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ジャズ全盛の1960年代、ジャズを通して繋がる正反対の高校生、薫と正太郎の青春を描く。

まず思ったのは時代背景や絵柄を含めてとにかく古いってこと。しかしこの作品の古さっていうのは恐らくすごく考えて練られたもの。
60年代の固い恋愛観、ビートルズやジャズの大御所に代表される小ネタ、控えめな絵柄、そういう要素が全て純粋で爽やかなキャラクターと素朴な物語を魅力的に見せてくれるのだ。
小玉ユキはこのド直球な青春群像を現代でやってしまうと嘘っぽくなってしまうことを分かっていたんだと思う。この時代でしか、この時代だからこそ成り立つ甘酸っぱさが確実にあるのだから。
素朴な物語を純粋に楽しませてくれるというのは相当力量がないと出来ないし、1960年代を切り取って見せてくれるということを考えてもかなり良い作品。

何といってもジャズの演奏シーンがいい。ここまで音楽してるって作品他にあったかな? まさに音を楽しむという表現が似合う。
私もアポロンを読んでアートブレイキー辺りを聞いたクチなんだけど、色んな音楽を題材とした漫画を読んできたにも関わらず実際にその音楽を聞いてみたのはこれが初めて。クラシックという音楽が限られた枠組みの中で表現を凝らすという素人には分かりにくい凄さだからだろうか。世界を目指して必死、真摯にピアノをやる漫画が多いというのもあるかもしれない。
その点この時代のジャズというのは大衆音楽で、薫達も別にプロを目指しているのではなく単純にやりたいからやっているのだ。すごく身近。また、フリーセッションは私がギターを弾いていて1番楽しいことだし、その楽しさが伝わりやすいものだと思う。だってみんな演奏するのが楽しそうだしジャズが大好きそうだもんね。これは聞きたくなるよ。
しかもこのスタンダードなジャズが片思いにめちゃくちゃ合うんだ。

最近多いぐだぐだなモラトリアムを描く青春ものとは一線を画す作品。異端に見えて王道です。

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[投稿:2011-08-26 14:30:24] [修正:2011-10-27 17:50:56]