「パンダマン」さんのページ

 読んだ感想は面白いという以上に怖かったです。この怖さを正確に表現できるかわかりませんが、この作品が架空の世界、架空の話でありながら戦争の闇の部分を的確に捉えている作品なので長くなりますが書いてみます

 「殺人マシン」という言葉に疑問を思ったことはないでしょうか。殺人者ではなく殺人マシン。この「マシン」という部分に戦争の暗闇の一部があるとは日本人ではあまり想像できない事かもしれません。
 第一次、第二次世界大戦で戦闘の長期化が起きると、兵士は人を殺す罪悪感と命を奪われる緊張感から、精神を蝕まれ銃を持っていても発砲しなくなったそうです。その割合は7割強。これは軍隊としてはかなり深刻な状況でした。
 事態を深刻にとらえた軍上層部は、徹底的な訓練を行います。徹底的な訓練というと聞こえがいいですが、実際は心の底から殺人できるように洗脳していきます。人の形をした銃を撃つターゲットを見たことがあると思います。あれも人をみたら躊躇なく殺せるようにする方法の一つで、これは非常に効果がありました。厳しい訓練を受けたものほど、より冷酷に効率よく人を殺せるようになっていきました。訓練は大成功でした。兵士達は敵兵だけではなく民間人でも平気で殺せるようになっていました。それこそマシンのように。
 しかしここで問題が起きました。戦争が終わり帰ってきた兵士は、元の生活に戻れなくなっていました。心から人を殺す事を「訓練」されてしまった為に。
常識的な行動、すべき事はわかっているのですが戦場から心が戻れないのです。そして自分たちが知らずに人間以外のものになっていた事に、背負いきれない十字架を背負ってしまっていた事に気がつきます。多くの者が殺人者となったり、人を殺した罪悪感から自殺者が多数の出ました。これは現代の戦争を経験した多くの国で問題になっています

 この作品の主人公も普段は温厚ですが、一度戦闘になると非情な殺人マシンへとスイッチが入ります。「スイッチ」を読者にもわかりやすく表現された青く灯るランタンがとても印象的です。そして殺した後に自分の凶暴さと罪悪感で絶望します。これはとても現実的でよく描かれていると思いました。
 作中では、一見非現実的非人道的な特殊部隊が色々出てきます。しかし、戦争という空間はやってしまってはいけないというリミットが外れやすい所。想像したことをやりたい、やってしまう事が許される世界。非現実的と思われる行いが現実になる世界。その異常さがこの漫画ではエンターテイメントの範囲で表現されています。正直怖くて寒気が止まりませんでした。
現実の世界でも厳しい訓練を行い洗脳するよりも、攻殻機動隊のように脳を直接いじって一流の兵士を作る研究が行われています

 この作品は戦争が起こす狂気の世界とそれが残した爪痕を少しでも実感できるかもしれません。ただ架空の世界で書かれているからかろうじて読めますが、この漫画で表現された狂気の世界が虚構ではなく「リアル」だという事を本当に感じた時怖くなります
 この暗闇を本当に照らすことなど出来ない事かもしれない。でも、それでも考え模索するこの作品には意味があり、それだけの価値がある

ナイスレビュー: 1

[投稿:2009-04-10 01:13:07] [修正:2009-04-10 01:13:07]