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総レビュー数: 126レビュー(全て表示) 最終投稿: 2007年01月14日

7点 編集王

まだ漫画週刊誌が爆発的部数を売り上げていた90年代を舞台に、青年漫画週刊誌編集の現実的?な一面を描いた職業マンガ。

本作品のテーマは、基本的に、売上至上主義の編集者VS作家性追求型漫画家という対立。勿論この問に解はなく、その相克と止揚の中で珠玉の漫画は生み出されるのであろうが、そのプロセスこそが面白いと訴えたのがこの漫画だ。一見、前者視点の冷酷な漫画編集=このどうしようもない腐敗した現実、という作品に思われるが、登場人物は結局もれなく「熱さ」を抱くようになっているあたり、含蓄がある。現実路線の権化として登場した三京、明治、編集長、社長は最後には結局、主人公サイドに理解を示す「いいやつ」になっている。また、現実でも、90年代にマーケティングの結果売れていた漫画(バブル漫画)は今や全く読まれていない。魂入れて描かれたマンガのみが今も読み継がれている。

漫画家マンガが増えすぎた昨今、現実的に編集者視点から漫画制作にスポットライトを当てた本作は益々その価値を高めているようにも思える。漫画家が自らの職業について描くのは容易だが、敵でも味方でもある編集者を人間臭く生き生きと描くことはさほど容易ではないのだろう。作者の死が残念でならない。

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[投稿:2013-04-28 00:09:01] [修正:2013-04-28 00:12:20] [このレビューのURL]

誰にも好かれる理想的女学生像を凝縮した「ナッキー」及びそれを取り巻く友人達が、恋や友情に満ちた学生生活の中で喜び、悩み、苦しみ、そして、成長する姿を描いたヒューマンドラマ大作。

この漫画の凄いところは、とにかく「真っ直ぐ」なこと。心が薄汚れた人間や無理筋のご都合主義は皆無。単に、純情な学生が生活し、成長する姿を地道に丹念に描く。しかし、それこそがリアリティであり、人間だれしもが心の奥に抱く原風景を掻き立て、刺激する。

設定上のポイントは、「悪たれ団」という超「善玉」集団。ナッキーを中心とした、眩しすぎる学生たちは、先生の言いなりにはならず、自ら正しいと信じる行動をとる。そのはみ出し方が、性善説に基づいているので、読者にとって、描写が美しく、心地よい。ナッキーは、金持ち・頭良し・運動神経良し・性格良し・外見良しというどこか非現実的な女学生であるにも関わらず、そんな彼女が受難の末に成長を果たしていく様には神々しささえ感じるのだ。イエス・キリストのように―。教師は「聖職」と呼ばれるが、正にナッキーこそが理想の教師像なのかもしれない。

漫画文法的な観点から分析すると、少女マンガにしては、コマ割りがきっちり・はっきりとしていて、断ち切りやコマのぶち抜きシーンが少ない。また、内面描写シーンが少なく、台詞回しと絵によって話が進行する。よって、男性読者にとっても非常に読みやすい構成となっている。

アイディアやユーモアは平凡でエンターテイメントとしての面白味に欠くが、学生生活や教育が人生に与える意味を改めて考えさせる「影響力の重み」を持つ漫画であると言えるだろう。

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[投稿:2013-03-29 00:24:46] [修正:2013-03-29 00:24:46] [このレビューのURL]

喪男が共感できる作品を次々と生み出すスピリッツの主砲・花沢健吾の衝撃的デビュー作。

男性が求める性欲と恋愛願望を先鋭化させ、近未来における欲望充足の方法を思考実験、提案、描出している。突き抜けた妄想が創造へと結実した近未来SFともいえる。その時代では、男性の性欲は、リアルの女性ではなく、バーチャルなキャラクターへと向かう。

事実、草食系男性の増加が叫ばれる昨今、男性の欲望の矛先は、着実にバーチャルへと向かっている。他方、子孫を残すという生物本能は確実に草食系男子の中にも根付いており、理想を求めるバーチャルへの憧憬と現実的な結婚・子育てという妥協の間で、誰しも葛藤する。男性ならば誰しも実感、共感できる目の前の課題だろう。

その相克を本作は、リアルに生生しく描いているのだ。

作品は4巻と短くまとまっており、同作者が後に描くボーイズオンザランやアイアムアヒーローに比して、無駄がない。リビドー漲って一気に書き上げた感がある。にもかかわらず、絵はすでに完成の域に達しており、非常にテンポよく読むことができる。これは花沢漫画の中でも最高峰の良作だ。

