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総レビュー数: 17レビュー(全て表示) 最終投稿: 2005年11月09日

10点 ぼくんち

幸せって何だろう?大切なものって何だろう?
何で人は一人では生きられないんだろう?
こんな疑問に対して、特に最近の人は孤独主義的な回答をする人も多く、実際僕も「人は一人で生きていくものだ」なんて思ってはいました。いろんな人に助けられながら、それでも孤独な道を行くのが人生だと思っていました。
この作品で、その価値観が引っくり返りました。
物語は、日本のどこかの貧しすぎる港町。三年間家出していた母ちゃんが、主人公の一太と二太のところへお姉ちゃんを連れて戻ってくるところから始まります。出てくる登場人物全員が、もうどうしようもないくらいダメダメで貧しい人たちばかりで、その貧乏っぷりが、まるでノンフィクション?ってくらいのリアリティ(新幹線の改札のつり銭を獲ったり、走行中のバスに飛び込んで慰謝料を「ボーナスボーナス♪」と喜んだり、駐車場の車からガソリン盗って売り払ったり・・・)。ヤクや賭け事やセックスが横行してるムチャクチャな舞台設定は生々しく、「昔」の話ともとれるし、また「未来」の話とも取れるあたりに、この作品の強烈な、ある意味で\"普遍性\"を感じたりしました。
しかし、そんな最悪の舞台設定の中でも、一太や二太は様々な出会いや別れを通じて、色んな間違いをしながらも、やがて少しづつ成長していきます。ワルの\"こういちくん\"の所へ弟子入りし、多くのことを学んでいく一太兄ちゃん、「辛いときこそ笑うんだ」が信条の\"姉ちゃん\"とともに生活しながら町の人たちを見つめていく二太。ヤク中の父ちゃんの世話をしながら、やがて笑顔で運命を受け入れるさおりちゃん、街一番の長老の鉄じい、一太との切なすぎる逢引を共にした\"浜辺のルリ子\"・・・他、挙げればきりが無いほどに様々なエピソードが描かれ、そして儚く消えていきます。どのエピソードをとっても、人間の人生とか儚さとか優しさとか暖かさを、物凄い説得力を持って語りかけてきます。
終盤、登場人物たちが最後に選んだ道もひとつひとつが暖かくて切なく、人間的に大きな成長を遂げている姿は感動的で、表紙一つとったって、一巻→三巻までに表紙に描かれている人物がだんだん減っていくアレを見ただけで、もー物語の展開を知る人は涙無しには直視できないと思います(しかも笑顔・・・)。成長していく、生きていく、そして死んでいく・・・壮大な\"人生列車\"。これからもこの世界は続いていくし、受け継がれるものもあれば、そこで途絶えるものもある。だけどそれでも、人間が生きている以上、決して無くならないものがある。現代の裕福な人間が失ってしまった「幸せ」の真実の意味を、この作品は圧倒的な力を持って呼び起こしてくれました。「泣くことは悪いことじゃない、感情表現なんだから泣かなきゃ損だ」なんて言ってた友人よ、これを読み終えても、まだそれが言えたら「図太いね」って小一時間問い詰めてやる。愛って何だっけ?家族って何だっけ?優しさって何だっけ?人が死ぬって、どういうことだっけ?・・・そんな重たいテーマに、ひとつひとつ丁寧に答えが出されていき・・・(でもクサくないのが凄い。本物の持つ説得力だと思う、これは。)人間は生きていく、続いていく、終わらない物語―――。壮大な人生観。「ずっとずっと愛し続けよう」という言葉の重み。・・・いくらでも言えちゃう位、この作品は、もう、本当に・・・優しさに溢れているのだと思います。
紛れも無く、後世に語り継がれるべき傑作であることは間違いありません。対象年齢はだいぶ高いですが・・・

ナイスレビュー: 1

[投稿:2006-11-19 20:56:48] [修正:2006-11-19 20:56:48] [このレビューのURL]

