「とろっち」さんのページ

総レビュー数: 300レビュー(全て表示) 最終投稿: 2009年10月09日

River's Edge

「あたし達は何かを隠すためにお喋りをしてた」
「ずっと  何かを言わないですますために」
何かを隠すために人を傷つけ
何かを隠すために人を求める

完璧に1ミリの狂いもなく真っ直ぐ生きている人なんていない
みんな多かれ少なかれ必ずどこかズレている

誰がおかしいわけでもない  誰が悪いわけでもない
みんな少しずつズレているだけ

そのズレが偶発的に絡まり合って大きくなったとき、事件は起こる
でもそれは特別なことではない
現実なんてただそんなものなのだ

もう二度と交わることがないかもしれない直線
でも確かに彼らは出逢った
あの河のほとりで
河口にほど近く、広くゆっくりよどみ、臭い、 でも確かに海の匂いがする、あの河のほとりで

River's Edge
 

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-06-09 21:12:25] [修正:2010-06-09 21:14:41] [このレビューのURL]

死後一定時間内に取り出した無傷の脳をスキャナにかけると、
生前に見た過去数年分のすべての眼の記憶をスクリーンに再現できる。
その技術を凶悪犯罪の捜査に駆使し、事件を解決していく、というオムニバス形式のサスペンス。

簡単に書くとそういうことですが、本当に恐ろしい話です。プライバシーも何もあったもんじゃないです。
自分が普段どのような生活をしているのか、どういうものを眼で追っていったのか、
誰のことを見続けたのか、何を見てしまったのか…。
人間の頭の中を直接覗く行為。
秘密。どんなに隠しても逃れられない、秘密。

再現される映像は客観的な事実ではなく、あくまで主観的な眼の記憶。
自分というフィルターを通したあとで脳に焼き付けられたものが映ります。
麻薬中毒なら実際に幻覚が見えてしまうし、Aさんのことが好きなら実際よりも可愛く(格好良く)見え、
Bさんに対して強い強迫観念を抱いていれば、疑心暗鬼から周りの人がすべてBさんに見えてしまう。
そしてその映像には一切の音が無い。眼の記憶ですから。
その他諸々の技術的・倫理的・政治的制約もあり、いろいろと考えさせられてしまう深さを持ち合わせた
本当に上手い設定だと思います。

主に猟奇的な殺人事件を扱うこの作品。
連続殺人犯の頭の中も覗くわけで、その狂った世界に捜査員の精神が影響を受けない訳がない。
いま自分が見ているものは、他の人にも見えているのだろうか…。
いま頭の中にある記憶は、本当に自分自身の記憶なのだろうか…。
彼らは闇の世界、狂気の世界に引きずり込まれそうになりながらもなんとか正気を保ち、
事件解決のために奔走します。
主人公たちのそういうせめぎ合いもこの作品の見所の一つです。

ベテラン作家による綺麗でスマートな絵柄のため、決して見苦しくはないのですが
かなりエグい、グロい、重い作品です。
人体解剖なんて普通に出てきますし、大量虐殺のシーンとか、自分が惨殺されるシーンとか、
手を抜かずにしっかり描き込んであります。
「羊たちの沈黙」や「セブン」(っていう昔の映画です)なんかが苦手な人にはお薦めできないかも。
物語が単なるハッピーエンドで終わらず、時に残酷で、もどかしく、やるせなく。
それでも、息を呑むほどにとにかく面白い。良作です。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-05-09 22:38:37] [修正:2010-05-09 22:41:04] [このレビューのURL]

観用少女への何よりの栄養は愛情。愛されなければ枯れてしまう儚い少女。
その少女の極上の微笑みが、人生を素晴らしいものにしてくれる。
懐かしくてほろ苦い、ちょっと未来の恋物語。

観用少女を介して人間同士の哀歓を描いた、一話完結の良質なショートショートです。
個人的にはショートショートはもっとたっぷり毒が詰まっている方が好みなのですが、
それを差し引いても面白いです。

奢侈品である観用少女の無垢な愛らしさと、絢爛でミステリアスな作品の雰囲気がとても魅力的です。
とにかく圧倒的なまでの美しさ。少女たちの笑顔も、天国の涙の描写も。
「極上の微笑み」なんて、文字で書くとすごく簡単なんですけどね。

タイトルや表紙のイラストから、非常に怪しい作品に見えてしまうのが最大の弱点かも。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-04-14 21:12:30] [修正:2010-04-14 21:18:46] [このレビューのURL]

主人公は祖父譲りの強い霊感を持ち、霊的なトラブルによく巻き込まれますが、
彼は退魔などを専門としていない一般人であり、基本的にはただ「見える」だけ。
妖怪や霊の類と戦ったり、逆に仲良くなったりするのではなく、
あくまでも畏怖の対象として描かれている点が良いです。

伏線が効果的に張られたミステリー仕立てのストーリーと、繊細で艶やかなタッチの幻想的な絵柄。
作品の雰囲気は、時にシリアスに、時にコミカルに、時にほのぼのと。
しかしその裏側には、気を抜けば引きずり込まれる恐怖が常に存在しており、
生と死が隣り合わせで身近にあることを感じされてくれます。

