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総レビュー数: 258レビュー(全て表示) 最終投稿: 2007年06月29日

うーん、これは良かった。間違いなく傑作。
アラン・ムーア作品に代表されるような海外の優れた作品は日本の漫画が1番なんて幻想をぶち壊してくれる。アランの戦争もそんな作品の一つ。日本の中だけに鎖国しているのはもったいないです。

バンドデシネ(BD、ベーデー)はフランスの漫画のことで、描かれた帯という意味。フランスの第九芸術とされ、メビウスやエンキ・ビラルは大友克洋や荒木飛呂彦を通して日本の漫画にも大きな影響を与えている。
BDは日本でもユーロマンガを皮切りに2年前くらいから地味に盛り上がっていて、例えばこのアランの戦争は国書刊行会のBDコレクションというおもしろい企画の第三弾にあたる。

アランの戦争は表題にあるようにアラン・イングラム・コープの回想録だ。誰よそれ?っとなるかもしれない。それは当たり前で、アランは有名人でも何でもなく至極普通の人だから。
タイトルを見ると誤解しそうだが、戦争駄目とかそういう作品ではない(そもそもアランは直接的な戦闘はほとんどしていない)。アランが戦争に行き、戦友や戦争で行った地域の人々と交流したり、通信兵として学校で勉強したり、戦車の掃除などの行軍中のくすっとくるエピソードがあったり、帰ってきて仕事を探したり、結婚したり、何が起こるわけでもなく時系列にそってただただアランの人生が綴られていく。
アランにとっての戦争ははだしのゲンほど悲惨なものではなかったにしろ彼の人生に確実に影響を及ぼした。彼の一生は必ずしも順調ではなかったようだ。

ここで語られる話はほとんどが大きな意味を持っていない些細なことで、別にストーリーがあるわけでもない。しかしそもそも人生で起こるほとんどのことは些細なことだし、人生にストーリーなんてないのだ。

「存在を証明する絵画を描くためには人生のどんな瞬間も思いだされる価値があると思わないかい?」アラン・イングラム・コープ

作者のエマニュエル・ギベールの仕事はすばらしい。余計な装飾なんて全くなく、ここにあるのはアランの生、それだけだ。
そして抒情的な美しい絵。何でもない風景になぜかほろっときて驚いた。この作品で彼は水彩画の技法を使っていて、これまたすごく良いのだ。youtubeにアップされているし、アランの戦争でググれば見れるはずなのでぜひ見て欲しい。井上雄彦が筆を使ったことが話題になっていたけど、世界は広い。

一人の人間の生を描いた作品としてアランの戦争は屈指の出来だろう。それをどう受け取るかは読む人が決めることだ。誰かの人生というのは他人のためにあるものではないのだから。人生は無意味の連続で、そこに価値を作るのは私達次第、つくづくそう思う。
アランは歴史的に偉人ではないかもしれないけど、とても魅力的で素敵な人だった。これからも長く読み返すだろう傑作。
ぜひアランの人生を体験してみて欲しい。

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[投稿:2011-09-28 19:03:53] [修正:2011-09-28 22:53:22] [このレビューのURL]

6点 芋虫

これが私の初丸尾末広作品。
パノラマ島奇譚はそこまで好きな作品ではないので興味はありつつも未読。芋虫は人間椅子と並んで私のお気に入りの乱歩短編なのでこれは読むしかないと購入してみた。

確かに乱歩と丸尾末広のゴールデンコンビの魅力は存分に感じることが出来た。多分これ以上はないだろう。しかし、そもそも映像化する意義があるのかというと少し迷ってしまう所で…。
乱歩の文章というのはかなり映像的なので頭の中でイメージするのはわりと容易なわけです。ある程度自分の中でイメージがあるものを実際に漫画で見た時にそこまで衝撃があったかというとそうでもなくて、さらに自分の中にあったイメージが丸尾末広版芋虫に侵食されてしまったようで何となく悲しい。

漫画の方を読んで思ったのは、私は乱歩の作品に関しては自分の中でイメージすること自体に楽しみを感じているということ。漫画で読むとそのイメージが固定化されてしまうので、そういう意味では気に入っている芋虫よりそこまででもないパノラマ島奇譚を読んだ方が楽しめたのかな。

