「とろっち」さんのページ

総レビュー数: 300レビュー(全て表示) 最終投稿: 2009年10月09日

大人になると知らず知らずのうちに自分の発言や思考、行動を正当化したがる。
まあそれは今までの自分の経験に基づくものでもあり、それはそれでいいと思うのだけど、
その考え方に固執してしまって他の人の意見を排除してしまいがち。

大人とはまた違った角度で物事を見て判断する知世の視点は、
時に斬新で、時にその発想が懐かしく、時に目を背けたくなるようなところをグサッと突いてくる。

知世は手探りで懸命に頑張るお父さんを見て色々なことを感じ取り、教わり、のんびりと成長していく。
「Papa told me」とはよく言ったもので、お父さんは知世にたくさんのことを伝えようとする。
でもそれだけではない。 お父さんはそれ以上に知世の話を真摯に聞く。 一人の人間として。
「所詮は子供の言うことだから」とか「子供は親の言うことを聞いていればいい」なんていう発想は
微塵もない。 子供だって大人と同じように、もしかしたら大人以上に何かを感じ取り、考えているから。
そしてお父さんもまた知世から色々なことを教わり、学んでいる。

世の中には心無い人もいて、でもそういう人たちは自分のことがきっと見えていなくて、
彼らの心無い言動が知世を攻撃する度に、読んでいて何だか申し訳ないなという気持ちで一杯になる。
しかし知世の感受性はそんなものに負けはしない。 いつも強く、逞しく、そして、微笑ましく。
作者の照れ隠しなのか単にこういう芸風なのか、どこかはっきりとせず靄がかかったような空気だけど、
どこまでもテーマはぶれず、優しさと暖かさとが慎ましやかに伝わってくる。
単行本の巻数が一桁の頃なら10点を付けてもいいかもしれない作品。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-11-22 01:32:40] [修正:2011-11-22 01:33:27] [このレビューのURL]

8点 イムリ

あまりにも壮大なスケールのSFファンタジー。

まるで底が見えないほどに重厚な世界観、複雑ながらもしっかりと練り込まれた設定、
少しずつ謎が解き明かされていくと同時にまた新たな謎が浮かび上がる展開。
歴史や慣習はもちろんのこと、社会の支配体制、生態系や食文化に至るまで綿密に作り込まれており、
「作品世界を構築する」という言葉がこれほど当てはまる作品もなかなか無いのでは。

しかしながらこの作品、困った事に、最初に1巻を読んだ時点では何が何だか全くわからないはず。
最初から全体の構成を理解できるような作りには敢えてなっておらず、しかも用語が複雑怪奇で、
さらには作者の独特の絵柄自体が一見さんお断りな感じなので、もうかなり敷居が高くなっています。
用語も、「カーマ」、「イコル」、「イムリ」、「マージ」、「ルーン」、「デュルク」、「デュガロ」……。
全巻に詳細な用語解説や登場人物説明が載っているので、最初のうちは照らし合わせながら
読んでいくことになるでしょう。
おまけにこの作者の作品はその絵柄のために登場人物の顔が似ていてただでさえ区別しづらいのに、
各々の個性が見えにくく(見えないのではなくあくまでも見えにくい)、非常にキャラを覚えにくいです。
1巻すら読み切れずに断念してしまっても全然おかしくありません。

ただ、そこをがんばって乗り越えると、途中からふっと世界観が頭に入ってくるようになってきます。
そうなると不思議なもので、読むたびにどんどん理解できるようになります。
恐らく意図的にそういう構成になっていると思いますが、この辺りが作者の作り手としての凄さ。
もともと作品の全体的なテンポは良いので、慣れれば今度はサクサク読み進めていけます。

支配民族カーマ、奴隷民族イコル、かつてカーマと戦争を繰り広げたルーン星の原住民族イムリ。
同じ「共鳴」という能力を持っていても、全く異なる方向へ進化したカーマとイムリ。
カーマはその力を他者との共鳴、すなわち他者の精神に働きかけ人の心を操る侵犯術として特化させ、
逆にイムリはその力を物質との共鳴、すなわち「星と仲良くする」ために使ってきた。
イムリは物質の力を引き出すことで恐るべき威力を発揮する「イムリの道具」を持ち、
そんなイムリの力を恐れたカーマはイムリを力で押さえつけて支配しようとする。

