「FSS」さんのページ

総レビュー数: 50レビュー(全て表示) 最終投稿: 2007年12月31日

この作品に対しても漫画としての見方を無視して、無意味な突っ込みをする人が多いが、注意すべきなのはリアルとリアリティは違うという点だ。

異種格闘技やストリートファイトを描く漫画の肝は「ロマン」であり、そこに必要とされるものは「リアリティ」であって「リアル」ではない。逆に言えばリアルに拘ってもロマンが出る訳ではないのだ。作者の格闘理論もネット上で批判されているほどおかしい部分は無いし、仮に現実世界では実現が困難な技でも作中で説得力を感じられるならそれは「あり」。

この手の漫画に対してよくある反論として、「体格で優っていて、顔面打撃の経験もある人間が、顎を引いて打たれる覚悟で前に出てくるのをジャブ(作中ではフリッカーなど)で止めるのは無理、それが出来たら総合に出る打撃屋は誰も苦労しない」というような突っ込みをする人がいるが、それなら作中で「打撃でタックルに対処出来ないヘタレ主人公」なんかを出して、それで漫画として面白くなるのかと言いたい。そんなにリアルに拘りたいなら現実の総合格闘技の試合を見ていれば良いではないか。だが、そんな総合格闘技がつまらなくなっていったのは、リアルであるが故に技術体系が均一化して、戦い方に個性の入り込む余地が無くなったからではないのか?

異種格闘技戦においては、ボクサーがタックルをパンチで対処しなければボクサーとして戦っている「意味」が無いのだ。ボクサーが総合の戦い方になってしまったら、そいつはもうボクサーじゃない訳で、そうなればその地点で「異種格闘」のロマンは消えてしまう。同じようにあくまで空手家は空手で、柔道家は柔道で、プロレスラーはプロレスで戦うからこそ異種格闘にはロマンがあるのだ。

リアルをリアルに描くつまらなさを知ってるからこそ幻想を求めるという心理を許容する程度の柔軟性は欲しい。この作品はそうした異種格闘の持つロマンを出来るだけ現実に則した理論で抽出し、格闘技ファンの幻想を汲み取った佳作のひとつと言えるだろう。

そもそも、この作品の本質は格闘部分よりも、戦いを通じての人との出会いや繋がり、各登場人物の挫折と成長などがテーマであり、格闘はそのテーマを浮き立たせるための手段。「自分のアイデンティティ」や「存在理由の希求」といったテーマは青臭いながらも終始一貫しており、悩みながらも成長していく登場人物たちの群像劇が上手く描かれている。

ナイスレビュー: 6

[投稿:2008-05-31 21:36:42] [修正:2008-05-31 21:36:42] [このレビューのURL]

[ネタバレあり]

「聖闘士星矢」や「幽遊白書」などの過去作品から革命的な変化こそ遂げなかったが、「ブリーチ」同様、良くも悪くも、ジャンプ特有の王道バトル漫画の正統進化系である事は間違いない。

「カムイ伝」や「伊賀の影丸」といった古典や小説を含め、忍者を扱った作品は少なくないが、そんな中、「ファンタジーとしての忍者らしさ」を前面に押し出しつつ、これだけ少年誌向けのバトル漫画として上手く昇華させた作品は意外なまでに少ない。

確かに「暁」編以降、もはや忍術の枠を超えて何でもアリになってしまった感があるが、それでもバトル漫画としては十分に面白いし、インフレも比較的緩やか。「ブリーチ」が昔ながらの単純なインフレバトルであるのと比べれば、こちらは辛うじて忍術による「能力バトル」という側面を保っているし、その能力も色々と工夫があり飽きさせない。敵にも味方にも魅力的なキャラが多いという点も「ブリーチ」より一段上。

また、強敵に対しては悟空だけが活躍するだけだった「ドラゴンボール」と比べれば、脇キャラにもバランス良く活躍の場が与えられている点も好感が持てるし、そうしたチームプレイゆえに強敵を打破するという展開にも納得が出来る。

その戦いの過程で見出される「人との繋がり」や、「次代に受け継がれて行く思い」といった心の描写も丁寧で上手い。

かなりの長期連載になっているから、今の「暁」編後、引き延ばすことなく、決着をつけるべきキャラに決着をつけて終了してくれれば名作と言っても過言ではない作品。


PS.少し漫画を読み慣れる高校生くらいになると「忍術で心臓を増やせてもいいのだろうか」みたいにリアリティに対する突っ込みを始める人が出てくるが、根本的に漫画の楽しみ方が分かっていないと言わざるを得ない(もっとも私もそういう時期はあったけどw)。それは単に漫画における「リアリティの基準」をどこに設置するかという問題であり、作中において忍術の設定を緩くすればある程度何でもアリに出来るし、逆にリアリティを優先すれば単にチャクラで肉体の潜在能力を高める程度に抑える事も出来る。だがその分リアルにはなるが少年漫画向けの派手な展開は描けなくなる。それは掲載誌の傾向や漫画のジャンルとしてどちらを優先するかというだけの問題であり、リアリティの有無の問題ではない。そもそもチャクラという設定自体、現実にはあり得ないのだから、こんなところにいちいち突っ込むのならこの手の少年向けバトル漫画は読むべきではない。例えて言えば映画「ハリーポッター」に対して「魔法なんてナンセンス」と言うようなもので、評価すべきポイントがズレている。

ナイスレビュー: 5

[投稿:2008-04-12 22:43:24] [修正:2008-04-12 22:43:24] [このレビューのURL]