丸尾末広は乱歩作品を漫画化するにおいて最適ということは認める。しかし私にとって芋虫の漫画化は楽しめもしたが失ったしまったものも大きかったと言えるかもしれない。まあとりあえずパノラマ島奇譚も読みますわ。
原作未読の人が読んだらどう感じるんだろうね。ぜひ誰かレビューを書いて欲しいです。

友人にこれを見られてしまった時に、「お前大丈夫か?」、とまじな顔をされたのはいい思い出。皆さんもご注意を笑。

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[投稿:2011-09-25 17:21:07] [修正:2011-09-26 00:36:15] [このレビューのURL]

少年漫画で”剛腕”を感じる作品というのはたくさんあるんだけど、まさか少女漫画でそれを感じることがあろうとは。

楽器未経験の女の子が、憧れていた強豪校のブラバン部に入って…というお話。

昨今ありえないくらいに純粋でひたむきかつ体育会系の物語。体育会系特有の縦社会的な所や理不尽な感じって実はこういうまっすぐな物語と相性がいいのかもしれない。
正直私は話に乗り切れているかというとそうでもなくて、だってもうこんなピュアさを信じられなくなってきてるから。それでもぐいぐい読まされるのは、「嘘っぽい」なんて言葉を挟む余地がないくらいの熱量と力がこの作品にはあるからだ。何という剛腕。
大介なんて男目線だとファンタジーだし、閉じこもった先輩のエピなんておいおいそれでいいのか?…と思うわけだけど、もはや突っ込めない雰囲気なほど疾走し、やりきってるのはすばらしい。不純物なんて全くない。

それにしても体育会系という言葉が最近否定的に使われることが多い中で少女漫画でこれを描いてしまうというのは何気に凄いな。だって大きく振りかぶってやちはやふるに至っては同学年とそれ以下しかいないし、野球漫画を見ててもそんなに体育会系を感じる作品はないのに。
では青空エールがちはやふるのように本質が少年漫画かといえば確実にそうではなくて、紛う事なき少女漫画だ。心理描写を文字でばんばん詰め込んでいくのは情緒がないけど、この漫画らしいひたむきさはよく伝わってくる。自分の中に深く深く没入していく。私は置いてけぼりなのだが。

つまる所20代の男が読むために作られてはいないということ。10代のまだこの作品のピュアさを信じられる年代の人や女性だからこそ大好きになれる作品なのかもしれない。それは別に悪いことではなくて、多分ある程度の年を取った男性だとあまり共感できないというだけだ。
恐らく男のレビュワーの方々の点数が高くないのは偶然ではないと思う。

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[投稿:2011-09-25 12:23:20] [修正:2011-09-26 00:34:22] [このレビューのURL]

アンダーカレントの豊田徹也の色々な人々の色々な話を描くショートショート。その傍らにあるのは珈琲。

ものすごーーーくこちらに投げっぱなしな作品。ある意味すごいよ。
志村貴子作品でよく「行間を読むのが楽しい」的な感想をよく聞く。大まかに分類するとこの珈琲時間もその手の作品に分類されるのだろう。ほぼ行間しかないのだけど。

例えば二時間の映画があって、その中の5分間を適当に切り取って見せられている感じというと分かるだろうか。もちろん背景の説明なんかない。
珈琲時間はちょっとした会話や仕草からその登場人物の裏に浮かび上がるものを想像して楽しむ作品なのだ。

これは好き嫌いが分かれるだろうな。こういう作品は好みだけど、この作品に関しては私はどちらかというと非。
ショートショートだからしょうがないにしても、あまりにも登場人物の情報が少ないのでその人に大して興味がわかず、興味がわかないとその背景を想像する気になんてなれない。ほぼ眺めるように読んでしまった。ちょっとだけ時間のある時にぱらぱらめくるといい感じな気がする。

でも間違いなく好きな人は好きなはず。一読してもいいかも。

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[投稿:2011-09-25 11:30:44] [修正:2011-09-25 11:33:53] [このレビューのURL]