大まかに言うとこんな物語ですが、「一つの民族が他の民族を征服して支配する」という作品の構造は
主人公の立ち位置とともに最初のうちはカーマ視点で、そのうちにイムリ視点で描かれるようになり、
単純な善悪二元論ではとても量り切れない深さを秘めています。
SFファンタジーなのに確かに泥臭い空気の作品ですが、失われたイムリの術を解き明かしながら
地に落ちたイムリの民が反乱すべく無骨に立ち上がるというストーリーにピッタリな感じ。
とにかく質の高さにかけては申し分のない作品です。 あとはもう好みの問題でしょうね。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-11-16 00:48:20] [修正:2011-11-16 00:53:36] [このレビューのURL]

8点 OZ

わずか40分間で終了した第三次世界大戦によって世界人口は激減。
疑似氷河期を経て未だ戦乱と混迷の治まらない地球において、囁かれる一つの伝説。
それは、飢えも戦争も無いという伝説の都市、OZ…。

舞台は旧・アメリカ合衆国が大きく6つに分裂したうちの1つの共和国。
大戦によって植物は完全に枯死し、寸断された交通・通信網は容易に回復せず、各地で争乱が起こり
至る所で住民達により立国宣言が相次ぐ、という北斗の拳もビックリな世界観。
優秀な傭兵である主人公は、周囲の国々との戦争・交渉・謀略が続く中、雇い主の女性を守りながら
伝説の都・OZを目指す、樹なつみ氏お得意の近未来SFアクション。

少女漫画誌に掲載されてはいたものの、絵も内容も世界観も少女漫画の規格を遥かに凌駕した作品。
『オズの魔法使い』をモチーフにしたという本作は、とにかく骨太でスケールの大きさを感じさせます。
少女ドロシー、知恵がない案山子、心を持たないブリキ男、臆病なライオン、そして魔女や大魔法使い。
それぞれのキャラがどれに相当するのか楽しみながら読み進めてみるのも良いと思います。

主人公とヒロインとの恋愛模様もありますがそこまでメインとして描かれているわけでもなく、
むしろ少しずつ自我や感情を獲得していくヒューマノイド(=人造人間)との心の通わせ方
(と言うか疑似恋愛と言うか愛憎と言うか)が作品の核となっており、その描写が非常に秀逸。
ラストは綺麗にまとまっていて素晴らしいです。
同時に、アシモフの「ロボット工学三原則」に作者なりの解釈が加えられており、
考えさせられるような結末にもなっています。

作者の絵はこの頃が一番好きですね。
洗練されていながらも読みやすい絵柄に加え、骨太の近未来SFに相応しく、アクション映画を彷彿と
させるようなエンターテインメント性をも感じさせる構図。
まさに樹なつみという作家の持てる力を存分に凝縮した、個人的には作者の最高傑作だと思います。
が、一つだけ残念な点を挙げると、あまりにも凝縮させすぎて、内容のボリュームの割に
巻数(通常版4巻、完全収録版でも5巻)が少なく感じられること。
おかげで展開が速い速い。 もうちょっと巻数を増やしてじっくり描いても良かった気がします。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-10-28 01:39:33] [修正:2011-10-28 01:42:25] [このレビューのURL]

家族と離別して人間不信に陥った少女が、青年と次第に心を通わせ、真実の愛を見つける物語(笑)。
(ほぼ作中原文のまま)

読む前は全く期待してなかったので、個人的にすごく意外。 まさかこんな面白いとは思わなかった。
作者の代表作である「HER」とかはちっとも合わなかった(むしろ途中で挫折した)のですが、
これは一体どうしたもんか。 ずーっとニヤニヤしっぱなしでした。

男に免疫のない女子高生がとある事情で同居することになった31歳イケメンは、全裸だった。
話の内容としては本当にこれだけ。
基本的に全編下ネタのシチュエーションコメディと言えなくもないですが、この作者は
言葉選びのセンスが抜きん出ていて、それがいちいちツボにはまります。
奇想天外奇天烈なボケよりも、類稀なるボキャブラリーを駆使して心の底からほとばしる衝動を
力の限りにぶつけるたえ子ちゃんのツッコミが痛快でテンポ良くてもう素晴らしい。

