「とろっち」さんのページ

総レビュー数: 300レビュー(全て表示) 最終投稿: 2009年10月09日

現在ではゲームが原作の漫画なんて全く珍しくもないですが、児童向け雑誌やゲーム雑誌以外での
本格的なゲーム原作長編漫画は恐らくこれが初めてだったのではないでしょうか。
しかもそのゲームは当時既に国民的ゲームとなりつつあったドラゴンクエスト。
それを、いくらドラクエ誕生に大きく関わっていたとは言え、当時は発行部数が今の倍ぐらいあった
天下の週刊少年ジャンプで連載するという恐るべき計画。
「ドラクエだから人気が出て当然」などという甘いものではなく、「ドラクエだから必ず人気が出なければ
ならない」という猛烈に激しいプレッシャーの下で連載された本作。
結果は…、予想を上回る大成功を収めた作品となりました。

前置きが長くなりましたが、ドラクエの世界観をベースにしつつ、ジャンプらしさをも出すために
「友情、努力、勝利」を全て盛り込んで融合させ、素晴らしい少年漫画として生み出された作品です。
大風呂敷を広げまくり、それを矛盾なく見事に畳み切る、というジャンプらしからぬ稀有な構成力を誇り、
長期作品でありながらも作中で一番の盛り上がりの場面をラスト付近に持ってこれるのが凄いです。
個人的には今まで読んだ中で最も見事な少年漫画の一つじゃないかなと思っています。

今でこそドラクエは大人のプレーヤーの方が多いかもしれないですが、当時のターゲットは
完全に子供なので、この漫画のターゲットも必然的に子供を対象としたものになっています。
余談ですが、後発作品の「ロトの紋章」はこの作品との差異化を図るために対象年齢が少し高め。
作者にとって最も気を遣う点だったであろうオリジナルのモンスター、アイテム、呪文等も、
ドラクエの世界観を崩すことなく作品と調和していて、ゲームに逆輸入されたものもある程の出来栄え。

もちろん残念な点もいくつかあって、原作者が「当初は20巻前後で終わらせる予定だったけど
人気が出すぎて終われなかった」と確か当時のインタビューで語っていたとおり、
テンポの良い前半と比べて後半がかなり間延びしてしまっていることは否めないです。
いくら生き返りの呪文があるゲームとは言え死んだと思っていたキャラがぞろぞろと復活することや、
ジャンプ恒例の急激なパワーインフレなども特に後半で目立つようになってきます。
最後の戦いもジャンプだけに1対1の戦いになりましたけど、ドラクエ(初代を除く)らしく
パーティープレイで戦ってほしかったですね。

登場人物は各々魅力的に描かれていてみんな良い味を出していますが、やっぱりポップとハドラー、
この準主役とも言うべき二人の描き方が抜群に上手いと思います。
特にポップ。 皆さん書いているとおり、この作品はポップに尽きます。
ポップはまさにドラクエの「レベルアップ」の概念を体現するキャラ。
序盤であれだけ頼りなくてイライラさせられた貧弱な魔法使いが、自らの弱さに傷つき、苦しみ、
逃げ出しながらも少しずつ勇気を振り絞って困難に立ち向かい、冒険が進むごとに成長を重ね、
やがて「大魔道士」の称号が似合うほどに頼れる存在となって大魔王にすら啖呵を切る。 素敵すぎ。
他の仲間にコンプレックスを抱きながらも、足手まといにならないように、自分だけ遅れないように、
精一杯背伸びをしながら成長していくポップの頑張りには胸を熱くさせること必至です。


(補足)
何だかんだ長々と書きましたが、この作品の成功は「アバンストラッシュの着想」も大きいと思います。
剣を逆手に持ってスパッと斬り裂く、シンプルながら唯一無二で、多大なインパクトを誇るこの必殺技。
ゲームでの戦闘といえば文字情報のみだった時代に、「勇者の一撃とはこういうものだ」ということを
絵で表現することで漫画化のメリットを強調し、ひいてはそれが作品の大ヒットにつながっていきます。
作中での存在感も秀逸で、師匠の遺した技であり、心の拠り所であり、最後の決め技でもあります。
この技とドラゴンボールのかめはめ波の型は一生忘れることはないと思います。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-11-28 01:03:16] [修正:2011-11-28 01:06:13] [このレビューのURL]

