「とろっち」さんのページ

総レビュー数: 300レビュー(全て表示) 最終投稿: 2009年10月09日

30代半ばの女性と50代のオッサンとの恋愛話。
こんな風に紹介しただけで興味を失くす人が大半かもしれないですが、これがまた面白かった。

ジャンルとしてはラブコメと言っても差し支えないものの、若い子たちのそれとは違い、
恋のライバルキャラのようなものはいません。
障害となるのは、自分の過去だったり、言動と本音の部分との乖離だったり、世間的な体裁だったり。
そういうものが殻となり、壁となり、素直になれず、なかなか動き出せず。

最初は海江田が本性を簡単には見せずに飄々としているわかりづらいキャラだと思っていました。
でも彼を取り巻く状況が徐々に明らかになってくるにつれ、彼の人となりが伝わってきました。
何のことはない、彼は本音で生きる単純明快な人物でした。 ただ不器用なだけで。
ただし直球勝負というよりは、自分の気持ちや発言に今まで培ってきた「経験」というオブラートを
被せていて、それらが若い人には出せない渋みというか深さを生み出しています。

で、そうなるとつぐみの気持ちにどうもすっきりしなくなる。
自分が男性だからなのか。 女性の方々には「あるある」な感じで共感を得ているのでしょうか。
作者は「山月記」の言葉を借りてつぐみを「臆病な自尊心と、尊大な羞恥心」などと評していますが、
仕事での成功を男で不幸になることでバランスをとり、幸せの話をすると下を向き、
過去に囚われて目の前にある幸せに目をつぶるつぐみ。
「君はぼくが好きなんや。ぼくも君が好きや。 それだけなのに、なんでこないにややこしいんや?」

そんなつぐみを年の功による包容力と大きな愛情で丸ごと包み込んで、なんていう展開には
なかなかならないのがこの作品。
つぐみがやんちゃなオッサンに振り回されつつも、オッサンが時折見せる懐の深さが何とも格好良く、
少しずつ少しずつ彼女の心を取り囲む殻が剥がされていきます。
男の自分からすると、枯れ専(って言うんですか)などは正直どうでもよくて、
ただただ「こんなオヤジになりてーな」と思わせてくれる作品。 いや本当に。

それだけに最後の超展開が……。 あれ必要だったのでしょうか。
ああでもしないとつぐみの気持ちは動かせなかったのかと思うと悲しくもあり。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-07-29 01:08:46] [修正:2011-07-29 01:10:24] [このレビューのURL]

優しい心を持ち、食い意地の張ったアトランティス生まれのヒーロー、ワッハマン。
不死身の肉体と無敵の強さを誇る彼は、今日もどこかでこそこそと暮らしている、はずだったが……。

序盤から中盤にかけては一話完結のギャグ漫画と言ってもいいほどの内容ですが、
ギャグにうまくカモフラージュされた終末への予兆が少しずつ少しずつ見え隠れし始め、
登場人物たちも読者すらも気付かないうちに悲劇的な展開へと導かれていきます。
最後まで明かされない謎もいくつかあるものの、全体の構成が非常に秀逸。
あんまり書くとネタバレになるので自重しますが、まさかあのキャラの名前自体が伏線になっているとは。

エピローグがとても好き。
残酷な現実と喪失感との繰り返しの中で永遠に生きていく彼へ、仲間達からのささやかなプレゼント。
「なに笑ってんだよ」。 そりゃ笑うでしょ。 もちろん泣き笑いですね。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-07-29 01:04:46] [修正:2011-07-29 01:04:46] [このレビューのURL]

「栞と紙魚子」シリーズとしてレビュー。
諸星氏初の少女漫画作品。 であるものの、全くそんな感じがしないです。 いつも通り。
作者もあとがきで「少女雑誌なので、一応少女を主人公にしただけ」みたいなこと書いてますし。