そんなたえ子ちゃんもどんどん壊れてきて、後半はまさかのラブコメに突入します。
どうしてそこでそうなるかな、っていう展開なのに、これがまた上手い具合にアホすぎて。(褒め言葉)
最後の方は完全にたえ子ちゃんが主導権握ってますからね。 この辺の描き方も面白いです。
ちょっとだけ残念なのは、個人的にもうちょっと長く読んでみたかったこと。
めちゃくちゃなのに力技で大団円に持って行ってるあたり、個人的には終わるのが早すぎたかな、と。

もちろん笑いの好みは人それぞれなので、特にこういうクセのある作品は万人向けとは言い難いですが
少なくともタイトルと表紙の絵ではこの内容はさっぱりわかりませんね。
この作品、女性からよりも男性からの方がウケが良いような気がします。
と言うかそもそも少女漫画なのかこれ。


また、短編「3322」も同時収録されています。 こちらは一遍変わってシリアスな話。
個人的にはこういうのはあまり好みではなかったです。
タイトルの「3322」の意味がパッと分かる(解読できる)のってギリギリ自分らの世代ぐらいまでかも。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-10-21 00:54:56] [修正:2011-10-22 01:32:12] [このレビューのURL]

8点 水域

日照りによる給水制限の中、中学3年生の水泳部の少女がランニング中に熱中症で倒れて意識を失う。
目覚めた時に少女がいたのは、雨が止むことなく降り続く川辺の古びた山村だった。

話の題材としては非常にありふれた感もありますが、現在、過去、夢の中の世界の描写を交差させて
作品の世界観を重厚なものにした上で、親子三代の故郷に対するそれぞれの気持ちの対比を
しっかりと丁寧に描き出していて、非常に読み応えのある作品となっています。
そして作者の大きな特長でもある、自然への畏敬の念を感じさせるような情景、雰囲気の描写。
現代劇でありながらもこれが何とも素晴らしいです。

この作品は、この手のファンタジーにありがちな「夢の世界と現実とがリンクして現実世界に影響する」と
いう設定ではなく(記憶として残る程度)、あくまで過去は過去。
当然ながらダム開発を悪として描いているわけでもなく、登場人物の心にも抵抗運動の終焉とともに
ある意味時代の変遷としての諦観のような思いも生まれつつあり、それはラストでの人工的なダム湖と
古き山村とのそれぞれの美しさを対比させた描写にも象徴されているように感じます。
そして、だからこそ、「今はもう無い場所」である「失ってしまった故郷」に対するやりきれない気持ち。
それは後悔とも失望とも違い、気持ちの整理はできても消化されることなく残り続けていくはずで。

各々の心の奥底には、自分のルーツとして、自分の存在を形成する不確かだけど確固たる拠り所として
あの村があり、孫娘にも不思議な体験を通じて奇しくも受け継がれていきます。
村は水の底奥深くへと沈んでしまっても、人々の想いは忘れられることなく。

水にまつわる話なのにこのレビューでほとんどそのことに触れていなかったので、少しだけ。
海とはまた違う川独特の清涼感、そして森に囲まれた川と山村という原風景が日本独自の郷愁を
想起させ、暗く重い話になりがちなところを実に透明感溢れる優しい作品に演出しています。
また、水信仰の象徴のような龍神伝説をうまく話の根幹に絡ませ、幻想的な雰囲気を醸し出しています。

やっぱり作者の代表作は「蟲師」であり、それに比べてこちらはあまり陽の当たらない作品なのかも
しれないですが、こちらも良い作品です。
暑い時期に読んだ方がより一層作品の雰囲気が伝わってきて良いと思います。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-09-27 01:16:39] [修正:2011-09-27 01:20:55] [このレビューのURL]