読んでない人は人生を損してる、なんて本気で思う唯一の作品。

とりあえず代表的な作品を一つ挙げろと言われた時に、アメリカ映画ならショーシャンクの空に、アメリカ文学ならグレート・ギャツビーを挙げる人が多いと思う(違ったら申し訳ない)。ではアメリカン・コミックなら?…間違いなくこのWATCHMENだ。

アメコミを変革し、それ以降もアメコミ史上最高傑作の地位は揺るがない。
というかもはやアメコミの中で、なんて枠を飛び越えて漫画や映画、小説などの表現媒体を超えて評価できる限られた作品とすら思えるし、実際そのことは色んな賞や人の感想が証明していて今さら言う必要もないことかもしれない。

「だれが見張りを見張るのか?」

アラン・ムーアが、現実社会にヒーローがいたらどうなるのか?、という単純な疑問を偏執的なほどに膨らませた結果WATCHMENは生まれた。

この作品では一人を除いてヒーローもまた普通の人間に過ぎない。かつては人気だったヒーロー達だが、1977年に制定されたキーン条例によって政府から認められた者以外の自警活動は禁止される。ヒーローのおかげでアメリカはベトナム戦争に勝利した。唯一超常的な力と頭脳を持つDR.マンハッタンはアメリカの軍事力であり他国への抑止力となっている。
ここはムーアが妄想したヒーロー達が実在する世界。冒頭でヒーローの一人、コメディアンが殺される場面からこの物語は始まる。このコスチュームを着たヒーローが変態扱いされる時代に(実際いたとしてもそうなるよ笑)、現役もしくは元ヒーロー達は何を思い、何を見つけ、どこへ至るのか。

理想の漫画とは何だろう?
私は何度読んでも飽きが来ない、おもしろさが薄れない漫画だと思う。WATCHMENはその理想に限りなく近い。私はこの作品がどんなことを描いているかを書くことができない。何をどれほど描いていると言っても、それ自体は正しいかもしれないがそれでこの作品を完全に表すことはできないように思える。惹きつけられる金鉱がたくさんあって、掘り尽くしたと思ってもまだまだ次が待ち構えているとでも言えば分かってもらえるだろうか。
それほど重層的な作品かつ情報量が膨大なので読むたびに新しい発見がある。ダブルミーニングやトリプルミーニングなんて当たり前、背景の壁の落書きや各章の間に挟まれた作中での新聞記事や評論まで世界の構築に一役買っているほどだから読み進めるのにかつてない時間がかかるし、だからこそ読むその時々によって受け取り方や解釈が違ってくることが珍しくない。それほどWATCHMENは魅力的に”揺れて”、最高の読書体験を味あわせてくれる。

WATCHMENは下手な文学が裸足で逃げ出すほどのストーリー性の高さとムーアの革新的(偏執的とも言う)表現技法が相まって傑出した名作に仕上がった。
私はこの作品なら軽く3日語り続けられる自信がある。それは完璧なのに揺るがないことが何一つないという奇跡的なコミックだからだ。例えばロールシャッハを酒の肴に誰かと飲めたらどんなに楽しいことだろう。
ここに色んな部分について私の解釈を書きたいという強い衝動には駆られるもののそんなことをするとすでに長い文が書き終わらなくなるほどになってしまうし、何よりも誰かの考えに縛られてこの作品を読んで欲しくないのでやめておくことにする。

ムーアはWATCHMENでヒーローを徹底的に解体した結果、ヒーローを救いようのないものにしてしまった。
だからこそ浮かび上がってくる「ヒーローとは?」の答え。
グリーンランタン/グリーンアローでハルはこんなことを言う。「正義とは悪とは何なのか。もはや政府でさえ正しいとはいえない時代だ。」
外に答えを求めることができない以上、自分の倫理観や信念に絶対的に従って行動が出来る人間がヒーローと言えるのかもしれない。例えば”たとえ世界が滅んでも俺は妥協しない”という人間なんてね。しかしその結果独裁者みたいなのができかねないとあってはそれはヒーローなのかな? そういう人間こそが世界を変えることが出来るのだろうけど…。

