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総レビュー数: 258レビュー(全て表示) 最終投稿: 2007年06月29日

 “庭”をテーマとした5短編から成る作品集。まあ庭があまり関係なかったり、庭じゃなくても成り立ちそうな話もあったりする。

 「鮮烈な才能」とか「この才能に出会えたことが幸せ」とかITANの尋常じゃない押しっぷりとハードルの上げ方にはちょっとびっくりするわけですが。結果去年かなり話題になった作品の一つとなったので、そう誇大な広告でもなかったのかもしれないけどさ。
 しかしこの漫画って決して“新しく”はないぞ、って思った。むしろ結構な既視感があったりもする。要は花の24年組や高野文子あたりを今風に焼きなおしたんだなってことで、それらを読んできた方ならこの感じは分かると思う。しかも形は違えど似たようなことを市川春子や西村ツチカが先にやっちゃってる。

 もちろん構図や見せ方は素晴らしいものがあって。また「五月の庭」での偽善とエゴイズムの境目とか、表題作「地上はポケットの中の庭」における生きることの意味、「まばたきはそれから」で描かれる生きる目的の見えないもやもや感(こちらは色んな作品で見るけど)とか、そういう言葉に出来ない、答えの出ない感情を切り取れるのは才能のある方じゃないと出来ない。

 ただ問題はやっぱり、この感じはどっかで読んだぞってことで。「五月の庭」が市川春子の「虫と歌」をどうしても想起させちゃうのはもう運が悪かっただけかもしれないけれど、読む側として雑念が入ってしまうのはどうしようもない。また構図や話の作り方にしろ、裏側に高野文子や大島弓子あたりがどうしても見えちゃうのだ。で、まあさすがにここらへんのレジェンダリーな方達と比べると分が悪い。

 もちろん前述の市川春子や西村ツチカにしても、同じことは言えるのだけれども。ただ彼らに関してはその土台の上に紛うことなき彼らの個性がドン!とあるのに対して、田中相はまだそうではなかったのかなと。
 ということであまり入り込めなかったのだけれど、才能がある方というのは間違いない。むしろこれから先が楽しみな作家さん。

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[投稿:2012-01-31 22:01:49] [修正:2012-01-31 23:13:30] [このレビューのURL]

 きっちり約1年かけて全2巻で完結させてくれました。こういう短い巻で作者のやりたいことをしっかりやりきった漫画は珍しいだけにすがすがしい。

 舞台は2038年の日本。人工知能のお手伝いロボットが一般的になり始め、携帯やパソコンの“つながる”機能は飛躍的に進歩している。
 小学4年生のゆうまは自分の家のお手伝いロボット、ナナコとなかなか折り合いがつかないでいた。ある日友達の家に遊びに行く途中でナナコがおかしくなってしまう。故障かと心配するゆうまであったが、そのナナコに案内されて団地の屋上にたどり着いた先には異星の人工知能が待っていた。地球に墜落した人工知能を母星に帰還させるため、ゆうまと彼の友達は奮闘することになって…。

 私が小学生ぐらいの頃に流布したドラえもんの最終回というのがありました(藤子先生ではなくてファンの創作)。ある日バッテリーが切れて動かなくなってしまったドラえもん。ドラミによるとバッテリーを換えてしまうと耳に存在したバックアップメモリーのないドラえもんは今までの全ての記憶を失ってしまうという。どうしても諦めきれないのび太は猛勉強して一流のロボット工学者に成長し、やがて記憶を消さずにバッテリーを取り替える方法を開発するのだった。というのが簡単なあらすじ。

 これ小学生ながらにすごく感動したんだよね。今考えてもすごく良くできていると思う。「ドラえもん」においては、もちろんいつまでものび太は大人にならない。しかしもしのび太が大人になるとしたら、それは確かにドラえもんと別れる時であり、そして大人になれば夢を追いかけることが出来るのだ。