パーフェクト。「平成のサザエさん」になりえる(笑)、日本人のスタンダード・コミックにもなりえる、紛れも無い傑作です。

このマンガは、夏休みの初めの日に引っ越してきた「とーちゃん」と「よつば」が、近所の人たち(特にお隣さん)を巻き込みながらも、実にだらだらと「なんでもない日」を過していくマンガです。幼稚園〜小学校低学年くらいの年齢で好奇心旺盛なよつばは、田舎っ子なのか海外っ子なのか、都心から外れた住宅地の何もかもが発見で、ブランコからクーラーまで知らないものばかり。些細なことでもよつばの目には夢のような世界が広がっていて、何でも不思議で、何でも楽しくて、毎日元気に走り回っています。その「ちっちゃい子ならでは」の無邪気な行動が何から何までがなんだか微笑ましくて、テキトーにどのページを開いても顔がほころびます。設定では「変わった子」なんてなってますけど、僕は子供ってアレぐらいでいいんじゃないかなって思えてしまいます。雨にわざと当たって「おーすげー!」とか、鳥よけの風船を怖がったりとか(僕も子供の頃怖かったです)それってきっと人間として純粋なことなんじゃないかと。周りの大人や子供たちもどこか素朴で、人間味溢れています。2巻からギャグもパワーアップし、クスクスからゲラゲラになることもしばしば。登場人物の瞳が心情でコロコロ変わるのもユニーク!最後にいたっては「あー、人間っていいなぁ」って思えてしまうほど(笑)
・・・そうやって読んでいると、なぜだかノスタルジックな世界に引き込まれるような気がするのが不思議です。書かれている話は「買い物」に行ったり、些細なイタズラをしたり、挙句の果てには旅行のお土産を配ったり等、本当に日常のなんでもない姿です。だけれど、それもよつばの目からは発見だらけで、そして楽しくてしょうがないものに見えてくる。どうでもない日常もマンガとして見事に描かれる。ふと時折、「果たして現代人は(自分も含めて)毎日をこんなに楽しめてるだろうか」なんて考えてしまうのです。プールの監視員の上るイスから見た世界も、トラックの荷台から見る世界も、今の私たちは忘れかけてる。ケーキ屋さんに入ってたくさんのケーキを見たときのあのトキメキも、デパートの陳列棚が面白くって駆け回っていたあのトキも、今は感じなくなってしまったことです。たしかにそれが「大人になる」ことなのかもしれない。だけれど、忘れてはいけない事なんじゃないかと。見方が変われば世界も変わって、退屈で倦怠な毎日もなんだか違って見えてくるはず。大人になったって、「すっげーおもしろかった!」って言える出来事を見つけたっていいはず。「朝飯が美味しい!」ってことは、実はものすごい幸せのはず。マンガ中の言葉を借りるなら「何もないが、ある」。今ある平凡だって永遠じゃないし、だからこそ現実は楽しい。そして切ない。夜が更けるまで遊びまわったあの頃は、夜寝るときに明日が楽しみで仕方が無かったはず。今は?・・・そんな深い、深い、そして重たいテーマ。「大きくなると忘れてしまう\"何か\"」を、このマンガは持っています。「本当になんでもない日だって、マンガになるんだ」ということを問いかけてくる全編に通じるテーマには深く共感できました。
たしかに「このマンガはつまらん!」という人はいると思います。でも、できるだけ多くの人がこの\"笑い\"が分かる日が来たら・・・なんて考えてしまったり。多分このマンガは夏休みの終わりとともに終幕を迎えるでしょう。そんな、たった一ヵ月半の\"永遠の時間\"を精一杯駆け回る、よつばと近所の方々。暖かくて、どこか切ない。
不満点がふたつ。ひとつはとなりんちの綾瀬さんが庶民にしてはだいぶいい生活をしてること。この場合は裕福層にしないほうがいいのにな・・・それともう一つ、どんなにこのマンガをベタボメしても許せないのが、ちょっと大判だからって、一冊630円は高い!(笑)

ナイスレビュー: 2

[投稿:2006-11-19 20:55:48] [修正:2006-11-19 20:55:48] [このレビューのURL]

説明文どおり(笑)だらだら進むマンガ。
大学生という一生でも掛け替えの無い時間を
のほほん、時に強引な(笑)ギャグで鮮やかに描き出す。
大学卒業後も数年間連載が引き伸ばされる点はよく批判対象にされているので、
その部分もたしかにマイナスではあるが、
ゴールインまでのラスト2年間の怒涛の展開は現在も色あせない見事な出来。
「こんな楽しいときだって、永遠ではない」
八年間に及ぶ長期連載で作者が伝えたかったメッセージは、全巻読み終えた後に、
ようやく気づくことが出来るのだ。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2005-11-09 19:12:17] [修正:2005-11-09 19:12:17] [このレビューのURL]

