「橙木犀」さんのページ

総レビュー数: 63レビュー(全て表示) 最終投稿: 2007年05月29日

私の場合、本は2種類に分けられます。
1度読むとお腹いっぱい。素晴らしい内容だけど、読み返したいとは思わない作品。
そしてもう一つは、何度でも手にとって読み返したくなる作品。
味わいがあり、読み返すたびに新しい発見や感傷に浸ることが出来るお話。

私にとって、金魚屋古書店は後者の作品です。
ほのぼのと穏やかな日常が流れ、漫画が大好きな人達が繰り広げる、思わず笑ってしまいそうな騒ぎの数々。
『ああ、私も金魚屋古書店の常連になりたいな〜』
この作品を読むたびに、いつもそう思います。

どちらかと言えば、あっさりとした話運びではあります。
これからの人間関係の展開次第では、ちょっと味わいが変わってくるかも。
でも、この漫画は「愛すべき漫画バカ達と漫画」が主軸の物語。
そこだけは変わらず、持ち味を大事にしていって欲しいです。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2007-06-09 23:49:26] [修正:2007-06-09 23:49:26] [このレビューのURL]

[ネタバレあり]

この作品の素晴らしさは幾つもあります。
まず、加害者にも感情があり、事情があり、人間であることを描き出していること。
そして、被害者の心に優しく寄り添う姿勢を忘れていないこと。
最後に、一人不祥事を起こせば全体が非難されてしまう社会で、黙々と自分の信念に従って闘っている人々を正面から見据えているところにあると、私は思います。

人は、ふとしたことがきっかけで、加害者にもなるし、被害者にもなってしまう。
誰も傷つけず、傷つけられずに生きることの難しさを、見せつけられるのはやっぱり苦しい。
それでも、優しさを、愛情を忘れることはしたくない。
そんな人としての叫びが、読んでいて聞こえてくるようでした。

下手に道徳観念や倫理観を押しつけるよりも、この『PS-羅生門』を読んだ方が、ずっと心を揺さぶられるはず。
漫画の力の偉大さを、しみじみ感じました。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2007-06-06 21:21:57] [修正:2007-06-06 21:21:57] [このレビューのURL]

[ネタバレあり]

クロードは主人公ですが、彼が夢を叶えるためのスタートに立つまでに、様々な壁が立ち塞がります。
日本に滞在すること。働くこと。働く中でぶつかる日本語の壁。
一つ一つの問題を、様々な人たちの支えや手助けで乗り越えていく様子が胸を熱くします。
なぜ物語の舞台が松江になったのか、読み進むうちに見えてくることで、クロードの思いに心が揺さぶられるような気がします。

他にあと2人、主人公がいるのですが、彼らの成長も見所です。
自分のしたいことをはっきり見出せずにいた「せつ」が、どんどん成長していく姿は読んでいて爽快感あり。
現実に押し潰されそうになり、夢を見ることを諦めかけていた宏が、どんな次期蔵元に成長していくのかも楽しみです。

酒蔵だけでなく、飲食店や酒屋の心得、努力や工夫など丁寧に描き込んでいるので好感が持てます。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2007-05-30 00:36:09] [修正:2007-05-30 00:36:09] [このレビューのURL]

私が谷川史子さんという作家さんを知るきっかけになった作品です。
他にも短編が収録されていますが、飛び抜けて表題作の「積極 愛のうた」に惚れ込んでしまいました。

愛情深く奥ゆかしく、そして高い知性と教養をさり気なく漂わせる鳥野教授。美幹ちゃんが心から惹かれ、想いを寄せずにいられないのが分かります。
本当に誰かを愛することを知ったために失ったもの、自分の最低さを思い知って、それでもやっぱり、美幹ちゃんは鳥野教授に出会えて良かったのだと、読んでいて自然に思えました。

教授が美幹ちゃんに渡した物、それが最後の最後に題名とつながって、その意味がわかったときに目の奥が熱くなりました。こういう温かさと教養と愛情に満ちた想いの伝え方、受け取ることができた美幹ちゃんはとても幸せだったと思います。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2013-01-09 10:52:25] [修正:2013-01-09 10:52:25] [このレビューのURL]