9点 HOTEL

業界もの漫画の先駆け的存在でありながら、未だにこれを超えるような作品は思いつかないです。

「お客様は神様です」や「申し訳ございません」連発などのイメージもありますが決してそんなことはなく、
ホテルマンを聖職者扱いせず、綺麗事だけではない本音の世界が描かれていて非常に興味深いです。
最初っから客を疑ってかかったりとか(まあそれもどうかと思いますが)。

最初の頃はホテルを舞台とした群像劇、途中からは従業員をメインにした業界ものとなっています。
東堂マネージャー、もしくは若手社員の赤川くんも一応の主人公格となっていますが、
二人が出てこないことも多く、それどころかホテルの従業員が話にほとんど絡まないこともあります。
言ってみれば、ホテルに泊まる人、ホテルで働く人、ホテルを一時的に利用するだけの人、
それら全ての人に様々な角度からスポットを当てて見事に描き出した傑作。

人の生死にまつわるような話ではないですし、単にホテルを利用する人とその従業員という構図は
どうしても淡々と落ち着いた内容になってしまいがち。
ただ、100組の宿泊客がいれば100通りの物語があります。 同様に従業員の数だけ物語があります。
宿泊の話はもちろん、ホテルのフロント、クローク、バンケット、照明、営業、設備点検、ドアマン、厨房、
客室係、経理、庭師に至るまで様々な職種の人たちが主役となり、様々な物語を織り成していきます。
確かに派手さはないものの、これほどまでに安定した面白さで多彩な物語を描けるのも巨匠ならでは。

当初は作者が群像劇を意識しすぎたのか、話によって出来不出来の差がかなりあります。
従業員メインの話になってからは、東堂さんの仕事っぷりがほぼ完璧に近いので、同じ社会人として
本当に感心するばかり。 ただその点での面白みには欠けるところがあるかもしれません。
作者もそれよりは、危なっかしいながらもどんどん成長していく赤川くんや、たまに男を見せる
松田さんの方が話作りがしやすかったのかも。
まあ基本的には毎回ハッピーエンドを迎えるために話が上手くいきすぎる感も結構ありますが、
それでも途中からは話にどんどん厚みを増して、手が付けられないほど面白くなってきます。

とりあえず念のため、当たり前ながらこの作品はフィクションです。
あまりのリアリティゆえにまるでこんなホテルが実在するような錯覚に陥ってしまうかもしれません。
業界もの漫画では、その内容の真偽はともかく(素人には判別つかないので)、いかにも本当だと
思わせてくれるような確固たるリアリティを持ったものが個人的には良い作品だと思います。
そういう意味で、やっぱりこの作品を超えるような作品はなかなか出てこないでしょうね。

文庫版表紙での世界の一流ホテルの写真も雰囲気作りに貢献していて素晴らしいです。
一流ホテルでの人間模様と舞台裏を見事に描いた、格調高いながらも庶民的な趣もある傑作。
巨匠の代表作と呼ばれるに相応しい作品です。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-11-22 01:37:16] [修正:2011-11-22 01:42:55] [このレビューのURL]

テニス漫画における最高峰。
これまでテニス漫画はそれなりに読んできましたが、これがダントツで面白いです。

主要な登場人物は女子マネージャーを除き、ほとんど全員が男子キャラ。
二人いる主人公も当然ながらどちらも男。 まるで少年漫画。
どの辺りの読者層をターゲットにしたのかいま一つわからないですが、こういうこと言うのも何ですけど
少女漫画ということで知名度的に随分損をしてしまっている作品ではないでしょうか。
作者はこの後実際に「ましろのおと」で少年漫画に移ってしまっていますし。

