「ほげ」さんのページ

『もてない男』なるエッセイが巷をさわがせたことがあったが,この漫画もまさしくもてない男のための漫画.同書の小谷野によると,「もてない男」を描いた芸術作品はそう多くないということだが,『電影少女』の前半部分はまさに「もてない男」のための漫画であり,特殊性を評価したい.

『電影少女』のコンセプトは,一見ありふれたオタク論(あくまでも非オタクが論じる批判論のこと。オタクが現実の女の子と付き合えない,関心を持たないというのは誤り)にもつながるように思えるが,実態は全然違う.オタクは,現実の女の子に興味がないのではなかったか.むしろ,特殊なオタクであるところの,『電車男』の方にこそ,共通性を感じる.『電車男』は,オタクでありながら,フィギュアやアニメ,PCから脱出し,現実の女の子へと欲望を転換させる物語だった.『電影少女』もそれと似ていて,ビデオガールという,非現実的な女の子の力を借りて,現実の女の子を愛そうとする姿を描いていた.これなどは,「2チャンネル」の掲示板を通じて愛を告白する「電車男」と似ている.

だが,こんな男はほとんどいないところに,オタクの面白さがあるのであって,『電影少女』にしろ『電車男』にしろ,僕の興味をものすごく引き出すという訳にはいかなかった.それは僕自身がオタクであるがゆえの問題であるから,仕方のないことなのだが,現実の女性に興味を持つなら,持ってもかまわぬが,それならいちいちオタクを使う必要もないのではないか?

『電車男』も『電影少女』も,共通するコンセプトは,仮想現実より現実を!ということだった.極めて分かりやすいハリウッド映画スタイルの牧歌は,パソゲーなんかをだらーっとやってる連中から評価を得られているのかどうかまったく分からない.

『電影少女』の難点は,上記のところにもあるが,もっとラジカルなところにもある.それは,「もてない男」のための漫画として出発したはずの本作が,後半では「もてる男」へと変身してしまう点だった.いかにもトレンディドラマのような展開に,僕はリアリティーを感じなくなってしまった.オタクと仮想現実的なものの親和性を打ち砕いてしまったのも私は疑問だが,それよりも,「もてない男」がもてないままに恋愛をしようとする行為をスポイルして,すっかり普通の男になってしまったところに,この漫画の限界を見た.

絵はすばらしい.どんどん桂は描写を淡白にしてしまったのが昨今の自主規制なのだろうけれど,この頃はセックスのないヤング漫画のようなエロさがあって,視覚的にここちよかった.下着や胸,尻など,いわゆるフェティシズムの快楽をここに読むことができると思う.

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[投稿:2006-03-27 23:13:20] [修正:2006-03-27 23:13:20]