「DEIMOS」さんのページ

総レビュー数: 126レビュー(全て表示) 最終投稿: 2007年01月14日

誰にも好かれる理想的女学生像を凝縮した「ナッキー」及びそれを取り巻く友人達が、恋や友情に満ちた学生生活の中で喜び、悩み、苦しみ、そして、成長する姿を描いたヒューマンドラマ大作。

この漫画の凄いところは、とにかく「真っ直ぐ」なこと。心が薄汚れた人間や無理筋のご都合主義は皆無。単に、純情な学生が生活し、成長する姿を地道に丹念に描く。しかし、それこそがリアリティであり、人間だれしもが心の奥に抱く原風景を掻き立て、刺激する。

設定上のポイントは、「悪たれ団」という超「善玉」集団。ナッキーを中心とした、眩しすぎる学生たちは、先生の言いなりにはならず、自ら正しいと信じる行動をとる。そのはみ出し方が、性善説に基づいているので、読者にとって、描写が美しく、心地よい。ナッキーは、金持ち・頭良し・運動神経良し・性格良し・外見良しというどこか非現実的な女学生であるにも関わらず、そんな彼女が受難の末に成長を果たしていく様には神々しささえ感じるのだ。イエス・キリストのように―。教師は「聖職」と呼ばれるが、正にナッキーこそが理想の教師像なのかもしれない。

漫画文法的な観点から分析すると、少女マンガにしては、コマ割りがきっちり・はっきりとしていて、断ち切りやコマのぶち抜きシーンが少ない。また、内面描写シーンが少なく、台詞回しと絵によって話が進行する。よって、男性読者にとっても非常に読みやすい構成となっている。

アイディアやユーモアは平凡でエンターテイメントとしての面白味に欠くが、学生生活や教育が人生に与える意味を改めて考えさせる「影響力の重み」を持つ漫画であると言えるだろう。

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[投稿:2013-03-29 00:24:46] [修正:2013-03-29 00:24:46] [このレビューのURL]

喪男が共感できる作品を次々と生み出すスピリッツの主砲・花沢健吾の衝撃的デビュー作。

男性が求める性欲と恋愛願望を先鋭化させ、近未来における欲望充足の方法を思考実験、提案、描出している。突き抜けた妄想が創造へと結実した近未来SFともいえる。その時代では、男性の性欲は、リアルの女性ではなく、バーチャルなキャラクターへと向かう。

事実、草食系男性の増加が叫ばれる昨今、男性の欲望の矛先は、着実にバーチャルへと向かっている。他方、子孫を残すという生物本能は確実に草食系男子の中にも根付いており、理想を求めるバーチャルへの憧憬と現実的な結婚・子育てという妥協の間で、誰しも葛藤する。男性ならば誰しも実感、共感できる目の前の課題だろう。

その相克を本作は、リアルに生生しく描いているのだ。

作品は4巻と短くまとまっており、同作者が後に描くボーイズオンザランやアイアムアヒーローに比して、無駄がない。リビドー漲って一気に書き上げた感がある。にもかかわらず、絵はすでに完成の域に達しており、非常にテンポよく読むことができる。これは花沢漫画の中でも最高峰の良作だ。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2013-03-10 23:04:42] [修正:2013-03-10 23:04:42] [このレビューのURL]

後に実写化され、そのおどろおどろしい風貌がヒーローらしからぬと中年世代の記憶に刻まれた、手塚治虫が生み出したロボットヒーローの一つ。

手塚治虫作品にしては、設定やストーリー作りが強引で「粗」がある印象。事実、手塚自身、「たいへん都合のよい設定ではじめた、一種のでたらめな漫画」として形容している。実写版では、巨大怪獣バトルものへと変貌を遂げているが、漫画版ではその要素は薄い。地球侵略を企む宇宙人VS地球の神が生み出したロケットロボットの一連のバトルが主軸である。

ストーリーは淡々としており、キャラの見た目も不気味で、アトムのように時代を超える作品にはならないだろう。
現代になってしまっては、「マグマ」「大使」といった凄みがあるが特段キャラとの相関は不明なワードは、このキャラクターを「とっつきにくいもの」にしているようにも思える。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2013-03-10 22:49:04] [修正:2013-03-10 22:49:04] [このレビューのURL]

自転車という自分の趣味を漫画にしました的日常漫画。

鬼頭先生といえばSF、というイメージがあるが、本作には超科学的な存在は皆無。すべてが現実世界の描写。
作者は、自らの趣味である自転車をじっくり、丹念に描きたかったのだろう。薀蓄が前面には出ず、小出しになっているあたり、自転車にあまり明るくない人にとっても新鮮な気持ちで楽しめるように工夫されている。(ちなみに私はトレックのクロス乗りなので、ほどよく楽しめた。)

が、「シャカリキ」のような熱さMAXのスポーツマンガではなく、「大人の趣味としての自転車」というスポットの当て方。このアクのない作風は、拍子抜けの感もあるが、淡々と読めてしまうのは、同一作者の過去作品を知っているからだろう。

港区・世田谷区・中野区あたりに居住し、ロハスを実践するオサレでちょっぴりロリコンの大人には楽しめる漫画だろう。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2013-03-03 18:34:37] [修正:2013-03-03 18:34:37] [このレビューのURL]

また異星人退治系SFか、とうんざりさせられる無難な作品。

書店で平積みにされていた1巻を見てなんとなく購入したのだが、ストーリーは寄生獣というかウルトラマンというか鉄腕バーディーというか、、、よくある異星人退治系のSF設定。
主人公が女性で、虚無感溢れる、というのは新しいが、いかんせん魅力あるキャラクターがいないのは致命的。特段技巧を凝らすこともなく、バーッと話を広げて、よくわからん形で終結させるのも、もはや見慣れた光景。

眺める分にはサラサラと読めて無難なSFとして楽しめるが、全く思い入れを抱けないので、直ぐに記憶から消失するだろう、と断言できる。事実、ブックオフの100円棚で本書は大量に溢れている。そんなに売れてないだろうに―。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2013-03-03 18:23:20] [修正:2013-03-03 18:23:20] [このレビューのURL]

ヒトラー出生に関する秘密文書を巡って、アドルフの名を冠する二人の少年による数奇な運命を綴った戦中譚。

第二次大戦下のドイツと日本を舞台に、ヒトラー出生に関する秘密文書を巡って人間がひたすらに「すれ違う」様は、もどかしくも滑稽で、数奇な運命の連鎖が読者を飽きさせない最大の仕掛けとなっている。あたかも「めぞん一刻」で五代君と響子さんの想いがすれ違い続けたように―。このモチーフの上に複数の小さなサスペンスや恋愛ドラマが折り重なりつつ、タイトル「アドルフに告ぐ」という名どおりの終結に向かって見事にストーリーが収束していく様は圧巻だ。

手塚治の晩期に非漫画雑誌で連載された本作。手塚作品の中でも異彩を放つ。同時期のブラックジャックの絵柄は、画線の「ブレ」が露見されるが、本作では、比較的しっかりとした筆跡を感じられる。それだけ作者の格別な思いが詰まっているということか。

なお、史実との関係については、秘密文書の存在も含め、多分にフィクションが混在していることに留意したい。しかし、ユダヤ人の迫害と彼らが世界の経済界・学界等で大きな存在感を示す現実の裏に何があるのか、人はなぜ人種差別をするのか等、歴史上の本質的問題について思索に耽るには十分すぎる歴史「小説」だといえるだろう。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2013-03-03 18:05:27] [修正:2013-03-03 18:13:02] [このレビューのURL]