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総レビュー数: 22レビュー(全て表示) 最終投稿: 2010年02月15日

10点 奈緒子

走ることによって辿り着く事の出来る高みとは何か、それを故郷や家族、友情や師弟愛、そして奈緒子の雄介に対する思慕を軸に描き切った作品です。奈緒子はどちらかといえば狂言師としての役割を担います。あくまで主人公は、走ることに祝福されたとしか言い用のない才能の持ち主である壱岐雄介です。

序盤は陸上や短距離、続編での展開となる後半はマラソンをテーマとして扱いますが、この漫画の白眉は中盤を彩る中学駅伝編、高校駅伝編、都道府県対抗駅伝編にあります。特に高校駅伝編はもうなんと言ったらいいのか、夏合宿は山道しか走らないし、よく転ぶし、監督は末期癌だし、各校のエースの標準タイムが当たり前のように10km27分台だしで突っ込みどころ満載なわけですが、それでも涙腺を根こそぎもっていくだけのパワーを誇っています。

走る(しかもほとんどの場合長距離)というかなり単調な、漫画には不向きであろう絵柄をこれだけの巻数描き切れたのは、初期設定の秀逸さも特筆されるべきながら、それ以上に走っている人間の思考をうまく描いた成功例といって差し支えないと思うのです。レースの合間のモノローグや回想シーンで浮かび上がる友情や家族愛は本当に理屈抜きでいい物です。各キャラクターの一人称による回想が「波切島」という架空の島とその島の陸上部の青春を構成しているような気にもさせられます。

残念な映画化でケチがつきましたが、この漫画の価値は微塵も揺るぎません。これも未読の方が心底羨ましいと思える作品のひとつです。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-11-09 04:52:48] [修正:2010-11-09 04:52:48] [このレビューのURL]

後続の「バキ」、「範馬刃牙」とあわせてのレビューを描きます。

まぁとにかくバイオレンス満載です。ただただ強さを求める主人公と脇役たちがぶつかり合い、殴り合い、まれに殺し合い、たまに友情を育んだりする漫画です。この「まれに」と「たまに」が自分の中で刃牙という漫画を10点に位置づける理由となっています。

彼らが闘うのはほとんどの場合相手を屈服させ、自分の目的を達成する為ではなくただ単に「自分自身が相手よりも上かどうか」を試すため。だから殴り合いはするもののその後に胸襟を開いて互いのことを認め合うシーンが多々あります。なんか古典的ですが、僕はこの漫画のそういうところが好きなんですよ。

ひたすらに「強さ」とは何かを求めるだけ、その基準において展開していくストーリー。魅力的な数々のキャラクター別の方法論の違いが戦い方、つまりは強さの追い求め方に現れます。ある者は本当の拳に出会うために日々自らの正拳を疑いつづけ、ある者は「1日に48時間のトレーニング」と死をも厭わぬ薬物の摂取を行い、あるものは危険に出会うことの無い―出会えない境地を目指し、ある者は最強を盾に自分自身の我侭を貫き通す。そして主人公はその我侭を止め、母の敵をとるためだけに強くなろうとする。

めちゃくちゃ古典的かつわっかりやすい漫画です。まさにエンターテイメントの本質だと僕は思っています。最近は回り道と冗長が過ぎるのではないかと思われている方も多いと思いますが、いいじゃないですか。この偉大な漫画のクライマックスは、俺はどれだけ遠回りしてもいいと思います。

あ、そうそう。個人的ベストバウトは

刃牙vs.ガイア
独歩vs.渋川

です。ベストの癖に2つですいません。すいませんついでにもうひとつ、刃牙好きな人何人かにベストバウトを訊いてみてください。たぶん滅多に被りません。それってこの漫画の懐の深さだと思いませんか?

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-05-20 01:11:55] [修正:2010-05-20 01:21:48] [このレビューのURL]

10点をつけるのに迷いました。なぜなら吉川英治の原作を未読の自分(原作よりも漫画を手に取ったのが早かったので、読まないようにしているんです)が、果たしてこの作品の価値を本当に計る事が出来るのか、と。でも10点つけました。どれだけ魅力的な原作の助けを得ていたとしても、絵と言葉によって表現される漫画というメディアの最先端にいる、という評価は他のどの漫画の追随も許していないと思うので。

宮本武蔵という歴史上の人物の価値は、彼が剣豪として強かったということに現れているのではなく、深淵極まりない肉体と精神の結合を体現したことにあるのだと思います。単に人に勝ち、その結果人を殺めてしまう道具としての剣ではなく、「天地とひとつ」となるための道としての剣。その葛藤の中で生きる武蔵の姿を、書いている井上さんの苦悩までも伝わってくるような息づかいで記しています。