 「ぼくらのよあけ」はドラえもんともしかすると上のファン創作の最終回にインスパイアされたSFではないかと思う。ぼくらのよあけは最終回までに彼らの“よあけ”、大人になった姿が描かれただけではなく、彼らの親との関わりを通してかつてのび太だった人々の姿をも見せてくれた。家庭や仕事に責任のある彼らは昔のように、彼らの子どものようにもはや冒険することはできない。でも大人になったからこそ分かることがあり、出来ることがある。
 ここで描かれる未来像はまだまだ現実的ではないものの現実の延長線上にあることは強く感じられる。つながりたいしつながってないといけない。子どもは昔も今もそして何十年後であっても楽ではないけど、未来への夢と希望があるのは変わらない。誰もがかつては子どもであって、誰もが大人になっていく。そんな当たり前のことはこんなにもわくわくに満ち溢れている。

 ということでドラえもんを卒業した人にぜひ読んでみて欲しい。別にドラえもんに思い入れがない方でも、誰もがのび太だった時代はあるのだから。
 子どもの頃のわくわくと成長するにつれて失われてしまったものの切なさ、そして大人になったからこそ出来ること。どこにでもあるような普通の団地に宇宙への扉が隠されている。

 大人になったのび太はもう一度ドラえもんに会いに行くのだ!

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[投稿:2012-01-27 01:11:24] [修正:2012-01-27 13:58:41] [このレビューのURL]

 恐らく世界初の朗読漫画。やっぱり読書って良いよねぇ。

 ここ数年マイナージャンルを扱ったが作品が多いのは、漫画がそれだけの多様性を内包できるようになってきたというのもあるし、何より既存のジャンルが行き詰ってきたというのもある。これ程たくさんの漫画が生み出されてきた中で、“新しい”漫画を描くのは難しい。特にサッカーや野球、三国志なんてね。
 そんな中で、マイナージャンルものが人気というのはある意味自然に思える。今まであまり描かれてこなかったものが描かれる。パイオニアの苦しみはあっても、それは新しい道を切り開いているということだ。私達は一味違った漫画が読めるということだ。

 ただいくら何でも「朗読」とはなぁ。さすがに無茶じゃないかとは誰もが感じると思う。声が見えないというのはまだ良い。でも朗読とは何なのか、ということがそもそもぴんと来ないわけで。多分今まで色んなマイナージャンルものを読んできた中でも一番よく分からないものだった。
 しかし「花もて語れ」を読むと、そのぴんと来なかったものがぴんと来る。それだけじゃない。朗読というものが最高に魅力的に見えてくる。マイナージャンルものを読む醍醐味の一つを存分に味わえる。

 最初に扱われる朗読は宮沢賢治のやまなし。「クラムボンはかぷかぷ笑うよ」、という台詞を聞けばほとんどの方が小学校の国語の授業で一度は読んだことを思い出すのではないだろうか。
 このやまなしを最初の朗読に選んだのが上手い。この作品、私はすごく印象に残っているのだけれど、それは何と言っても訳が分からなかったから。初めて読んだ時も、授業の後も、どんな話やらさっぱり分からなかった。そんなやまなしがハナの朗読によって生き生きと見えてくる。物語の世界に吸い込まれる。やまなしの魅力を理解した頃には、朗読にもまた魅せられているのだ。

 決して絵が上手というというわけではない。でも漫画を描くのは上手い。力強い描写、そして読む側と聞く側の心情を絡めた圧倒的な演出でガンガン読ませる。時にはほろっとしたりもする。
 ジュビロ先生の元アシと聞いた時にはちょっと意外な気もしたのだけれど、よくよく考えてみて納得。マイナージャンルものにも関わらず、この王道感がすごい。主人公とその友達が競争にならないあたり確実に文科系なのだけれども、やっぱり熱血なんだよなぁ。中国春秋時代を舞台にしているキングダムのように、自身が切り開いた道が王道となるのだ!とでも言うようなパワーがある。
 
 今の所文句なしにおもしろい。私も読書は好きだけれど、もっと深く本を楽しむことが出来るのかもしれないな、なんて「花もて語れ」を読むと思う。
 ただやっぱり漠然としたジャンルなので、ステップアップを上手く描いていかないとなかなか難しいかもしれない。3巻のデビュー時点で、既にけっこうな聴衆から拍手の嵐という状態なのでなおさら。でもどこに向かうにしろ、この未知の道を切り開く蛮勇は漫画好きなら見る価値がある。