とにかく最終巻までギャグが乱れない。
やや独特感もあるが、この人間の心の隅っこをくすぐられるような不思議な\"みずしなギャグ\"の
初期作にして最高峰であろう。
この作品中に横浜ベイスターズは38年ぶりの優勝を遂げた。
そのコミカルなドキュメンタリーとしても、読める。
野球が分かるなら、できるだけ多くの人に読んでいただきたい。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2005-11-09 19:06:22] [修正:2005-11-09 19:06:22] [このレビューのURL]

8点 蟲師

日本。
日本という国土に生まれて、やっぱり幸せだったな、と思えた漫画でした。
動物よりも植物よりも原生生物に近い不思議な生命体「蟲」(\"虫\"とはほとんど似ていない形をしています。虫嫌いの方はご安心を。カタツムリはいたけどね。)、それの専門家が「蟲師」で、主人公のギンコも蟲師の一人です。この作品は一話簡潔の短編集に近い内容になっています。
まずは世界観の素晴らしさ。作者曰く「江戸と明治の間にもうひと時代ある感じ」。描かれる舞台は、緑深い山奥の静かな一軒家、からぶき屋根の家々が並ぶ雪国、漁師達が暮らす静かな漁村の町――と、「ちょっと前まであったような日本の風景」です。強引なコマ割りは無く、物語も\"静かに\"展開していきます。その傾向が顕著に出ている第一話の素晴らしさは特筆すべきものがあります。風の音、水の音、床の軋みが聞こえるような、BGMの不要なこの「静かな世界」に一気に引き込まれました。着物、茣蓙、筆、日本酒、杯、行灯、蚊帳、刀・・・、一切「やかましい」シーンなしに、独特の空気観で1ページ1ページが彩られています。こんな風土を持った国に生まれたことを誇りに思いたいです。ハガレンもジャンプ系漫画でもいいけどさ、この漫画は真っ先に世界に輸出すべきですよ!世界中に、「日本はこういう風土を持った国なんです」と誇りたいですよ!
この「蟲」という存在も、なんだかいい。敵ではないし味方でもない。「お互い生を遂行している」存在。この「共存」していく対象として見ている、人間と、蟲師と、そして蟲の微妙な関係は、太古から自然を尊重し、協調し、守りあってきた日本人の姿を映しているようにも見えるのです。タヌキに化かされ、いるようないないような微妙な生き物たちが存在していた「ちょっと前の日本」。これははたしてファンタジーなのでしょうか。どこか懐かしささえ漂う、「日本の原風景」そのものを映し出しているような気がします。
日本古来の様々な慣習、伝説、故事に着想を得たと思われる短編一本一本それぞれ違う世界観を持っており、様々な物語を展開してくれるのですが、物語自体はツメの甘さというか、「え?だったらこうなるんじゃないの?」的な、成熟しきっていない脚本であることが顕著に出てしまっているのが残念でした。もともとあまり物語自体を作ることは上手くない方なのかな?着想はどれもいいんだけどなぁ。アイデアで止まってそこからのツメが甘いものが多かったように思えました。
それと、あまり関係ないことかもしれないけど・・・。今回僕は予算の関係で(笑)一巻しか買えなかったのですが、そこに収められていた5つの短編の作品順が見事でした。ミュージシャンのアルバムを聞いているような、交響曲を最初から聴いているような・・・。世界風景もかぶらないように並べられています。そして本のラストは、壮大な「命の終わり」を描いた物語になっているのです。山から海へ。命が始まり、そして終わる。山の奥深くから始まったこの本は、最後には「母なる命の源」である海で静かに終焉を迎えるのです。この話に出てくる漁師たちもグッド。本当に、かつて日本に生きていた「原風景の日本人」たちで、そのイキの良さや力強さは、懐かしさも通り越して勇気を与えてくれるような気がしました。
そんな具合にこの本を弟に見せてたのですが、読み終えた弟は一言、「これ、ブラックジャックじゃん」と・・・。ガックシ・・・

ナイスレビュー: 1

[投稿:2006-11-19 21:05:42] [修正:2006-11-19 21:05:42] [このレビューのURL]

