「FSS」さんのページ

総レビュー数: 50レビュー(全て表示) 最終投稿: 2007年12月31日

一見するとよくあるコメディ漫画のように思えるが、日常の生活を題材として、そこから日常の意味について敷衍し、「日常の大切さ」を考えさせる事こそがテーマの根底にある事に気づく。見慣れた事象を必要以上に非日常化することなく、「日常の持つ魅力」を抽出、描写する作者の力量は並ではない。

それでいて過ぎ去った過去を懐かしむ郷愁や、あえて死や別れを匂わせる事で「限りある命」や「出会いの大切さ」を意識させようとするシニカルな描写が多いのも特徴的だ。

「それでも町は廻っている」というタイトルが示すように、この作品からは「人の思いに拘らず時は流れていくもの」という、作中人物に対してだけでなく、メタ視点においては作者が自らの存在すら客体化しているような、どこか冷徹で達観している視点が垣間見える。そしてその視線は読者である我々に対しても向けられている。作者の後書きでも「日常を保つ事の意味」についての言及があるように、やはり自覚的な視点を持っている事がよく分かる。

この「それでも」という言葉に込められているニュアンスの中にこそ、作者が伝えようとしているテーマが凝縮されている。そこに気付ける程度に鋭敏な感性を持っていない人は、この作品をよくある単純なコメディ漫画として見てしまい、低評価になりがちだろう。

何にしても5点以下はあり得ない作品。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2008-04-19 10:47:19] [修正:2008-04-19 10:47:19] [このレビューのURL]

今まで未収録だった漫画を一冊にまとめた短編集で、各作品ごとに掲載年代や絵柄のタッチなどに大きな違いがある。なかには「あたしンち」と同じ作者とは思えないものも。

純粋に漫画として評価すると正直イマイチだが、けらえいこ氏がカット描きから漫画家に転身する際の葛藤や工夫が色々と垣間見えてファンとしては興味深い。

けらさんファンなら持っているべきコレクショングッズw。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2008-04-16 01:07:47] [修正:2008-04-16 01:07:47] [このレビューのURL]

[ネタバレあり]

一見、単純なパニック系バイオホラーかと思いきや、漫画では珍しい社会派のサスペンスホラー。

取り立てて斬新なアイデアや設定がある訳ではないが、その脚本構成や作画など、全体的に非常に丁寧な作りであり、ジャンル以前にひとつの作品としての完成度が高い。その点は高く評価されるべきポイント。

ただ前述したように、基本的に社会派サスペンスホラーであり、凶悪犯罪の加害者と被害者の立場や有り様、社会的制裁とは、といった重々しいテーマには好き嫌いが分かれると思われる。

そういう意味で、漫画としての完成度は高いが娯楽性は低いので、何度も読みたくなるような内容ではないのが残念。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2008-04-12 23:47:30] [修正:2008-04-12 23:47:30] [このレビューのURL]

[ネタバレあり]

「聖闘士星矢」や「幽遊白書」などの過去作品から革命的な変化こそ遂げなかったが、「ブリーチ」同様、良くも悪くも、ジャンプ特有の王道バトル漫画の正統進化系である事は間違いない。

「カムイ伝」や「伊賀の影丸」といった古典や小説を含め、忍者を扱った作品は少なくないが、そんな中、「ファンタジーとしての忍者らしさ」を前面に押し出しつつ、これだけ少年誌向けのバトル漫画として上手く昇華させた作品は意外なまでに少ない。

確かに「暁」編以降、もはや忍術の枠を超えて何でもアリになってしまった感があるが、それでもバトル漫画としては十分に面白いし、インフレも比較的緩やか。「ブリーチ」が昔ながらの単純なインフレバトルであるのと比べれば、こちらは辛うじて忍術による「能力バトル」という側面を保っているし、その能力も色々と工夫があり飽きさせない。敵にも味方にも魅力的なキャラが多いという点も「ブリーチ」より一段上。

また、強敵に対しては悟空だけが活躍するだけだった「ドラゴンボール」と比べれば、脇キャラにもバランス良く活躍の場が与えられている点も好感が持てるし、そうしたチームプレイゆえに強敵を打破するという展開にも納得が出来る。