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[投稿:2013-03-10 23:04:42] [修正:2013-03-10 23:04:42] [このレビューのURL]

ヒトラー出生に関する秘密文書を巡って、アドルフの名を冠する二人の少年による数奇な運命を綴った戦中譚。

第二次大戦下のドイツと日本を舞台に、ヒトラー出生に関する秘密文書を巡って人間がひたすらに「すれ違う」様は、もどかしくも滑稽で、数奇な運命の連鎖が読者を飽きさせない最大の仕掛けとなっている。あたかも「めぞん一刻」で五代君と響子さんの想いがすれ違い続けたように―。このモチーフの上に複数の小さなサスペンスや恋愛ドラマが折り重なりつつ、タイトル「アドルフに告ぐ」という名どおりの終結に向かって見事にストーリーが収束していく様は圧巻だ。

手塚治の晩期に非漫画雑誌で連載された本作。手塚作品の中でも異彩を放つ。同時期のブラックジャックの絵柄は、画線の「ブレ」が露見されるが、本作では、比較的しっかりとした筆跡を感じられる。それだけ作者の格別な思いが詰まっているということか。

なお、史実との関係については、秘密文書の存在も含め、多分にフィクションが混在していることに留意したい。しかし、ユダヤ人の迫害と彼らが世界の経済界・学界等で大きな存在感を示す現実の裏に何があるのか、人はなぜ人種差別をするのか等、歴史上の本質的問題について思索に耽るには十分すぎる歴史「小説」だといえるだろう。

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[投稿:2013-03-03 18:05:27] [修正:2013-03-03 18:13:02] [このレビューのURL]

ヤクザ&政治両面からの世直し系劇画。

まだバブル期の名残ある時代に始まった漫画であるが、世直しの気風に満ちた若者たちがいわゆる「体制」側に戦いを挑むところは、今読んでも十分に楽しめる。昨今、世直し漫画といえば、キーチVSやデストロイ&エボリューションのように「テロ」に題材を移す傾向にあるが、本作は、「ヤクザ」と「政治」という光と闇の2つの統治機構を二人の若者が中から変えていこうとするもの。

その過程は、「暴力」と「権力者の弱味を握る」ことの繰り返しだ。細かいリアリティを追求すれば、ツッコミどころは多々あれど、その展開のテンポの良さは心地よい。お前ら、愛人とセックスするときくらいちゃんとドアのカギかけとけよ!、とか、ここでソイツ殺しちゃうの?!とか、そんなパターンも読み進めていくうちに楽しめるようになってくる。さすが武論尊先生。

絵は、静止画の劇画としては、秀逸。巧い。特に、女性は現代でも通用するエロさ。が、動きはないし、バタ臭さは否めないのだが、一時代を築いた池上先生の絵なのでそれはそれで楽しめる。

本作が連載されていたのは、90年代初期から中期。細川内閣や村山内閣等、連立工作によって目まぐるしく政権が交代していた時代だったからこそ、共闘体制を模索する「劇場型政治」のダイナミズムが注目されたのだろう。が、今や、日本は、国政選挙による2度の政権交代を2009年と2012年に目撃した。そういう意味で、改革の期待感と失望感の双方を既に経験した現代人にとって、この漫画は絵空事ではなく、よりリアリティのもった世直しバイブルとして受け止められて然るべきかもしれない。

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[投稿:2013-02-25 01:58:15] [修正:2013-02-25 01:58:15] [このレビューのURL]

7点 銭ゲバ

金の亡者となった成金の人生の一部始終を簡潔に描いた問題作(?)。

この世はすべて金、と悟った人間の人生を一気通貫で描き出している。しかも、「少年サンデー」で。金、女、政治、権力、殺人・・・おぞましい所作の連鎖。金があれば何でもできる、そういった拝金主義が跋扈していた時代性を象徴する作品だろう。思うに、現代ではこの価値観は容易に許容されないのではないか。

絵は決してうまくないのだが、登場人物はほぼ全て心の汚い人間だからか、全く違和感がない。絵のブレが、心の歪みを形容しているかのように。

拝金主義の是是非非を押し付ける作風ではなく、問題提起している形になっているため、色々と考えさせられる。

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[投稿:2013-02-25 01:23:43] [修正:2013-02-25 01:23:43] [このレビューのURL]