小さいときに父親は病死し、溺愛してくれた母親も事故死してから数ヶ月、親戚の迷惑をかけまいとテント生活をはじめていた透(女)が、美男子(笑)一家にひょんなことから転がり込むところから物語は始まります。ところがこの一家は、異性に抱きつかれると一定の動物に変身してしまう「十二支の呪い」に取り憑かれていて・・・
最初こそ「アホか!」と思っていた「十二支の呪い」だけど、この設定が何気に深いっ!この物語に出てくる登場人物たちは皆心の傷や痛みを抱えていて、それを受け止めることが出来ずにぶつかり合ったり、引き篭もったり、何かに執着したりしています。「でも違うんだ、それを受け止めるためには人に頼ったっていいんだ、甘えたっていいんだ」と、その人のすべてを暖かく受け入れ、包み込む行為、\"抱く\"。それを許されない人々の物語なのです。この一家は何かを大切にしたり、認めてあげることが苦手だけど、それって他の人も多からず少なからず持っていることなんじゃないかと。この「抱きしめる」というキーワードが凄く効果的に使われていて・・・ACのCMでも「抱きしめる、という会話」って文句があったけど、まさにそれ。その人の心にまで触れて、包み込んであげるその行為の重み。「弱くったっていいんだ、寂しがりやだっていいんだ。強がらなくてもいい、ありのままをさらけ出せばいいんだ」・・・そんなメッセージが全編に込められています。なんて、優しいんだろう。その人を大切にしたいと思う気持ちが、その人を助けてあげたいって気持ちが、こんなにも重く深く、揺ぎ無い支えになることが出来る。透が、そして草摩家の面々が、静かに語りかける言葉ひとつひとつに溢れんばかりの優しさが込められていました。痛みを受け止めて、抱きしめてあげられる人がいる強さ・・・。某アーティストの曲に「embrace」ってのがあるのですが、それをちょこっと思い出しました。登場人物設定もなかなか上手いのですが、特筆すべきは、主人公の透。大好きだったお母さんまで亡くして、不遇に不遇が重なる悲しい役なのに、なんであんなに明るく前向きに笑ってられるんだよぉ!「世界で一番バカ」な完全無欠の透の「愛おしさ」が、この作品を引っ張っていると思います。ただ、その「説教」にたどり着くまでにはもう少し手順を踏まないとなぁ、と感じる部分はありましたが・・・。良い事は言ってるのに、その言葉が伝えられるまでのプロセスにもう少し丁寧さがあれば、より違和感なく、唐突に感じずに受け入れられたと思います。
それ以外の部分だと・・・生徒会長のキャラがええわ(笑)それと「欲情すればいい!」に大爆笑したりとか(でもこの後すぐに紅葉の名シーンなのだから、このマンガはあなどれない・・・)。ただこれ、「ホームコメディ」かぁ?コメディ以上になんだか大きなものがあるけれど、あえてそっちを紹介文では否定して「コメディ」にしちゃってるのか・・・。重たいテーマを低年齢層でも読める少女マンガに上手くアレンジ出来ていると思うので、そっちを推せばよいのにね。
絵柄自体はだいたい2〜3冊で慣れましたが、やっぱり爪を紫色に塗っちゃうセンスが僕にはわかりませぬ・・・。とはいえ星5つまであと一歩ってくらいの見事な作品でした。女性はまずもちろん、男性でも手に取っても悪く無いんじゃないかな。最初に人から薦められた時に言われたとおり、「巻が進めば進むほど面白くなり」ます。ところで、メイドが出てきたり、コスプレが出てきたり、女装がいやに多く出てきたりとか、微妙にヲ同人臭がするのは何でだろう・・・?女性なら誰でも少なからず持っている願望なのかしら。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2006-11-19 21:01:05] [修正:2006-11-19 21:01:05] [このレビューのURL]