作中に登場するヒーローの一人のロールシャッハという名前はもちろんインクの染みを見せてその解釈を問うあの精神分析に由来する。WATCHMENはまさにこのように、読む人やその人の状況によって作品やその作中ヒーローへの感想解釈が異なってくるコミックだ。
ナウシカのレビューで、ナウシカが終盤でとった行動に対して是非が分からないという方達がいたと思う。そんな人にこそぜひ読んでいただきたい。そのエッセンスを100倍も濃縮した要素がこの作品にはあるし、どんなに小汚くともロールシャッハとナウシカは本質的には同じ人間だから。もしかするとオジマンディアスさえも。

ヒーローとは何なのか?何が正しくて何が悪いのか?世界の、人間の意味とは? 繰り返される疑問符。読むたびに私の脳はびんびんに活性化される。痛いほどに刺激的な読書体験。この作品に飽きる時なんてくるのだろうか。

もう1回言う。読んでない人は人生を損してる。

【追記】
ウォッチメンは異形の文学作品としての傑作であって、例えば少年漫画の王道として傑作であるスラムダンクとは全く趣が異なります。
膨大な情報量と構成を自分の中で消化する、もしくは消化しようとする作業をページを行きつ戻りつしながら楽しむ作品です。読みにくいのは当然なわけで、漫画は軽く読めるから好き、なんて人は絶対相容れないでしょう。少し値の張る作品なのでそこをしっかりと考えてから購入を決めることをおすすめします。映画に否定的な意見が多いのはこの内容を2時間半に詰め込んだことと映画の読み返せず消化する時間を与えてもらえないという特質ゆえだと思う。原作を読んでからだとかなり印象が違います。
ただし同ページの小説を読むよりはるかに時間がかかる、というか時間をかけて読まないとおもしろさが分からないので決して高くはないはずです。私のようにかけがえのない漫画の一つともなればなおさらね。

しかしレビューを読み直すとあまりにもハードルを上げてしまった気がする。その人にとって本当に楽しめる作品ならそんなのは軽く飛び越えていくからまあいいか。あまりに期待しすぎて…なんて言われたら何も言えないですが。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-09-23 03:40:55] [修正:2011-09-25 00:21:25] [このレビューのURL]

ムーア御大のアメリカデビュー作。イロもののように見えて実は…いや、やはりイロものキワものの類か?笑 
スーパーマンたちJLAのメンバーがちらっと出てくるもののヒーローものでは決してない。怪人もの。ホラーファンタジー。

元々スワンプシングというのは、爆弾の爆風で沼に吹っ飛ばされ死に瀕した科学者アレックスが化学薬品と爆発の衝撃で、沼の植物と融合し怪人スワンプシングになってしまうというもの。
設定聞いただけで何だか微妙だな、と思いません? 実際当初は人気は出なかったらしい。そこでテコ入れのためイギリスで評判の高かったアラン・ムーアに全面的にこのシリーズを任せることになった次第。

ということでムーアのアメリカデビューとなったこの作品、のっけからこれまでの設定をひっくり返してしまいます。スワンプシングとはアレクが植物と融合した姿ではない。アレクは爆発で既に死亡していて、沼の植物がアレクの意識と記憶を取り込んだ姿なのだと。

ふーんそうなんだとまあ思うわけです。しかしこの改変、物語が先に進めば進むほどムーアの才能を思い知らされることになる。
スワンプシングはアレクの記憶を持っているのでもちろん殺されかけた復讐心やその他の感情はある、でもそれは確かにあるのに自分のものじゃないのだ。何を考えてもそれが自分の考えなのかアレクの考えなのか、分からない。
痛ましいまでの悲哀。おぞましくも哀しき怪物。もはやアイデンティティの喪失なんて言葉が軽く感じてしまうほどの真実を”それ”は知ってしまう。

そこからスワンプシングが絶望の末にどこにたどり着くのか、というのがこの作品の前半のお話。これが傑作だった。この頃からムーアのライティングは知性を感じさせてくれる。紹介エピのはずなのにもうこれで完結でもかまわないくらいの出来なのだ。
もちろん連載なのでそこで完なんてできるはずもなく、後半はホラー色の強い作品が掲載されている。これが駄作とまでは言わないけど何とも微妙。話の進め方に迷いが感じられたりスワンプシングを話に絡める必然性が薄かったりで、前半で完成されている気がするだけに蛇足というか…。

