「FSS」さんのページ

これだけ精神的に病んでいる主人公というのも珍しい。それだけに拒否反応が出る人も多いだろうが、こんな作品は多様で柔軟な感性を必要とする漫画文化を持つ日本でしか作られないだろうし、日本の漫画の中でも類例が無い。少し前の漫画とは言え、このご時勢によく出ていると思うし、それゆえに薄甘い事なかれ主義に対するカウンターウェイトとしての意味も持っていると思う。

たしかに強烈な残酷表現が多く、その怒涛の展開に終始圧倒されるが、「のぞき屋」の頃から常に人間の持つ精神の「暗部」に光を当てる作者の人間描写には一貫性があり、今作も始まりから終わるべくして終わる物語としての「必然性」を内包している。

異常と正常は常に表裏の関係。誰の中にも異常性は潜んでいるし、その定義すら相対的である事に自覚的でないとちょっと危険。それだけに表面的な残酷表現にばかり気を取られてしまい、その異常性の持つ「普遍性」を理解しないと、現実世界でもちょっとした事でバランスを崩してしまう事になるかも知れない。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2008-06-06 22:45:05] [修正:2008-06-06 22:45:05]