文化庁メディア芸術祭で大賞を獲ったマンガ作品です。
ちょっと高いな〜・・・と思いつつ注文して届いてみたら、かなり薄っぺらい(笑)ほぼ白黒で100ページ足らず。ああーボラれた・・・と、読む前に軽くショック受けました(笑)
まず目をひくのが、トーンどころかベタもほとんど使用していない丁寧な作風。この独特の「風が流れている」感じの画風が作品全体の静かな雰囲気作りにとても貢献しています。人間の書き方に最初ちょーっと違和感を覚えましたけど、10ページで慣れました(笑)。
この作品全体の大きな特徴は、「原爆」をテーマにしながらも当日のシーンは3〜4ページしか出てこないこと。「桜の国(1)」に到っては「原爆」の「ゲ」の字も出てきません。いずれも被爆者や原爆二世の物語で、「原爆ななぜダメなのか」を書かず、「原爆とは(被爆者にとって)何だったのか」ということを追求していきます。この本のキモは原爆二世の七波がボケた?父の後を尾行して広島で一日を過ごす「桜の国(2)」。途中途中で七波の父と母(被爆者)が出会い、そして東京へ移り住むまでのエピソードが挿入されたりと、この一冊の本としてのエピソードを総括する流れを汲んでいきます。逆にむしろ「夕凪の街」のほうは伏線扱いで、かえってただの「原爆漫画」になっています。ちと残念。
が、この作品のスゴい所は、この本全体での最大に盛り上がるシーンに「原爆の悲惨さ」を持ってこない所。「それでも歩んでいこう」という二人の小さな人間の人生を垣間見る部分に、ヒトの真の強さを見ることが出来た気がして、何度読んでいてもそこで胸が熱くなります。戦争があった。原爆があった。それでも日本人はこの60年間で前へ進んできた。決して目をそらすことはなかったけれど、それでも「乗り越える」ハードルでしかない、被爆者たちの力強い、それでいてささやかな、幸せ一杯のラストシーンには、グーッとこみ上げて来るものがありました。最後のページの電車のシーンで、もう一度テーマは語られますが、あの2ページぶち抜きのシーンには敵いません。見事!
この物語、できるだけ多くの人に読んでもらいたいなぁ。多分僕よりも感動できる人間は一杯いるだろうに。映画化ということで、期待しています。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2006-11-19 20:51:13] [修正:2006-11-19 20:51:13] [このレビューのURL]

映画の方からこの漫画を知りました。いきなり関係ありませんが僕は映画が大好きで(笑)、「この卓出した映像センスは原作からも来てるのかな?」と楽しみにしてました。いやー!これは原作の力だ!「ずば抜けてんだよ、センスがっ・・・ハンパじゃねえっ!」
とにかく、凄すぎる絵。いまだかつてこんなに絵がうまい人は見たことが無いです(上手(じょうず)にあらず)。トーンをほとんど使わずペン1本で描かれた、陰影のハッキリとした独特の絵柄。パワフルな「空気の動き」までも見えます。さらにはタダモノではない、\"映像的\"を飛び越えたアングル、コマ割り、切り取り方・・・。漫画を読んでいるというよりは「映像体験」させられているような錯覚にさえ陥ります。特に漫画史上における金字塔の対決ではないかと思われる「星野VS風間」戦は最も気合の入った作画になっており、紙の中に飲み込まれそうなほどの圧倒的な迫力!もちろん作画だけではなく、挫折と栄光と苦悩を鮮やかに書き上げたストーリーに、磨き上げられたキャラ造形、随所に挟み込まれているユーモア・・・いずれもかなり高レベルでまとまっています。
ストーリーについて、もう少し。才能はあるのにやる気が無い月本が最初のメーン主人公ですが、彼が目覚めていくうちに、次第に主人公は星野にスライドしていきます。この二人のシーンごとの心情変化が非常に巧みに書かれており、展開も「ムダ」なシーンやわき道にそれるようなコトもほとんどなく、相当計画された上でのシナリオなのだなと思えました。また、二人だけではなく魅力的なサブキャラクターたち――挫折を乗り越えて\"役目\"を見つけるチャイナ、「飛べない鳥も居る」と苦渋の末に卓球を諦めるアクマ、最強ゆえの苦しみの果てに、最後に星野によって解き放たれるドラゴン(風間)・・・、さらにはコーチ陣の「バタフライ・ジョー」と「オババ」も加わって複雑に絡み合い(いや、ある意味単純?)、ふたりの主人公を盛り上げます。特に僕は佐久間(アクマ)にどーしても感情移入してしまって・・・ゲホゲホ。兎に角もこれらキャラクターたちの性格付けがいずれも強烈で、それらから放たれる痛快なセリフもこの作品の魅力です。セリフは最初から最後まで見事でした。日常生活で使ってしまいそうです(笑)
とはいえ単純には「スポ根」モノであり、シナリオも、陳腐と言われてしまえばそこまでという面はあります(笑)。しかしそれでも、「やっぱり、いい」と思える、これらのキャラクタ、シナリオ、そして\"映像\"。チャンスがあればぜひ手に取っていただきたい漫画です。この独特の絵柄、良い意味でも悪い意味でも、途中から慣れます(笑)