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[投稿:2012-01-22 22:27:10] [修正:2012-01-23 12:27:15] [このレビューのURL]

少しSFチックな短編集。話の展開や趣向に良くも悪くも鬼頭莫宏らしさ全開である。鬼頭先生以外でも描けそうな残暑よりこちらの方が私は好きだった。

恐らく作品全体のテーマは「愛の形」だと思う。
ただしそこはこの作者ということで、大概の愛はとんでもなく歪んでしまっている。一話目はその典型だろう。どんな思考回路でこんな愛し方になるんだよ!って発想が興味深かった。でも愛する気持ち自体はまっすぐなので登場人物を憎めないのがまたおもしろい。そしてひどく切ない。
純愛の話もあるにはあるが、鬼頭莫宏というフィルターを通しちゃうとこういうふうになっちゃうのか…

愛を描く漫画ってのは色々ある。良質なラブコメは本当にたくさんある。哲学的な愛の伝道師、幸村誠の作品もいい。
でも殻都市の夢は鬼頭莫宏にしか描けない愛の話だろう。気に入るかは分からないが、ぜひ一度目を通して欲しい。こんなのばかりあっても困るんだけどね。

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[投稿:2011-07-17 00:31:44] [修正:2012-01-22 22:24:38] [このレビューのURL]

以前のレビューでは現実的なサッカー漫画と書いていたけど、今考えると全く現実的ではないなw

この漫画は監督がまだ試合があるにも関わらず「おれの仕事は終わった」なんて言っちゃう位精神力勝負とめちゃくちゃな戦術の熱いサッカーが特徴なのでそういう意味では完成度は低い。
最終的には主人公以外がその引き立て役になってしまったのも残念だったしね。
10人+特別な1人のサッカーはあまり楽しいとはいえない。
ただ個性的なキャラと熱い展開は魅力的。
しかし、何よりもすばらしかったのはW杯編でのその空気感の描写。
監督の「弱き国、日本は金の力でワールドカップに初出場した。世界中からそう言われることになるんだぞ!」このセリフが全て。痺れた。

色々突っ込みたいことはあるんだけど、素直に熱い展開を楽しめる人ならおすすめ。
特にW編は恐らくその当時でしか出せない雰囲気が最高だったのでこれのために読んでみるのもありです。

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[投稿:2007-09-13 23:34:02] [修正:2012-01-22 22:23:45] [このレビューのURL]

6点 谷仮面

もう最高!!!としか言いようがないくらい大好き。
思春期の男の子の愛は最強なんですね、分かります。

あまりにも粗は多すぎるけれどもそんなことはどうでもいいんですよ。
そんな作品。
欠点といえば、やはり絵ですね。
この頃から勢いのある濃い絵は健在だけど、あまりにもスピード感がなさすぎるのが問題。
ただ、完全版での新たに追加された島さんの絵があまりかわいくなかったので良かったのかもしれない。

ハチワンが盛り下がってきたように思えるけど、ヨクサルさんはやはり谷仮面やエアマスターのような何にも考えずに読める物語が向いてる気がする。
将棋が好きなのは分かりますが、次はスポーツものとか青春ものでお願いしたいな。

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[投稿:2011-07-09 17:22:09] [修正:2012-01-22 22:22:59] [このレビューのURL]

ドラマがヒットしたのでほどんどの人が読んだことはなくても何となく設定くらいは知っているでしょう。

恐らく作者の作品の中でも一番登場人物が多い。主人公のヤンクミと白金学園の生徒と教師達、黒田一家の面々、その他もろもろ…。
そんなたくさんのキャラがいるにも関わらずごくせんにはモブキャラや記号的なキャラクターが殆どいない。それだけでも森本梢子の人物描写の細やかさが分かるし、何よりもこいつらが揃って魅力的なんだ!

