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9点 死せる王女のための孔雀舞
この作品は素晴らしい。名作ですな。
七生子シリーズの短編集で、各作品のタイトルが素敵。
「雨男」「死せる王女のための孔雀舞」「さらばマドンナの微笑」
「我はその名も知らざりき」。なんか文学作品チック。
愛憎劇もかなり含まれており、ともすればドロドロな展開になりかねないのだが、
良い意味であっさりとしており、更に得も言われぬ余韻を醸し出している。
佐藤氏は本当に才能のある人だと思う。氏の急逝は本当に残念なり。
ナイスレビュー: 1 票
[投稿:2011-02-27 22:15:24] [修正:2011-02-27 22:15:24] [このレビューのURL]
8点 タイヤ
『伝染るんです』のヒット以来、いわゆる“不条理ギャグ漫画”の鬼才として広く注目されるようになった吉田戦車だが、しかし“不条理”のみで吉田戦車を評価する事は早計であり、またこの不条理ギャグというジャンルが何やら80年代末に何の前触れも無しに唐突に現れた突然変異種であるように捉えることも、無論正しくない。本作『タイヤ』は、吉田戦車のとびきり奇妙で可笑しく、そして背後に湛えたほのかな哀しみも感じ取れる短編集だ。ギャグの要素がほとんど存在しない話も少なからず収録されており、ギャグ漫画というよりは奇妙な寓話集のような趣がある。
本作は家族を扱った作品が多いのが特徴だが、その読後感はいずれも一抹の哀しみが残る作品ばかりである。自動人形の木人を父親・友人代わりとし、誰にも頼らず生きようとする木人職人の少年の孤独な戦いと別れ、そして再会の物語『木人の店』、針仕事に励む母親(表情が描かれない)とそれを見守る少年の間に横たわる不穏な断層を描いた『肩守り』、崩壊寸前の家族に“団欒”を取り戻すためにカレーライスを作ろうとする少年の材料探しの奇妙な冒険『カレー』、小津安二郎の映画を思わせるホームドラマを何故か不定形の不気味な人工生物が演じる近未来SF家族ドラマ『小春日和』、そして東欧のアニメ映画のような素朴なタッチと構図で、川岸でイルカと会話をしながら日々の生活に倦んだ少女と、「ひょっとこ」になって帰ってきた兄とのやりきれない断絶を描ききった好編『川辺の家族』など、どれも奇妙で不条理な独特の雰囲気に満ちているが、その“不条理”は決して“何でもあり”とイコールではない。それら不条理の意匠をまとって描かれるものは生まれいづる悩み、別離の哀しみであり、不条理は万能のツールとしてそれらをハッピーな方向に好転させたりはしない。むしろ、この奇妙な雰囲気はそのまま我々が日々の孤独の中で湾曲させた近親者や世の中に対するねじくれた愛憎の投影そのものなのではないか、とさえ感じてしまう。
更に、世間に背を向けて一人でモヤモヤを抱え続けていた若き日の作者の半自伝的な一作『ぶどう』にいたっては、ギャグはおろか遂に不条理ですらなくなる。世に鬱屈を抱えた少年のささやかな横紙破りとその無残な顛末を描いたわずか2ページあまりのこの小編は、ギャグも不条理的要素もいずれも希薄だが、この何とも言えないモヤモヤが後に“不条理”として開花していくであろう原風景的なものを感じさせる。思うに吉田戦車の不条理とは、テリー・ギリアムの往年の映画(『未来世紀ブラジル』とか)に通じる部分があるのかも知れない。
このようにレビューすると、「悲惨で深刻な話ばっかりなのか」と敬遠されるかも知れないが、無論そんな事はない。『ヤクザでゴー』や『オフィスユー子』など、いつもの吉田戦車が堪能できる好ギャグ短編も完備しているし、犬を訓練して蝶を捕まえるという架空の奇習を描いた『ちょうちょうをとる』など、後の作品『ぷりぷり県』などで冴え渡る「ウソの風習」をバカバカしく活写してみせる名人芸もこの頃から既に健在だ。また、吉田作品の大きな魅力である素敵な造語センスの妙を味わえる機会も非常に多い。タイトルに『タイヤ』と付けるセンスといい、コーヒー牛乳を甘くさせるための儀式「ほめミルク」とか、東南アジアの生息する危険生物「ボルネオ電気蝶」とか、日本語の組み合わせによる奇妙な味わいを活かしきれるこのセンスは相変わらず見事。吉田戦車はカエル好きとしても有名だが、天変地異により地表の大半が水没し、人類が水生生物と融合して種を存続させた未来を舞台に、かえる族の王子の成長を描いた『かえる年代記』など、哀しみの中にも希望を感じ取れるファンタジー中編などもあり、作品のバラエティは広い。
不条理も一日にしては成らず。様々な鬱屈や哀惜、広範なサブカルチャーの沃野を苗床にして吉田戦車は独自の世界を描き開いていったのだ。最近、新装版として再販もされているので、興味のある方も無い方もぜひご一読の程を。
ナイスレビュー: 1 票
