「くっしい」さんのページ

総レビュー数: 32レビュー(全て表示) 最終投稿: 2009年04月04日

 女性漫画は殆んど読むことがありませんでした。自分が男性であるから共感出来ないだろうと決め付けていたし、絵のタッチも好きになれずに避けていました。ところが昨今では女性漫画の描き手が青年漫画を描くことも多くなり、特に最近の女性漫画では絵についてはどうも思い込みに過ぎなかったことが判りました。話しにしてもなるほどと得心することも多く、今では結局のところは食わず嫌いだったのだなあと思っています。このように認識を改める契機となった女性漫画の一つが「恋文日和」です。

 女性漫画が青年漫画・少年漫画と異なる点、あるいは長けている点は、よく指摘されることですが、豊かな心理描写です。青年漫画・少年漫画では主に話しの運びや絵の巧さ・表現技法、世界観などが注目されます。かたや女性漫画は主に現実的な世界感を舞台に選ばれることが多いようで、人物造形の洗練に進化の方向を見出したものと思われます。
 
 さて本題です。この人の漫画に特長的な点は躍動感かと思います。登場人物の動きが見事に紙面に落とされ、これが濃淡に富んだ心理描写をもたらしています。ですから登場人物はみんな情緒豊かで気分の変動が大きくなっています。その分読み手に大きな感慨を引き起こすのだろうと思います。

 そうした作風で恋文という現在では聊か時代遅れとなった感のある手紙を題材に人物模様を丁寧に描かれていることがとても新鮮でした。単なる娯楽に終わらない味わい深い漫画です。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-01-27 15:23:38] [修正:2010-01-27 15:23:38] [このレビューのURL]

 ベタと言えばベタな設定とギャグですが、かなり笑いました。しかも優しくて誰も傷付けない笑いでホッとします。仏陀やキリストについてある程度の基礎知識があると更に楽しめると思います。

 振り返ってみて漫画という媒体の水準を上げるほどではないと思い当たり10から9へ下げることとしました。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2009-04-04 13:50:05] [修正:2009-10-25 23:54:02] [このレビューのURL]

 この人の漫画は映画のようです。だから映画にすることは難しいだろうと思います。アニメ化なら出来るかも知れませんが、多分陳腐なものになってしまうだろうなあと思います。
 
 漫画以外の媒体に置き換えることでこの漫画が持っている何らかの力が失われてしまうでしょう。つまりこの人の漫画もまた漫画として完成している漫画なのだと思います。

 この人の絵からは明るさを感じます。ところがそこで繰り広げられる物語は陰惨さを含んでいます。そして乾いています。陰惨な中で登場人物は嘆かないのです。あるがままを受け入れているというか、或いは無気力と言っても良いかも知れません。

 大上段に構えるようですが、この人の物語りは60年代イデオロギーの一角とされた高橋和巳に通ずるものがあるのではないでしょうか。文学がかつてのような力を失った今、同じような力を潜在させているものは恐らく漫画です。ただ漫画には文学ほど煽動する力はありません。絵は印象は言葉より能弁に語りますが、言葉ほどに思想を語ることは出来ないからです。そうしたものが時代を表す媒体になっていることが現代を象徴しているのかも知れません。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2009-10-25 23:51:17] [修正:2009-10-25 23:51:17] [このレビューのURL]

10点 魔女

 この人の漫画も絵を一目見るだけでこの人の漫画だと判る個性があります。

 細密画の様に細かく書き込まれた線が輪郭や面を作り、そこから音を紡ぎ出して広がりのある空気を作り出しています。B6判の単行本を読んでいることを忘れてしまいます。

 勿論漫画である以上、絵だけでは評価になりません。この人の漫画は音と広がりのある空気が物語りを進める推進力となっています。絵と物語りは完全に一体となっています。この人は自分の絵で何が語れるのかが良く判っているのだと思います。

 このような漫画が読めることは幸いだと思います。そして商業誌で制作されている点は大きな意義があります。日本漫画はハリウッド映画の様にならないことを願っています。個人的には日本漫画でも少年誌はかなり厳しい環境になっているのではないかと感じます。
 漫画が商品に終わるか文化にまで昇華されるか、この人は後者への可能性を感じさせる漫画家の一人ではないでしょうか。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2009-10-25 23:12:04] [修正:2009-10-25 23:12:45] [このレビューのURL]

