「とろっち」さんのページ

総レビュー数: 300レビュー(全て表示) 最終投稿: 2009年10月09日

前作「朱鷺色三角」はころころ話の変わる作品でしたが、その続編であるこの作品も
またガラッと話が変わり、舞台をアメリカに移します。
そこで繰り広げられるのは、青春バスケストーリー。

この時代の少女漫画をリアルタイムで体験したわけではないですが、いろいろと読んでいると、
アメリカ(特に西海岸)が舞台のもの、もしくは話の根幹に絡んでくるものがかなり多い気がします。
何か憧れのようなものが強かった時代なのでしょうか。

そんな作品群の中でもこの作品はかなり秀逸だと思います。
くさい表現になってしまいますが、友情、孤独、恋愛、バスケ、人種、学校生活、ドラッグ、挫折、努力、
そういうものが、全部ごちゃ混ぜになりながらもうまくまとまり、絶妙のバランスで描かれています。
そして雲の上の存在だったキングとの対峙。 キング自身も気付かなかった本心。

日本の高校生がアメリカの、それも一流の高校生たちにバスケで勝負する、なんて今の時代でも
超無謀ですが、この漫画(というか霖)には、不思議とそれを納得させられてしまう力があります。
作者の力量でしょうね。

この作品は素直に面白かったです。
前作もそうでしたが主要キャラがほぼ男性であり、主に男性視点で描かれた珍しい少女漫画なので、
男性にも読みやすくてお薦めです。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-10-30 01:40:32] [修正:2010-10-30 01:42:43] [このレビューのURL]

全5巻と短めですが、序盤・中盤・終盤で全く話の内容が違います。 こんな作品も珍しいです。
また、主要キャラに男性が多い(女性があまりいない?)のも少女漫画としては珍しいかもしれません。

序盤は古典的なサスペンスミステリー。
自分が実は旧家の御曹司だったことを知り、招かれるままに地方の離島にあるお屋敷を訪れてみれば、
そこで起こるは遺産相続絡みの連続殺人事件、というコテコテのサスペンスです。
ベタな展開ですが、ドロドロしたシリアスな雰囲気がうまくはまり、ドンデン返しもあって面白かったです。

中盤は80年代の空気を切り取ったような学園コメディ。 楽しい雰囲気の作品になります。
これはこれでいいと思うのですが、シリアスなサスペンスからの急激な方向転換に若干ポカーンです。

かと思いきや、終盤はまたシリアスさが戻り、サイコサスペンスになります。
序盤のサスペンスとはまた違った様相で、ダークで狂気じみた展開になっていきます。

ただ、これだけ作風が二転三転しながらも、作品として統一されていないかと言えばそうではなく、
ちゃんとうまくまとまっているのが実力ある作家ならではですね。
朱鷺色=天の羽衣のような翼色、とのこと。
主役3人のコラボレーションが、きらめくように確かな色を生み出しています。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-10-30 01:30:59] [修正:2010-10-30 01:30:59] [このレビューのURL]

自分の中の「面白い」という感覚が、世間が欲している「面白い」と一致するならば、
その才能は天才と呼ばれてもおかしくないでしょう。
頭の中にあるその才能を世に広めるには、「面白い」という漠然としたものを明確にし、
アウトプット(プロット、仕様書等)して具体化していく作業が必要になります。

しかし、話はそんなに簡単なものではないです。
今やゲームは日本を代表する一大産業。
大勢の大人が、何ヶ月、何年という長い時間をかけて作る、「商品」としてのゲーム。
他人との、他社との駆け引き、政治力、予算、締切、規制、流行、さまざまな要因が行く手を阻みます。
そしてそれらに振り回されているうちに、何が「面白い」のかわからなくなってしまう…。

「なぜ 作りたいものが作れない 作りたいから作る ただそれだけなのに」
「自分が感動してないモンを売って 他人の気持ちを動かせるほど オレは自信家じゃない」

いや、正直、前作「東京トイボックス」のときよりずっと面白くなっています。
やっていることは同じなんですが、全体の大きな流れ、うねりの中でストーリーが展開され、
世界観が広がり、より一層深みを増した心理描写。
この作品はどちらかというと、「生みの苦しみ」 をクローズアップしているように感じられます。
それぞれが弱さをさらけ出しているからこその、こんなにも人間臭くて魅力的なドラマ。

実際のゲーム業界の裏側という「現実」を描いているのかは正直わかりませんが、
個人的にはそこはどうでもいいと思っています。
読む人に説得力を与え、作品世界に引き込んでくれるような設定描写が巧みだからこそ、
「作品としてのリアリティ」が感じられる、熱い作品です。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-10-22 00:36:39] [修正:2010-10-22 00:37:54] [このレビューのURL]

GAL'S COMPANY、略して「ぎゃるかん」。
外資系証券会社をクビになったヘッポコ営業マンが、ふとした縁からギャルゲー制作会社に入社。
周りはみんな女性社員の中、ギャルゲーについて学びながら仕事がんばろう! というお話。