長編ながらもよくありがちな引き延ばされたものではなく、ちゃんと内容を伴っての全32巻。
むしろ長いからこそ作者の話作りや構成力の非凡さが際立つのかも。
基本的にはテニスの熱い描写と、スポーツを通して成長していく主人公たちを描いた
少年漫画の王道とも言うべき構成になっています。
それとともに少女漫画の特徴である濃密な内面描写がうまく絡み合って話にぐいぐい引き込まれ、
読み始めたら止まらなくなるほどの面白さを発揮します。

そしてこう書くと意外かもしれないですが、この作者は本当に絵が上手いです。
もっと正確に言うと、テニスのプレー描写を、臨場感溢れる描き方で、しかも十分な熱気を伴って、
実に丁寧に格好良く描いています。
だからスポーツ漫画で最も重要な「試合の場面」が最も熱くて最も面白いという作品になっています。
これ非常に大事。

主人公(伊出)が天才過ぎるのはこの手のジャンルの常なので個人的には別に構わないのですが、
確かに佐世古家のドロドロ具合はそこまで必要とも思えなかったですね。
また、2年生でのインターハイ終了から3年生でのインターハイ開始までの期間の低調っぷりが
思ったより長かった(作者曰く、伏線をばら撒く重要な時期)ため、それがちょっと残念。
ただしそこからラストまでの怒涛の展開は本当に面白かったです。

全体的なノリはやっぱり少女漫画なのでどうしても受け付けない人もいるかと思いますが、
そうでなければぜひ男性にも(もちろん女性にも)お勧めしたい作品。
全32巻、読み切ったとき、「いやー良いもの読んだなあ」という気分になれること請け合いです。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-09-20 01:20:52] [修正:2011-09-21 01:18:38] [このレビューのURL]

体操というジャンルを扱った漫画でこの作品を超えるものは今後出てくるのでしょうか。
そのぐらいの完成度と面白さを兼ね備えた、素晴らしき少年漫画。

原作は、自身がオリンピックで10点満点を出した金メダリスト・森末慎二氏。
というか本当に森末さんが考えたのか?と疑うぐらいに面白いです(失礼ながら本当らしいです)。
前半部分は特に対象年齢が若干低めな感じもしますが、それもそのはず。
そもそもの連載目的が、若い人にもっと体操に興味を持ってもらいたいから、とのこと。
体操の人気低下を危惧した森末さんが、そのために青年漫画誌ではなく少年漫画誌に漫画原作企画を
自ら持ち込んだ、と当時インタビューで答えていたように思います。

笑いあり、涙あり、ラブコメ部分はママゴトみたいですが女の子キャラもかわいく、
読めば熱くなり、ドキドキワクワクできる、非常にバランスの取れた作品です。
体操に関しては森末さんが原作だけあって詳しくてわかりやすく、その上リアリティに溢れています。
技とか成功しすぎという声もあると思いますが、実際に10点満点取った人が原作ですし。
何より、不安、緊張、葛藤、苦悩、昂揚、という選手の心理描写がとても丁寧で臨場感たっぷり。
だから練習の場面が面白い。 そして試合の場面はもっと面白い。 これは良いスポーツ漫画。

少年スポーツ漫画だけあって、他の様々な作品の例に漏れず主人公の天才っぷりが半端ないですが、
魅力的なのが先輩たち、通称・三バカのキャラ。
「跳馬の(真の)スペシャリスト」、「ゆかの貴公子」、「つり輪のヘラクレス」。
いやあこの3人は本当に好きだったなあ。 笑えるし泣けます。

全34巻と長丁場な作品ですが途中でダレることもなく、むしろ前半よりもそれ以降の方が面白いです。
アジア大会の盛り上がりが凄い中盤、そして五輪代表選考からシドニー五輪へとつながる後半。
ただ気になったこととしては、この作品のピークはメインであるシドニーオリンピックではなく、
その前の代表選考ではないかと思えてしまいました。
言い換えれば、代表選考が面白すぎてオリンピック本戦が物足りなく感じてしまいました。
あとついてにもう1つ、この作品(特に前半)は少年漫画の王道パターンであるトラブル発生→解決、が
多用されますが、そのトラブル発生が強引すぎて無理やり感がありました。 そこがちょっと残念。