そんな好感度の高いキャラが織り成すどこか気の抜けたコメディ。おもしろくないわけがない。
基本的には何にも考えずに笑わせてくれる作品。しかしたまにあるシリアスな問題や恋愛、青春ものなどのアクセントがうまく効いているから15巻と比較的長い話がだれずに続いたのだろう。
基本的にワンパなわけだが、ドラエモンとかその手の類型であって、安定感のあるおもしろさがあると思う。

森本梢子の長編は全てドラマ化されてるし、それなりに売れてるはずなのに何故か漫画読みの間ではあまり話を聞かない印象。ドラマが微妙だからかな?
間違いなく力のある作家さんだと思うのだけど。興味はあるけど何となく読んでないなんて人がいたらもったいないのでぜひおすすめします。

*ちなみにいわゆる仁義あるヤクザが登場する作品なので、そんな不謹慎な漫画は認めないなんてまじめな人は読まないように。

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[投稿:2011-08-31 01:52:37] [修正:2012-01-22 22:20:58] [このレビューのURL]

「ごくせん」で有名な森本梢子の警察コメディ。

警察犬並みの嗅覚を持つ新人刑事、花森一子(通称わんこ)がその能力を活かして捜査1課の仲間と共に事件を解決していくというのが大まかなストーリー。

笑える。これに尽きる。
警察、それも殺人事件を扱う捜査1課でコメディやっちゃうなんて不謹慎かもしれないけど笑っちゃうよ。だっておもしろいんだもん。
わんこのあまりの天然っぷりとか刑事らしくないゴスロリファッションはもちろん特筆すべき所だけど、その真価は捜査1課の個性的な面々との絡み。何人もの登場人物が絡み合って笑いをとっていくさまはまさに喜劇のよう。これほど良質な喜劇を読んだのはぶっせん以来な気がする。

もはや森本梢子は西森博之や佐々木倫子に並びうるコメディ作家になったのかもしれない。それほど独自のスタイルは完成しているし、何よりおもしろい。

何にも考えずに読みましょう。こんな作品も読まないと疲れちゃうよね。ちょっとした時間にパラパラめくって楽しめる作品です。

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[投稿:2011-08-31 01:26:30] [修正:2012-01-22 22:20:02] [このレビューのURL]

まさかマルドゥック・スクランブルが今さらコミカライズされるとは! それもうら若い新人女性作家に描かせるとは!…まあ間違いなく別マガ編集部は変態の集まりということで笑。

精神的にも肉体的にも虐げられ、文字通り殻の中にこもり続けていた少女バロット。
バロットは万能型ネズミのウフコックに出会うことで初めて殻を破り、感じ、傷つき、恋をし、戦い、進化する。
マルドゥック・スクランブルはバロットの成長譚だ。

原作小説は日本SF大賞を受賞しており、00年代を代表するSF小説の一つ。
ジャンルとしてはサイバーパンクSFに分類されるのかな。コミカライズということで、攻殻機動隊やBLAME!と比べてしまう人も多いでしょうがご安心を。おもしろい部分が全く違うので。
「レオン」をモデルにしただけあって、保護者に守られつつ成長する少女とその保護者との微妙な関係性が楽しめる作品。ボイルドの「徘徊者」もやはりレオンが着想の元だろうな。

原作はそのハードボイルドさが大きな魅力だったのに対し、大今良時はうまく少女の成長譚に的を絞ってコミカライズしている。
原作の改変もうまい。大筋は残しつつも畜産業者やフェイスマン辺りの説明はスパっとまとめ、独自の変更を加えていく。カジノ編に至った今となってはもはや原作と別物の大今良時版スクランブルとも言えるかもしれない。
バロットの才能やボイルドについてはもうちょい説明した方が分かりやすいとは思う。全てを知覚するバロットとウフコックへの執着以外の感覚を喪失したボイルドの対比なんかも。
絵は独自の色がありつつも、まだまだ粗い。伸びしろは大いに感じるし、オリジナリティと工夫が随所に見られて楽しめます。

畜産業者編までの出来は非常に良かった。しかし原作で傑作と名高いカジノ編はかなり見劣りするのが否めない。ここは漫画化が難しいだろうし、そもそも漫画で見る必要性を感じない話なので…と言えばそれまでだけど。

