「ほげ」さんのページ

総レビュー数: 17レビュー(全て表示) 最終投稿: 2005年05月28日

[ネタバレあり]

 浪人生と未亡人との恋愛を軸にして、古びたアパートの住人、浪人生の恋敵、未亡人の両親などとの関係をギャグをちりばめて描いた、高橋留美子の代表作。連作長編の体裁を取っている。TVアニメの他劇場用アニメ化もなされたほどのヒット作となった。

 連作のため一話完結とみなせるが、浪人生・五代裕作は漫画の最後には社会人になっていて、時間の流れは時系列である。五代と未亡人・響子との関係は、一進一退といったもつれが延々と続いているが、実際の時間だけは動いているという設定である。また五代の恋敵・三鷹と響子との関係も一進一退であり、そこに楔を打ちこむまでに五年近い歳月を費やしている。

 進まない響子と五代との関係やうまくいかない大学入学や就職活動、卒業試験などを見ると、浪人生として登場した五代は、「永遠の浪人生」、いわゆる「モラトリアル人間」に見えなくもない。だがそれは限定的であって彼は恋愛において「永遠の浪人生」というだけである。大学入学にしても就職活動にしても、彼は意志もあれば実行力もある。単に能力が備わっていないだけのことなのだ。だから彼は巷間で言う所の「モラトリアム人間」ではない。だが前述のように、恋愛においては「モラトリアム」(猶予)を求める。あと一歩のところで彼は、響子に思いを告げることができないでいるのだ。

 そうかといって本作では、響子の方が五代により積極的かというとそうではない。「モラトリアム」があるということを除けば響子の恋愛観は男性主導の原理を守っているのだ。そうであればこそ、彼女は、三鷹と五代との間で、積極的な男は誰かを考えているし、そういう男と男との間で揺れ動いている。

 大学入学や就職活動といった実践的なレベルでは「モラトリアム」であることを拒否する五代青年は、社会人になった暁に響子に告白することになっていて、響子もそれを待ち望んでいるのだから、益々彼等の関係は古典的であることが分かるだろう。恋敵だった三鷹の方は、自己消滅するという形で五代に響子を譲ることになっており、響子の迷いも五代の就職待ちだ。

 面白いのは、五代の職業で、就職浪人時代に行った保父がそれなのには驚かされる。恋愛関係は「モラトリアム」であることを除けば(これが大事だったりするが)古典的であるのに対し、大学卒の男性で保父を選択するというのは、今でこそ多様な働き方として受容しやすいが、1980年代当時の成長期において、この選択は先見性があると思う。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2005-05-28 21:31:53] [修正:2005-05-28 21:31:53] [このレビューのURL]