最近は大人向けとも思えるような少年漫画も多いですが、対象年齢が低めに設定されていること自体は
その漫画の評価において決してマイナスではない、そんな好例の作品です。
少なくとも、体操に興味を持ってもらう、という当初の目的に関しては文句の付けようもありません。
体操の魅力を十分に表現した、爽やかで胸熱くなるような少年漫画。
オリンピックの度に読みたくなる作品です。 ちなみに現在では体操のルールも大きく変わってしまって
10点満点ではなくなり、技の最高難度もEではなくFやGまで上がったらしいので、そこを踏まえつつ。

ナイスレビュー: 3

[投稿:2011-06-16 16:13:07] [修正:2011-06-16 16:14:59] [このレビューのURL]

とにかく一言。 面白いです。

他の方のレビューにもありますが、史実と虚構とのバランスが絶妙です。
出自不詳の者や「史記」等であまり触れられていない者にもスポットを当てて魅力的な人物に仕立て、
数多くの登場人物を上手く動かしながら、壮大な歴史ドラマを紡ぎ上げていく手腕が抜群。
この作者はスケールの大きな人物を描くのが本当に上手いですね。
どちらかと言えば少年漫画的なノリで、熱量が半端じゃないです。 読んでいて熱くなれる作品。

最近は戦の場面が長すぎたりして、どうもテンポが悪くなっている気がします。
また、一部の超人的な武将が強すぎたりと、歴史ロマンではなく戦場バトルものになりつつあるので、
そこをうまく修正していければ今後比類なき名作になる可能性ありです。

井上雄彦を師匠とするだけあって、絵はかなり上手いと思うんですけどね。
特に戦場のシーンにおいて、あれだけ描き込みが細かいながらもゴチャゴチャせずに読みやすく、
迫力や緊迫感が存分に伝わってくるのは大したもの。
ただし人物の顔、特に目の描写が独特すぎて、そこがお気に召さない人も多いのかもしれません。

この作品の最大にして最強の敵、それは 「読まず嫌い」。
実際に手に取って読んだ人だけが体感できる、古代中国の大河ロマン。
熱い漫画を求めている人にお薦め。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-05-29 16:45:30] [修正:2011-05-29 16:51:20] [このレビューのURL]

子供の頃、宇宙に憧れ、宇宙飛行士になることや宇宙に行くことを夢見た人ってとても多いと思います。
でも現実の厳しさを知って諦めたり、興味が他の事に移ったりして、その夢を手放す人がほとんど。
そんな中で夢を手放さなかった人だけが夢を掴むことができるんだなあ、というお話。
ただしずっと夢を手放さなかったのは弟の方ですが。

絵は読みやすくて上手く、ギャグや小ネタが満載で、シリアスなところはきっちり締めています。
最初は「度胸星」をハロルド作石っぽく(似てません?)調理し直した作品だと思ってました。
全体のバランスが非常に良く、いろいろな要素が高次元でまとまった作品。

でもやっぱりこの作品が読む人を引き付けるのは、夢に向かう熱いエネルギーを感じること。
自分が主人公と同年代なので余計にそう感じるのかもしれないですが、
大人になってから夢を追いかけるのってものすごいエネルギーを使うんですよね。
さらに、人生を棒に振るという強い不安や焦燥感とも常に戦っていかなければならないです。
でもムッタはそれらに負けそうになりながらも屈せず、突き進んで行きます。 ムッタカッコイイなー。

そしてもう1つ。 何と言ってもポイントは「兄弟愛」。
クサさやいやらしさを全く感じさせず、すごく自然な雰囲気で描写されています。
この兄弟(特に日々人)にとって、宇宙で会うことは「夢」ではなく「約束」だったというのが良いですね。

その他の登場人物もみんな一癖も二癖もあって、魅力的で良いです。
読んでいて上手いと思わせられるのは、そんな魅力的なキャラたちがさらにムッタの魅力に
徐々に引き付けられていく描き方。
やっさんからのメールの場面は心が熱くなりましたよ、本当に。

