「とろっち」さんのページ

30代半ばの女性と50代のオッサンとの恋愛話。
こんな風に紹介しただけで興味を失くす人が大半かもしれないですが、これがまた面白かった。

ジャンルとしてはラブコメと言っても差し支えないものの、若い子たちのそれとは違い、
恋のライバルキャラのようなものはいません。
障害となるのは、自分の過去だったり、言動と本音の部分との乖離だったり、世間的な体裁だったり。
そういうものが殻となり、壁となり、素直になれず、なかなか動き出せず。

最初は海江田が本性を簡単には見せずに飄々としているわかりづらいキャラだと思っていました。
でも彼を取り巻く状況が徐々に明らかになってくるにつれ、彼の人となりが伝わってきました。
何のことはない、彼は本音で生きる単純明快な人物でした。 ただ不器用なだけで。
ただし直球勝負というよりは、自分の気持ちや発言に今まで培ってきた「経験」というオブラートを
被せていて、それらが若い人には出せない渋みというか深さを生み出しています。

で、そうなるとつぐみの気持ちにどうもすっきりしなくなる。
自分が男性だからなのか。 女性の方々には「あるある」な感じで共感を得ているのでしょうか。
作者は「山月記」の言葉を借りてつぐみを「臆病な自尊心と、尊大な羞恥心」などと評していますが、
仕事での成功を男で不幸になることでバランスをとり、幸せの話をすると下を向き、
過去に囚われて目の前にある幸せに目をつぶるつぐみ。
「君はぼくが好きなんや。ぼくも君が好きや。 それだけなのに、なんでこないにややこしいんや?」

そんなつぐみを年の功による包容力と大きな愛情で丸ごと包み込んで、なんていう展開には
なかなかならないのがこの作品。
つぐみがやんちゃなオッサンに振り回されつつも、オッサンが時折見せる懐の深さが何とも格好良く、
少しずつ少しずつ彼女の心を取り囲む殻が剥がされていきます。
男の自分からすると、枯れ専(って言うんですか)などは正直どうでもよくて、
ただただ「こんなオヤジになりてーな」と思わせてくれる作品。 いや本当に。

それだけに最後の超展開が……。 あれ必要だったのでしょうか。
ああでもしないとつぐみの気持ちは動かせなかったのかと思うと悲しくもあり。

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[投稿:2011-07-29 01:08:46] [修正:2011-07-29 01:10:24]