動物との触れ合いを描いた珠玉の短編集。

表題作「犬を飼う」は作者の私小説的作品であり、子供のいない夫婦にとって重要な家族の一員だった
愛犬・タムの晩年の姿を描いた作品。

飼い始めの仔犬の頃はヤンチャでとてもかわいかったタム。
そんなタムも老犬となり、作中ではタムがどんどん衰弱してきます。
タムを少しでも歩かせてやろうと散歩させている奥さんに、通りがかった人が「(歩かせて)かわいそう」と
声をかけるものの、「このまま歩けなくなる方がよっぽどかわいそうだ」と心の中でやり返す奥さん。
ついに自力で立ち上がれなくなりながらも外へ出たがるタムを何とか起こし、散歩へつれていく2人。
あんなに嫌がっていた排泄物を自分の寝床にもらしてしまうほどに弱ってきたタム。
寝たきりになったタムを見ながら、「これでいいのだろうか…」と自問自答を繰り返す「私」。

「なぜ、こんなになってまで生きようとするんだ?」
身動きすらできないタムを見て、安楽死させるべきか何度も思い悩み…。
タムとは言葉を交わすことができないが故に、余計に胸が締め付けられる感覚。
「こんな思いをしてタムを看取るとは思ってもみなかった」

演出的な要素を抑えて淡々と描いた描写が、却って読者の心の奥深くまで届くような気がします。
「動物を飼う」ことの意味と意義。 飼い主として、家族としての責任、心情。
そういうのを真っ向から、しかも説教臭くならずに描き切った傑作。


そしてこの夫婦、懲りずにまたペットを飼います。 もう二度と飼わないって言ってたのに。
それが2編目の短編、「そして…猫を飼う」。
これはブサイクで警戒心が非常に強いボロ(猫の名前)が少しずつ懐き、出産するまでを描いた話。
3編目は、子猫たちを人にあげることを約束してしまったために、子猫をボロから引き離すことの苦悩、
ボロが必死に子猫を探し始める切ない様子を描いた「庭のながめ」。
4編目はさらにその続編ですが、こちらはあまりペットは関係なく、姪っ子が家出してきた話。

5編目は今までの話とは全くつながらず、雪山で遭難した男が、神の化身とも言われるユキヒョウを
目の前で見る話。
この5編目は、後の作品「神々の山嶺」に通じる圧倒的な描写力が印象的です。


生き物の生死を主に描いた話でありながら、前述のとおり過剰演出もなく淡々と描かれているため、
さほど重くもなく、暗くもなく、テンポが良くて読みやすい作品になっています。
たった5編ながらもとても読み応えのある短編集です。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-09-10 00:55:38] [修正:2011-09-10 01:08:25] [このレビューのURL]

「ラブコメの女王」が描き出したのは、醜悪な人魚と、その人魚の肉を巡るさらに醜悪な人間の本性。

人魚の肉にまつわる不老不死伝説と、それに関わる人々の悲喜を見事に描いた作品。
悲喜というのは違うかもしれませんね。 「喜」は無く、「悲」ばかりが繰り広げられます。
不老不死という壮大なテーマを扱いながらも、敢えて一話ごとの世界観を狭い範囲に絞ることで
却ってその登場人物の人間関係が浮き彫りになり、濃厚なドラマが展開されています。

絵的には、後の犬夜叉に通じる化物の造詣の巧みさ、和服姿のたおやかさが素晴らしいのはもちろん、
この作者は子供や老人を描くのが本当に上手く、伝奇ものとしての雰囲気が秀逸です。
そして何より、女性の艶かしさ。 これが描けるからこそ人魚伝説が描けると言っても過言ではないです。

この作者は一話完結の日常コメディを描けば並ぶ者のない程の名手だと思いますが、
こういうギャグを一切はさまないシリアスな短編も見事なのは流石と言うしかないですね。
特に、怨恨、復讐、無念さ、そしてオチのどんでん返しまで描ききった「人魚の森」は抜群の出来。

他のレビュワーの方と同じく、ぜひ続きが読みたい作品。
犬夜叉が終わった時は続編が来るかと期待してましたが、残念。
この作品は少年誌より青年誌の方が良さが発揮できそうな気がします。 続きがあれば、ですが。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-08-30 01:07:37] [修正:2011-08-30 01:08:47] [このレビューのURL]

地味な事件ばかりの探偵もの。

主人公がどこかに行ったら殺人事件に遭遇した……、などではなく、基本的には依頼人が探偵事務所に
仕事を依頼することから始まります。 いわゆる実際の探偵事務所や興信所を意識した話作り。
その仕事内容も派手なものではなく、人探しや物探しだったり、浮気調査みたいなものだったり。