「宇宙」で「兄弟」。 良い作品だなあと心から思えました。
夢とロマンとハートフルがたっぷり詰まった作品。 今後も読み続けていきたい良作です。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-02-22 01:07:02] [修正:2011-02-22 01:09:47] [このレビューのURL]

少女漫画の1つの頂点であり到達点。

幽霊になった男。 夢の中で出会った少女。
夢に囚われた青年が、無限の時空を航行するがごとく、現と虚とを行き来する。
自分が少女の夢を見ているのか、それとも自分は少女が見ている夢の登場人物にすぎないのか。
どこまでが夢なのか。 どちらの世界が現で、どちらが虚なのか。
現と虚。 ただし彼にとってそれはさほど大したことではないのかもしれない。

透明感のある水彩画のようなモノクロページと、異常な程の質感を表現した油絵のようなカラーページ。
耽美的とも思えてしまう驚異的な筆致がミステリアスなストーリーと溶け合って生まれた夢幻の世界。

これぞまさに芸術の域。


これは本来なら文句無しに10点をつけるべき作品なんだろうなと思わされます。
そのぐらいにこの作品のレベルは凡百の作品と比べて突出しています。
主人公の内省とその考証が作品の核ですが、ほぼそれだけでこれほどの作品ができるとは。
作者の構想力と自己表現力が恐ろしく優れているのでしょう。 手放しで賞賛せざるを得ないです。

しかしながら苦渋の選択で9点に留めました。
なぜかと言えば、漫画においてもう1つ大切なこと、「読み手に伝える」という観点において、
残念ながらこの作品にはそれが欠けている(或いは最初から度外視している)と感じてしまったので。
その部分で-1。 もう好みの問題だと思ってください。 この作品が圧倒的に凄いことは断言できます。

思えば、この作者は唯一無二の作り手ではあるものの、それと同じレベルの語り手にまでは
なり得なかったということなのかもしれません。
それもまた往々にして芸術なる哉。 真の芸術は理解の高みにあるということなのでしょうか。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2011-01-25 00:56:51] [修正:2011-01-25 01:16:12] [このレビューのURL]

ドラクエが好きな方、特にファミコン時代から慣れ親しんでいるような方には必読の一冊。

ゲーム黎明期。 後にドラクエのプロデューサーとなる千田幸信が、堀井雄二、中村光一という
2つの輝く才能と出会い、今や国民的ゲームとも言うべき「ドラゴンクエスト」ができるまでの努力と苦悩、
波乱万丈な道程を、ドキュメンタリータッチで描いた作品です。


当時はアクションやシューティングゲーム全盛期。 まだ日本に一般向けのRPGがなかった時代。
時代の先を読んだ千田氏がドラクエの企画を立ち上げたときも、業界は元より社内での反応すら、
「だってRPGはマニアのゲームだよ!? 売れないんじゃない!?」

運命の糸に導かれるようにして結集した最高のスタッフ (作中では鳥山明の出番が少なめですが)。
しかし日本初の大衆向けRPGの制作はやはりハードルが高く、頭を悩ませ、試行錯誤を繰り返します。
いかにわかりやすく、それでいて面白くできるか。
ドラクエの容量は512キロビット(=64キロバイト)。 今なら写メ一枚分にも満たないぐらい。
容量の都合上カタカナは20文字しか使えず、メイン楽曲も8曲のみ。
それでもあんな凄いものが出来てしまうんですよね。 人間の想像力は無限大です。
ゲームに限らずとも現在では当たり前のように享受しているような物事やアイディアでも、
最初に誰かが考え、創意工夫して作り上げたんだな、と思い知らされます。

もちろんトラブルや揉め事だって起こります。
すぎやまこういち氏の起用を巡る中村光一のトラブル等は有名なところかもしれません。
(実際には千田氏が起用を渋っていたという話もあるみたいですが。)

