「くっしい」さんのページ

総レビュー数: 32レビュー(全て表示) 最終投稿: 2009年04月04日

 この人の漫画は映画のようです。だから映画にすることは難しいだろうと思います。アニメ化なら出来るかも知れませんが、多分陳腐なものになってしまうだろうなあと思います。
 
 漫画以外の媒体に置き換えることでこの漫画が持っている何らかの力が失われてしまうでしょう。つまりこの人の漫画もまた漫画として完成している漫画なのだと思います。

 この人の絵からは明るさを感じます。ところがそこで繰り広げられる物語は陰惨さを含んでいます。そして乾いています。陰惨な中で登場人物は嘆かないのです。あるがままを受け入れているというか、或いは無気力と言っても良いかも知れません。

 大上段に構えるようですが、この人の物語りは60年代イデオロギーの一角とされた高橋和巳に通ずるものがあるのではないでしょうか。文学がかつてのような力を失った今、同じような力を潜在させているものは恐らく漫画です。ただ漫画には文学ほど煽動する力はありません。絵は印象は言葉より能弁に語りますが、言葉ほどに思想を語ることは出来ないからです。そうしたものが時代を表す媒体になっていることが現代を象徴しているのかも知れません。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2009-10-25 23:51:17] [修正:2009-10-25 23:51:17] [このレビューのURL]

10点 魔女

 この人の漫画も絵を一目見るだけでこの人の漫画だと判る個性があります。

 細密画の様に細かく書き込まれた線が輪郭や面を作り、そこから音を紡ぎ出して広がりのある空気を作り出しています。B6判の単行本を読んでいることを忘れてしまいます。

 勿論漫画である以上、絵だけでは評価になりません。この人の漫画は音と広がりのある空気が物語りを進める推進力となっています。絵と物語りは完全に一体となっています。この人は自分の絵で何が語れるのかが良く判っているのだと思います。

 このような漫画が読めることは幸いだと思います。そして商業誌で制作されている点は大きな意義があります。日本漫画はハリウッド映画の様にならないことを願っています。個人的には日本漫画でも少年誌はかなり厳しい環境になっているのではないかと感じます。
 漫画が商品に終わるか文化にまで昇華されるか、この人は後者への可能性を感じさせる漫画家の一人ではないでしょうか。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2009-10-25 23:12:04] [修正:2009-10-25 23:12:45] [このレビューのURL]

10点 大王

久し振りのレビューです。

 この人は筆を使って描くので独特の風味の絵になります。
 一見粗く見える絵ですが、効果を十分にもたらす大胆で動的な構図が持ち味と言えます。
 その持ち味は、この人の話し運びと合わさると途端に雄弁に主張を始めます。話しが物語りになるのです。この人の代表作の一つ「茄子」でもそうですが、それほどの劇がない所に物語が生じて世界が広がっていくのです。淡々とそれでいて着地点も見えず、どこへ連れて行かれるのか分からない期待を膨らませてくれます。このある種快感とも言える浮遊感を楽しむだけでも読む可知のある漫画です。
 この漫画は既に消費される商品ではなく蓄積されるべき文化なんだと思います。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2009-10-25 21:50:25] [修正:2009-10-25 21:50:25] [このレビューのURL]

 
 この漫画はもっと広く知られるべきものだと思います。

 幼馴染の3人は三者三様の苦しみの中でもがき苦しみ、互いを思い遣っているにも拘らず、傷つけ合ってしまう。未来も希望もない中では仕方のないことなのかも知れません。自分の身の回りや人間関係を見渡して、身につまされる思いやホッとする部分など様々なものが去来します。

 時に饒舌、迂遠、大袈裟になる表現の中で狂気とそれに抗おうとする強さや成長が描かれていることに気付き、ハッとさせられます。しかし作者は決してヒロイズムや感傷に逃げず、只ひたすらにその様を綴っているのです。決して安易ではない表現に圧倒されました。

 絶版になっていることが惜しまれます。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2009-04-25 00:50:55] [修正:2009-04-25 00:50:55] [このレビューのURL]

10点 茄子

 この人の漫画も浅野いにおの漫画も全体を覆っているものは「空虚」です。この空虚さは虚無感とも無常感とも違う今の時代を映した空気なんだろうと思います。ただ浅野いにおと「茄子」には勿論違いがあります。

 その違いとは、「茄子」は何処までも乾いている点でしょう。登場人物はとても空虚ですが何かを強く求める訳でもなく、淡々としています。浅野いにおの漫画では空虚であってももがき、何課を希求する心理が根底にあります。

 「茄子」の最大の魅力はこのサラッとした淡白な空虚なのではないでしょうか。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2009-04-15 21:24:34] [修正:2009-04-15 21:24:34] [このレビューのURL]

[ネタバレあり]

 先入観や予備知識なくこの漫画を読みたい方は読まないで下さい。
 
 ヒロシマ・ナガサキは日本人としては避けて通れないテーマです。この漫画の瞠目する点あるいは原爆を扱ったものとして一線を画すと思われるのは、原爆以後の残された人の心理を掘り下げている点です。

 「私は生きていて良いの?」

 これほど戦争の悲劇を表す台詞は他にないでしょう。それでいて登場人物は皆明るく、強さを持っています。湿っぽくならず被害者意識もなく悲劇を描くことは誰にでもできることではありません。

 「夕凪の街」の終結部は圧倒されます。あの表現には参りました。漫画の力を感じます。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2009-04-04 16:38:00] [修正:2009-04-04 16:38:00] [このレビューのURL]

 この漫画は評価や好みが大きく別れると思います。「この人の他の漫画は好きだけどこれは駄目」と言う人も少なくないンでしょうね。
 話しが分かり難い部分もあったり、残虐な展開もあったりするので不愉快に感じてしまう人もいて当然だと思います。また面白がって読む人にも人間性に問題があると思います。作者は面白がらせようと思って描いた訳ではないンだろうなあ。
 なかなか読み方が難しい漫画ではありますが、情緒の奥底を揺さぶられる様な何かがある漫画です。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2009-04-04 16:06:29] [修正:2009-04-04 16:06:29] [このレビューのURL]

10点 not simple

 絵のタッチが苦手と言う方もいるかも知れませんが、海外の漫画の様な雰囲気のあるタッチだと思います。
 話しはかなりキツく重苦しいものですが、この絵のタッチによって軽減されているのではないでしょうか。それが嫌な読後感を残さないことにも繋がっているように思います。
 個人的には後世に残すべき漫画だと思いますが如何でしょうか?
 カラーにするともっと良いンだろうなあ(すでに10点つけてますが)。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2009-04-04 15:49:35] [修正:2009-04-04 15:56:53] [このレビューのURL]

10点 天顕祭

独特のタッチの絵で肌が合わないという方もいるかも知れませんが良作です。
舞台設定も人物造形も良くできています。
読後感は爽やかで、映画の様な漫画です。
「蟲師」を好む人は楽しめるのではないかと思います。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2009-04-04 15:40:18] [修正:2009-04-04 15:41:02] [このレビューのURL]

10点 奇子

 個人的には手塚治虫の最高傑作だと思っています。ドロドロとした人間と人間の間で生じる社会の闇が垣間見られます。これはもう文学の域です。それをきちんと漫画の表現を過不足なく自然に盛り込んで破綻がないというのはやはり格の違いを感じさせます。
 今後このように歴史に埋もれない漫画はどれほど出て来るでしょうか。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2009-04-04 14:11:35] [修正:2009-04-04 14:13:46] [このレビューのURL]

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