内容あらすじにあるように、四季をテーマに優しく切なく、時に痛みを伴った4つの恋物語が収録されています。
表題作の「蛍火の杜へ」は夏の物語。アニメ映画化もされ、作者の緑川ゆきさんの代表作のひとつだと思います。

ヒロインと彼女が想う相手との関係はそれぞれのお話で異なりますが、胸が痛くなるまでの一途で切ない恋心はどのヒロインにも共通していると感じました。
いつの間にか芽生え、徐々に募っていく想いの微笑ましさ、美しさ、そしてその恋を阻むものにぶつかってしまったときの哀しみ。
どのお話も手を握りしめつつ、彼らの幸せを祈りながら読まずにいられませんでした。

4編それぞれにみんな大好きなのですが、私は秋をテーマにした「くるくる落ち葉」が特に好きです。他の3話よりも一見あっけらかんと明るい雰囲気なんですが、ヒロインの椿の暴走気味な突っ走り具合と向き合うべきことから目をそらせなくなり葛藤する様子のギャップが愛しくてなりません。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2013-01-09 09:30:18] [修正:2013-01-09 09:30:18] [このレビューのURL]

朗読ってこんなに深くて熱いんだ!というのが第一印象でした。
声に出して読むことが、作品の世界観を理解し表現する上でとっても大切なんだと、素直に納得できました。こんな国語の授業を受けたかったなぁ。
音がいっさい聞こえない漫画で、朗読をどう表現するのかが一番気になっていたのですが、不思議とページから朗読者の声や作品の中で描写されている音が聞こえてくるんです。そして、いつの間にか自分も一緒に声を出して作品を朗読してしまいます。
自信なさげでいつも色々と小さくなってしまっていた主人公の花ちゃんが、朗読を通して居場所を見つけ、友達に恵まれ、次第に生き生きとしていく様子に胸が温かくなります。
花ちゃんの朗読に心打たれ、自分の悩みに素直に向き合い、また前を向けるようになっていく人たちの心の動きにも感動。
次に朗読される作品は何なのかと、今からとても楽しみです。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-12-09 17:41:31] [修正:2011-12-09 17:41:31] [このレビューのURL]

一言で言うと面白いです。
音楽業界や歌手を主人公にした作品は結構あると思うのですが、ここまで切り込むのか!?と読んでいてびっくりしました。勿論、全てが事実だとは思っていませんが、虚実の境目が全然分からないです(ちなみに、スタジオミュージシャンという職業もこの作品で初めて知りました)。
理子(マッシュ)、アキ、心也の三角関係については、実は私は心也派です。
7巻まで読んできて、心也にとってまっすぐ自分に向かい合って、自分の気持ちに応えてくれた初めての相手が理子なんじゃないか、理子のことが可愛くてたまらなくて彼にとって大切な存在になっていってるんじゃないかと思わずにいられません。
第一、心也はあまりに気の毒すぎる!高樹社長やアキに(本人はそんなつもりはないんだろうけど)いいように使われてしまって。心也だってひとりの人間だ、幸せを求めて何がいけないんだ!と読みながら時折心の中で憤ったりしてました。
あと、3人が恋する相手に対して抱いている「ただ一人のひととして愛する気持ち」と「アーティストとしての才能を愛する気持ち」の比重が、それぞれに異なっているみたいで、そこはかなり興味深いです。特にアキは、完全に矛盾した二つの気持ちを本音として心の中に抱えているので、心也が完全に理子に対する想いを自覚して本気になったら、いろんな意味で危ないような気がする。
なにやら不穏な空気がいろんな場面・場所で漂いだしていますが、音楽や恋やその他諸々に彼らがどう向き合い、立ち向かっていくかが楽しみです。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-12-02 16:09:37] [修正:2011-12-02 16:09:37] [このレビューのURL]