ベル・ウィングは私のお気に入りなのにこちらは微妙だったなぁ。これじゃルーレットはただのゲームに過ぎないし、ベルは何となくかっこいいだけのおばさんではないか。
原作でのルーレットはまさに”運命の輪”。バロットの「右に、回してください」という台詞は、今まで周りに流されっぱなしだった彼女が運命を自らの手で掴みとると決意したことを示し、その台詞はベルをも「右回りの人生」に回帰させる。だからこそベルは右に回し、バロットは「あの人みたいになりたい」と言うのだ。大今良時は最後だけ抜き出したわけだけど、それでは全く意味が通らないのでどうせなら全面的に作り直した方が良かったと思う。
「左回り」「右回り」と彼女の女としてのあり方を示したバロットとのやり取りは原作屈指の名シーンです。ここだけでも原作を見る価値はあるはず。てか”運命をねじ伏せる”はマルドゥック全体のテーマで、ボイルドとフェイスマンの問答を見る感じでは漫画版でもそれは同様だと感じていたんだけど違うのか?

現在はアシュレイと対決している所。持ち直しを期待します。序盤でのあの虚無的なバロットが最終回でどんな女性になっているのか、楽しみですね。

原作未読の方はもちろん、既読でもまた違った方向性で楽しめる大今良時版マルドゥック・スクランブル、おすすめです。かなり読みやすくなってるので敷居は確実に下がりました。
興味を持ったら原作の方も併せてどうぞ。こちらは傑作。

どちらかと言えばマルドゥック・ヴェロシティの方のコミカライズを見てみたいので、続いてこちらも期待。ついでにイースターのカオス理論に基づいたまだら染めのカラー絵も期待。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-09-08 01:20:49] [修正:2012-01-22 22:18:48] [このレビューのURL]

「格好いい戦争などありはしない」という帯と太田垣康男が原作というのに惹かれて読んでみた。
ゲーム、フロントミッションの世界を舞台とした戦争オムニバス。戦場で誰にも気づかれることがないという戦場カメラマンの犬塚を狂言回しとしてヴァンツァーというロボットを使用した凄惨な戦争が描かれる。

基本的には1巻未満の短編が連なった構成です。犬塚が登場することを除いてはどの短編もつながりはありません。
この作品で描かれる戦争はひたすらえぐい。死ぬ思いをして死線をくぐり、敵兵を殺しても爽快感などみじんもない。そんな中、戦場の透明人間犬塚はひたすら惨劇を楽しみより残酷なシーンを撮ることに全力を尽くす。そのような犬塚に嫌悪感を感じない人はいないでしょう。
しかし読み進めていく内に気づかされてしまう。犬塚は自分なのだと。カメラのファインダーや新聞記事を通してしか戦争を知ることができない私達。実際戦場にいながらも現実感の欠片もなく戦争を眺めている犬塚や、犬塚の撮った動画を興奮して見ている人々には戦慄せずにはいられない。戦争に嫌悪感を抱きながらも「刺せ! 止めを刺せェェ!!」と犬飼と一緒に叫んでいる自分も確実にいるのだから。共感できてしまう身近な狂気というものがこの作品の特異な雰囲気でしょうか。

個人的なお気に入りは何も持たない男と全てを持っていた男の話「英雄の十字架」と珍しく犬塚が主軸にすえられた「UnLuckyDays」。英雄の十字架は戦争の矛盾と狂気にひたすら圧倒され、UnLuckyDaysは人間の二面性と善意とは何か考えさせられた温かみがありながらも毒の強い傑作です。
現在連載中の「羊飼いの帰還」は話の長さといいストーリーといい異色の章となっています。かなりエンタメの方に軸が傾いていて今までと話が違いすぎる気がしますが果たしてどうなるのか。

かなり皮肉な構成の本作ですが毒にならなければ薬にもならないということでかなり質の高い戦争アクションとなっています。エロとグロがかなり露骨に描かれるので苦手でなければどうぞ。元ネタのフロントミッションを私は知りませんが全く問題ないです。
架空世界の戦争ものだとこれと機動旅団八福神はもっと読まれていいと思う。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-08-20 16:38:50] [修正:2012-01-22 22:16:47] [このレビューのURL]

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