それもこれも、良いゲームを作ろうという強い思い、こだわりがぶつかり合ったゆえのもの。
「わたしの夢はただひとつ! 世界一のゲームソフトをつくることです!!」
「ぼくは……売る側の都合で、遊んでくれる子供たちの期待を裏切るようなことはしたくありません」
熱いなあ。
数多くの似たようなゲームが氾濫する中で、ドラクエがここまで生き残り、こんなにも成功できた理由。
この漫画を読めばきっとわかります。

そして、ついに完成。
全身全霊で締めの作業に打ち込んだスタッフ陣、そしてそれを見守ったこの漫画の読者をも、
すぎやまこういちが奏でる「広野を行く」(フィールドの曲)が暖かく包み込んで祝福してくれます。


子供の頃に何度となく読み返し、手放して一番後悔したかもしれない作品です。
絶版になるとは思わなかったので…。
先日運良く再度手に入れる機会があり、即購入。 もう手放すことはないでしょう。
改訂版もあるようですが、影の貢献者とも言うべき鳥嶋氏(マシリト)が大人の事情で出てこなかったり、
他にも内容が大幅カットされているらしいので、読むなら是非とも初版本を読んでほしいです。

良いものを作ろうとする熱い気持ち、面白いものを世に広めようとするワクワク感、
そして新しいものを生み出そうとする少年のような夢や冒険心。
そういうものがこの作品にはたっぷり詰まっています。 お薦め。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2010-11-29 01:22:34] [修正:2010-11-30 02:19:51] [このレビューのURL]

こういうのを名作と言うんでしょうね。 心からそう思える、そんな作品。

最初、作品に慣れるまではしばらく(数巻程度)かかってしまいましたが、
一度慣れたら作品の空気に完敗です。

話作りが本当に上手いです。
何でもないような出来事なのに、細やかな情景描写と濃厚な心理描写、見事な演出で
丁寧に丁寧に紡いでいって、珠玉のエピソードに昇華させる手腕。
単なるまったり漫画ではなく、人物の造詣からコマ割りに至るまで技巧が凝らされ、洗練された、
ベテランならではの卓越した筆致。
他の方のレビューにもありますが、ラストの締め方が抜群に上手いので、読後の余韻が素晴らしいです。

そよの一人称と三人称とが交互に織り交ぜられた形で話が進み、そよ以外の人の心情については
推し量るしかないような構成になっていますが、その描き方、バランスが何ともまた絶妙。
静かな村、のんびりとした時の流れ、それでも少しずつ確実に変化は訪れるわけで、
色鮮やかに描かれたそんな田舎の空気に、読めば読むほど引き込まれていく作品です。

実はくらもち作品って絵が苦手なためにそれまで避けていたんですよ。
この作品の映画化に際して強く薦められたために読んだのですが、いま思えば感謝感謝。
万人受けするような作品とはちょっと言い難いような気もしますが、
波長が合った人にはたまらなくなるような作品であることは間違いないです。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-10-09 13:21:08] [修正:2010-10-11 03:18:15] [このレビューのURL]

この作品に出てくる人々はみんな笑顔です。
その笑顔の裏側に、かつて世界の破滅に抗い、絶望し、平穏な最期を迎えるに至った諦めの心境を
読み取るのは乱暴でしょうか。

アルファさんは常に笑顔です。
その笑顔の裏側に、自分だけが時間の移り変わりから弾き出された孤独感、取り残される寂しさを
読み取るのは考えすぎでしょうか。

そんな風にいろいろ深読みしてみたくなるぐらいに何も起こらない作品ではありますが、
雰囲気漫画(自分はこの言葉を揶揄ではなく褒め言葉だと捉えています)と評されるほどに特徴的な
作品の雰囲気が何より素晴らしいです。
全体に漂う無常観。
滅びに向かってゆっくりと歩み続ける中で、作品の端々から溢れ出てくる優しさや暖かさ。
この作品のてろてろとした時の流れ、世界観に、ほんわかまったりゆったりどっぷり浸っていると、
つくづく感じてしまいます。 あぁこの作品好きだな、って。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2010-08-14 01:20:46] [修正:2010-08-14 01:21:42] [このレビューのURL]

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