一般青年誌で連載を開始し、よい子が読んではいけないような雑誌に途中で移り、
現在は誰でも読めるWEBコミック誌に移って連載中です。

この作者の作風は、青年漫画と成人向け漫画との境界線ギリギリのところがホームポジション。
ま、要するに青年誌で描いても成年誌で描いても、中身はあんまり変わらないわけでありまして。
エロレベルもそこらの青年漫画とたいして変わらないです。
だって成人向けなんでしょ、っていう色眼鏡で見てるともったいないくらいに良くできています。

これだけ女の子が出てるのに、みんな個性がそれぞれしっかり出ていてキャラ立ちまくりです。
キャラの造詣がしっかりしているから、話の展開に無理がなくスムーズに感じられます。
ゲーム制作会社という舞台で 「作る楽しみ」 に重点を置き、軽いタッチで読みやすく、
この人こんなに話作るの上手かったっけ、というぐらい自然な流れで楽しめる作品。

まぁ単なるハーレム系漫画と言われればその通りなんですけどね。
作中でもハーレムのことを自虐的にネタにしているぐらいだし。
そういうのが苦手でなければ面白いですよ。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-10-22 00:26:50] [修正:2010-10-22 00:26:50] [このレビューのURL]

手放しで絶賛できるような作品ではないけれど、悪い作品でもない、
まぁそういう意味で可もなく不可もない作品。

よくありがちなタイプの話ですが、主人公が弱い人間なのがいいですね。
子育てと自分の時間との比重に対する苦悩が自然な感じで描けています。

叶ちゃんが本当にいい娘です。
お父さん大好きっ子なのはいいんですが、最初っからほぼ盲目的に大好き状態なのがちょっと残念。
できればフラットな状態から大好きになるところも描いてほしかったです。

こういうおたくネタを前面に押し出したもの、多くなってきましたね。 どうも食傷気味です。
例えばその発端とも言うべきげんしけんなどは、オタクと非オタクとの相互理解が
テーマの1つだったためか、ディープな部分がよくわからなくても楽しめました。
この作品も、もちろんストーリーが楽しめないということはないんですが、
作品の空気というかノリみたいなものが完全に内輪向けな気がします。
こういう世界に詳しい人でないとちょっと厳しいかもしれません。 というか自分は厳しかったです。

画力はかなり残念ですが、ある種の愛嬌はあるので、作品のハートフルコメディーな雰囲気に
うまくマッチしているように思います。

めぞん一刻のオマージュっぷりが好きですね。
管理人さんが「PIYO PIYO」のエプロンとかつけてたんで、確かに最初から気にはなっていましたが、
ここまで開き直ってできれば凄いです。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-10-18 01:48:08] [修正:2010-10-18 01:49:31] [このレビューのURL]

確かにタランティーノ臭が、しかも初期の頃のタランティーノの匂いがプンプンします。
もしくは香港や中東の場末の路地裏のような雰囲気。
何が出てきてもおかしくないカオスな展開。 無秩序、無国籍。

かわいらしい絵柄ですが、とにかく妙なノリでグイグイ突き進みます。
イハーブ、マリー、ローズ、ガンズ、谷田以外の登場人物は、誰が誰だかよくわからず、
いつの間にか登場していて、しかもいつの間にか重要な役割を担っています。
登場人物が皆どこか厭世的な考えを抱いているのも特徴的。
どこに向かって突っ走ってるのかよくわからない気がしますが、
終わってみると結局テーマは終始一貫しているんですね。 そうきたか、という感じ。

うまく辻褄を合わせたのか、最初から計算していたのか。
よーく読むと細かい伏線がいろいろと張りめぐらされていて、唸らされます。
あまりに情報量たっぷりの絵柄も特徴的。

万人向けの作風ではないので、合わない人も多いでしょうが、ハマる人はどっぷりハマる、
そんな知る人ぞ知るB級映画のような作品です。
何点を付けるか非常に悩ましいですね。
好みの問題かもしれませんが、個人的な印象としては、いろんなものをごちゃ混ぜに詰め込みすぎて、
読みづらくなってしまっているように感じます。
作品として上手くできているのと、作品として面白いのとでは、また別の問題、ということで。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-10-18 01:41:02] [修正:2010-10-18 01:41:02] [このレビューのURL]

こういうのを名作と言うんでしょうね。 心からそう思える、そんな作品。

最初、作品に慣れるまではしばらく(数巻程度)かかってしまいましたが、
一度慣れたら作品の空気に完敗です。

話作りが本当に上手いです。
何でもないような出来事なのに、細やかな情景描写と濃厚な心理描写、見事な演出で
丁寧に丁寧に紡いでいって、珠玉のエピソードに昇華させる手腕。
単なるまったり漫画ではなく、人物の造詣からコマ割りに至るまで技巧が凝らされ、洗練された、
ベテランならではの卓越した筆致。
他の方のレビューにもありますが、ラストの締め方が抜群に上手いので、読後の余韻が素晴らしいです。

