「shinpe-」さんのページ

総レビュー数: 22レビュー(全て表示) 最終投稿: 2010年02月15日

ロボットものとか、怪獣を子どもたちが倒すとか、そんな紋きり型の分類じゃこの作品の素晴らしさは説明できないと思います。エヴァとの類似性は両方の作品を見た人なら必ず気づかされる点ですが、エヴァの追体験というアナロジーでは読み解くことの出来ない魅力を抱えた作品であることは間違い無いです。

次々とやってくる正体不明の怪獣。子どもたちの双肩に圧し掛かる責任。悲惨かつ救いの無い展開と結末。でもなぜか読み終わった後に前を向いて、自分の生きる現実に立ち向かわなくては、との決意を新たにさせられる作品です。少なくとも僕にとっては。

おそらく家族の愛、絆、何気ない日常の素晴らしさ、そんなものに子どもたちが気づいていく過程を描いていくのが巧いのです。死を意識しなければ生を意識することも無い。そんな中で彼らが自分たちの使命と向き合い、ありふれた日常を生きていく姿は乾いた印象を与える作者の絵と相まって、この漫画の唯一無二の魅力を構成していると思います。

もちろん物語を支える設定は秀逸の一言。無茶とも言える設定を無理なく物語の枠の中に収めていると思います。

子どもたちが死んでいくことに関しては賛否両論でしょうが、少なくとも実際には絶対あってはならないことを扱えるということも、漫画というメディアの持つ一種の武器なんだな、という当たり前のことも再確認しました。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-02-15 19:10:41] [修正:2010-02-15 19:13:36] [このレビューのURL]

8点

続編の「MOON」と併せたレビューです。

今このレビューを書いている最中にボレロが頭で鳴り響いています(笑)読んだ方はお分かりになりますが、あの演出は先に似たような例があるのでしょうか?もし無いならば、それを体験するだけでも読む価値あります、たぶん。

バレエという(ほとんどの読者にとって)馴染みが薄い芸術をエンターテイメントに仕上げるためには、いい意味での荒っぽい演出が必要だったんだと思います。囚人たちが号泣したり、聴こえない音楽が聴こえたり。そういった昴やライバルたちの天才を表現する技法が半端じゃありません。

僕はバレエのような高尚な芸術はもちろん門外漢なのですが、このマンガのあとにyoutubeでボレロと白鳥の湖を最後まで見てしまいました。稀にそういった知らない世界の入り口になってくれる作品に出会えることは、マンガを読む僕のひとつの動機たりえているんだろうと思います。

作中に出てくる天文学者の一言が素晴らしい。「もし将来、人類が宇宙人と接触したときに、最初に彼らと通じ合えるのはバレリーナではないだろうか」昴を読んだあとだとそうかもしれないと思ってしまうところが怖い(笑)

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-11-26 21:26:56] [修正:2010-11-26 21:52:42] [このレビューのURL]

この方の漫画はセンスと情熱が同時に感じられるところが凄いなぁと思いながら読んでます。

兄が夢を追う。しかも弟がすでに叶えてしまった夢。
この設定だけでも劣等感がむき出しになった暑苦しい展開になりそうですが、魅力のある脇役たちの力と時折入るセンスのよいギャグが漫画にいい意味での軽さとスピード感を加えてくれているような気がします。

だからと言ってメッセージ性が薄いかというとそんなことも無く。万人が憧れる宇宙を目指す人たち(兄弟のみならず)のお話なので、夢やロマンがいっぱいです。

個人的には目標を忘れそうになった時に読み返したくなる漫画です。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-02-17 22:43:40] [修正:2010-09-23 13:33:45] [このレビューのURL]

一介のロードバイク乗りがレビューします。

何故人は自転車に乗るのか?特に何故高い金をかけてロードバイクなんてヤクザな乗り物に乗るのか?答えはそれに乗る事でしか得られない類いの快感が有るからです。これは誰かに説明するのがものすごく難しい。その言語化、可視化が出来る人は漫画のレベルと自転車のレベル(単に速いと言う事ではなく、自転車に対する姿勢や考え方そのもの)がもの凄く高い次元でリンクしているということだと思うんです。

