「霧立」さんのページ

総レビュー数: 33レビュー(全て表示) 最終投稿: 2010年05月13日

2点 ブッダ

[ネタバレあり]

本編と同様、鹿に例えてみるが、生き物の世界に「無駄な殺生」などありはしない。
人が戯れに鹿を射ったとて、その亡骸は飢えたハゲワシやカラス、ハエや蟻たちの命を繋ぐかもしれない。
打ち捨てられた皮や骨はやがて分解され、大地の恵みとなるだろう。
その鹿が死んだことで食べられずに済んだ植物は新たな命を繋ぐ事ができよう。その植物がまた別の鹿や馬、昆虫の命を養うかもしれない。
そもそも捕食以外の殺生を行うのは人に限った話ではないし、食べるためでなくともその殺生は必ず他の命に影響を及ぼし、結果として他の生物の利となったり不利となったりする。ただそれだけの話であり、そこに善悪という判断基準が介入する余地はない。
また、生物が自らだけでなく、他の生物の事を考えるべきと言うのも解らない。全ての生物は自分達が生き残る事のみを最大の目標として他の生物と争い、捕食し、利用し、共生して来たからこそ進化や多様性を育んできたと言うのに。全ての生物が真摯な「生きるという欲望」のぶつかり合いしてきたからこそ、この星の生命の豊穣を生み出してきたと言うのに。各々の生き物が他者の生存や繁栄に想いをめぐらせたのなら、そこにあるのは安定という名の停滞であり、続く未来は進化が止まった末の破滅でしかない。

この作品は人間世界でしかありえない善悪という概念を生物全体に当てはめて物語を構築している。それが仏教の本質かどうかは分からないが、ともあれそれ故に私はこの作品を支持しない。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2015-01-09 15:53:34] [修正:2015-01-09 15:53:34] [このレビューのURL]

7点

[ネタバレあり]

女の美醜というありふれながらも扱いの難しいテーマに正面から切り込まんとする作品。
主人公は絶望的な醜い容姿でありながらも演劇に魅せられ女優を目指す。母から託されたあるものを使って…
醜女であるが故に、自分ではない誰かになりたいという強烈な欲求が芽生え、それを具現化する手段として演劇の才能を極限まで磨き上げる主人公。そして「誰かになる」という形容が比喩に留まらない禁忌的行為…主人公の執念と、自らの醜さ(外見だけとは限らない)と罪深さに対する葛藤・絶望は非常によく表現されて引きつけるものがある。
物語としてはこれからが佳境のようなので、当初のこのテンションをそのまま維持できるか、きちんと風呂敷を畳めるかなどまだ未確定要素はあるし、今やタレント芸人アイドルが跋扈する演劇の世界に「舞台女優」として名を成すことの違和感(やや古臭さ)もある。それでもここまでの展開は十分読ませるので期待値を込めてこの評価を。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2015-01-08 23:03:00] [修正:2015-01-08 23:03:00] [このレビューのURL]

もやしもんの作者の描く平和を愛しその為には手段を選ばない処女で少女な魔女の物語。
どんなに不条理な行いがあっても人の営みに一切干渉せずに結果平等を図る神様と、不平等上等で目に映る戦争を片っ端から止めていく魔女とのイデオロギー対決といった所でしょうか。
正直テーマは青臭いしキャラのやり取りも説教臭い。というのも彼等が各々の主義主張を獲得する経緯(痛みと言うべきか)の描写が十分でなく、結論ありきのディベートになっているため、只の言葉遊びの応酬に写ってしまうのです。
また、こうした歴史物を描く際にありがちなのですが、どうしても書き手(読み手も)が現代の感性で当時の人のありようを語ってしまい、その「基準」で戦争=悪、平和=善と単純に切り分けられてしまっているのも少々残念なところ。
画力は高いものがあるし(人物描き分けは下手だけど)話としては三巻でさっくり纏まっていますしつまらなくは無いのですが、人に勧めるにはやや物足りないというところ。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2014-11-27 17:59:51] [修正:2014-11-27 17:59:51] [このレビューのURL]

ファンタジー入った歌舞伎町みたいな街を舞台に、ケンカや窃盗などを重ねながらも逞しく生きる二人の少年とそれに関わっていくヤクザやおまわり、その他諸々の物語。人と街がテーマになっているので、少なくともどちらかに感じ入ることができるかどうかでこの作品を楽しめるかそうでないかが分かれる気がします。主人公の少年たちに関しては、暴力性の中に光る純粋さという奴は分からなくは無いのですがそうした表現が好きか、そうしたキャラが好きかと問われると個人的には共感出来ないんですよね。舞台となる街もとても立ち寄りたいすら思えないレベルなので物語の中で徐々に失われ、変貌していく風景にも何の感慨も持てない。というわけでどちらとも駄目だった自分としてはこの点数。
ただし、荒んだ舞台でありながらそれをあまり感じさせない、どこか夢想的な情景描写は流石松本大洋と言ったところ。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2014-11-05 15:06:49] [修正:2014-11-05 15:06:49] [このレビューのURL]

[ネタバレあり]

