「とろっち」さんのページ

大好きな小説を、絵柄が好みである漫画家が描くとなれば、これはもう読まない訳には到底行くまい。

大筋を簡潔に述べると、酒を求めて夜の京都を巡り歩く「黒髪の乙女」の冒険譚と、彼女に想いを寄せて
ストーカーの如くに後を付け回す「先輩(私)」が珍妙な出来事にばかり巻き込まれる話である。
彼女は歩く。 灼熱の夏の古本市を。不毛な情熱溢れる秋の学園祭を。風邪の神が跋扈する冬の街を。
その度に彼女は意図せざるまま主役となるのだ。 尤も本人はそのことに未だ気づいてはいまいが。
路傍の石であり彼女の後ろ姿の世界的権威である私が、彼女の眼中に入るのはいつの日であろうか。

     ◇

さて、僭越ながら漫画版について説明させて頂きますと、原作のキュートでポップな部分を引き継ぎつつ
なんと全5巻のうちの半分以上がオリジナルエピソードなのです。
華やかで色彩豊かな世界が可愛らしさに溢れ、なんと素晴らしいのでしょう。
原作者も巻末のあとがきに於いて「可愛いことは良いことである」との至言を残しておられます。
まことに喜ばしいことです。

     ◇

付け加えるならば、キュートなポップさを強調しようと力み過ぎて総じて凡庸なラブコメに成り果てており、
原作のもう一つの特徴でもある妖しくも怪しい胡散臭さが再現できていないと言わざるを得ない。
恐らく漫画版は小説版とは違う読者層を狙っているのであろうし、その意味では妥当な出来なのだが、
原作を猛烈に愛して止まない諸賢の方々にはお薦めしかねる。
原作者も巻末コメントで「とりあえず小説読んでくれ」と暗に述べているではないか。

     ◇

けれども漫画版単体として見る分には、十分に合格点を与えられて然るべきだと思われます。
物語も後半に差し掛かってきますとそのような力みも抜けて自然体での面白さをむくむくと発揮し始め、
事務局長やパンツ総番長などはむしろこちらの方がずっと活き活きとしていることでありましょう。
原作と同様に愛すべき人々がこの華やかなる世界で痛快にご活躍する姿をごゆるりとお楽しみ下さい。
そうしてやはり「ビスコを食べれば良いのです!」が大好きなのです。 なむなむ。



すいません悪ノリが過ぎました。 原作ファンの方ごめんなさい。
ちなみに羽海野チカ版よりこちらの黒髪の乙女の方が個人的には良かったり。
まあそんなのどうでもいいですね。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-06-22 15:59:21] [修正:2011-06-22 16:05:34]