絵はみなさんの述べている通り、素晴らしいの一言。BRUTUSの特集で美術評論家(だったと思います)の方が「現在活躍されているどの日本画家よりも画力が高い」と述べていました。個人的には、スラムダンクよりも秀逸かつ唯一無二(この作品に関しては、「天下無双」と呼ぶべきでしょうか笑)の作品だと思います。未読の方が心底羨ましいと思えるほど、素晴らしい作品です。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2010-03-01 12:47:03] [修正:2010-03-01 12:47:47] [このレビューのURL]

続編の21世紀少年と併せたレビューです。

僕は別にともだちがあいつで納得行かないとか、残された謎がどうとかはほとんど気になりませんでした。幼馴染が世界を救うというところに物語の中心があるわけで、そのような今まで誰もやったことが無いプロットを、ある程度キャラクターを立てながら=作者の都合よく動かすだけでは無く魅力的に見せようと思った時には十二分に許容されるべき欠点では無いかな、と偉そうながら思ってしまいました。

あるラジオ番組で著者が「マルオがこっちに行ってくれれば話は早いのに、行ってくれないんだもの!」と言いながらハハハと笑っていました。40年以上というマンガの中での時間の経過、その中でキャラクターも人格を獲得し、独自に「動いて行く」ことは避け難いと思うのです。その制約を超えてあの結論までたどり着くというのは、やっぱり手放しで凄いと言わざると得ない。

凄いと言えば、自分自身の中で生まれた情熱を最後まで責任を持って、稀代の構成力で書き切った挑戦そのものがそうだとも言えます。幼少時代のノスタルジックな空気感と、世紀末のカタストロフィーの予感をキッチリとリンクさせた作品を作るという挑戦自体が、やっぱり浦沢さんスゲーとなる訳です。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-12-20 17:24:24] [修正:2010-12-20 17:24:24] [このレビューのURL]

続編(そう言っても問題無いですよね?)の「愛知りしりそめし頃に」と併せてのレビューをを書かせていただきます。

僕らの大好きなマンガというメディアを創り上げてきた先人たちへの尊敬と感謝の念を新たにする作品です。敗戦後の富山における二人の少年の出会いが物語の始まりです。それが後の藤子不二雄である事は、皆さん御存じの通りです。

切磋琢磨、という言葉がこれほど似合う作品はマンガのみならず、小説や映画までを視野に入れてもそうそう無いんじゃないでしょうか。満賀と才野の関係はもちろんの事、トキワ荘の仲間たちと紡ぎあげて行く成長譚は、読んでいて羨ましくなること請け合いです。たぶんA先生がこの作品に込めた思いは、自分を支えてくれた人への感謝の気持ちだったんだろうな、と自然に思ってしまう作品です。

上記の気持ちと少しベクトルは違いますが、「才」野という名前それ自体がF先生への畏敬の念であるような気がします(下記レビューでとろっちさんがかかれていらっしゃるような気持ちの)。

現在のような市場規模もなく、社会的な地位なんてあろうはずもない。「まんが道」がまだけもの道だったころ、主人公たちは皆、本当に手塚先生を北極星として道を進んでいたんだなと実感させられます。宝塚での出会いのシーンをはじめ手塚先生の登場シーンは読んでいるこちらの背筋も伸びてしまいました。マンガを愛する人なら一読の価値以上の物があるマンガです。

余談:他のマンガ(BECKなど)におけるオマージュの元ネタをいくつか見ることが出来ます。宝塚での手塚先生との出会いが、コユキと千葉がマーシー(マーちゃんさん)に出会うシーンまんまだったのは笑った。そういう楽しみ方もありだと思います。あと「愛しりそめし」の手塚先生の初登場が自分と同い年だったことに驚愕…と同時にもっと頑張らねば、との思いを新たにしました。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-11-14 09:48:11] [修正:2010-11-24 19:34:07] [このレビューのURL]

9点

山岳レスキューもの、という括りで読み始めるとまず肩すかしを食らったような気持ちになります。確かにレスキューは沢山あります。日常茶飯事です。しかしレスキューが物語として語られる場合にはハッピーエンドとして語られてきたのが一般的ではないでしょうか。その類いの漫画の系列には含められないです。なぜならバットエンドも数えきれないほどあるのだから。

この作品は人がもの凄く沢山死にます。それも自発的に登ってきた山で。現実のそのようなニュースを見るたびに山に対する認識の甘さとか、自然を舐めちゃいかん的な発想をしてしまいがちになるのですが、この漫画を読んで考え方が変わりました。ベストの状態で、かつ細心の注意を払っても死ぬことがあるのが山なのだと。

そんな山の厳しさと美しさを誰よりも知る三歩とそれを取り巻く人々を描いた物語です。山そのものというよりも、山という特殊な環境でしか見る事の出来ない人間の姿を描こうとした漫画だと言う風にも感じます。ほぼ一話完結型で、12巻までクオリティを落とす事無く書き続けている作者の力量と三歩という特別なキャラクターを生み出したパーソナリティには敬服しっぱなしです。長く長く続いて欲しい漫画の一つです。