[投稿:2011-02-26 01:33:05] [修正:2011-02-26 23:56:12] [このレビューのURL]
5点 亡き少女の為のパヴァーヌ
4巻までの内容
所々ギャルゲーの要素が含まれている。
主人公相模竹之丸は「天使の使い」である。明治時代の音楽学校にいる女の子たちを、自分に恋させて殺す。そして殺した相手の聖女の涙と呼ばれる「恋の力」を集めると言ったストーリーだ。これだけを聞くとちょっと残酷な話かも知れないが、その通りである(オイ)
なぜなら、主人公相模竹之丸は病気である。その病気の死から逃れるのと引き換えに、天使のために彼女たちの命を奪っているのである。私は身勝手なヤツだと感じた。生きるとはこうも残酷なのかねぇ。ともかく、内容はギャルゲーに近く、漫画「神のみぞ知るセカイ」と似ている。
まあ話の肝は置いといて、この漫画で一番面白いのは女の子を生かすも殺すのも「読者」だということだ。毎巻ごとに女の子たちのキャラクター投票をして、最下位の女の子が竹之丸に殺されてしまうのだ。女の子たちのファンとしては戦々恐々の事態だろう。私は一読者として一体誰が殺されるのかをニヤニヤしながら毎巻見ている。これこそがこの漫画の一番面白いところなのである。組織票し放題なのが玉にキズだが。
この作品は読者と作者のコミュニケーション漫画と言えるだろう。5点。
ナイスレビュー: 1 票
[投稿:2011-02-26 11:05:51] [修正:2011-02-26 11:19:29] [このレビューのURL]
10点 風雲児たち
この漫画を読んで、改めて「漫画は売り上げじゃない!!」と再認識させられる。
それと同時に、こんなに素晴らしい作品が
マイナーのまま埋もれてしまうのか!と思うと悲しくなる。
かつて多くの芸術家が、その死後に評価されたように
この作者も亡くなってから評価されるのだろうか。
私が生まれる前から連載が始まり
それが今も続いていることに感動を覚えます。
作者様、お体に気をつけて、是非最後まで描ききってください。
ナイスレビュー: 1 票
[投稿:2011-02-25 22:55:18] [修正:2011-02-25 22:55:18] [このレビューのURL]
5点 ONE PIECE
冒険+友情+バトルを基本に適度なお笑いと泣かせ。
あっけらかんの主人公と影のある脇役。
意外と読者を惹きつける「旧敵との握手」。
もうこれでもかってほどジャンプ系王道マンガですな。
ベタな感もあるが、それなりに楽しめる。
確かに長過ぎな気がしないこともないが。
ナイスレビュー: 1 票
[投稿:2011-02-23 19:35:08] [修正:2011-02-25 20:33:39] [このレビューのURL]
10点 3月のライオン
今まで読んだ将棋漫画とは異質な感じ。
日常のコミカルでほのぼのした部分に作者の趣味とか
哲学みたいのが滲み出てる気がする。
絵もキレイや可愛いだけじゃなく色々な角度、視覚効果で
ハチクロよりもさらに進化した構図で楽しませてくれる。
とにかく引き出しが多くて個性的。
肝心の内容においては2巻ラストで零が吠える場面を読んで
キタ。コレ。こういう漫画待ってたよ!
掘り出し物を見つけた気分でした。3巻も超面白かったです。
お気に入りキャラは二海堂くん。
ただのデブキャラなんて言ったら許しません。
ナイスレビュー: 1 票
[投稿:2009-06-02 14:45:02] [修正:2011-02-25 07:59:42] [このレビューのURL]
7点 武田勝頼
横山光輝の歴史作品は全て読みましたが、
総合的に評価すると『項羽と劉邦』に次いで
この作品が良かったと思います
「信玄が日本最強の
軍団といわれるまで
育てあげた武田軍団が
どうしてこんなに
簡単に亡んでいったのか
勝頼が悪かったのか
御親類衆が悪かったのか
それとも側近が悪かったのか……
それを見つづけていた甲斐の山々は
今も黙して語らない」
PHP文庫とかにありがちなヒロイズムは嫌いだけど
長篠で鉄砲に負けただけでしょと思ってるなら読む価値あると思う
ただ個人的にはもっと下部構造的な視点も必要だったかと
(おそらく原作の問題なんだけど)
ナイスレビュー: 1 票
[投稿:2011-02-24 18:33:31] [修正:2011-02-24 18:33:31] [このレビューのURL]
7点 僕の小規模な失敗
ハートがえぐられる漫画ですねぇ。
続編の「僕の小規模な生活」より面白かったです。
誰でもネガティブな気持ちになることはあるけど、
よくもまぁこうネチネチネチと暗い思考が続くものだと
感心してしまいます。
でもこの人根暗ではないですよね。
独り飯とかしちゃってますが、柔道部に所属していたり
ボクシングやったり、バイトに誘ってくれる友人や引越しを
