「ほげ」さんのページ

総レビュー数: 17レビュー(全て表示) 最終投稿: 2005年05月28日

吉田戦車との出会いは,ゲームオタクである僕にとっては,『はまり道』だった(知らない人は知らない漫画).そこで僕が読もうとしたのは,『はまり道』の漫画としての面白さというよりも,自分の知らないゲームをプレイして,咀嚼した漫画家の感性だった.だが,年齢があがるにつれ,『はまり道』の面白さに目覚めた僕は,遂に吉田の代表作『伝染るんです。』を手に取ることになる.

「不条理漫画」と一概に呼ばれることが多い本作だが,さっぱり僕にはこの呼称の意味がつかめない.「不条理」だろうか.不条理なものを笑うには芸術作品への高い親和性と知識を持っていないと読めないのだが,小学生の僕にさえ『伝染るんです。』の面白さは理解できた.

「四コマ漫画」といえば起承転結があるのだが,本作にはそれがない.それだけで僕には笑えたし,多くの読者もそうなのではないかと思われる.中には完結したモノもあるのだが,「えっこれで終わり?」という終わり方をしているモノが殆どだ.しかしその終わり方の唐突さが,今までにはないおかしさを読者に教えてくれたのではないかと思われる.それが不条理だというマスコミがいるのだが,終わりのない終わり方をしているモノを,不条理だと誤って換言したようにしか思えない.

吉田の描く「顔」は,非常に面白い.線で描けるような適当な絵だが,それがコマに出てくるだけで笑ってしまう.女の子は意外とかわいいのが,そのギャップになって笑える.そういう意味では,笑われるキャラは,不条理なのかもしれないが,ギャグ漫画とはえてしてそういうものなので,やはり同意できない.「顔」で笑わせることのできる漫画家は,吉田戦車と古谷実だけだと思う.古谷は『稲中』で有名だが,今でもヤング誌を見ていると,古谷の「顔」を真似している三流漫画を見る.エピゴーネンも続きすぎると鼻につくのだが,オリジナルはやっぱり凄い.吉田も,彼自身が現在では,エピゴーネンになってしまって残念だが,オリジナルの『伝染るんです。』は良い.

ナイスレビュー: 0

[投稿:2006-03-27 22:44:15] [修正:2006-03-27 22:44:15] [このレビューのURL]

[ネタバレあり]

僕は、学園ドラマとか青春モノとかいう世界観が余り好きでなく、なじめないものが多いのだが、『今日から俺は』のように、あっけらかんとして、ギャグで疾走してくれると読んでいて凄く楽しい。学園ドラマにありがちな純粋な友情もあるにはあるが、高校生の友情という限定された範囲の中では、深刻なものは受け入れ難い。読んでいる一部の同世代の読者にはそれでもいいのかもしれないが、成人を迎えてしまうと、なんだかなーと思ってしまう。

その点、『今日から俺は』は、友情といっても、隣町の高校生とバトルする時にグッとあつくなる程度で、普段は空気のような関係を保っている。いざとなる時は熱いが、その熱さも限定的なもので、すぐほんわかしたギャグで帳消しにするので、青臭さが少ない。『今日から俺は』と同時期に連載していたジャンプの『ボーイ』は、逆にギャグが構造にあるわけじゃなく、根本がシリアスで、なおかつキャラクターがその世界観にのっとって格好をつけているので、読んでいて醒めてしまった。

『今日から俺は』は、『うる星やつら』と同じで、ずっと同じ時間の中で物語が進んでいる。誰も成長しないままである。漫画の中で、ヒロイン(?)・理子が、主人公の三橋がどういう大人になるのかを想像して右往左往するシーンがあるが、現実が考えたら、三橋みたいにバカをやっていたら、右往左往したくもなろう。だが時間が停まっている世界の中だから、そんなことは気にしない。気にせず楽しむまでである。ケンカにあけくれ、遊ぶ毎日である。