ナイスレビュー: 3

[投稿:2010-09-17 13:10:03] [修正:2010-09-17 13:10:03] [このレビューのURL]

笑いの成り立ちというのは空気そのものだと思うんです。学生時代に「こいつならどんなタイミングで何を言っても面白い」と思わせるような奴っていませんでしたか?主人公上妻はそんな奴です。そしてさすが青春漫画の巨匠、笑いが起こっている教室の「空気」がビリビリ伝わってくるような筆致で描いています。ギャグそのものが面白いか否かははっきり言ってどーでもよいのです。ここまでうまく笑いの「空気」を描ける人はたぶん森田まさのり一人でしょう。

相方というものの存在もこの作品の大きなテーマです。一人では成立しない「漫才」という形式のコメディ。プロを目指し、その中に足を踏み入れる上妻は、はじめて自分だけでは成立しない笑いの世界で生きていくことを強いられます。その中で向き合う葛藤?自分よりも面白い相方の存在、先輩芸人と相方の複雑な関係、関西弁でしゃべるか否か?はめちゃくちゃにリアリティがあります。

ずっと描きたかったテーマだったそうで、それも一読すれば納得です。ろくでなしやルーキーズと並び称されて当然の素晴らしい作品だと思っています。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-05-18 20:27:06] [修正:2010-05-18 20:27:06] [このレビューのURL]

全編通じて素晴らしい作品です。全4巻、密度のみっちり詰まった起承転結です。しかし、個人的にはその転の部分、3巻の価値の比類なさに奮い立つばかりです。

自我と宇宙との間に佇むハチが見つけた白い猫との出会い。無限の荒野を彷徨うことができるほど人間は強くない。惑星のように惑う人であったハチが自らを地上に縛り付ける重力を見つける。それは結局のところホシノという愛に溢れた女性だったということ。

宇宙に行った人間は多かれ少なかれ宗教的な色彩を持つ考え方をするようになるそうです。それはきっと、自らの卑小さとこの宇宙を構成するものの言葉にはできないほどの偉大さを発見するからだと思うのです。

宇宙が日常の延長線上にある未来の世界においても、「夢って何?」「愛って何?」と惑うハチの姿はいつの時代にも通じる問いを投げかけているところが素晴らしいですよね。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-03-14 10:52:31] [修正:2010-03-14 11:05:49] [このレビューのURL]

一介のロードバイク乗りがレビューします。

末はランスかパンターニか。恐るべきクライマーの資質の持ち主が開花していくお話です。同時にオタクだった少年が自転車に乗ることで自分自身の居場所を見つけていく物語です。

とにかく走っている人間・闘っている人間の描き方が秀逸。荒削りかつポップ、いい意味で力の抜けた絵が自転車競技のスピード感を感じさせてくれます。読むたびに「(ペダルを)回さなくては!」と夜道に漕ぎ出すモチベーションをくれる漫画になっています。同時にチームメイト(特に先輩)の描き方も巧い。ライバルとして、導き手としての先輩の姿は涙を誘う場面も少なくありません。

ライバルたちのキャラクターも秀逸。現在チャンピオンでの連載もフォローしていますが、毎週毎週熱すぎる展開が素晴らしいです。このまま一気に突っ走って、坂道君やライバルたちが世界で走る所まで書いてくれればいいなぁと妄想してしまいます。

僕のようなおっさんにも、小学生ぐらいの子どもにも楽しく読める稀有な漫画のひとつだと思います。ツールドフランスで敢闘賞を獲得した別府選手がシャカリキを読んでいたことは有名な話ですが、この作品もそんな存在になるのではないかと個人的には思います。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-02-17 22:22:30] [修正:2010-02-18 09:49:10] [このレビューのURL]

棋士を題材に羽海野チカが描くって聞いた時には「なんで?」って思った人、いっぱいいる様な気がします。でも実際に読んでみると羽海野さんの描く孤独とその中で必死にもがく主人公、それを支える人々とのつながりというものを表現されているのを感じ、納得させられましたた。ああ、この人は誰にも助けてもらうことのできない、たった一人の戦場を描きたかったんだろうなぁと。

「負けて転がり落ちる」までは立ち止まることは許されないプロ棋士の世界。何故苦しんで闘って相手を蹴落としてまで勝ち残らなければならないのか。邪推にもほどがありますが、作者さんが漫画の世界で闘っている理由も、主人公である零が探し求めるものとおんなじなのではないかと思わされました。

村山聖が好きな自分は二階堂くんがお気に入りです。お願いだから最後まで殺さないでください。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-02-17 23:17:14] [修正:2010-02-18 09:45:48] [このレビューのURL]

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