手伝ってくれる友人もいるし。
部を創設したりホームレスに話しかけてみたり、何より漫画の
持込をドンドンしたりしてるし。どっちかというと積極的な
部類なんだけど、コンプレックスが強くちょっと変わった人
ですよね。それを上手く描けてて引き込まれてしまいました。
ここまで自の格好悪い所もをさらけ出して書くのって凄いです。
ナイスレビュー: 1 票
[投稿:2011-02-24 13:26:25] [修正:2011-02-24 13:26:25] [このレビューのURL]
9点 宇宙兄弟
子供の頃、宇宙に憧れ、宇宙飛行士になることや宇宙に行くことを夢見た人ってとても多いと思います。
でも現実の厳しさを知って諦めたり、興味が他の事に移ったりして、その夢を手放す人がほとんど。
そんな中で夢を手放さなかった人だけが夢を掴むことができるんだなあ、というお話。
ただしずっと夢を手放さなかったのは弟の方ですが。
絵は読みやすくて上手く、ギャグや小ネタが満載で、シリアスなところはきっちり締めています。
最初は「度胸星」をハロルド作石っぽく(似てません?)調理し直した作品だと思ってました。
全体のバランスが非常に良く、いろいろな要素が高次元でまとまった作品。
でもやっぱりこの作品が読む人を引き付けるのは、夢に向かう熱いエネルギーを感じること。
自分が主人公と同年代なので余計にそう感じるのかもしれないですが、
大人になってから夢を追いかけるのってものすごいエネルギーを使うんですよね。
さらに、人生を棒に振るという強い不安や焦燥感とも常に戦っていかなければならないです。
でもムッタはそれらに負けそうになりながらも屈せず、突き進んで行きます。 ムッタカッコイイなー。
そしてもう1つ。 何と言ってもポイントは「兄弟愛」。
クサさやいやらしさを全く感じさせず、すごく自然な雰囲気で描写されています。
この兄弟(特に日々人)にとって、宇宙で会うことは「夢」ではなく「約束」だったというのが良いですね。
その他の登場人物もみんな一癖も二癖もあって、魅力的で良いです。
読んでいて上手いと思わせられるのは、そんな魅力的なキャラたちがさらにムッタの魅力に
徐々に引き付けられていく描き方。
やっさんからのメールの場面は心が熱くなりましたよ、本当に。
「宇宙」で「兄弟」。 良い作品だなあと心から思えました。
夢とロマンとハートフルがたっぷり詰まった作品。 今後も読み続けていきたい良作です。
ナイスレビュー: 1 票
[投稿:2011-02-22 01:07:02] [修正:2011-02-22 01:09:47] [このレビューのURL]
カイジを始めとした福本信行作品が好きな方はかなり楽しめる名作。いわゆる中2病を地で行くストーリー展開は見る者を選ぶかもしれないが、ツボにはまったものは病みつきになって抜け出せなくなる面白さがある。
以下多少ネタばれを含みます↓
とあるビルに10年軟禁された主人公が解放されてから物語が始まり、犯人を探していくサイコサスペンスであり、後半は犯人探しから犯人の特定に物語はシフトしていく。どこか影があり、近寄りがたい雰囲気を醸し出す主人公であるが、決して悪人ではなく、むしろ親しい間からは好感をもたれている。そのような人間がなぜ10年も軟禁されてしまったのか?必死で過去の交友関係や出来事を考察していくが全く心当たりがなく、とほうに暮れているところに物語のカギを握る人物が現れ…。
物語は主に2部構成に分けられており(実際に1部、2部と分けられているわけではないがストーリー展開的には)、1部は上にも書いたが犯人探しのストーリーであり、2部は犯人を特定していくストーリーとなり、当作品は2部からが真骨頂である。ストーリーが進むにつれて主人公が自身の内面について振り返っていくのだが、自身の行動の深層心理に潜む偽善に触れていくにつれて徐々に冷静さを失っていく。
当作品の魅力は独創的な設定もさることながら、キャラクターの魅力に見出すことができるであろう。影のあるクールな主人公は最高にセクシーであり、犯人も危険なにおいをさらけ出す策士的な存在である。この二人と中盤のカギとなる小学時代の恩師も独自の色を出して作品に重みを出させている。
ただ、終盤からラストにかけての失速感は否めず、ラストの主人公と犯人の決着もあっけなく終わってしまい、その点が?1点。ラストも敢えて伏線を回収せずに終了したのか、あえて余韻を残すために回収しなかったのかが微妙なところであり、個人的には打ち切りのため無理やり終わらせたものと感じた。しかし、名作であることには変わりはなく、現代の漫画にはない渋さがあるためオススメである。
ナイスレビュー: 1 票
[投稿:2011-02-21 21:22:57] [修正:2011-02-21 21:25:18] [このレビューのURL]