ナイスレビュー: 0

[投稿:2006-11-19 21:04:28] [修正:2006-11-19 21:04:28] [このレビューのURL]

今話題の新感覚野球マンガです。
今まで野球マンガというと「勝気な投手の主人公が、速球を武器にワザを持つライバルを悩みながらも打ち破っていく」とか、また、よく超人的な技持ってたり、強烈な個性のアリエナイキャラクターたちがメインだったり、ガチガチに塗り固まった野球理論や戦略で攻めたりと、何かと偏った、またここ数年新たな傾向が見られていない「王道派」のジャンルでした。ところがこの作品は以上の定義をことごとく裏切っていて、主人公は自分に自信が持てずいつもクヨクヨして泣き虫、努力家なのに認めてもらなかった過去もあって劣等感を持っていて、挙句の果てに球が遅く・・・他にも、彼を支える捕手は天才肌なんだけど投手を駒扱いする所があったり、登場する選手誰一人として「必殺技」なんて非現実的なものも持っていない、なんだか一見は冴えない、見栄えのしない野球マンガに見えます。
この作品全編に描かれているものは、もちろん現実的で科学的な野球理論があって、それに基づいてはいるものの、結局は「野球って人と人のつながりなんだ!」ということだったりします。三橋は阿部を少しづつ信頼していき(あの校舎裏のシーンはGood!)、また阿部も「捕手とは何か」に少しづつ気がついていき・・・配球や戦略だって、もちろんこのマンガでは丁寧に書かれているけれど、でもやっぱり最後には「キモチ」だったり「自信」だったり「信頼」だったりする。それは「相手との駆け引き」などと軽く書くにはあまりに複雑で深く、もっと根底の、野球理論ではない「人間対人間」のつながりが試合を左右していく様子はリアルで、マインドが次第にじわじわと人間を突き動かし、試合を変えていく姿は「ゾクゾク」来る面白さ!何の劇的な物語も無く出会ったメンバーたちが少しづつ一つになっていく様子、過去のトラウマを仲間に支えられながら乗り越える姿・・・「負けたくない!」「勝たせてやりたい!」とヒトがそう思う衝動は単なる欲ではない現代に希薄な\"キズナ\"を描いているとも取れるし、またそうでもなくて、それを描いたもの自体が根本的に人間が読んでいて面白いのかもしれないし。ともかくも、普段野球マンガはおろか、普通の「マンガ」でさえも描かないような、\"リクツ\"じゃない人間っつー存在を、見事に、そしてどこか「完璧なドラマ」になりきっていない庶民感覚(?)の残ったように描かれた物語は「うおおっ!」の一言です(笑)
ちょっと書いたけど、このマンガの「もう一つの柱」みたいに書かれている「科学論に基づいた野球ウンチク」は、たしかに色々「へぇー」と来るものもあったけど、それはどこか「科学トレーニング」の一歩手前で、ここにもどこか「現実的」というか、「庶民的」な感じが出ていて気持ち良いです。「美味しいものを美味しいと食べること」だったり「手をつないで相手の体温を感じたり」といったトレーニングも、なんだか「メンタルトレーニング」というには幼稚で、だけど「より効果がありそう」で・・・この不思議な感覚の根底は説明が難しくて、うんと、読んでください(笑)
登場してくる女先生がときおり非現実的なコトをやってのけちゃたり、目つきがあちこちで怖かったり(笑)他にもたまーに「オイオイ」があったりもしましたが、野球マンガとして読みたい人は勿論、「野球に興味の無い人が読む普通のマンガ」としても読める秀作だと思いました。「ゲッツーって何?」くらいは知っといたほうが良いけど。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2006-11-19 20:54:23] [修正:2006-11-19 20:54:23] [このレビューのURL]

映画版とは違い、この作品のキモはノスタルジアではない。そこだけ留意した上で・・・

とにかくすべての物語に共通する人間の暖かさにはニコニコせずにはいられなくなる。
この50年間で日本人が失ったもの、そして今も揺るいでいないもの・・・
何気ないエピソードから日常の幸せを巧みに描き出している。
長期連載は現在も続いている。歴史の生き証人として、ぜひ手にとってみていただきたい。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2005-11-09 19:02:18] [修正:2005-11-09 19:02:59] [このレビューのURL]

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