「blackbird」さんのページ

だんだんと20年8月に向かうにつれ、来るべき運命を知る身としては
怖くて読み進みたくないと思うのですが、読むのを止められない。
でも全体的に、あまりに悲壮感や絶望感に包まれすぎないのは、
すずの愛すべきキャラであり、深刻なシーンでもついつい笑いにオチる
家族たちのおかげ。
でも、哀しすぎると、笑いながら涙を流してしまう、
そんな切ない、ちょっと湿った笑いなんですよね。

また、この作者の描く夫婦像って、つかみ処がなく、最初はすず達もそうでした。
特にあの時代に、急遽夫婦になる人たちはこんな感じなのかもなあと。
でも、リンさんや水原さんの話が出てきてから、夫の人間ぽさや、
様々な感情を持て余すすずの複雑な表情が浮き出てきて、
ようやく人らしい感情、夫婦らしさが感じられるようになってきました。
最後にはいい空気が漂うようになりましたね。

映画のように、上から描写した家族の絵。
夫の不在中、留守を守れないと断言するすず。
右手を失い、今までできていた事を思い返すすず。
だんだんすずの存在を認めていった義姉。
すみちゃんの腕のシミ。
戦争が終わって、国の正体が見えてしまった時の悔しさ。
そして、生き残った者が何をするべきなのか見えた時の希望。

書ききれないほど、数々のシーンに涙が止まりませんでした。

呉の話は聞いていたものの、やはり戦争の話となれば原爆と東京大空襲の話。よくここまで詳細な記録を丁寧に集めたなあと感心しました。
欄外に書いてある情報も、今後きちんと読んでいきたいと思います。
また、戦中の野草などの貧しい食事事情、戦意を高揚させるスローガンや、燃料など生活物資の話をうまく取り入れたもの。
・・・名作と思います。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-06-14 13:33:22] [修正:2011-06-14 13:33:22]