のりりんは、まぎれも無くその域に居る作者が「自転車って楽しいかもよ?」と全力でつぶやいている漫画だと思います。決して叫んでは居ないんです。あくまで鬼頭節で淡々と進んでいきます。

主人公がロードに乗った事が無い、というは最近の自転車漫画ほぼ全てに共通する初期設定だと思います。ほとんどの読者がロードに対して未知という現状を鑑みた結果なのでしょうが、その中でも「自転車の楽しさが伝わる」という点では白眉の出来だと思います。これからもきっとこのテンションで続いていってくれる事でしょう。期待を込めて8点で。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-09-17 12:58:57] [修正:2010-09-17 12:59:37] [このレビューのURL]

某国防関係のお仕事をしている友人に薦められて読み始めました。「本物の皇国の守護者がすすめるなら間違いないだろう」と(笑)。

モチーフとしての日露戦争+ファンタジーといった印象です。しかし剣牙虎(サーベルタイガー)や人間と「大協約」なる協定を交わした龍などが登場してきますが、理不尽なパワーを持つ戦闘主体はひっとつも出てきません。

つまりは戦争それ自体がどこまでも人間同士のぶつかり合い。兵器もそれほど発達していないため、作戦の良し悪しと司令官と人間的な力量がモロに戦闘に反映されます。さらにかわいそうなことに主人公新城の闘うのがほとんど勝ち目のない撤退線というところがなんともまぁ、という感じです。官僚主義に振り回され、十分な戦力を与えられないままに闘わなくてはならない司令官の悲哀をよく描いています。

続きは見てみたいような、このままでいいような、という感じです。北領戦争ほどの舞台はこの先新城直衛に残されていないような気もするので。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-05-15 18:44:45] [修正:2010-05-15 18:44:45] [このレビューのURL]

スピリッツの「このS」が面白すぎて読んでしまいました。久しくラブコメなんか読んで無いにも関わらず、一気に全巻読破です。なんというか、褒める時に使う言葉じゃ無いのはわかってますけど、設定がムチャクチャです(笑)そしてそのムチャクチャな設定にちゃんとキャラクターを向き合わせて、成長させているところが面白いを通り越して感動的ですらあります。

最初は自分のことしか考えていなかった三人がそれぞれの人生を見据えて覚悟を決めるシーン(いくつかあります)がこのマンガのキモだと思います。人間の愛はちっぽけじゃないんですねー。あとゴーヤーチャンプルーさんも書かれてますが、とにかく感情が伝わってくる表情の筆致は凄いです。

エロが多めなので苦手な方は控えた方がよろしいかと。でもこの人の描くエロは病的な脚色が一切なく、ストーリー上も自然で、どこまでも健康的だと個人的には思うので、それだけで敬遠するは、少しもったい無いかもしれません。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-11-24 19:17:28] [修正:2010-11-24 19:32:05] [このレビューのURL]

シェイクスピアという人間の不可思議さ。それは物語の洗練され方と彼自身の人物像の乖離にあります。都会的かつ奇を衒わない王道を行き、人間の存在の不条理そのものを深くえぐるような物語を書きながらも、彼自身は何てことはない田舎者だった。王族でも無ければ貴族でもない。そんな彼がなぜ、シェイクスピアたりえたのか?物語はこの疑問からスタートしていくようです。

もちろん史実なんてどーでもよいのですが、ハロルドさんはきっと虚実を織り交ぜながら、物語の深みと面白さを獲得していくのだと思います。この人は本当に、人間を描くのが上手ですね。歴史物だろうがバンドだろうが野球小僧だろうが無口な高校生だろうが、その才能は遺憾なく発揮されているように思います。

現行で発売されている一巻は、チャイナタウンとそこに生きる不思議な少女の物語です。当時のリヴァプールで生きる中国の人々の生活をハロルドさんらしいコミカルさを忘れないタッチで描いています。もちろん悲哀と辛さがしっかりと描かれているわけですが。彼女が果たして7人のうちの一人なのか。そんな無粋な推測をしてみたくなる僕のような方は、読んでみることをお勧めします。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-06-18 17:19:49] [修正:2010-06-18 17:19:49] [このレビューのURL]

