「とろっち」さんのページ

現在ではゲームが原作の漫画なんて全く珍しくもないですが、児童向け雑誌やゲーム雑誌以外での
本格的なゲーム原作長編漫画は恐らくこれが初めてだったのではないでしょうか。
しかもそのゲームは当時既に国民的ゲームとなりつつあったドラゴンクエスト。
それを、いくらドラクエ誕生に大きく関わっていたとは言え、当時は発行部数が今の倍ぐらいあった
天下の週刊少年ジャンプで連載するという恐るべき計画。
「ドラクエだから人気が出て当然」などという甘いものではなく、「ドラクエだから必ず人気が出なければ
ならない」という猛烈に激しいプレッシャーの下で連載された本作。
結果は…、予想を上回る大成功を収めた作品となりました。

前置きが長くなりましたが、ドラクエの世界観をベースにしつつ、ジャンプらしさをも出すために
「友情、努力、勝利」を全て盛り込んで融合させ、素晴らしい少年漫画として生み出された作品です。
大風呂敷を広げまくり、それを矛盾なく見事に畳み切る、というジャンプらしからぬ稀有な構成力を誇り、
長期作品でありながらも作中で一番の盛り上がりの場面をラスト付近に持ってこれるのが凄いです。
個人的には今まで読んだ中で最も見事な少年漫画の一つじゃないかなと思っています。

今でこそドラクエは大人のプレーヤーの方が多いかもしれないですが、当時のターゲットは
完全に子供なので、この漫画のターゲットも必然的に子供を対象としたものになっています。
余談ですが、後発作品の「ロトの紋章」はこの作品との差異化を図るために対象年齢が少し高め。
作者にとって最も気を遣う点だったであろうオリジナルのモンスター、アイテム、呪文等も、
ドラクエの世界観を崩すことなく作品と調和していて、ゲームに逆輸入されたものもある程の出来栄え。

もちろん残念な点もいくつかあって、原作者が「当初は20巻前後で終わらせる予定だったけど
人気が出すぎて終われなかった」と確か当時のインタビューで語っていたとおり、
テンポの良い前半と比べて後半がかなり間延びしてしまっていることは否めないです。
いくら生き返りの呪文があるゲームとは言え死んだと思っていたキャラがぞろぞろと復活することや、
ジャンプ恒例の急激なパワーインフレなども特に後半で目立つようになってきます。
最後の戦いもジャンプだけに1対1の戦いになりましたけど、ドラクエ(初代を除く)らしく
パーティープレイで戦ってほしかったですね。

登場人物は各々魅力的に描かれていてみんな良い味を出していますが、やっぱりポップとハドラー、
この準主役とも言うべき二人の描き方が抜群に上手いと思います。
特にポップ。 皆さん書いているとおり、この作品はポップに尽きます。
ポップはまさにドラクエの「レベルアップ」の概念を体現するキャラ。
序盤であれだけ頼りなくてイライラさせられた貧弱な魔法使いが、自らの弱さに傷つき、苦しみ、
逃げ出しながらも少しずつ勇気を振り絞って困難に立ち向かい、冒険が進むごとに成長を重ね、
やがて「大魔道士」の称号が似合うほどに頼れる存在となって大魔王にすら啖呵を切る。 素敵すぎ。
他の仲間にコンプレックスを抱きながらも、足手まといにならないように、自分だけ遅れないように、
精一杯背伸びをしながら成長していくポップの頑張りには胸を熱くさせること必至です。


(補足)
何だかんだ長々と書きましたが、この作品の成功は「アバンストラッシュの着想」も大きいと思います。
剣を逆手に持ってスパッと斬り裂く、シンプルながら唯一無二で、多大なインパクトを誇るこの必殺技。
ゲームでの戦闘といえば文字情報のみだった時代に、「勇者の一撃とはこういうものだ」ということを
絵で表現することで漫画化のメリットを強調し、ひいてはそれが作品の大ヒットにつながっていきます。
作中での存在感も秀逸で、師匠の遺した技であり、心の拠り所であり、最後の決め技でもあります。
この技とドラゴンボールのかめはめ波の型は一生忘れることはないと思います。

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[投稿:2011-11-28 01:03:16] [修正:2011-11-28 01:06:13]