「shinpe-」さんのページ

総レビュー数: 22レビュー(全て表示) 最終投稿: 2010年02月15日

続編の21世紀少年と併せたレビューです。

僕は別にともだちがあいつで納得行かないとか、残された謎がどうとかはほとんど気になりませんでした。幼馴染が世界を救うというところに物語の中心があるわけで、そのような今まで誰もやったことが無いプロットを、ある程度キャラクターを立てながら=作者の都合よく動かすだけでは無く魅力的に見せようと思った時には十二分に許容されるべき欠点では無いかな、と偉そうながら思ってしまいました。

あるラジオ番組で著者が「マルオがこっちに行ってくれれば話は早いのに、行ってくれないんだもの!」と言いながらハハハと笑っていました。40年以上というマンガの中での時間の経過、その中でキャラクターも人格を獲得し、独自に「動いて行く」ことは避け難いと思うのです。その制約を超えてあの結論までたどり着くというのは、やっぱり手放しで凄いと言わざると得ない。

凄いと言えば、自分自身の中で生まれた情熱を最後まで責任を持って、稀代の構成力で書き切った挑戦そのものがそうだとも言えます。幼少時代のノスタルジックな空気感と、世紀末のカタストロフィーの予感をキッチリとリンクさせた作品を作るという挑戦自体が、やっぱり浦沢さんスゲーとなる訳です。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-12-20 17:24:24] [修正:2010-12-20 17:24:24] [このレビューのURL]

続編(そう言っても問題無いですよね?)の「愛知りしりそめし頃に」と併せてのレビューをを書かせていただきます。

僕らの大好きなマンガというメディアを創り上げてきた先人たちへの尊敬と感謝の念を新たにする作品です。敗戦後の富山における二人の少年の出会いが物語の始まりです。それが後の藤子不二雄である事は、皆さん御存じの通りです。

切磋琢磨、という言葉がこれほど似合う作品はマンガのみならず、小説や映画までを視野に入れてもそうそう無いんじゃないでしょうか。満賀と才野の関係はもちろんの事、トキワ荘の仲間たちと紡ぎあげて行く成長譚は、読んでいて羨ましくなること請け合いです。たぶんA先生がこの作品に込めた思いは、自分を支えてくれた人への感謝の気持ちだったんだろうな、と自然に思ってしまう作品です。

上記の気持ちと少しベクトルは違いますが、「才」野という名前それ自体がF先生への畏敬の念であるような気がします(下記レビューでとろっちさんがかかれていらっしゃるような気持ちの)。

現在のような市場規模もなく、社会的な地位なんてあろうはずもない。「まんが道」がまだけもの道だったころ、主人公たちは皆、本当に手塚先生を北極星として道を進んでいたんだなと実感させられます。宝塚での出会いのシーンをはじめ手塚先生の登場シーンは読んでいるこちらの背筋も伸びてしまいました。マンガを愛する人なら一読の価値以上の物があるマンガです。

余談:他のマンガ(BECKなど)におけるオマージュの元ネタをいくつか見ることが出来ます。宝塚での手塚先生との出会いが、コユキと千葉がマーシー(マーちゃんさん)に出会うシーンまんまだったのは笑った。そういう楽しみ方もありだと思います。あと「愛しりそめし」の手塚先生の初登場が自分と同い年だったことに驚愕…と同時にもっと頑張らねば、との思いを新たにしました。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-11-14 09:48:11] [修正:2010-11-24 19:34:07] [このレビューのURL]

9点

山岳レスキューもの、という括りで読み始めるとまず肩すかしを食らったような気持ちになります。確かにレスキューは沢山あります。日常茶飯事です。しかしレスキューが物語として語られる場合にはハッピーエンドとして語られてきたのが一般的ではないでしょうか。その類いの漫画の系列には含められないです。なぜならバットエンドも数えきれないほどあるのだから。

この作品は人がもの凄く沢山死にます。それも自発的に登ってきた山で。現実のそのようなニュースを見るたびに山に対する認識の甘さとか、自然を舐めちゃいかん的な発想をしてしまいがちになるのですが、この漫画を読んで考え方が変わりました。ベストの状態で、かつ細心の注意を払っても死ぬことがあるのが山なのだと。

そんな山の厳しさと美しさを誰よりも知る三歩とそれを取り巻く人々を描いた物語です。山そのものというよりも、山という特殊な環境でしか見る事の出来ない人間の姿を描こうとした漫画だと言う風にも感じます。ほぼ一話完結型で、12巻までクオリティを落とす事無く書き続けている作者の力量と三歩という特別なキャラクターを生み出したパーソナリティには敬服しっぱなしです。長く長く続いて欲しい漫画の一つです。

ナイスレビュー: 3

[投稿:2010-09-17 13:10:03] [修正:2010-09-17 13:10:03] [このレビューのURL]

笑いの成り立ちというのは空気そのものだと思うんです。学生時代に「こいつならどんなタイミングで何を言っても面白い」と思わせるような奴っていませんでしたか?主人公上妻はそんな奴です。そしてさすが青春漫画の巨匠、笑いが起こっている教室の「空気」がビリビリ伝わってくるような筆致で描いています。ギャグそのものが面白いか否かははっきり言ってどーでもよいのです。ここまでうまく笑いの「空気」を描ける人はたぶん森田まさのり一人でしょう。