にも関わらず作品自体がそれほど地味になっていないのは、キャラ作りの上手さの賜物でしょう。
一癖も二癖もある脇役キャラ、そしてUMAみたいな犯人役がどんどん話を掻き回します。
そしてそれに負けないぐらいに大暴れするのが主人公の探偵・妻木。
一見落ち着いたキャラで、一応は探偵らしく地味な聞き込みや足を使った捜査をするものの、そのうち
エスカレートして違法行為ギリギリ(と言うかたぶんアウト)になっていき、とにかくドタバタに。

「みっちゃん編」以降は絵も話作りも上手くなっていきます。
小道具と伏線も巧みに使いこなし、カメラワークも秀逸。 だから短い話でもビシッと締まります。
女性をとても綺麗に描けるのも特徴。 絵の上達っぷりがすごいです。
当時アニマルに掲載されていたときはこれが一番楽しみでした。
読んでいると妻木と涼子さんに情が移りますね。
余談ですが、女性の大家さん最強説はついでにとんちんかんを思い出しました。

個人的には、ギャグとシリアスとのバランスが良くてとても読みやすい作品だと思うのですが、
欠点としては、訴求力が明らかに足りない気がします。
そこがどうにももったいないなあという感じ。
なので自分としては8点を付けたものの、やっぱりここのレビューの平均点ぐらいの点数が
この作品の評価としては一番ふさわしいのかもしれません。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-08-24 01:32:02] [修正:2011-08-24 01:32:02] [このレビューのURL]

「ナイフ」=「十代の自意識」。
ナイフのように剥き出しになった自意識を持て余し、溺れるがごとくに足掻き、彷徨い、
周囲を傷つけ、自らを傷つけながらも、少しずつ成長していく少年少女を描いた作品。

中学生にして早くも「人生のピークを過ぎた」と感じ、自分もかつて持っていた(と自覚している)
「キラキラと光り輝く光源」に本能的に惹かれ、追い求める夏芽。
そんな夏芽の剥き出しの感情が本の外まで飛び出すがごとく、読んでいて激しくぶつかってきます。

正直、三十路のオッサンが読むような漫画ではないかもしれませんが、
この作品の良さや凄さは十分に伝わってきました。
絵だって特段上手くないですし、ストーリー展開も他の少女漫画と変わり映えしないように思えるものの、
作品から伝わってくる空気が違う。 パワーが違う。 生々しさが違う。
夜の山、夏祭り、篝火などという小道具の使い方も上手く、神々しさを高めるのに一役買っています。、
触れれば切れるようなギラギラした危うさをこれほどまでに表現できているのは本当にお見事。

クセがあって異彩を放つ作品のため、万人向けとは必ずしも言い難いですが、
ハマる人はとことんハマるのではないでしょうか。
溺れるような年代を瑞々しく描いた、熱情がほとばしる渾身の作品。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-06-29 01:26:32] [修正:2011-06-29 01:26:32] [このレビューのURL]

穏やかな世界と、マリィの優しい微笑み。

これは良質のファンタジー。
今までどちらかと言うとまず画力ありきという印象だった作者に、世界観とストーリーが追いついた感じ。
しっかりとした世界が、違和感なく、緻密に、丁寧に、作り上げられています。

ゆったりとした流れを感じさせる上巻と、怒涛の展開を見せる下巻との対比が面白いです。

ラストでの立て続けのどんでん返しは正直予想の範疇ではありましたし、どこまでが真実かも
意図的にある程度ぼやかされて描かれてはいますが、この作品はミステリーなどと違って
謎を解くのが目的ではなく、種明かしも作品を形成する1つの要素にすぎません。
何だか幸せの定義についてもいろいろと考えさせられてしまいます。
人類にとってどちらが幸せだったのか。 個人として何が幸せなのか。
その辺の構成が実に巧みな良作。

最後まで読み終わった後に上下巻の表紙を並べてみるとよくわかります。
作者が最も描きたかったのは、きっとこの光景だったのでしょうね。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-06-12 16:34:19] [修正:2011-06-12 16:34:19] [このレビューのURL]

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