理子と三橋、今井と涼子の恋愛も結局は成就しないが、それも時間の停まった物語だから許容されることだ。成就したら物語の終わり。『めぞん一刻』も最終回になってしまった。ギャグで通りぬけられるほど、楽しい『今日から俺は』の世界は、ずっと過ごしていたいけど終わらなくちゃいけない高校時代をフィクションゆえに「終わらないもの」として描く、青春漫画の定石として評価したいと思う。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2005-09-21 00:20:25] [修正:2005-09-21 00:20:25] [このレビューのURL]

 この漫画を楽しむにはいくつかの条件が必要だ。一つには吉田戦車の漫画が好きであること。一つには家庭用ゲームが好きであること。一つにはレトロゲームについての経験ないし知識があること。

 これらを全て満たした人はこの漫画を手にとってみることをお薦めする。四コマ漫画であるが、吉田戦車の代表作『伝染るんです。』を楽しめる読者ならば、むしろ四コマという体裁にこそそそられるものがあるだろうと思う。

 『伝染るんです。』で人気があったキャラクター「かわうそ」や「かっぱ」、「かえる」、「斎藤」などが、この漫画においては、ゲームキャラクターがその役を担っている。マリオ、ルイージ、リンク、ピーチ姫、『DQ?后戮亮膺邑覆匹?吉田戦車の絵によって、”かわうそ化”しているということ。また、起承転結自体が存在しているとはいえ、どこか不条理な感覚を読者に与える吉田の漫画が、おなじみのゲームキャラクターによって、読者に読み直しを迫っている。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2005-09-06 23:09:48] [修正:2005-09-06 23:09:48] [このレビューのURL]

[ネタバレあり]

 『のぞき屋』というタイトルだが、エロティックな漫画ではない。大学生の恒を通して、人間の本当の姿を探って行く物語である。のぞきを趣味にしている青年のスコープはそのための道具に過ぎない。のぞくことで性的興奮を覚えるためではない。

 のぞき屋の青年は、恋人のさとみに対して常に「作り笑い」をして、セックスしたいという本音を言わない恒に、「ありのままの彼女を見届けて」みろと告げる。そのために探偵まがいのことをしろというのだが、青年に恒が「探偵」を依頼するのではなく、恒に青年が「探偵」を誘導するというところに、本作の主眼が見える。本作の主眼は、自分にウソをつき、セックスしたいのにしようといわないで、「作り笑い」でごまかしている主人公の恒を、本心に立ち返らせることである。人間は、のぞき屋の青年がスコープで覗いているように、強欲の世界だ。本作では性欲と名誉欲とが描かれているように、その欲望に沿って生きているに過ぎない。というか、それ以上の存在にはなりえないのだから、善悪の問題ではない。だが、ある一定の人間はどうかすると、その欲望を隠蔽したがるものだ。主人公の恒のように、自分にさえウソをつき、彼女にもウソをつき、のぞきを誘導する青年に散々言われてやっと開眼するといったところだ。恒は人間が欲望に沿って生きていることに気付かない振りをしている。青年は、その陥穽をついてくるのだ。

 もっとも、本作の主題は、突き詰めれば非現実的になってしまうのは否めない。全てを疑ってかかり、本音を突きとめるというが、原理的にそんなことはできるはずがない。時間的な無理もあるけれど、第一そんなことをしたら生活が営めないし、孤独になるほかにない。だから、人間は、欲望に忠実であるという命題を抱えながらも、どこかではそれを隠蔽する他にない。人間は理性もあるといった考え方で、その命題を捉え直していくしかない。それが一歩間違えると、本作の恒のように、自分を隠蔽し続ける人間に成り下がってしまうということになるだろうから、バランスの問題である。人間は欲望のもとに生きるが、理性もあるということ、疑い始めたらきりがないということ。これがこの漫画から分かる。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2005-08-09 22:11:43] [修正:2005-08-09 22:11:43] [このレビューのURL]