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「闇夜に遊ぶな子供たち」の続きも読みたいけど、出ても同人になりそういうのは実に残念な話。
ホラーMがなくなったのはやっぱり痛い。
10点、9点…個人的なバイブル、名作。
8点、7点…お気に入りの作品。
6点、5点…十分楽しめた作品。
4点以下…うーんって感じの作品。わりと適当。

7点 竜のかわいい七つの子
去年「竜の学校は山の上」で話題になった九井諒子の新作。
相も変わらず熱心に独自の世界を構築していこうとしている姿勢は変わっていなくて。とにかく愚直なまでに独自の世界を描き、その世界でしか物語れないものを紡ごうとしている印象。そしてファンタジーといえども、嫌味ならない程度に現実を想起させる世界と人々。
ただ日常とファンタジーが入り混じった独自の世界観が作りこまれているからこそ、その世界と物語との間にギャップが生じた時にその隔たりは巨大なものになってしまうように思う。例えば今作であれば第一話「竜の小塔」は、世界が練りこまれているからこそ結末の安易さが気になってしょうがなかった。
ただそんな風に感じてしまった部分は前作よりもはるかに少なくて…。世界と物語のすり合わせ方が上手くなったのか、私の感じ方が変わったのかは分からないのだけれど、今作では圧倒的に心にすっと物語が入ってきた。
「人魚禁猟区」は人と異なるものとの触れあいを描くことを得意とする九井諒子の真骨頂で、甘くも苦い異種遭遇譚。母親による狼少年育児エッセイが組み合わされた「狼は嘘をつかない」はくすりと笑える入れ子構造がうまくハマっていて日常とファンタジーが入り混じる面白みを存分に感じられたし、超能力家族パロディ「犬谷家の家族」はとことん可笑しいコメディながらも現実味を感じられるオチが九井諒子らしくて実に良かった。
ところで九井諒子の「線」って何でこんなに色気がないんだろうなあと不思議に思っていたのだけれども、そうじゃないんだということにようやく今作を読んで気付いた。ここまで意識的に線をコントロールしようとしている人もいないかもしれない。絵柄だけではなく、一つの短編の中でも線を描き分けることで世界を描き分けようとしているというか。
魅力的な線を描ける人は絵に余白が多くても全く気にならないのだけれど、そうでないからこそ自分は描き込んでいるんだなんてことを語っていたのは確かわらいなくだったと思う。九井諒子の矜持は多彩な線が描けるということなんだろう。「わたしのかみさま」ではあえて無味乾燥なタッチでユーモアたっぷりに“かみさま”を描いているし、何より「金なし百祿」は絵師と筆で命を吹き込まれた絵たちが織り成す涙ほろりの物語はそんな九井諒子しか描けない傑作だった。
ということで、前作よりもはるかに九井諒子の魅力が伝わりやすい作品集になっていると思う。前作を読んでもあんまりぴんと来なかった私のような人にもおすすめ。今読めば「竜の学校は山の上」もまた違った風に感じられるかもしれないなあ。
ナイスレビュー: 0 票
[投稿:2012-10-21 17:35:11] [修正:2012-10-21 17:41:10] [このレビューのURL]
8点 エリア51
久正人による世界中の異形を集めたクロスオーバーコミック。
米軍によって集められ、隔離された世界中の異形を集めた街であるエリア51。そんな危険な街で探偵家業をこなす真鯉徳子は河童の相棒キシローと共に様々な事件をハチャメチャに解決していく。そしてどうやら徳子にはエリア51にやって来た壮絶な理由があるようで…。
この世界中の異形ってのが実に便利な言葉で、神話から民話から怪奇からもう何でもありなのだからいやはや好みの人には実にたまらない漫画。アマテラスとネッシーとサンタクロースと河童と白雪姫が同じ世界に存在してるんだからもう最高なわけである。アマテラスはもちろん引きこもってるわけである。
ここらへんのわくわく感はアメコミのクロスオーバーのまさにそれ。アラン・ムーアの「リーグ・オブ・エクストラ・オーディナリー・ジェントルメン」+「トップ10」といった趣で、最近だと屍者の帝国を楽しんだ人ならこの感覚は何となく分かると思う。もしくは平野耕太のドリフターズでもアベンジャーズでも何でも良いけれど、ありえない世界が交差する感覚はとっても楽しい。
そして前作ジャバウォッキーと同様、久正人に異形溢れるこの手の伝奇ものを描かせるとめっぽう上手い。例えば現在連載中のものだと月光条例なんてエリア51と非常に近い構造を持つ漫画なのだけれど、そのわくわく感はエリア51とは比にならないと私は思う。
とにかく久正人による既存のキャラクターの料理の仕方と絡ませ方がめちゃくちゃにおもしろいのだ。しかもハチャメチャなキャラクターの改変の中でもその本質はしっかりと感じられるわけで…。だってサンタクロースがチリソース大好きなリトルグレイに服を盗まれるなんてユーモア溢れる物語が、あの子供心を揺さぶられる涙ほろりなオチに帰結するんだぜ。そうなんだよなあ、子供がプレゼントを受け取る時サンタはもういないんだよなあ…。また白雪姫と人魚姫のクロスオーバーなんてスノーホワイトが裸足で逃げ出すくらい素晴らしい白雪姫の語り直しだった。
そんな濃すぎるほどの世界観の中で、マッコイという可愛くもハードボイルドな主人公が図抜けて魅力的なのも何気にすごいよね。彼女もまた相当悲惨な過去を背負っているようで、色んな事件と関わりあいながら本筋も少しずつ進んでいく。アメコミの皮を被った浪花節なストーリーテリングは実に切ないし、合間合間に挟まれる「メェェェリィィィィィクリスマス!」なサンタクロースや最速のモンスター決定戦グレート・ゴールド・ラン・レース(我が日本からはターボババアが出場笑)なんてコメディも素敵で楽しい。そしてくとぅるんや荒野の七人ver七人の小人のような膨大な小ネタの数々…。いやぁ、これはたまらない!