力こそ全てのヴァイキングの世界で本当の戦士とは何かを問い、力なき敗者たちの最後の理想郷としての「ヴィンランド」を探し求める物語。
全ての人が不幸にならない為にはどうすればいいのか。一見ありがちなテーマを奪う側(王、ヴァイキング)奪われる側(農民、奴隷)それぞれの視点から丹念に語る事で説得力を生み出し、大河的な話ながら場面場面での先の読めない展開に興奮できる構成力は見事。
何より殺戮と略奪に生きるヴァイキング達が生き生きと描かれているのが良いですね。また、主人公の理想論も多くの痛みと絶望の末に語られる物なのでさほど薄甘さを感じることもありません。
ただ、本当の戦士になったトールズもトルフィンも、数多の命を奪ったのちにようやくその境地へたどり着いたという事実。言い換えれば人々を救い守り育てる力とは、結局のところ同じほどの命を奪わなければ得られないのだという残酷な真実を突きつけているようでもあります。そう考えると救いが無さ過ぎますか。
突き抜けてはいないが全てにおいて本当に高いレベルでまとまっている作品。あとは無事に物語を畳んでくれれば名作確定です。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2014-11-04 16:52:49] [修正:2014-11-04 16:52:49] [このレビューのURL]

[ネタバレあり]

昭和の薫り漂う工場跡地にある少年たちの秘密基地で繰り広げられる殺戮劇。実際のアングラ舞台の演目を漫画化したものだそうです。帝一の國でもそうですが、この作者は昭和的な舞台設定が好きなようですね。
最初は「少年たちの純粋な仲良しクラブがその閉鎖性から徐々に理性のタガが外れ、些細な仲間割れから遂に一線を超えてしまう…」的なお話を想像していたのですが、いざ読んで見ると少年たちは冒頭から人を手にかけており、「最初からイカれた少年たちがその暴力性を仲間に向けて殺しあう内ゲバ物(う〜ん昭和な言葉!)」だったので一線を踏み越える背徳感や罪悪感はさほど無く、淡々と崩壊していく様を眺めるようでした。
(前日譚的な外伝も有るようですが、それはあくまで別作品なのでここでは除外)
物語は最後に種明かし的なものもあり、一気に読めてしまう迫力もあるので決して悪い作品とは思いません。しかしこの手の話はある程度レビューに頼らないと手にする機会が非常に少なく、かといってレビューを読んで過度な期待をもって臨むとやや肩透かしを食ってしまう、難しい作品だなと感じました。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2014-11-01 13:59:15] [修正:2014-11-01 13:59:15] [このレビューのURL]

オシャレや恋愛、結婚に全く関心がないけどいざ身なりを整えればスレンダー美女に大変身(勿論体型はバッチリキープ。ほうれい線?何それ)なアラフォー女が、元同級生で元ブサメンの現イケメン精神科医妻帯者からストーカーされた挙句にセックスしまくるというまあそんなお話。
そもそもこの手の作品は読者対象が明確な訳で、ハートウォーミング系かと思い絵柄とタイトルだけで手を出した自分の間抜けさ加減にこの点数。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2014-10-29 13:49:42] [修正:2014-10-29 13:49:42] [このレビューのURL]

生徒会会長就任を人生の究極目標におく主人公が権謀術数を尽くして野望を掴もうともがき足掻く物語。学園内の政治闘争を本人たちは大真面目に、しかし読者視点ではコミカルに描くこのセンスが軽妙で面白い。人を選ぶテンションかも知れませんが、話術や洞察力、胆力といった人の持ち得る武器だけを駆使して闘争を繰り広げる姿はある意味新鮮。能力バトルなどに食傷気味の方にオススメしたい作品です。※褒めてる癖に6点なのは、点数基準に準拠している為で、素直に楽しめる良作漫画。この表現がピッタリくる漫画です。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2014-10-29 13:30:16] [修正:2014-10-29 13:30:16] [このレビューのURL]

ウンチクとしては面白い題材だし、勉強になる部分も沢山ある。
しかし、それらの多くは教授の長セリフで済まされており、
実際のストーリーにうまく組み込めていない。それが
読者に「読解」を強いる形となっており、敬遠されることも
あるのだろう。テーマは面白いだけにもったいないと思う。

また、人間のキャラクターが掘り下げられていないため、
彼らの葛藤や導き出す結論に感慨がわかない(割とどうでもいい)。
正直、菌たちのキャラや小話の方がよっぽど面白いので、この漫画が
作者のいう「ユルユルダラダラ」なものであるのなら、
むしろ中途半端な人間ドラマはいらないのです。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2013-02-23 22:30:27] [修正:2013-02-23 22:30:27] [このレビューのURL]

第二次世界大戦前後を舞台とした
ヒトラーの出生の秘密をめぐる「アドルフ」の名を持つ
男たちの運命を描く作品。

手塚治虫らしい、正義の客観視をテーマにしつつ
ストーリーも読みごたえがあり
伏線の回収も見事。
物語としての完成度は非常に高い。
とりあえず盛り上げることだけに腐心して、一つの作品として
まとめ上げることを軽視しがちな今の漫画家は手塚のこういう
ところを見習ってほしい。

欲を言えば
最後の中東編をもう少し掘り下げて欲しかった、というより
カミルの暗黒面を詳らかにして欲しかった。
カウフマンが人生を通じてこの作品のテーマを存分に体現したのに
対し、カミルはどうしても「いい人」だけの役回りで
キャラクターを活かしきれなかったのがもったいなかった。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2012-05-25 02:08:52] [修正:2012-05-25 02:08:52] [このレビューのURL]