これ以降も連載は続いたようですが、そこまで続編を見たいとは思わないし邦訳もされないだろうな。
後半も考慮に入れてこの点数です。しかしWATCHMENなどでムーアに興味を持った人は出色のできばえの前半をぜひ見て欲しいなと思う。
スワンプシングをムーア作品で最初に見るのは間違いなくおすすめできない。古くて癖が強い、まさに「怪作」なので。これがこの作品にとって最高の褒め言葉だよね。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-09-22 01:59:54] [修正:2011-09-23 00:24:01] [このレビューのURL]

シークレットオリジンはハル・ジョーダンがランタンとなるまでのお話。
このリバースでは冥府に堕ちたハルの再生が描かれる。

これは多分傑作だろう、熱いぜ!
多分と言ったのには理由があって、上のあらすじを見ると何となく分かるかもしれない。
何の予備知識もなく見た人はどうなるか。オリジンでハルがランタンになりました。これからハルはどうなるのかわくわくです。リバースを見ました。え!?何でハル冥府に堕ちちゃってんの?しかもその前に最高のランタンになってたわけ?てか冒頭の地球担当のランタン達は誰よ?
あれ?キングクリムゾン時ぶっ飛ばしちゃった?

実際ダイジェスト的な感じでリバースの作中で大まかな経緯は説明されるので大筋はつかめても、細部の情報は全く足りない。事前にグリーンランタン/グリーンアローを読んでると多少はましだがそれでも足りない。解説見ても実感できるのとは違うしね。
こんな不親切な刊行になっているのもしょうがない部分はあって、まずランタンは連続したストーリーが続いているのでそれを全て邦訳することは恐らく出版社的に難しい。また、リバースからリニューアルされたこのシリーズだが、ハルが堕ちるまでの作品群はその一つ前のシリーズにあたるということ。ということでかなり流れをぶっ飛ばした邦訳になってしまったと。
バットマンだとそれ自体でほぼ完結する作品が多いんだけど、ここらへんは長い時に渡って連載されるアメコミならではの楽しさでもあり弊害でもある。

このリバースというのはスターウォーズを彷彿とさせるような壮大なエピソードなわけです(実際参考にしたらしい)。スターウォーズとは逆ベクトルの、堕ちて、苦悩し、それでも内で戦い続けたハルの堂々の復活とランタンズの再生。しかしエピソード1を見て、2を飛ばして、3を見たときにそれが十分に楽しめるかというと否でしょう。
ハル復活!!ハル復活!!ハル復活!!ハル復活!!なんて烈海王ばりにテンション上がりつつもそれだからこそこの作品をそういう事情で十全に楽しめなかったことは残念だなと思う。いやー、でもランタンズには熱くなったしガンセットは渋かったし、何だかんだかなり楽しめた。相変らずオリーもかっけぇよ。ランタン/アローが大好きな私は彼とハルとの絆にはほろっとね。

本作のライターのジェフ・ジョーンズはマーク・ミラーあたりと並んで間違いなくこれからのアメコミを引っ張っていく人。フランク・ミラーがDKRでスーパーマンをぼこぼこにしたように、ハルがバットマンを殴り倒してるのも彼の新たなヒーロー像を作るという決意の表れと思える。
結果熱く無鉄砲な少年漫画の主人公としては共感できる好感度の高い主人公に仕上がったわけだけど、あまりヒーローとしては魅力的ではないかもしれない。でもDKR以降ミラーのバットマンの類型がスタンダードになっていた中でそれに風穴を開けたというのはかなり歓迎すべきことだし、すばらしいことだろう。もっと色んなヒーローがあっていいよね。

リバース後も話は続いていきます。それらが邦訳されるかというと、正直映画がアメリカでは大コケしたのでめちゃくちゃ不安。映画に合わせてそれ関連の邦訳というパターンが多いので続編がないと果たしてどうなるか。
皆さん今からでも映画見に行きません? もちろん邦訳されたランタンシリーズを買ってもいいです。このままだとブラッケストナイトまで行き着くかが怪しいような…。
ヴィレッジさん、よろしくお願いします! そして願わくばエメラルド・トワイライトあたりから邦訳を!
誰かまじでAKB買いしてくれないものか笑。