和の美しさ。迷信の怖さ。伝統の大切さ。そして人の思いの強さ。
恐ろしい話も、心温まる話も、考えさせられるような話もあり、
読むごとにじわじわとその面白さが伝わってくる良作です。
ちょっと読んだだけではこの作品の良さが伝わりにくいのが残念。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-03-28 17:29:52] [修正:2010-03-28 18:15:36] [このレビューのURL]

8点 魔女

わかりやすい作品ではないです。
が、「この世はすべて理解できることだけではない」ことを、圧倒的な表現力で描写している様は見事。
ページをめくる度に色が見え、音が聞こえ、匂いが感じられる感覚。
理性ではなく感覚に直接訴えてくる衝撃。
台詞の一言一言が重く、鋭く、深く、読者をえぐります。

自然と共存し、自分たちの土地を愛し、文化を育んでいくこと。
既存の論理や常識の範囲外にあるものを受け入れること。
「言葉で考える あなたは 言葉を超えることは、考えられない」
その雄大なテーマに想像力を刺激される作品です。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-03-20 22:47:25] [修正:2010-03-22 19:45:13] [このレビューのURL]

読んでいて温度がはっきりと感じられる作品。
寒暖が入り混じり、その温度差が強く印象的です。

将棋での勝負は、研ぎ澄まされ、冷たく凍てついた世界。
そしてその凍りついた心を優しく温かく溶かしてくれるあかりたち3姉妹。

冷たさと、温かさと。 寒くて、暖かくて。
まるで3月のように。

温もりに慣れていない主人公が本能的に温かさから逃げていく様が、なんとも切なくもどかしいです。
その温かさに身を委ねることは決して悪いことではないのに。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2010-03-15 22:27:26] [修正:2010-03-15 22:27:26] [このレビューのURL]

8点 Landreaall

よくありがちな絵柄でよくありがちな内容の、よくありがちなファンタジーものだと思っていましたが…。
面白いです。丁寧に作りこまれた作品です。

詳細まで丹念に練りこまれた世界観が特徴的。この作品を唯一無二のものにしています。
説明的でなく、自然に見せてくれるのがいいところ。
世界が少しずつ広がっていく感覚が好きです。
辻褄合わせや後付け設定のようなものも今のところ目立つものはなく、
全体の構成や展開の上手さが感じられます。

冒頭の竜退治編はそれほど楽しめませんでしたが、そこで挫折しないでよかったです。
マイペースで、揺るがず、一本芯の通った良作だと思います。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-03-07 21:29:34] [修正:2010-03-07 21:29:34] [このレビューのURL]

8点 洗礼

発想、構成、全体の雰囲気、絵の美麗さ。
個人的には作者の最高傑作の1つだと思います。

気味の悪い絵柄や、勢いで迫ってくるような怖さではなく、
読者の本能に訴えかけるような恐ろしさ、気持ち悪さ。
狂気と言うべきか、誰もが持ちうる人間の普遍的な欲望だと言うべきか。

楳図作品にはSFや心霊現象などを絡めた恐怖マンガも多いのですが、
こういう人の心の闇を描かせたら、やはり楳図氏は抜群に上手いです。

随分と昔の作品ですが、今でも色褪せないです。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-01-28 21:33:06] [修正:2010-01-28 21:35:50] [このレビューのURL]

川原作品は個人的には短編集の方が好きなのですが。
独特のテンポ、ほのぼのとした展開、類まれな言葉選びのセンスとボキャブラリー、
川原節としか形容できないような凄さが、この作品でも申し分なく発揮されています。

本編となる前半部分も面白いですが、後半の短編3つの出来はもう素晴らしいの一言。

読み終わってほんのり良い気分になれる作品です。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-01-24 21:34:51] [修正:2010-01-24 21:34:51] [このレビューのURL]

8点 石の花

第二次大戦時のユーゴスラビアを描いた作品です。
日本人にはあまり馴染みのない国かもしれません。サッカーぐらい。
世界史の教科書にも「ナチスドイツに対し、チトー率いるパルチザンがゲリラ戦で抵抗した」
程度の記載しかないですが、このほんの数行の裏に隠れているのは、こんなに凄惨な物語。

この作品では、どんどん人が死んでいきます。
生命を軽んじるわけでもなく、特別視するでもなく。
まるでそれが当たり前のように。

やらないとやられるから殺すのではなく、
自分の信念を守るために、生活や家族を守るために、殺す、
それが戦争。

理想と現実との間で苦しむ主人公にスポットを当て、ナチス対パルチザンの単純な善悪二元論では
なく、もっと根本的な人間のあり方、生き様を徹底的に描写しています。

特筆すべきは、驚異的な絵の巧さ。現代風の絵ではないですが。
収容所の描写は圧巻です。

面白いとか面白くないとかをある意味超越している作品かと思います。
点数を付けるのが非常に難しいですが、紛れもない名作ということを考慮して、この点数。
ただ、このサイトの点数基準で8点は「何度も読み返してしまうような名作作品」とのことですが、
あまり何度も読み返したくなるような作品ではありません。念のため。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2009-12-23 14:51:07] [修正:2009-12-23 14:52:05] [このレビューのURL]