「DEIMOS」さんのページ

総レビュー数: 126レビュー(全て表示) 最終投稿: 2007年01月14日

ヤクザ&政治両面からの世直し系劇画。

まだバブル期の名残ある時代に始まった漫画であるが、世直しの気風に満ちた若者たちがいわゆる「体制」側に戦いを挑むところは、今読んでも十分に楽しめる。昨今、世直し漫画といえば、キーチVSやデストロイ&エボリューションのように「テロ」に題材を移す傾向にあるが、本作は、「ヤクザ」と「政治」という光と闇の2つの統治機構を二人の若者が中から変えていこうとするもの。

その過程は、「暴力」と「権力者の弱味を握る」ことの繰り返しだ。細かいリアリティを追求すれば、ツッコミどころは多々あれど、その展開のテンポの良さは心地よい。お前ら、愛人とセックスするときくらいちゃんとドアのカギかけとけよ!、とか、ここでソイツ殺しちゃうの?!とか、そんなパターンも読み進めていくうちに楽しめるようになってくる。さすが武論尊先生。

絵は、静止画の劇画としては、秀逸。巧い。特に、女性は現代でも通用するエロさ。が、動きはないし、バタ臭さは否めないのだが、一時代を築いた池上先生の絵なのでそれはそれで楽しめる。

本作が連載されていたのは、90年代初期から中期。細川内閣や村山内閣等、連立工作によって目まぐるしく政権が交代していた時代だったからこそ、共闘体制を模索する「劇場型政治」のダイナミズムが注目されたのだろう。が、今や、日本は、国政選挙による2度の政権交代を2009年と2012年に目撃した。そういう意味で、改革の期待感と失望感の双方を既に経験した現代人にとって、この漫画は絵空事ではなく、よりリアリティのもった世直しバイブルとして受け止められて然るべきかもしれない。

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[投稿:2013-02-25 01:58:15] [修正:2013-02-25 01:58:15] [このレビューのURL]

7点 銭ゲバ

金の亡者となった成金の人生の一部始終を簡潔に描いた問題作(?)。

この世はすべて金、と悟った人間の人生を一気通貫で描き出している。しかも、「少年サンデー」で。金、女、政治、権力、殺人・・・おぞましい所作の連鎖。金があれば何でもできる、そういった拝金主義が跋扈していた時代性を象徴する作品だろう。思うに、現代ではこの価値観は容易に許容されないのではないか。

絵は決してうまくないのだが、登場人物はほぼ全て心の汚い人間だからか、全く違和感がない。絵のブレが、心の歪みを形容しているかのように。

拝金主義の是是非非を押し付ける作風ではなく、問題提起している形になっているため、色々と考えさせられる。

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[投稿:2013-02-25 01:23:43] [修正:2013-02-25 01:23:43] [このレビューのURL]

8点 度胸星

未知なる火星へ人生を賭けた日本人達の軌跡を描いたSFヒューマンドラマ。

一言でいえば、濃縮されたシンプルな「宇宙兄弟」。月面飛行を夢見て宇宙飛行士を目指す兄弟を描いたのが「宇宙兄弟」であり、目下大変な人気を獲得しているが、それよりも遥か以前に同系列の題材で同様のモチーフに焦点を当てている漫画があったとは、、、一種の衝撃。

登場人物はより少なく、ストーリーはよりシンプルであるが、候補生各々が自らの夢を抱いて、選抜試験や厳しい訓練を経て火星へと至る全体構成は酷似。超ひも理論などを交え、よりハードSFに近い部分もあるが、それはあくまで「未知なる火星」のエッセンスに過ぎないと思えば、この作品の本質は、主人公(度胸というより我慢強さを特徴とし、見た目はドカベンの山田太郎そのもの)とその周りの個性的な候補生達のヒューマンドラマとして見るべきだろう。

この作者の絵柄は妙な力がある。それはモブキャラの目を丸めるリアクションに象徴されるわけだが。力強さはあるのに暑苦しくない不思議な心地よさを感じられる。

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[投稿:2013-02-25 01:10:06] [修正:2013-02-25 01:11:59] [このレビューのURL]

不死のバンパネラと人間との交流を時系列に短編小分けして描いた耽美系雰囲気マンガ。

24年組の中心的存在たる萩尾望都によって、不死の美少年による人間との関わりあい、特に、恋や妹愛等が淡々と描かれる。山なくオチなく意味なく―。
不死の美少年という題材は、世の女性達の妄想ターゲットとしては垂涎ものだろう。同性愛的なシーンもチラホラとあり、BLの萌芽を垣間見ることもできる。
が、それ以上に、この本が出版された当時においては、「時を超えて生き続ける人間ならざるもの」の神秘性と美麗なる描出力こそが一種の衝撃だったのだろうと推察に難くない。
が、現代に改めて読むと、この「雰囲気」だけでは正直楽しめない。もう少し山谷が欲しい。

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[投稿:2013-02-25 00:57:22] [修正:2013-02-25 00:57:22] [このレビューのURL]