そよの一人称と三人称とが交互に織り交ぜられた形で話が進み、そよ以外の人の心情については
推し量るしかないような構成になっていますが、その描き方、バランスが何ともまた絶妙。
静かな村、のんびりとした時の流れ、それでも少しずつ確実に変化は訪れるわけで、
色鮮やかに描かれたそんな田舎の空気に、読めば読むほど引き込まれていく作品です。

実はくらもち作品って絵が苦手なためにそれまで避けていたんですよ。
この作品の映画化に際して強く薦められたために読んだのですが、いま思えば感謝感謝。
万人受けするような作品とはちょっと言い難いような気もしますが、
波長が合った人にはたまらなくなるような作品であることは間違いないです。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-10-09 13:21:08] [修正:2010-10-11 03:18:15] [このレビューのURL]

どこまでも深く…暗い闇。
彼女が抱えていたものは、「絶望」という名の死に至る病。

カウンセラーを目指す青年と、絶望に蝕まれた少女を描いたストーリー。
タイトルからわかる方もいると思いますが、キルケゴールのあの哲学書が元ネタです。
と言ってもコミカライズ作品などではないのでご安心を。
論旨のおいしいところだけをかき集めてストーリーに混ぜ合わせたような作りになっていて、
元ネタを活かしたままミステリー仕立ての作品として生まれ変わり、実際よくできていると思います。

うまくまとまっていますが、全2巻はちょっと短かったかな。 展開も若干性急だったように感じますし。
あと1巻分ぐらい足して、深く重い感じをもっともっと濃密に描写してくれればなお良かったです。
終わり方については賛否両論あるでしょうね(私は否の方です)。
ネタバレにならないようにワザとわかりにくく書きますが、「自己」とは何なのか、ということ。
「自分もまた自分の一部」なんですよね…。 うーん、そう考えるとやっぱりよくできているのかな。

絵も内容に負けず良好。 と言うか「オヤマ!菊之助」のあの方です。 途中で気付いてビックリしました。
ギャグ要素をはさまず、丁寧な描写でシリアスに描ききった力作。
こういうのも描けるんだな、と感心してしまいました。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-10-09 13:01:21] [修正:2010-10-09 13:07:25] [このレビューのURL]

少女漫画では珍しい、剣と魔法(と言うより特殊能力)とモンスターの世界。
物語の鍵となるヒロインと、彼女を護る戦士の冒険を描いた、本格ファンタジーです。
少年漫画も顔負けの、綿密に練り込まれ、作り込まれた世界観。
戦士ではなくヒロインが作品の主人公なのが、これが少女漫画である所以でしょうか。

女性作家ならではの丁寧な心理描写が特徴的です。
その分、バトルシーンがあまり上手くないのは仕方ないのかな、という気も。

かなり多くの登場人物が出てきますが、メインの2人以外はどうもインパクトに欠けています。
味方にも敵にも、引き付けられるような強烈なキャラクターがもっとほしかったです。
この作品、もうちょっと魅力的なキャラがいたら、とんでもなく面白くなっていたかもしれません。
20年ぐらい前の作品だけに、イザークのタイプも若干の古さを感じてしまいます。

ただ、ヒロインは良かったです。
ポジティブさと芯の強さがかなり好印象。
異世界に飛ばされ、言葉が全くわからない中で、何とか言葉を覚えようと懸命に頑張るあたりが、
実はこの作品で一番好きなところです。
ああいう何気ない場面をサラッと溶け込ませて、作品の世界観と可能性を広げる見せ方は、
実に上手いなぁと思わされました。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-10-04 21:28:02] [修正:2010-10-04 21:46:16] [このレビューのURL]

6点 ORANGE

高得点も頷ける、良質のサッカー漫画。
ただ、前半と後半とでは対象年齢が違うのかな、という印象も。

それほど前半部分は荒唐無稽に思えました。
現実と比較しても仕方がないですが、移籍の仕組み、クラブ運営、プロサッカーチームとしての活動、
実際にはあり得ないことだらけで、すべてに全くリアリティが感じられませんでした。

逆に後半部分はかなり楽しめました。
昇格争いが白熱する中、追う者の強みとしてイケイケムードで話が展開し、
サポーターの熱い応援に巻き込まれるがごとくの勢いで読んでしまいました。

勝手な推測ですが、作者は途中でかなり取材・勉強したのではないでしょうか。
試合についての描写、試合以外についての描写も、かなり詳しくなっていくのがわかります。
代表召集問題も、確かに日程の重なる可能性があるJ2ならば起こる可能性もあるかもしれません。

テーマだけを考えてみると、少年誌よりも青年誌向きかな、とも思えたのですが、
実際に「オーレ!」で同じテーマを扱っているので、描き足りない部分があったのかも。
少年漫画と言えば、プロのリーグを舞台にムサシが点を獲りすぎのような気もしますが、
これはもう「漫画ってそういうものだから」で読むしかないのかもしれません。

皆さま高得点の中恐縮ですが、全体を通しての評価です…。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-10-04 21:19:26] [修正:2010-10-04 21:19:26] [このレビューのURL]