10点 大王

久し振りのレビューです。

 この人は筆を使って描くので独特の風味の絵になります。
 一見粗く見える絵ですが、効果を十分にもたらす大胆で動的な構図が持ち味と言えます。
 その持ち味は、この人の話し運びと合わさると途端に雄弁に主張を始めます。話しが物語りになるのです。この人の代表作の一つ「茄子」でもそうですが、それほどの劇がない所に物語が生じて世界が広がっていくのです。淡々とそれでいて着地点も見えず、どこへ連れて行かれるのか分からない期待を膨らませてくれます。このある種快感とも言える浮遊感を楽しむだけでも読む可知のある漫画です。
 この漫画は既に消費される商品ではなく蓄積されるべき文化なんだと思います。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2009-10-25 21:50:25] [修正:2009-10-25 21:50:25] [このレビューのURL]


 ドギツい表現や描写がないので大人しい印象でしたが、ジワジワと情緒が揺さぶられる漫画です。よく読むと話しはかなり個性的です。登場人物の心理描写が繊細で、徐々に染み入って来ました。こういう漫画は女性作者ならではのものなンでしょうか。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2009-04-25 01:16:14] [修正:2009-04-25 01:16:14] [このレビューのURL]

 連作短編集ですが、同じ舞台であまり相関性のない話しが5編収められています。
 PrologueとEpilogueを付けられた為に却って纏まらない印象です。一つ一つの話しはとても面白い。
 ただ今一つ深みや凄みに欠けてしまい、娯楽の域に留まっています。漫画ですから娯楽で充分と言えば良質な漫画と言えます。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2009-04-25 01:02:34] [修正:2009-04-25 01:02:34] [このレビューのURL]

 
 この漫画はもっと広く知られるべきものだと思います。

 幼馴染の3人は三者三様の苦しみの中でもがき苦しみ、互いを思い遣っているにも拘らず、傷つけ合ってしまう。未来も希望もない中では仕方のないことなのかも知れません。自分の身の回りや人間関係を見渡して、身につまされる思いやホッとする部分など様々なものが去来します。

 時に饒舌、迂遠、大袈裟になる表現の中で狂気とそれに抗おうとする強さや成長が描かれていることに気付き、ハッとさせられます。しかし作者は決してヒロイズムや感傷に逃げず、只ひたすらにその様を綴っているのです。決して安易ではない表現に圧倒されました。

 絶版になっていることが惜しまれます。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2009-04-25 00:50:55] [修正:2009-04-25 00:50:55] [このレビューのURL]


 この漫画には救済というものはありません。
 だから読後には暗澹たる気持ちになります。
 とは言えただ残酷な漫画かと言えば、そうではありません。
 そこにはやはり人間の営みがあるのです。
 人を救うのも人ですが、人を虐げるのもやはり人なんだなと思います。
 当たり前のことですがこれは普段意識されていることではありません。
 この作者は別にこの残虐性に対して善も悪も評価を付していない様に読めました。安易な正義を掲げないし、悪を礼賛する訳でもないということでしょうか。
 そこの部分は読者がそれぞれに感じ考える領域として残されているのでしょう。
 
 

ナイスレビュー: 2

[投稿:2009-04-16 22:41:36] [修正:2009-04-16 22:41:36] [このレビューのURL]

 色々な感情を惹き起こす情緒的な漫画です。お互いがお互いのことを思い、善意を向けているのにすれ違う。これこそが人間関係なんですね。と当たり前のことを再確認できました。当たり前のことを説得力を持たせて語るのは本当に難しいことだと思うんですけど、さらりと力を抜いて描いている様に読ませるのは作者の力量なんでしょうね。

 連作集として構成も新味があって、読んで良かったと感じました。

 ただ終わりがあまり頂けない。一話の読みきりとしては最終話も良いと思いますが、全体の締め括りとしては如何なものかと思いました。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2009-04-04 14:29:05] [修正:2009-04-15 22:37:00] [このレビューのURL]

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