ジャンルはシュールホラーコメディーと表現するしかない独特の世界観。
町の大通りから一本外れた小道がどこにつながっているのか。
町外れの屋敷の庭の片隅で何が行われているのか。
路地裏の怪しい店でどんなものが売られているのか。
そういう日常のすぐ隣にある怪奇が描かれていて、日常と非日常との溶け込み具合が秀逸、というか奇々怪々。
舞台を例えて言うと「うる星やつら」の友引町といった感じでしょうか。 作風は全く違いますが。

どこか人を喰った絵柄、テンポ、内容。
恐怖というよりは、不条理と猟奇とユーモアに溢れた世界。
作中の言葉を借りれば、「細かいことは考えちゃダメ」な、「ネジが一本どころか二、三本外れた」感じ。
換言すると、そんな滅茶苦茶な内容を諸星氏のセンスで上手くまとめて楽しませてくれる作品。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2011-07-26 01:33:35] [修正:2011-07-26 01:33:35] [このレビューのURL]

「君だけをみつめてる」なんていう直球タイトルなのにヒロインが2人いる反則漫画。

恋愛と夢(映画)との間で悩む主人公。
恋愛と夢(役者)との間で悩むヒロインその1。
一方は恋愛ではない方を選択し、もう一方はなぜ自分がその道に進みたいのか思い悩みます。
ただそんな二人の決断には時差があり、そのすれ違いがまた二人をそれぞれ苦悩させます。
そしてそんな主人公を優しく大きな愛を持って見守るヒロインその2。

何だかんだでとんとん拍子に出世していくものの、みんな一生懸命に自分の目標や夢に向かって
頑張っていく、ジャンルでいうと青春恋愛もの。 ラブコメとはちょっと違う気もします。
登場人物は基本的にみんな良い人で各々熱さを秘めているので、そういうのが苦手な人には
お薦めしづらいかも。 特にヒロインその2のピュアさなんかもう…。

連載当時は、YJの後ろの方に載っている漫画、ぐらいの感覚で流し読みしていましたが、
最近ふと縁があって読んでみたら、時代を感じるもののいやはや面白い。
確かにベッタベタでコテコテの展開なのですが、それって決して悪いことじゃないと思います。
意外性を狙った内容よりもこういう話の方が登場人物の苦悩が上手く描けるような気もしますし。
自分が大学生ぐらいの頃までにちゃんと読めていたらもっとはまったかもしれない作品。

物足りない点を敢えて挙げると、登場人物の会話や行動がクサいのはまあ良いとして、
特に後半部分で主人公とヒロインその1それぞれの葛藤と成長を描くのに巻数が足りていないところ。
苦悩の度合いもちょっと浅いですし。
これは打ち切りとかでなく、作者の技量の問題な気がします。これ以上話を広げられなかったっていう。
もっとゆっくりと、もっと練り上げながら描くことができていれば、特に成長という部分において
深みのある描写ができたのではないかと思います。 多少もったいない感じ。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-07-26 01:25:30] [修正:2011-07-26 01:26:39] [このレビューのURL]

奏者は地獄を味わい、聴衆は天国を味わう。
「天才」を描いたさそうあきらの音楽作品、第二弾。
その天才が子供なら「神童」、そして天才が謎のジジイなら「巨匠(マエストロ)」といったところか。

1人で弾くピアノと違い、こちらは極上の音の融合がテーマの1つ。
物語中盤まではオーケストラの薀蓄を繋ぎ合わせて機械的に1つの作品を構成している感じ。
叙情的な雰囲気の漂う「神童」と比べるとかなり異質な印象を受けます。
団員1人1人のエピソードも詳しく描いてはいるものの、一部のメインキャラを除いて、
それがサブキャラへの感情移入や興味につながるような描き方にはなっていないように思えました。

さそう作品といえばその独特な絵柄は避けては通れないですね。
表現力は高い方だと思いますし、評価においてマイナスという訳でもないですが、
少なくとも絵でプラス評価にはなり得ないのが正直なところです。
ストップモーションとも評される動きの無さに加え、次のコマとの流れるような連動性にも欠けていて、
それぞれのコマがブツ切りにされているような印象。
まあ慣れてくればそれも味わい深いものになってくるので懸念するほどでもないですが。