また久正人はアメコミにも造形の深い人で、マイク・ミニョーラよろしくな絵柄(本人によるとフランク・ミラーのパクリらしいが笑)と切れ味鋭い表現はちょっとシビれる格好良さ。ジャバウォッキーの時よりも絵柄はさらに簡略化されていて、より白と黒のコントラストは鮮烈になっている。
そういう絵柄や物語の作り方等、他の漫画では体験できない作品だと思うので一読をおすすめ。好きな人は強烈にハマるはず。そもそも小説書く人含めて日本でこういう伝奇クロスオーバーに長けてる人なんてめったにいないよなあ。アメコミ好き、屍者の帝国のような歴史再編SF好き、ラヴクラフトのような怪奇好き、ここらへんの嗜好をお持ちの方々はぜひどうぞ。
ナイスレビュー: 1 票
[投稿:2012-10-21 17:33:10] [修正:2012-10-21 17:33:31] [このレビューのURL]
5点 星を継ぐもの
4巻で完結してしまいましたねぇ。前にレビューした時にはけっこう批判的なことを適当に書き散らしたような記憶があるので、完結によせてちょっと整理した上でもう一回書き直しておきたいなと。
「星を継ぐもの」というタイトルさえついてはいるものの、実際に星野之宣がやっているのはJ・P・ホーガンの星を継ぐものを含む3部作を再構成したコミカライズ。ちょっと間が空いて発表された3部作の続編である「内なる宇宙」は含まれていないと思う(これは読んでないので自信はない)。
古いSFというのもあってかこのシリーズには矛盾点や少々科学的考証がおかしい部分が多々あるのだけど、そういう所を星野之宣は上手く再構成してさらに物語の流れをスムーズに追いやすくしてくれている。ここはさすがベテランの腕の見せ所ということで、ちょっと驚くくらいに読みやすい。
ただスムーズに流れが追えると言うのは原作の楽しさと矛盾する点でもあるわけで。特に「星を継ぐもの」「ガニメデの優しい巨人」で最高にわくわくさせてもらった私としてはちょっと残念な気がするんだよなあ…。要はこの2作におけるチャーリーの謎、そして人類の起源を解き明かしていくミステリーのおもしろさというのは実際に自分がディスカッションに参加しているようなわくわく感なのだ。こうでもないああでもないと言いながら議論しあうからこそ、議論が紛糾した場面でここぞとばかりにハントが発想を飛躍させる場面は最高に痛快だし、ダンチェッカーがシニカルに論理を進めていく姿は奥深い。またガニメアンのデザインは秀逸なのだけれども、ガニメアンとの交流の場面が大部分端折られているために、“善き人々”である彼らの姿が少々薄っぺらく感じてしまうなんてこともあった。物語がスムーズに追えるというのは一方で、原作が持つセンス・オブ・ワンダーを損ねてしまっている。
かといって主に4巻部分における「巨人たちの星」パートだってけっこう扱いはおざなりだよなあ…。この巻は論理を深めていく物語であった前二作と打って変わってハントのロマンスだったりスパイアクションまであったりして、また違ったおもしろさのある作品なのだけれども。このコミカライズにおいて、星野之宣はここらのパートはどうでも良いよとばかりにすっ飛ばしていくので、その分と物語としては駆け足かつ薄味さが際立っていたように思う。
また身も蓋もないことを言ってしまうと、あんまりホーガンの作品を映像化する意義を感じないんだよね。ホーガンSFのセンス・オブ・ワンダーはあくまで物語に感じるもので、読み取れる世界観自体はかなり無機質なものだから。そういう意味では星野之宣とホーガンは似ているとは思うのだけれども、似ているからこそ星を継ぐものの世界は私の想像を超えるものではなかった。
例えばヴァンスやオールディスみたいな、色彩豊かに異世界を描き出すSFこそを漫画で読んでみたいな。貴志祐介の新世界よりの漫画化が期待はずれだっただけに(アニメは1話だけ見たけど中々良さそう)、市川春子あたりがこの手のSFを漫画化してくれないかななんて妄想しているのだけれどどうだろう。
ナイスレビュー: 0 票
[投稿:2011-11-19 23:44:07] [修正:2012-10-14 17:11:19] [このレビューのURL]
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