。
エンターテイメント性は低いです。
たまにとんでもなく地味な回があります。
もちろん日常を描いたエッセイ風漫画なので仕方無いですが、
とにかくここまで丁寧に人間ドラマを描いた作品は他に知りません。
人の死の受容の過程や、友情が育っていく過程が丁寧です。
キャラクター一人一人の言動に矛盾がありません。
こういう考え方、過去を背負っているから、
今このセリフが出るとか、読む度にその洗練さに気付かされます。
ある画家が死ぬ直前に一枚の絵を描き上げるエピソードが痺れました。
根本的に、辰木桂という主人公を好きになれるかどうかで、
評価が分かれてくる作品だと思います。
ナイスレビュー: 1 票
[投稿:2015-01-01 22:45:07] [修正:2015-01-01 22:45:07] [このレビューのURL]
10点 25才!さん
社会人になるまでの若者の人生の縮図であり、教科書。
女子大学生のキャンパスライフ、家庭を描いた人間讃歌。
死や差別、障害、
重いテーマに真正面から、
真摯にぶつかっていく作者の姿勢に敬意と好感が持てます。
夢中にさせられるし、
価値観が広がる作品。
名作。
僕のバイブルです。
ナイスレビュー: 1 票
[投稿:2011-06-12 06:32:16] [修正:2011-06-12 06:32:34] [このレビューのURL]
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