この作品は終盤の展開と鬼気迫るような迫力が素晴らしいです。
楽曲の最後を飾るがごとく、紙面から溢れ出してくる怒涛の音楽。
ぜひ最後まで読んでみてほしい作品。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-07-19 00:50:08] [修正:2011-07-19 01:12:51] [このレビューのURL]

これは「面白い作品」なのかどうかはわからないですが、「素敵な作品」であることは間違いないです。

作者の実体験が多分に活かされていそうな作品ですが、この作者の表現力にスケールの大きさを
感じるのも、こんなに雄大な自然を肌で感じているからなのか、と思ったり。
皆さんのレビューにもあるように、読んでいると「こんな生活一度はやってみたい」と思えてきます。
でも一度だけ。 あんまりずっといると主人公のお母さんみたいな心境になるかも。

日々の生活の雰囲気と、その邪魔をしない程度に展開されるストーリーがとても良い感じ。
書いていてなんですがこの作品の良さは言葉ではなかなか伝わりづらいですし、あまり長いレビューも
そぐわないと思うので、この辺で。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-07-19 00:42:24] [修正:2011-07-19 00:44:20] [このレビューのURL]

地味にジワジワ面白い作品。
これはちょい読みだと全然面白くないでしょうね。

とにかく変な空気感。 天狗の設定が読んでいて違和感無く受け入れられるような描き方が上手いです。
まったりラブコメで、ほんわかファンタジーで、ゆるゆる学園ギャグ漫画。 変。
でも結構いい話とかシリアスな話もあったりして、作品としていろいろな顔を見せてくれます。
絵も変です。 良い意味で。 慣れてくると自分の中でしっくりくるようになるのが不思議。

金ちゃんの髪型は何とかならんのでしょうか。 素敵すぎます。
あの髪型が出来るのはギャグ漫画の住人だけなのに。
ちゃんとしたラブコメ少女漫画の世界観であの髪型が成立しているのは結構すごいことだと思います。
様々なジャンルの壁を取っ払ってごちゃ混ぜにし、尚且つ成功した稀有な作品。
この設定で、この作風で、しっかりと良質で正統派の少女漫画やってます。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-07-14 00:14:12] [修正:2011-07-14 00:14:12] [このレビューのURL]

競馬と言えば職業不明のガラの悪いオッサン達が怒声を張り上げて熱中するコテコテのギャンブル、
というイメージがまだ強かった時代に、競馬のスポーツ面を重視するという先見の明を発揮し、
しかも少年誌で連載するという前代未聞の挑戦を繰り広げた作品。

少年誌での連載ということで、関係者は相当気を使ったんでしょうね。
ギャンブル性は極限まで薄められ、少年誌向きのスポーツ漫画として描かれています。
ストーリーも、母馬の見事な末脚を受け継ぐものの弱点も多い競走馬と、その育て親とも言える
三流騎手の主人公が、努力して苦戦して力をつけてついに栄冠を掴む、というコテコテの王道もの。

全体の構成としては前述したように、超一流エリートのライバル達を相手に
雑草魂溢れる主人公達が努力と根性を駆使して立ち向かっていく、という古い世代の熱血スポ根漫画。
トンデモ知識やトンデモ調教などもあり、そもそも20年以上前の作品だけに競馬のレギュレーションも
現在と違うところがあるので、これから読む人には読みにくい部分もあるかもしれません。

ただし王道だけに熱くなれる部分や感動できる部分などもしっかり描かれていて、
純粋な競馬漫画としてはさておき、少年向けスポーツ漫画としては良質の部類だと思います。
続編は……、描かない方が良かったかも。