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[投稿:2011-09-21 01:48:27] [修正:2011-09-21 08:25:49] [このレビューのURL]

アメコミをこれから積極的にレビューしていこうと思うにあたって、やはり最初の作品は私のアメコミ原体験であるダークナイト・リターンズ(以下DKR)が相応しいかなと思う。

アメコミが未だに子供だましの読み物、タイツのヒーローが出てくる馬鹿げたジャンルなんて考えている人はいませんか?
だとしたらそれは約30年前の認識です。私もDKRを読むまでそう思っていたので全く偉そうなことは言えないけど。

ではその30年前、正確には1986年に何が起こったのか。アメコミを読んだことのない方々に偉そうではあるが、大事なことなのでアメコミファンには周知の事実を説明させてもらいます。
1986年、フランク・ミラーのDKRとアラン・ムーアのWATCHMENが発表された。これがまあとんでもなかった。今までの単純な勧善懲悪とは隔絶した作風、ストーリー性の高さ。
この2つの作品の影響はその後のアメコミをリアルでシリアスなものに変質させてしまったほど。日本でいう手塚先生とまでいくかは分からないけど大友先生ははるかに超える衝撃です。

かつてのゴッサムシティのヒーロー、バットマン。引退したはずの、年老いた彼はなぜ復帰するのか。なぜ再びそのコスチュームに身を包むのか。
ミラーはバットマンを現実の社会の中に落としこんだ。マスコミに狂人と言われ、救世主ともただの犯罪者ともされるバットマン。彼は敵からも守るべきもの達からも、ゴッサムの住人全てに恐れられる。
描かれるのはヒーローの存在意義、その精神性。

彼はトゥーフェイスと相対して何を思う、何を見る。
新たに登場する若く血気盛んな犯罪者達と闇に潜む老獪なバットマン。
そしてバットマンと共に復活する宿敵ジョーカー。
個人の倫理観に従うバットマンに対してアメリカの正義を体現するスーパーマン。
バットマンは社会に何をもたらすのか。

まさにこの作品でヒーローは、バットマンはリターンした。

日本でダークナイトというとクリストファー・ノーランの映画を指すことが多い。私も大好きな作品なんだけど(ヒース・レジャーのジョーカーは必見!)、DKRに出会い、アメコミにはまるきっかけになった映画でもあるのですごく感謝してる。

アメコミ入門にバットマンはわりと適していると思う。ただ、イヤーワン、ロンハロなどのその前日譚にあたる作品が絶版なので少し難しい。もし手に入らないようならバートン版か、ノーラン版の映画を見てある程度バットマンを理解した上で本作を読めばほぼ問題なく楽しめる。

バットマンはスーパーマンのように超常の力を持ってはいない。鍛え上げた肉体と卓越した頭脳があってもあくまで普通の人間にすぎない。DKRではすでに初老にさしかかり、力は衰え、動くたびに体は悲鳴を上げる。
だからこそ、人間だからこそ彼は際立つ。肉体的な超人はスーパーマンかもしれないが、精神的な超人はバットマンだ。

超がつくほどエゴイスティックで、全く妥協せず、揺るがない。
最硬にハードボイルドで最高にかっこいい。

「世界が意味を持つのは人が意味をこじつけた場合だけだ」

バットマンはDKRを読んだ時から私の1番のヒーローであり続けている。間違いなくこれからも。

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[投稿:2011-09-19 04:11:52] [修正:2011-09-20 00:54:40] [このレビューのURL]

フランク・ミラーが手がけるダークナイト・リターンズの続編、ダークナイト・ストライクス・アゲイン。
DKRが非常に完成度の高い作品なのでいったいどうなるのかと思えば…いやはやとんでもない。ミラーさん好き勝手やってるぜ笑。

実はアメリカはスーパーマンの宿敵レックス・ルーサーに影で牛耳られていた。大統領さえルーサーが作り出したホログラム。
バットマンは囚われた仲間を救い出し、地下からアメリカに対して反旗を翻す。