何気ない日常の出来事をこれだけ面白おかしく描く事が出来る作者の才能は凄い。爆笑するタイプの笑いではなく、誰でも経験がある事に対して「自分も同じ事を考えた事あるよ〜」とか「こんなヤツいたな〜」と感情移入して楽しめる漫画。

恐らく実際に自分の家族や友人関係であった事をカリカチュアライズしてあるのだろうけど、普段からよほど観察眼を鍛えて、日常に対する疑問や感動を鋭敏に感じ取ってストックしておかなければ、なかなかこうした日常の中の見え隠れする「妙味」を漫画化する事は難しいと思う。

日常をテーマにしたコメディ漫画が好きなら読んで損ナシ。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2008-02-25 20:51:52] [修正:2008-02-25 20:51:52] [このレビューのURL]

8点 DEATH NOTE

[ネタバレあり]

やはり日本の漫画はナメたらいかん。

私の知る限り、ここまで天才同士の複雑な心理戦を描いたサスペンス作品は、古今東西のミステリー小説やハリウッド映画にも無いだろう。

あえてジャンプ誌上で完全にアクション要素を廃し、頭脳戦にのみ特化した点を評価すべき作品。1巻目から話の規模が大きく、テンポも良い。ふたりの天才同士の騙し合い、知恵比べが面白すぎ。

普通「ノートに名前を書いた人間を好きなように殺せる」という設定だと、いじめや自殺をテーマにして、ノートを巡る学園内でのドロドロとした人間ドラマが中心になりそうだけど、この作品はノートを使って人類浄化を始めた主人公「月」と、それを追う謎の名探偵「L」との心理的な駆け引きが見所の頭脳戦をメインに描いているのが斬新。

ノートも好き勝手に殺せるわけではなく、相手の本名と顔を知っていなければならないし、物理的に無理な死に方はさせられないという制約がある。それに対して、「L」は警察やCIAなどと連携を組みつつ、天才的な推理力で「月」に迫ろうとする展開は非常にスリリング&サスペンスフル。

特に感心したのは、序盤で「L」が「月」の目的や住んでいる地域などを早々と特定していく過程。思わず「なるほど〜」と膝を打ってしまったw。

確かに「L」死亡後の展開はいまいちだし、何度も読み返したくなるタイプの内容ではないが、少年漫画でここまでサスペンスに特化した作品を描いた事は高く評価すべきだと思う。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2008-02-02 20:04:23] [修正:2008-02-02 20:04:23] [このレビューのURL]

いかにも古賀氏らしい、キャラとギャグ、世界観で、個人的に一番親しみが持てる作品だっただけに、もう読めないのは寂しい限り。

ギャグの発想が独特な方向で先鋭化されつつも、プロの作品として決して独りよがりやオタク受けだけにならない、良い意味での万人向けのバランス感覚と客観性がある。

バカバカしい台詞回しにも、作者の持つセンスと経験、そして計算が浸透しているからこそ、あの独特な面白さが醸し出されると思う。

そう言う意味でも、ギャグ漫画として完成度の高い作品。

ただ、あえて苦言を呈すると、作者の個性や資質の問題なんだろうけれど、話に「広がり」を出すのは苦手な人みたい。その場その場の「お祭り騒ぎ」は楽しいものの、後にも先にも話が続かないと言うか、こういう作風は下手をするとひたすらグダグダな展開になりがち(事実、この4巻では既にその兆候が…)。

続けようと思えば永遠に続けられるタイプの漫画だが、ダラダラと続けるよりは、面白いところで終わって、また次回作に向けて充電してくれた方が作者にとっても読者にとっても良い結果を生むと思う。

PS.あとがきで「くのいちが、きゃっきゃ、ウフフしている漫画が描きたかった」と作者が語っているのを読んで、さすがだと思ったw。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2008-02-02 17:17:57] [修正:2008-02-02 17:17:57] [このレビューのURL]

8点 ZOOKEEPER

動物園の新米飼育員と動物の触れ合いを描いた「ほのぼの漫画」かと思いきや、変に動物を擬人化する事もなく、人間と動物、どちらか一方の視点に偏る事もなく、動物と人間の関係性や、自然と文明の在り方などをテーマに描いた、意外なまでにシビアな作品。

かと言って、説教臭い話や理想論的な話は少なく、あくまで人間の主観である主人公の視点に感情移入しつつ考えさせられるシナリオ作りになっている。特に「何故、コアラは人気がある看板動物なのに、観客の滞在時間が短いのか」という動物園の経営問題から入り、コアラの生態を考え、新たなコアラブームを作ろうとする。そして、ようやくコアラの問題について解決できたかに思えたが、そこには人間本位の考え方と動物園そのもののあり方が問われる事に…、というシナリオ作りには感心した。

また主人公の「温度を視認できる」という特殊能力も目新しく、その能力をちゃんと作品の中で有機的に絡ませていく使い方も上手い。

動物園の園長も外見とは違い一筋縄では行かない人物で、その「黒い」性格が作品のスパイスになっているし、主人公を動かす的確なアドバイザーとしても機能している。

あえて難点を言えば、絵柄には好き嫌いが出るだろう。この作品が作者のデビュー作だからなのか、技術的にもあまり高いとは言えず、個性と言うにはかなり線描が雑に見える部分が多く、絵柄に関してはあまり良い印象が持てなかった。もう少し丁寧に描いて欲しいところ。

ただ先述したように、動物園経営を通して、人間と動物の在り方や、文明とは何か、自然とは何か、と言ったような哲学的なテーマに至るまで考えさせられるシナリオは非常に質が高い。小、中学校などで授業の教材としても良いくらい。

一度は読んでも損は無い。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2008-01-22 20:02:11] [修正:2008-01-22 20:02:11] [このレビューのURL]