競馬ブームの到来やダビスタの爆発的ヒットなどとともに、この作品の成功もあってか、少年誌にも
その後「みどりのマキバオー」「じゃじゃ馬グルーミン★UP!」「優駿の門」など競馬漫画が増えました。
余談ですが、「みどりのマキバオー」でマキバオーが目指したのが世界最高峰のレースとされる
凱旋門賞ではなく、当時は創設されたばかりの新興レースであるドバイワールドカップだったのは、
この作品で凱旋門賞を先に使っちゃったからでしょうね、やっぱり。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-07-14 00:09:35] [修正:2011-07-14 00:10:07] [このレビューのURL]

知的でしっとりと落ち着いた雰囲気の奥底に潜むある種の嗜好を強く感じる作品。

なんて回りくどく書きましたけど、はっきり言ってしまえば、ストイックな大人の主人公と
その主人公のことを猛烈に大好きな美少女吸血鬼が慎ましやかに一緒に暮らす物語です。

他の方のレビューにもあるように、3巻までは伏線張りまくりつつ柔らかくまったりとした雰囲気で、
4巻からはちょっとずつ回収作業に入りながらシリアスな展開も多くなってきます。
作品の雰囲気作りや演出はとても巧みで、コマ枠の外側が基本的に黒いところや、
時にはコマ割り自体を全く廃するなどして、独特の作風を作り出しています。

が、いくらそういう点でカモフラージュされていても、結局は主人公とヒロインとの関係を
どれだけ楽しめるかがこの作品を楽しめる鍵になりそうです。

ストーリーの本筋部分は良く練られていて素直に面白いと思えるのですが、なかなか先に進まず、
しかも掲載誌が変わって若干話が巻き戻った気もするので、何とか進めてほしいところです。
作者によると、連載前からラストのエピソードやエピローグは既に明確に決まっているそうで。
ただしどうも今の展開からすると悲劇的なラストにしか辿り着かなさそうなのですが、
「主人公(職業は作家)が書く物語はいつもハッピーエンド」という作中の言葉が
何らかの伏線になっているんじゃないかな、と期待したりもしています。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-07-08 01:04:34] [修正:2011-07-08 01:04:34] [このレビューのURL]

こういうの何か合わないだろうなーと思いつつ試しに読んでみたら、意外にも、というか
かなり楽しめた作品。

掲載誌的にも作者的にももっとディープでドロドロなものを想像していたのですが、
軽ーい感覚のあっさりラブコメで素直に楽しめます。
「雑誌の記事を読んだ後の息抜きになるような、女の子が可愛くて何も考えなくても楽しめる軽い感じ」
と作者があとがきで語っているそのまんまな内容です。

他の方のレビューにもあるように、1話4ページというのが良いのかもしれないですね。
この作者は放っておくとすぐに鬱な方向へ転がってしまうようですが、コメディ漫画で4ページなら
転がる前にページが終わってしまうので転がりようがなさそう。
なので全般的に楽しい感じをキープできているのかな、と。

主人公と絡む女の子3人も、アホの子、素朴な意地っ張りツンデレ、愛嬌たっぷり駄々っ子、と
きっちりキャラ分けがされていて、ストーリーよりも登場人物のキャラを楽しむ感じの作品。
でもまあやっぱりこの作品でもメインヒロインがすぐに降格。 もはや作者の癖なんでしょうか。

「ハニカム」なんていうタイトルなので、メインキャラ6人の関係が正六角形のように調和した作品を
イメージしながら読んでいたのですが、新キャラ(7人目)出てきましたね…。 考えすぎだったか。
初めてのバイト先が飲食店だったという人は多いのではないかと思いますが、大人をターゲットにした
雑誌なので、自分のバイト時代の頃を懐かしみつつ、「はにかみながら読む」漫画、ですかね。
はにかむというよりはニヤニヤの方が合っている気もしますけど。
もちろん今バイト三昧の人やバイトしたことのない人も楽しめる内容だと思います。

あとは…、ちゃんと連載再開するのかな。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-07-08 01:00:24] [修正:2011-07-08 01:01:12] [このレビューのURL]