戦国の世を己の才と教養でしなやかに生きた、謎の美女・小野於通。
美貌と才智に恵まれ、幾多の知識と教養を己のものとし、様々な美を理解しつつ自らも創造する。
決して身分高くはない武家の出身ながら、時の最高権力者たちから信頼され重用されつつ、更に公家社会に溶け込み、その中で学び得た優れた趣味教養で公家の社会でも高い評価を得ていく。
なんて素晴らしい女性なんだろうと読み進む度に溜め息が思わず出てしまいました。史実ではどんな女性だったんだろうとちょっと調べてみると、実際に様々な伝説に彩られた、そして多くの謎に満ちた人だったことが分かり、また吃驚です。
あれだけの諸説をこれだけしっかりと一つの物語にまとめあげ、魅力的な少女の姿を生み出すなんて、さすがは大和和紀先生だな?と思わずにいられません。
安土桃山時代が主な舞台なので、大河ドラマや時代劇、歴史小説で有名な人物がバンバン出てきますが、その全てが血の通った一人の人間として描かれ、「ああ、この人はこんな人だったんだろうな」と自然に感じられるのが心地良いです。特に、私は茶々の描写に驚かされました。今まで様々な作品で見たり読んだりしてきた中で一番魅力的に感じられたからです。利発で愛らしく、誇り高く勝ち気で、そして大胆な野望を胸の奥に秘める…。
3巻まで読んでなんとなく、於通が表の主人公なら裏主人公は茶々なのではないかと思えてきました。同い年の二人の女性の人生がこれからどのように紡がれていくのか、そして於通の人生がどのように彩られていくのか、これから先も楽しみでなりません。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-08-04 23:12:57] [修正:2011-08-04 23:12:57] [このレビューのURL]

四季の移ろいと身の回りの文化や歴史、そして優しく穏やかに(時に賑やかに)見守ってくれる八百万の神様たち。
そんな神様たちと個性豊かな地歴部員との温かくほのぼのとした日々を描く神道&高校部活漫画といったところでしょうか。
神様がきちんと「見える」のは(今のところ)主人公の棗(と、ある女の子と条件付きでもう一人)だけですが、地歴部の面々がそれぞれに土地の歴史や文化とそれにまつわる神々の存在を理解し、感じ、大切にしているので、異能者が主人公の作品にありがちな孤独や寂しさが全く感じられず、物語全体がとても優しい雰囲気に包まれているように思います。
日本の四季や地域それぞれの行事に込められた意味や想いの温かさに「日本ていいな」「人は決して一人じゃない」と語りかけられているように感じました。

4巻まで収録されている「私と神様」(シリーズ)も人間関係の大切さや言葉の持つ力の大きさを考えさせてくれる深くて素敵な物語ですが、5巻収録の「おいてけぼりの棲処(すみか)」は特にオススメ!登場キャラの可愛らしさや温かさにほっこり癒されます(笑)

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-08-04 18:00:18] [修正:2011-08-04 22:15:46] [このレビューのURL]

様々な悲劇と祖国を覆う戦乱の中、自らの未熟さと世界の厳しさをまっすぐに見据えて進む少年将軍の物語。
弱冠17才で国を動かす力を持つ将軍に任じられたという設定から、完全無敵な天才タイプかと思いきや、深謀遠慮の域にはまだ到達しておらず、主人公のマフムートは確かに聡明で武術に優れているものの、自分の感情にまかせて単独行動に走ったり、矜恃から来る過信でミスをしたりしています(既読3巻までの中で)。
ですが、清廉で思いやり深く、自分の間違いを振り返る冷静さを併せ持ち、時に甘いとさえ言える優しさをふと見せる。なので、彼の成長を自然と応援したくなります。
ただ、大陸全土を巻き込む戦乱期を舞台としているため、相次ぐ戦乱と戦闘描写にちょっと疲れてしまうかも。時折でいいので、ほのぼのとしたり心温まるような話も織り込んで欲しいです。
登場する国や民族はモデルとなったであろうそれらが推測でき、「あ、この国はあそこがモデルだな」「この民族はあの2つの民族が組み合わさって作られてるのかな?」と考えたりするのが、とても楽しいです。
敵方や嫌悪したくなるような人間にも、そこに至る事情や信念、政治哲学があるので、単純な勧善懲悪ものに止まらない物語に興味を抱かずにいられません。
あと、タイトルの「アルタイル」の意味が分からず調べてみた時、物語と相まって元々の言葉の意味に思わず胸打たれてしまいました。若き鷲が飛翔するさまを手に汗握り、見届けたいと思います。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-06-16 00:56:05] [修正:2011-06-16 00:56:05] [このレビューのURL]