とまあヒーローが敵に支配されたアメリカとはいえテロを起こしちゃうわけだからそれだけでもけっこうパンクな内容。それに加えてミラーさん、色々とめちゃくちゃなことをやらかしてます。
だってアメリカの電気料金が安いのはフラッシュ(超高速の能力を持つヒーロー)がネズミよろしく走って車輪を回すことで大量に発電しているからだったり、グリーンランタンが姿を変えて異星人と結婚していたり、おいおい大丈夫か?笑っていう展開が盛りだくさん。
正直けっこう笑ったんだけど、ここらは原書で未邦訳の作品を読んでたりと熱心なファンの人はより楽しめるんだろうと思う。

物語としてはフランク・ミラーの「衝動」や「怒り」が刺激的に楽しめるものの、悪く言えば暴走気味、破綻気味なのでわりと否定的な意見が多い作品な気がする。私はけっこう好きだけど。

細部がかなりブラックで何気に興味深い。アメリカに従うスーパーマンは、そのアメリカが悪に乗っ取られたらどうするのか。グリーンランタンにしろ何じゃありゃとは思いつつも背筋が冷える部分もあったりする。強烈な皮肉とブラックジョーク。

何より色んなDCコミックのヒーローが登場するのでそこが1番好きだったり。基本的に邦訳されるのは知名度のあるバットマンやスーパーマンが中心で、最近ようやく映画化でグリーンランタンがそこそこ邦訳され始めたかなというくらい。
他のヒーローに関してはこれやキングダム・カムあたりのクロスオーバー系やジャスティス・リーグ系の作品でしかほぼ見れないからね。フラッシュやアトムあたりは単体での作品も見てみたいな。

ミラーの暴走に笑いつつ、そのブラックな要素に刺激を感じつつ、色んなヒーローを楽しめるこのDK2、なかなかおすすめしがたいです。正確に言うと、ある程度DC社のアメコミを読んできた人が読むと楽しめる作品ってこと。私もまだまだ。
今は小プロからDKRとDK2がセットの完全版が出てるので一緒に読んでもいいのだけど、バットマンしか読んでなかったりすると間違いなくぽかんとなります。少なくとも私はそうだった笑。
でもアメコミにはまっていくほどにDK2もより楽しめるようになっていくと思う。そういう意味で気にせず読んでもいい。それもまた一興。

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[投稿:2011-09-19 15:21:29] [修正:2011-09-20 00:35:06] [このレビューのURL]

6点 童夢

話は至極単純。超能力者二人のエスパーバトルがひたすら展開される。
ストーリーなんて余計なものは要らねぇ。ひたすらおれの絵を見やがれ、なんて大友先生の声が聞こえてきそうな作品。

映画的な表現を初めて明確に取り入れたエポックメイキング的な作品なので興味があれば読むべきでしょう。今でも十分に読める。
現在映画的手法を取り入れた漫画なんて珍しくもないというか当たり前に近いわけで、そういう意味では今読む人の衝撃は薄いかもしれない。実際私もそうだった。ただ、取り入れた漫画は珍しくなくてもここまで徹底しているのは珍しい。なかなか新鮮に読めた。

これを見て荒木飛呂彦が超能力を形にしたスタンドを発想してしまったのも納得できる。それほど何やっているのか分かりにくい。
一方分からないことの恐怖を改めて強く感じた。理屈が見えないというのはやはり怖い。いわゆる未知の恐怖ってやつ。ホラーやサスペンス辺りだとこちらの方が相性いいと思う。

AKIRAも同様だが、記念碑な作品というのはもちろん認めるし尊敬するべき作品。ただ普遍的な名作かというと少し違うと思う。
例えば2001年宇宙の旅やブレードランナーも同じく記念碑的な作品だけど、その衝撃は未だ古さは感じるものの衰えない。それはやはり「美の新しさ」に依る所が大きい。
森エンテスさんが挙げているマトリックスやアバターのような「手法的な新しさ」というのは「美の新しさ」と比べてどうしても薄れてしまうものだ。

そういう意味でもう風化は始まっているように感じられるものの日本の漫画史に残ることは確か。読むべき作品です。
申し訳ないけどそういう貢献を含まない単体としての評価は良作程度。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-09-17 04:12:00] [修正:2011-09-17 04:12:00] [このレビューのURL]

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