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総レビュー数: 126レビュー(全て表示) 最終投稿: 2007年01月14日

6点 イムリ

三宅乱丈得意の超能力を織り交ぜて戦争を丹念に描き出したSFファンタジー叙事詩。

まずは、各巻末尾の次回予告における、本書の形容表現を抜粋してみよう。
1巻:壮大なファンタジー叙事詩
2巻:ファンタジー・サーガ
3巻:圧倒的SF巨編
4巻:SFファンタジー叙事詩
5巻:未曾有のSF巨編
6巻:圧倒的SF雄編
7巻:ファンタジー叙事詩
8巻:SFファンタジー雄編
9巻:未曾有のSF叙事詩
10巻:ファンタジー巨編
11巻:SF叙事詩
12巻:激震のSF叙事詩

これらを総合してもわかるように、本作品は、
ジャンル=SF+ファンタジー
特長=未曾有(斬新)+巨編(長期連載)
である。

SFとしてみると、巻末や別冊に記された時代設定の緻密さが興奮を呼び起こす。
ファンタジーとしてみると、貴族・奴隷という封建体制を中心とする倒錯した文化・時代観や魔法を想起させる特殊能力が何とも神秘な世界観を醸し出している。
ありきたりなパターンに堕していないため、先が読めない展開というのも面白い。しかも、ナレーションなどによる説明は皆無で、全てが主人公デュルクを中心とした物語で話が進む。これによって、読者はシナリオにのめり込む。

人物描写の観点からは、エゴ、憎悪、家族愛等の心情の描き方が秀逸。ややもすると、「フィクションとは思えないような」ふとした仕草や発言を一々描くことによって、リアリティある心情表現を可能としている。そのあたりの描写の読後感は決して良くない。しかし、イムリ、中でも、チムリという少女の存在によって、「救いようのない戦争譚」に陥ることを回避し、愛ある物語として踏みとどまっている。

明確なメッセージや理想の社会像が打ち出されているわけではないので、本作によって人生観が変わるかということそこまでではないが、リアルを埋め込んだSF世界を生み出した緻密な構成力に感心させられる作品ではある。

なお、最近気づいたが、世界観・服装・小道具・特殊能力等の設定のディテールが漫画版「ナウシカ」にそっくり。少なからず影響を受けているのだろう。ただし、作品のテーマ自体は全く異なるのでパクリだと非難するつもりは毛頭ない。

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[投稿:2013-02-10 20:28:07] [修正:2013-11-02 01:22:45] [このレビューのURL]