島本漫画ではお馴染みのキャラ・炎尾燃を用いて、自らの青年期(大学時代)を叙述した島本和彦の自伝的作品。

漫画家・島本和彦は、同人誌を書き続けるとともに、幾度となくメディアに露出し、コンテンツ業界を論じ、分析してきた。個性が強すぎるため、好き嫌いは分かれるだろうが、分析派の漫画家としては一流。が、パロディや風刺、自伝を主戦場とするため、一流商業誌上でその作品を拝めることは少なく、人は彼をこう呼ぶ。「the・グレートマイナー」と。

そんな島本が、エヴァンゲリオンの庵野監督やオタキングこと作家・岡田斗司夫等、後に異なるフィールドで活躍することになる著名人達と運命を交差させる数奇な時代観を見て、右肩上がりのコンテンツ黎明期を懐かしむもよし、うらやむもよし。なんともいえない、その複雑な感情こそが、本作品の持つ魅力の本質だろう。

なお、同時代のコンテンツ史を研究するための貴重な資料として、本作とともに岡田斗司夫の「遺言」を併せて読んでいただきたい。さすれば、一つの時代の「うねり」を感じることができるだろうから。

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[投稿:2013-02-14 00:06:33] [修正:2013-02-14 00:06:33] [このレビューのURL]

ギャンブル漫画を擬態した算数・とんち・なぞなぞ漫画。

カイジを少年漫画=少年マガジンに落とし込むとこうなるのか、と目から鱗が落ちた。
カイジではギャンブルの題材が「ポーカー」「麻雀」「パチンコ」「チンチロ」等のいわゆる「大人の遊び」であったが、これを少年漫画に落とし込むと、よりシンプルな「なぞ解き」になる。そして、その題材のヒント(解決ツール)は、算数に近くなり、より教育的になる。

主人公像は、カイジよりも天才肌のアカギに近い。よって、人情話よりも解決の爽快感重視。

カイジでは、中だるみがひどく、ここのところクレディビリティが著しく低下していたこともあり、テンポの良い展開は非常に好印象。

なお、ソフトバンク社長の後継者探しというリアルにも引っ掛けた設定は風刺的な趣すら感じさせる。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2013-02-12 01:31:32] [修正:2013-02-12 01:31:32] [このレビューのURL]

7点 capeta

F1を頂点とするカースポーツを題材にした熱血スポコンのThe・曽田漫画。

曽田漫画の安定感はさすがですね、といえば、漫画読みにはこれ以上の解説は不要でしょう。

相変わらず、主人公像は、熱い・我儘・負けず嫌い・天才。このブレなさ。

そして、テンションMAXのまま幼年期→少年期→青年期→成年期という時系列フルセットで描く忍耐力は他のほとんどの漫画家が真似できない職人芸といって過言ない。

物語を盛り上げるライバルと、サポートしてくれる友人・ヒロインの存在。これぞ少年漫画の王道設定。

突き詰めていくと、曽田漫画ってヒーロー漫画なんですね。ジャンプがバトル漫画で構築した「努力・勝利・友情の雛形」を現実の職業に落とし込んだものとも言えるのかと。(リアルの世界観における天才の降臨と勝利譚。)





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[投稿:2013-02-12 01:20:57] [修正:2013-02-12 01:20:57] [このレビューのURL]

主人公を努力型から天才型に置き換え、ラーメン文化の更なる可能性を模索する、ラーメン発見伝の続編。

前作とは異なり、主人公をラーメンマニアから、ラーメン素人の料理英才教育を受けた美少女に置き換え、さらに、職場は、商社からコンサルへ。この時代に適合した設定のテコ入れが秀逸。

ブームが飽和しつつも、更なる進化、多様化を示すラーメン業界を題材にするには、この設定が絶妙にマッチしている。
ラーメンを単に掘り下げるのではなく、これまでにないような新食材を用いた斬新なラーメンの可能性を提示したり、経営面にスポットを当てて、「人気店となるための経営戦略」を例示したり、と読者を飽きさせない仕掛けがたっぷり。

汐見ゆとり(主人公)の「ピッコーン!!」は「げんしけん」でも引用されるなど、ある筋では人気ワードになったようだ。

それにしても、この作者、一向に絵が上手くならないですね。。女の子の顔が描き分けられてない。。。

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[投稿:2013-02-12 01:08:38] [修正:2013-02-12 01:08:38] [このレビューのURL]

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