「shun」さんのページ

手塚治虫氏のエピソードを集めた短篇集。
幾つかは聞いたことのあるエピソードだったが、当事者を取材して漫画で再現することで
手塚治虫氏の魅力的な人間性をさらに掘り下げることに成功している。
そこまで大きな出来事でなくとも、当事者の目を通した視点と構成の巧さで物語を盛り上げている。

画に関しては、少し古臭い絵柄だが当時を語るに適した古さで味がある。
ギラギラとした漫画家や編集者、漫画創作における狂気と情熱が表現できている。
手塚氏をみんなが思っているイメージと、実際の姿を掛けあわせたような姿で描いており、
手塚ファンとして納得の職人のおっさん感が出ている。
他のキャラも、ちょうどいいデフォルメ具合で漫画に入り込めた。

話の面白さは手塚氏関連のエピソードが面白い事だけが理由ではなく、
作者の着眼点と話の構成、物語の終わらせ方の旨さが際立っていると思う。
半分くらい、手塚氏ではなく取材をした人物を掘り下げる内容になっており、
手塚氏のエピソードだけ見たいという人には、余分に感じるかもしれない。

手塚氏が最も苦労したであろう、ブラックジャック前後以降・アニメ事業に焦点を当てており、
非常に崖っぷち感が出ていて面白かった。
奇人であり漫画の神である手塚氏の人間性を、新たな発見とともに楽しめる名作。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2015-02-06 13:29:49] [修正:2015-02-06 13:29:49]