相方というものの存在もこの作品の大きなテーマです。一人では成立しない「漫才」という形式のコメディ。プロを目指し、その中に足を踏み入れる上妻は、はじめて自分だけでは成立しない笑いの世界で生きていくことを強いられます。その中で向き合う葛藤?自分よりも面白い相方の存在、先輩芸人と相方の複雑な関係、関西弁でしゃべるか否か?はめちゃくちゃにリアリティがあります。

ずっと描きたかったテーマだったそうで、それも一読すれば納得です。ろくでなしやルーキーズと並び称されて当然の素晴らしい作品だと思っています。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-05-18 20:27:06] [修正:2010-05-18 20:27:06] [このレビューのURL]

全編通じて素晴らしい作品です。全4巻、密度のみっちり詰まった起承転結です。しかし、個人的にはその転の部分、3巻の価値の比類なさに奮い立つばかりです。

自我と宇宙との間に佇むハチが見つけた白い猫との出会い。無限の荒野を彷徨うことができるほど人間は強くない。惑星のように惑う人であったハチが自らを地上に縛り付ける重力を見つける。それは結局のところホシノという愛に溢れた女性だったということ。

宇宙に行った人間は多かれ少なかれ宗教的な色彩を持つ考え方をするようになるそうです。それはきっと、自らの卑小さとこの宇宙を構成するものの言葉にはできないほどの偉大さを発見するからだと思うのです。

宇宙が日常の延長線上にある未来の世界においても、「夢って何?」「愛って何?」と惑うハチの姿はいつの時代にも通じる問いを投げかけているところが素晴らしいですよね。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-03-14 10:52:31] [修正:2010-03-14 11:05:49] [このレビューのURL]

一介のロードバイク乗りがレビューします。

末はランスかパンターニか。恐るべきクライマーの資質の持ち主が開花していくお話です。同時にオタクだった少年が自転車に乗ることで自分自身の居場所を見つけていく物語です。

とにかく走っている人間・闘っている人間の描き方が秀逸。荒削りかつポップ、いい意味で力の抜けた絵が自転車競技のスピード感を感じさせてくれます。読むたびに「(ペダルを)回さなくては!」と夜道に漕ぎ出すモチベーションをくれる漫画になっています。同時にチームメイト(特に先輩)の描き方も巧い。ライバルとして、導き手としての先輩の姿は涙を誘う場面も少なくありません。

ライバルたちのキャラクターも秀逸。現在チャンピオンでの連載もフォローしていますが、毎週毎週熱すぎる展開が素晴らしいです。このまま一気に突っ走って、坂道君やライバルたちが世界で走る所まで書いてくれればいいなぁと妄想してしまいます。

僕のようなおっさんにも、小学生ぐらいの子どもにも楽しく読める稀有な漫画のひとつだと思います。ツールドフランスで敢闘賞を獲得した別府選手がシャカリキを読んでいたことは有名な話ですが、この作品もそんな存在になるのではないかと個人的には思います。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-02-17 22:22:30] [修正:2010-02-18 09:49:10] [このレビューのURL]

棋士を題材に羽海野チカが描くって聞いた時には「なんで?」って思った人、いっぱいいる様な気がします。でも実際に読んでみると羽海野さんの描く孤独とその中で必死にもがく主人公、それを支える人々とのつながりというものを表現されているのを感じ、納得させられましたた。ああ、この人は誰にも助けてもらうことのできない、たった一人の戦場を描きたかったんだろうなぁと。

「負けて転がり落ちる」までは立ち止まることは許されないプロ棋士の世界。何故苦しんで闘って相手を蹴落としてまで勝ち残らなければならないのか。邪推にもほどがありますが、作者さんが漫画の世界で闘っている理由も、主人公である零が探し求めるものとおんなじなのではないかと思わされました。

村山聖が好きな自分は二階堂くんがお気に入りです。お願いだから最後まで殺さないでください。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-02-17 23:17:14] [修正:2010-02-18 09:45:48] [このレビューのURL]

ロボットものとか、怪獣を子どもたちが倒すとか、そんな紋きり型の分類じゃこの作品の素晴らしさは説明できないと思います。エヴァとの類似性は両方の作品を見た人なら必ず気づかされる点ですが、エヴァの追体験というアナロジーでは読み解くことの出来ない魅力を抱えた作品であることは間違い無いです。

次々とやってくる正体不明の怪獣。子どもたちの双肩に圧し掛かる責任。悲惨かつ救いの無い展開と結末。でもなぜか読み終わった後に前を向いて、自分の生きる現実に立ち向かわなくては、との決意を新たにさせられる作品です。少なくとも僕にとっては。

おそらく家族の愛、絆、何気ない日常の素晴らしさ、そんなものに子どもたちが気づいていく過程を描いていくのが巧いのです。死を意識しなければ生を意識することも無い。そんな中で彼らが自分たちの使命と向き合い、ありふれた日常を生きていく姿は乾いた印象を与える作者の絵と相まって、この漫画の唯一無二の魅力を構成していると思います。

もちろん物語を支える設定は秀逸の一言。無茶とも言える設定を無理なく物語の枠の中に収めていると思います。

子どもたちが死んでいくことに関しては賛否両論でしょうが、少なくとも実際には絶対あってはならないことを扱えるということも、漫画というメディアの持つ一種の武器なんだな、という当たり前のことも再確認しました。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-02-15 19:10:41] [修正:2010-02-15 19:13:36] [このレビューのURL]