リアル描写による学園バトルサバイバル系の元祖的作品。

一時期、小説や映画、漫画等メディアミックス展開によって有名となった作品であり、ひとまず漫画から入ってみたが、正直馴染めない。
というのも、登場人物は、中学生なのに、どうみてもオッサン&熟女で、かつ、筋肉ムキムキで知識レベルが高すぎる。なのに倫理観は皆無。学生の純朴さ・無垢さありきでの感動演出だと思うが、こんな頭のネジの抜けたおっさん達の殺戮ゲームに感情移入は出来ない。
また、ゲームの存在意義や社会の倫理観が無視されている無茶苦茶な設定は、マンガ読みからすれば大幅減点ポイント。読み流すジャンクフード以上でも以下でもない。「狩猟本能による生存競争」という人間の本能を充足するだけの「麻薬的快感」だけを提供するアダルトビデオみたいなものだろう。

さりとて、以後、閉鎖空間におけるサバイバルゲーム、という後続作品を次々と生み出す下地を築き上げた功績には疑う余地はないだろう。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2013-02-23 16:54:12] [修正:2013-02-23 16:54:12] [このレビューのURL]

浦沢流映画手法がふんだんに盛り込まれた昭和ノスタルジー漫画。

この漫画が連載された当時、三丁目の夕日やオトナ帝国の逆襲等とともに、昭和ノスタルジーブームを形成した著名作品。

こうした時代の流れを確実に掴みつつ、週刊連載にて読者を飽きさせない絶妙の「ひき」と「ため」のテクニックを駆使。これぞ浦沢漫画の真骨頂。キャラは薄く、写実的。ミステリー調のホラー的雰囲気は独特である。そして、着実に回収する伏線の数々。練りこまれた全体構成の素晴らしさでは、漫画界に右に出るものはいないだろう。

が、いざ単行本で一気通貫に読むと、「ひき」が多すぎて、「引っ張った割にこんだけ!?」とがっかりする展開が頻繁に登場。正直、冗長感は否めない。このストーリーなら20巻以上も必要ないだろう。オチもあっけない。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2013-02-16 01:11:30] [修正:2013-02-16 01:11:30] [このレビューのURL]

島本和彦による学園SF異能バトル漫画。

島本ファンだからこそ、本作を酷評せざるをえない。島本が輝けるのは、おそらく、こういった真面目なSFバトル作品ではないだろう。パロディや自伝などのメタ的作風こそが彼の本分。本人は楽しんで書いていたのかもしれないが。正直、こういう作品の中に一々ギャグを入れられたら、読みづらくて仕方ない、というのが読後感だ。「バカなことを大真面目でやる」という方がしっくりくる。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2013-02-14 00:14:17] [修正:2013-02-14 00:14:17] [このレビューのURL]

島本漫画ではお馴染みのキャラ・炎尾燃を用いて、自らの青年期(大学時代)を叙述した島本和彦の自伝的作品。

漫画家・島本和彦は、同人誌を書き続けるとともに、幾度となくメディアに露出し、コンテンツ業界を論じ、分析してきた。個性が強すぎるため、好き嫌いは分かれるだろうが、分析派の漫画家としては一流。が、パロディや風刺、自伝を主戦場とするため、一流商業誌上でその作品を拝めることは少なく、人は彼をこう呼ぶ。「the・グレートマイナー」と。

そんな島本が、エヴァンゲリオンの庵野監督やオタキングこと作家・岡田斗司夫等、後に異なるフィールドで活躍することになる著名人達と運命を交差させる数奇な時代観を見て、右肩上がりのコンテンツ黎明期を懐かしむもよし、うらやむもよし。なんともいえない、その複雑な感情こそが、本作品の持つ魅力の本質だろう。

なお、同時代のコンテンツ史を研究するための貴重な資料として、本作とともに岡田斗司夫の「遺言」を併せて読んでいただきたい。さすれば、一つの時代の「うねり」を感じることができるだろうから。

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[投稿:2013-02-14 00:06:33] [修正:2013-02-14 00:06:33] [このレビューのURL]

[ネタバレあり]

一流のバレエダンサーを目指す少女の物語「昴」の続編。

昴は、少女から「大人の女性」へと進化していくが、その本質は、依然として「わがままで自己中心的性格」。これは、曽田漫画全般に言えること。

最愛のパートナーとの出会いと、更なるライバルとの闘いを描き、そして最後に、家族のエピソードで伏線を回収し、幕を閉じる。
無駄のない完全なストーリー完結は曽田漫画の真骨頂。

作者自ら挑戦したというバレエ、という一見わかりづらいモチーフを用いて、緊迫や迫力が沁みだす空気感を描き出す画力は圧巻。
前作から多少のインターバルがあったためか、熱が冷めた感は否めないが、それでも一気通貫で読めば、十分に楽しめる。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2013-02-13 23:48:00] [修正:2013-02-13 23:48:00] [このレビューのURL]

農業高校の「日常」描写漫画。

農業高校では当り前の「日常」を題材にしてここまで面白い漫画を作れるのは、この作者の漫画家としての力量を物語る。
実際、北海道に行くと、この漫画で描かれているようなエピソード(例えば、車ではねた鹿の肉を喰う等)をちらほら耳にする。

今、TPP問題も相まって、農産品輸出や6次産業化、規制緩和による大規模化等のテーマに関心が集まっているが、農業そのものの楽しさや有難味にも注目があって然るべき。農業を産業として見た場合の大いなる課題は、後継者問題だが、この漫画によって農業の担い手となる若者が多く出てくると、社会課題解決ツール、という未知なる「漫画の力」を我々は垣間見ることになるだろう。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2013-02-12 01:49:42] [修正:2013-02-12 01:49:42] [このレビューのURL]

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