夢中になって読める作品であることは間違いありません。キャラはみんな愛すべき存在だし、バレーボールの試合の描写も丁寧かつ適切でさらに魅力的。極めて狡猾(ほめてます)な複線張り方とその回収のスピードの速さ。忘れ難いメッセージ性も適所に孕んでいます。

でもなんだろう、巻を進むごとに感じるようになるこの違和感は。おそらくキャラがみんな作者のコントロール下にあることに対する嫌悪感を拭えないんですよね。

あたりまえっちゃあたりまえ。批判の対象になることすらおかしいのかもしれませんが、この作者の作品はその欠点が露骨に出てしまっていることが多いのではないかと思わされます。あまりにもキャラの動きに、作り手の作為が感じられる。感じさせない作品の方が稀有なのでそれを求める方が我侭なのかもしれませんが。

『G戦場』なんかにも見られる特徴ですが、物語の中にいる人々だけで人間関係を完結させていることへの嫌悪感が残念ながらこの作品でも感じられるようになってしまったことが残念で仕方ないです。

5巻までは満点に限りなく近い漫画だったんですが・・・。これからの展開に期待しながら、見守っていきたいです。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2010-02-17 22:32:27] [修正:2010-06-09 18:42:43] [このレビューのURL]

一介のロードバイク乗りがレビューします。

自転車(ロードに限ります。競輪とかじゃなくてね)という競技の素晴らしいところは「練習した量は絶対に裏切らない」ところだと思います。逆に言えば強くなるためには時間を掛けるということは絶対に避けることの出来ない行いだと言えます。才能という絶対的な強みを持つ人間であれ、たくさん走ることなくして強くなることは有り得ません。

と、いうことは家族や仕事や様々なしがらみを持つ大人にはとってもやさしくないスポーツなんですよ自転車ってやつは。朝も晩も走れるプロとは違って、ロードバイクに跨ることを愛する人々は皆少なからず何かを犠牲にし続けます。そんな自転車乗りたちが強くあろう、他人に勝とうというただそれだけのために、努力を重ねる。そんな姿に胸打たれるのは俺が自転車に乗っているから、というだけではないはず。それは世の中の無益な行いほぼすべてに共通するジレンマだと思うので。

作中の最初のクライマックスになる乗鞍(日本でたぶん一番有名なヒルクライムレース)で重力に逆らいハンドルにしがみつき、ペダルを踏み込む姿はまるで自分を縛りつけ、自転車から遠ざける現実を振り払う姿のように見えました。

自転車乗りの葛藤がめちゃくちゃ巧く書かれている漫画です。時々狙ってるのか天然なのか分からないギャグがたくさんありますが、それ含め楽しく読むことが出来る作品だと思います。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-05-15 18:23:58] [修正:2010-05-15 18:27:47] [このレビューのURL]

1度目の通読であまりのグロ&鬱に打ちのめされて。
2度目の通読で張り巡らされた複線とそれぞれのキャラが目指す本当の目的に気づいてふんふんとなって。
3度目の通読ではじめて俯瞰でこの作品を見ることが出来た結果、作者のストーリーテリングと複線の張り方と回収の仕方の巧みさを知ることが出来ました。ここまで来て、はじめてレビューを書こうと思いました。いやもうそれこそ1度目の通読はちょっと投げ出したくなるほど酷でしたよ…。

鬼頭さんがこの後に書いた『ぼくらの』が得てはいけない力を得た人間がその「責任」の意味を考え、自分なりのそれをどうにかして果たそうとする漫画ならば、『なるたる』は得てはいけない力を得た人間がそれを自分の(かなりひねくれた)欲望のために使おうとする漫画です。

そのキャラたちがやろうとする企てに選民思想みたいな受け付け難い思想も感じますが、まぁ個々のキャラクターが魅力的なのであまり気になりません。悪役が悪役っぽくないんですよね。宮子とか特に。「八紘一宇」を目指してしまうどこか子どものような無邪気さがある大人は個人的には好きです。

鬼頭さんの作品に一貫してある「魂」「生命」に対する問いかけが、竜というイメージと結びついている設定は素直に凄いと思いました。未来に贈るメルヘン、この看板には不足は無いです。本来のメルヘンが残酷で容赦の無いものであるという前提において。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-04-07 17:45:16] [修正:2010-04-07 17:45:16] [このレビューのURL]