その戦いの過程で見出される「人との繋がり」や、「次代に受け継がれて行く思い」といった心の描写も丁寧で上手い。

かなりの長期連載になっているから、今の「暁」編後、引き延ばすことなく、決着をつけるべきキャラに決着をつけて終了してくれれば名作と言っても過言ではない作品。


PS.少し漫画を読み慣れる高校生くらいになると「忍術で心臓を増やせてもいいのだろうか」みたいにリアリティに対する突っ込みを始める人が出てくるが、根本的に漫画の楽しみ方が分かっていないと言わざるを得ない(もっとも私もそういう時期はあったけどw)。それは単に漫画における「リアリティの基準」をどこに設置するかという問題であり、作中において忍術の設定を緩くすればある程度何でもアリに出来るし、逆にリアリティを優先すれば単にチャクラで肉体の潜在能力を高める程度に抑える事も出来る。だがその分リアルにはなるが少年漫画向けの派手な展開は描けなくなる。それは掲載誌の傾向や漫画のジャンルとしてどちらを優先するかというだけの問題であり、リアリティの有無の問題ではない。そもそもチャクラという設定自体、現実にはあり得ないのだから、こんなところにいちいち突っ込むのならこの手の少年向けバトル漫画は読むべきではない。例えて言えば映画「ハリーポッター」に対して「魔法なんてナンセンス」と言うようなもので、評価すべきポイントがズレている。

ナイスレビュー: 5

[投稿:2008-04-12 22:43:24] [修正:2008-04-12 22:43:24] [このレビューのURL]

「右手が恋人」というと奇抜な発想のように思えるけど、日常生活にパラサイトが入り込むという設定はよく見掛ける形式。寄生獣のミギーやド根性ガエルのピョン吉とか(笑)。

内容的にも笑いあり、涙あり、恋愛ありと、ごく普通のラブコメ。絵柄を含め基本的に丁寧な作品作りに好感は持てるものの、ギャグもエロスも恋愛ドラマも少年誌向けに無難なところで抑えてある内容には物足りなさを感じるのも確か。そのせいで漫画としていまいちハジけ切れずに終わってしまった感がある。

この辺の万人向けで無難な内容を読みやすいと取るか、物足りないと取るかは個人差があると思う。

実際、4〜5巻辺りからすでにネタ切れ気味で、無理やり話を作って、その「台本」に則ってキャラが動かされているような印象が強い。いわゆる「キャラが命を持って動いていない」状態。もはや右手が美鳥である必然性も薄くなっていた。

時折デフォルメされるキャラの可愛らしさやおマヌけな感じは好ましいものの、肝心のストーリーに勢いが足りず、失速していった印象を受ける。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2008-04-07 23:42:12] [修正:2008-04-07 23:42:12] [このレビューのURL]

6点 BLEACH

[ネタバレあり]

過去作品から革命的な変化こそ遂げなかったが、良くも悪くも、「ドラゴンボール」「聖闘士星矢」「幽遊白書」などのジャンプ特有の王道バトル漫画の正統進化系であり、その伝統を最も色濃く受け継いでいる作品である事は間違いない。

特に旧来のチャンバラアクションを演出するビジュアル面や言葉遣いのセンスは高い。この辺のアクション演出のセンスやアイデアはやはり日本の漫画が群を抜いている。

連載の長期化により顕著になってきたインフレバトルに嫌気がさしている人が多いのも分かるが、この手の「強敵現る」→「修行して撃破」→「新たな強敵現る」→「真の能力覚醒」→「敵も覚醒」→「友情や愛のパワーで辛勝」みたいな王道バトル漫画はあっても良いし、インフレがあるからこそ燃えるという部分もあるだろう。そう言う見地で評価すれば、某巨大掲示板やAmazonのレビューで酷評されているほどひどい漫画ではない(事実、ソウルソサエティ編まではバトル漫画として十分に面白いし、各キャラの背景描写なども丁寧で、全体的にバランスが取れていたから、幼稚な私見を挟まずに総合的かつ客観的に評価すれば、いくら何でも2点以下はあり得ない)。

ただ問題が多いのも確かw。

すでに多くの人の指摘にもある通り、虚圏編に入ってから、そのインフレ展開にあまりにも説得力が無い事(特に主人公サイドの戦闘力)、虚圏編とソウルソサエティ編の設定の酷似、無駄な新キャラの量産によるダラダラとした時間稼ぎ(仮面の軍勢や十刃落ちなど)、旧キャラの使い方のバランスの悪さ(人気のある隊長になかなか活躍の場が与えられず、逆に今までも見せ場の多かったキャラ(石田、チャド、ルキア、恋次etc)を使い続ける)など、明らかに引き延ばしの弊害が作品の質を落としている。特に最近(単行本31〜33巻)のザエルアポロ戦やグリムジョー戦の露骨な引き延ばしによるダラダラとした展開は、さすがに看過出来ないものがある。

この虚圏編が終わったら潔く終了してくれる事を願うのみ。

ソウルソサエティ編までが8点、虚圏編が4点として、平均すれば6点辺りが一番妥当な評価でしょう。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2008-04-06 14:29:40] [修正:2008-04-06 14:29:40] [このレビューのURL]